0021 イベントと開幕
「さっ、イベントの開幕だぁぁぁぁぁ!」
告知があった日から一週間後の0:00。
とうとうdungeon Onlineの記念すべき初イベントが幕を開けた。
「……まあ、そりゃ開始すぐには来ないよねぇ……」
イベントが始まってから、10分。
誰一人として、紬のダンジョンへと足を踏み入れた者はいなかった。ここまで一人も来ないのも珍しかった。
『3名のプレイヤーが侵入しました』
「おっ…きたきた……」
『4名のプレイヤーが侵入しました、3名のプレイヤーが…2名のプレイヤーが……』
「始まったかぁ……」
紬は頭を抱え俯いた。だが、満面の笑みで俯いていた。
紬は定位置でプレイヤーが来るのを静かに待つ。
その間もウィンドウの侵入通知は止まらない。
どうしてこうなっているのか。それを説明するには30分前に遡る必要がある……。
◇ ◇ ◇
「紬、こっちは準備できたぞ」
「ありがと、じゃあ手筈通りに」
「わかった」
迅はじゃあな、と去り際に言ってダンジョンから出ていった。
紬は迅を見送った後、イベントに向けての最終を確認を始めた。
「よし……ここも大丈夫、スポナーも正常に動いてる!」
イベントのために新しく部屋を増設し、イベントモンスターのスポナーを設置していた。イベントが始まる1時間前から起動が始まるため、正常を確認し、紬はきちんと作動しているか確認していた。
その部屋から迷路へと繋がる新しい通路の真ん中で、紬は足を止めた。
「あとはプレイヤーが来るのを待つだけだね……頼んだよ、迅……!」
紬が準備を終えて待機している頃、迅は一人、パソコン前で待機していた。
「うーん……これってどのぐらいに投稿するのがベストだ……?開始すぐはおかしいよな……5分後?いや早すぎるか……」
紬と迅がやろうとしていること。
それはスレに紬のダンジョンが稼げるという「デマ」情報を流すというものである。迅は紬から「この文章を投稿してね」と文面はもらったものの、いつ投稿するかということは言われていなかった。
「どうすっかな……とりあえず15分待つか!」
それから迅はパソコンの前で時計と睨めっこしながら、ただ時間が過ぎるのを待った。時間を潰すため、手元に置いてあったポテチを食べ、汚れた手を洗い、また食べ……。そしてイベントが始まってから10分が経とうとしている頃だった。
「……待てるかぁぁぁぁ!イベント俺もしてぇわ!」
ポテチも尽きた頃、迅はとうとう待ちきれなくなり、デマ情報をスレへと流した。
「待ってろよ、イベント!!」
迅はハードを装着し、ゲームの世界へ入っていった。
【超朗報】水晶ガッポガッポダンジョン速攻で見つけたったwww
1.名無しのプレイヤー
お前ら、聞いて驚け!開始10分にして最高の水晶スポット見つけたったわwww
2.名無しのプレイヤー
どこだ?さっさと言いやがれ
3.名無しのプレイヤー
食いつきがいつもより凄くて草
4.名無しのプレイヤー
場所は例のスライムダンジョンだ
5.名無しのプレイヤー
あそこか……トラウマしかねえんだよな
6.名無しのプレイヤー
てことは今そこにいるってことか?どんな感じよ?
7.名無しのプレイヤー
……反応なくね?
8.名無しのプレイヤー
待ちきれなくなってまた行ったやつだろ、これ
9.名無しのプレイヤー
いくあてもないし、行ってみるか
10.名無しのプレイヤー
俺もいくわ
11.名無しのプレイヤー
そんなとこあんの!?おいらがいくしかねぇな♪
12.名無しのプレイヤー
オイラはいくぜ♪どこまでもー♪
13.名無しのプレイヤー
……こいつら、死んだな
急上昇ランク1位
迅が立ち上げて投稿したそのスレは、10分もしないうちに多くの人の目に留まり、急上昇ランク1位にまでなっていた。
そしてこのスレを見た多くの人が、こぞって紬のダンジョンに押し寄せようとしていた。
◇ ◇ ◇
「なあ、こんな部屋前なかったよな?」
「ほんとだ、部屋明らかに2つ増えたな」
「どっちいく?俺、右がいいんだけど」
「スポナー見えてるし右一択だろ」
「だよなぁ」
スレでトラウマがあると言っていたプレイヤーと食いつきがすごかったプレイヤーの2人は一緒にダンジョンに訪れていた。
彼らはこのダンジョンに何度か来たことがある、古参プレイヤーだった。そのため、ダンジョンの変化にすぐ気づけていた。
「なあ、これ限定モンスターのスポナーじゃね?」
「ガチやん」
彼らが入った右の部屋は、イベントモンスターのスポナーが置かれたスポナー部屋である。スポナーはあえて隠さずに見せることでお得感を出す、という紬のなんともがめつい作戦であった。
「そんなに強くないのな」
「まあ、強かったらイベントなんもできんでしょうよ」
「確かにっっ!」
2人は苦戦する様子もなく、亀の姿をしたモンスターを倒して、確率ドロップの水晶を着実に回収している。
そんな2人は戦闘がひと段落ついたところで、スポナー部屋から繋がる通路を発見した。
「行ってみる?」
「行かなきゃ男じゃないだろ」
「だよなぁ、楽しくなってきたぜ」
2人はどんどん通路を進んでいく。
カチッ
「ん?」
「ぐはっ……」
道の途中にあったスイッチを踏んでしまったことで壁から大量の槍が出てきた。
その槍はトラウマ持ちプレイヤーに突き刺さり、HPを削りきった。
「お前、あとは頼んだ……ぐはっ……」
「ポフポフプリンー!!」
キザなセリフを言い残して、トラウマ持ちプレイヤー、ポフポフプリンは消えていく。残されたプレイヤーは、涙を堪えるような演技を見せながら、先へと進んでいった。
「俺はこの先の景色を見て、あいつに教えなきゃいけないんだ……なんとしても生き残る……」
大きな独り言の途中で、プレイヤーは何者かによる攻撃でHPが0になった。
壮大な死亡フラグを綺麗に回収し、光となって消えていく。
「またあの人たちか……」
プレイヤーを倒した何者かの正体は紬だった。
紬がいるこの通路は迷路へとつながっており、迷路には宝箱が2つ隠されている。その宝箱を守るために、通路に隠れてプレイヤーを背後から倒す作戦だった。
念の為、顔を見られてもいいように紬は狐のお面をしている。これでプレイヤーとはバレない。さらに、紬の作戦も進めることができる。一石二鳥だった。
「他のプレイヤーはどうかな……っと……」
紬は自分の隠れ場所に戻り、ウィンドウを開く。
どうやら他のプレイヤーの多くは、より多くの水晶が得やすい反対の部屋へと行っているようだった。
「あっちこそ地獄だけどね……」
さっきの2人が進まなかった左側の部屋。
そこには水晶が堂々と真ん中に置かれていた。さらに、その部屋の奥に宝箱がある部屋があることが入り口から見えている。
しかし、それは全て罠である。
その部屋の中には、グレイトウルフが2匹、息を潜めて隠れている。
油断して入ったら最後、次の瞬間には街である。
「まあ、そりゃやられますわな……」
左の部屋へと入ったプレイヤーは強さに関わらず、みんな不意打ちでHPが削り取られていく。グレイトウルフを2匹に増やしたことで、単体としての攻撃ではなく、集団としての攻撃も増え、倒すのはさらに困難になっていた。
「あっ、シルトのとこに行った」
このダンジョンのボスであるシルトは強くて勝てないと認識されているため、戦いに挑む人は少ないのだが、そんなことを知らない人は奥に行こうとシルトの元へと向かっていっていた。
もちろん、例外なく全員街送りである。
何事もなく、順調にDPが生産されていく。紬がやることもなく、あくびをしていたその時だった。
『新着メッセージが届いています』
「ふぁ〜あ……ん?なんかあったのかな?」
紬は届いたメッセージを開いた。




