9 SOS信号 ……それは、誰からの信号?
「みちびき。今から、幽霊ホロウの街の中に侵入する。準備はいい?」
『いつでもどうぞ』
にっこりと笑ったような声でみちびきが言う。
「OK。では作戦開始」
そう言ったあとで、まめまきは高い塔から、迷うこともなく、そのままなにもない空中にジャンプをして飛び出して、そのまま幽霊ホロウの街の中へと、重力に引かれて、自然に落下していった。
その落下の途中で、胡桃まめまきの『頭の上にぴょこんと二つの新しい胡桃色の三角形の耳が生えて、そして、そのお尻の上の部分からはぴょんと(やっぱり、髪の毛の色と同じ色をした)胡桃色の長い尻尾が生えてきた』。
まめまきの顔は笑顔。
にっこりと笑った口からは、牙のような八重歯が見える。
そんな不思議な姿になった(まるで大きな猫のような、しっぽの生えているしっぽ人間のような)まめまきはくるくると空中を回転して塔を蹴り、衝撃を空の中で分散しながら、幽霊の街の家の屋根の上に、そのまま無事に着地した。
SOS信号
……それは、誰からの信号?
……ほかのみんなは全員、ひまわりお母さんに、いらないといわれてずっと前に順番に星屑に捨てられてしまいました。みんなとのお別れのときは、とても悲しかったです。
胡桃まめまきが不思議なSOS信号を受信したのは、幽霊ホロウの街にやってきた一時間後のことだった。(その間、まめまきは幽霊ホロウの街を一通り、ぐるりと全部、探索してみたのだけど、街の施設はちゃんと動いていたけど、広い幽霊ホロウの街は無人であり、誰とも出会うことはなかった)
時間は確かに一時間が経過している。(みちびきが時間をコンマ一秒の単位で計測していた)ただし、『永遠の夜の中にある幽霊ホロウの街では、本当に一時間が経過したのか、信用することは難しかった』。
時間は、地上よりも数倍速く進んでいるようにも思えたし、逆に数倍ゆっくりと、あるいはまったく止まっているようにすらも、思えた。(……ここは死者の国。死者の時間は、永遠に止まっているということだ)
まめまきはSOS信号は発信している場所に向かって移動を開始した。
……その信号は、幽霊の街のもっと、もっと深い場所から発せられていた。
しゅー、という音を立てながら、幽霊の街を覆っている外壁の壁に引っ掛けた特殊なロープをたどって、高速で真っ暗な深い闇の中に落ちていくまめまきは、「まったく。SOS信号なんて、私が出したいくらいなのにさ」とそんなことをみちびきに言った。
『愚痴っても仕方ないですよ。まめまき。私たちにできることを、全力で行いましょう』みちびきが言う。
「OK。わかっている。ただちょっと文句を言ってみただけだよ」
まめまきは闇の中に降りていく。(あるいは、落ちていく)
やがて、がしっという音がして、まめまきの特殊なロープが止まった。長さが限界に達したのだ。
「さて、なにが出るかな? なにが出るかな?」
ふふっと笑いながらまめまきは特殊な軍用の光学双眼鏡をその目にかけて周囲の闇の中を観察する。
するとそこには、まさに『幽霊の街の名前にふさわしい光景』が広がっていた。
それはまさに(一言でいうのなら)『本物の地獄』のような光景だった。
「……なに、これ?」
胡桃まめまきは、目を見張った。