第60話 こたえ
完結となります。
カラ〜ン♪ カラ〜ン♪
鐘の音が響く
空は高く、風は穏やかになびき、陽は雲を抜けて降り注ぐ。
その中を二人は静かに歩いていた。
無粋なカメラを背負った男が、二人に声をかけ、足早に二人の進む方向へ立ち去った時、二人に声が飛んできた。
「よう! 姉貴!」
天野と久美は同時に声の方向へ顔を向ける。
「ヒロ!」
そして、声の上げた人物を見ると久美は声を出す。
天野は面識が無いのか誰だ?といった表情を浮かべただけで、久美の声の方にこそ、チラリと目を向ける。
そして、その人物は二人に近付いてきた。
「へぇ〜、この人が俺の兄貴になるんだな」
体格の良いその男性は場違いな迷彩服を着込み、ジロジロと天野に目を向ける。
「ちょっと! ヒロ!」
その視線に割って入る久美。
「わっとっと。こんな時くらい、おしとやかに出来ないものかねぇ〜」
久美の知り合いらしいその人物は、苦笑を浮かべながら嘯く。
「こちらは…… 」
天野が久美に向かって言うと、久美が口を開く前にその人物は二人に向かって敬礼をし言葉を発する。
「弟となります! 豊野浩といいます! 今後ともよろしくお願いします!」
天野は久美から弟がいるとは聞いた事があったが、思っていたイメージと全然違っていた。
そう思っているうちに、その迷彩服姿の弟は続けて言葉を出す。
「それでは私は任務がありますので、これで失礼させて頂きます」
そう言うと、クルリと背を向き二人を後にする。
立ち去る姿をを二人は呆けて見てたが、そのうち久美が彼を見ながらため息混じりに苦笑を浮かべる。
「あの子あれでも昔、大きな病気にかかってね。生死を彷徨うほどだったの」
「え?」
見た限り、天野と正反対とも言える偉丈夫である。
そんな感じには見えない。
「でも、病気が治ったら身体を鍛え直すとか言って、自衛隊に入っちゃったの…… 中々会えないんだけど」
久美は視線をそのままに、苦笑を交えて嬉しそうに言った。
任務中に無理に時間を作ったのかもしれない。
「準備が出来ました〜」
カメラマンと共にスタッフの声がかかる。
二人は二人の弟の姿を見送ると、声のかかる方向に顔を向ける。
小高いガーデニングでの記念写真。
そこへの階段を登ろうとした時、差し込んだ日の光に二人は目を細める。
「なんか…… 視線を感じたんだが…… 」
「あら? トナチ…… アナタも?…… 」
天野は少し驚いた表情で久美を見る。
久美は照れた表情を浮かべていた。
ふと…… 思い出す。
「久美、ずいぶん前に初詣に行った時、神様は何でこの世界を創ったか? って美奈が聞いたの覚えている?」
「え〜っと…… コトアマちゃんが誕生した年ね」
「うん…… あの時思ったのは、神様は自分達に対してこそ『答え』を求めているんじゃないかって思ったんだ」
「答え…… 」
天野は優しげに言う。
「神様は答えを求めて、この世界を見続け、見守っている。今でもそう思うんだ…… 」
そして、もう一度二人は澄んだその空を、眩しげに見上げた。
…… そんな二人を上から見る視線。
それは、二人を見たまま、ドンドン上昇し離れていく。
二人は小さくなり、式を挙げている教会から街、雲から抜けると日本の姿が現れ、なおも上昇していく。
そして、浮かんでいる地球を現す。
その地球を現す視界の片隅に、目立たぬようにエデンシステムの文字がある。
カチャ
扉が開く音がすると、地球に光が走り、それが広がっていく。
そして、地球の姿に重なるように、人影が映し出された。
少し視点が下に動くと、地球の周りに目立たない箱のような縁と下側にはキーボードらしきものがある。
そして、その上にはエンゲージリングをはめた手指。
「アナタ、用意ができたわよ。あら、何を見てたの?」
「ちょっと、別の世界をね」
「そう、どうだった?」
「ああ、楽しそうにしていたよ」
男性の声は天野刀那に、女性は加賀見玉緒に似ているが、やや落ち着いた年配の声に聞こえる。
ディスプレイらしきものに映し出された地球と影、人物の姿はハッキリと見えない。
「思い知らされるよな…… 」
「何を?」
「人の有り様を…… 」
「…… そうね」
その二人の会話に割って入る、幼い声。
「ママー、お腹すいた〜」
「パパー、はやくー」
「わるい、わるい、すぐ行く」
その声に男性の手が動く。
ディスプレイ上には地球の姿に重なるように文字が現れている。
【これまでの記録を保存しますか?】 【YES・NO】
【YES】の文字が一瞬光ると、【SAVE】の文字が現れ、地球の姿が消えた。
ディスプレイ画面に反射して写し出される影の姿。
その影は、仲つむまじく並んで扉から出て行く。
その扉が閉まると視界は何も写し出さなくなった。
ん?
ディスプレイのあった位置から、ピョコッと何かが現れる。
見るとドット画像のアシカビに見える。
二頭身にデフォルメされたその姿は、ガイアで初めて出会った時を彷彿とさせる。
あのアホ毛も健在だ。
それは、うんしょとよじ登るように身体を起こすと、正面でバンザイをする。
その動作を合図に下から泡の様なものが立ち上って行く。
スクリーンセーバーのようだ。
アシカビはテクテク歩くと場面の隅にちょこんと座り、それを見上げる。
その泡の中には、いろいろな写真が写し出されていた。
夏季合宿での出来事だろうか、天野と加賀見が海辺でたたずんでいる。
別の泡にはクニヨシと一緒に加賀見に呼び出された天野の姿がある。
それらはゆっくりと下から上へと現れては消えて行く。
見たこともない写真も写し出される。
なかには、結婚衣装を着た緊張したクニヨシとウェディングドレス姿の笑顔の美奈とが並んだ写真もある。
そして、短い動画を取り込んだ泡が浮かび上がる。
暗い交差点をカラスの羽を手にたたずむ天野。
交差点にある湾曲ミラー、右のミラーにはネオンの光、左のミラーはかろうじて山の影が見える。
天野はその交差点を左に曲がり走り出す。
古い造りの家の前に佇み、恐る恐る門横のベルを押す天野。
その様子を防犯カメラが捉えていた。
人物を特定したのか画面に天野の人物データが表示される。
画面に赤文字でCAUTIONと表示されるが、一瞬ノイズが走ると緑色のSAFETYと表示される。
しばらくして、門から優しそうなお婆ちゃんが現れて、家の中の誰かを呼ぶそぶり。
そして、玄関が開かれ、現れる女性は加賀見玉緒。
普段着に半纏を羽織り、ビンの底のようなメガネをかけている。
天野の姿を見るなり慌てて身を隠す加賀見。
それを気にすることなく、家に案内するお婆ちゃん。
身なりを整えた加賀見と居心地が悪そうに一緒にコタツに入る天野。
加賀見が口を開いたのをキッカケに、お互いが罵り合うが如く言い争いが始まった。
そこに先ほどのお婆ちゃんがお盆にミカンを乗せて現れる。
お婆ちゃんが争う二人に向かって何かを語りかけると、加賀見は急に慌てだし、天野に顔を向けるとしおらしくなる。
ふたりして、顔を赤くしたまま、黙り込む。
そして……
天野が口を開く、それをじっと聞く加賀見。
最後に天野は加賀見に向けて、小指を差し出す。
それに誘われるように差し出される加賀見の小指。
その小指と小指が重なると、ゆっくりと画像が変わっていく。
そして、最後に現れた画像は……
神社の前に並んだ二人の姿……
刀那は紋付袴の姿 玉緒は白無垢につつまれていた。
昔、昔、この世界は
二柱の、神にて、創られた
心強き、男神
賢き、気高き、女神
互い、誘い、想いを紡ぎ
幾千、幾万の、神を産む
神は、人に、心与え
姿、形を、そのままに
決して、姿を、見せぬけど
御心、我らと、共にあり
互い、誘い、想いを紡ぎ
幾千、幾万の、人を産む
ああ、世界よ、神々よ
我らと共に
千代に、八千代に
【コ】ンピューターでおこった【事】の【記】録
完
最後までお読み頂きありがとうございました。
私が拙い物語を通して伝えたかった事は最後の章にあります。
古事記ではイザナギとイザナミは最後に「一日に千人の人間を殺す」、ならば「一日に千五百人の人間を産む」と言って別れてしまいます。
人間の生死観を表す大事なものではありますが、私は納得がいきませんでした。
イザナギ・イザナミは夫婦神です。この世界を創った神様です。私達にとっての父と母です。
その父と母が言い争って別れるなど、子である私達にとっては不幸じゃないですか。
世界が不幸じゃないですか。
絶対に認めたくないし、認めません。
だから、この私達の世界は天野刀那と久美が結ばれた世界に近いとしても、どこか別の世界では必ず結ばれていると信じています。
それを伝えたくて、筆をとりました。
最後に、もう一度読者の方々にお礼を申します。
天海波平




