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第59話 縁(えにし)

 数年の月日が経つ……


 トクン、トクンと心臓の鼓動が感じられる。


 静かに、ゆっくりと息を吸い、またそれをゆっくりと吐き出すと、わずかに視界が広がったように感じる。


 その視界には、格式ばった衣装を纏った多くの人が映る。

 パーティー会場のホールのような造りの部屋の中、彼らは静かにこちらを見ている。


「彼は…… として…… とても素晴らしい…… 」


 誰かが何かを喋っているが、とても聞き入れることが出来ないほどに緊張しているのが自分でもわかる。

 

 何故なら……


「ねぇ、ガチガチじゃない、大丈夫?」


 近くから、耳慣れた声が聞こえる、耳元と言っていい。


 視界を、その声のする方向に向けた。


 そこには……


 少し心配した表情を浮かべる……


 ウェディングドレス姿の久美の姿があった。


 薄暗い会場の中で、彼女はスポットライトを浴びて、彼女だけがそこにいた。


「(よ、よく落ち着いていられるな)」


 ヘアスタイルをカチッと決め、タキシードをビシッと着た天野。

 だが、表情だけは情けない。


「(当たり前よ、女の子の夢なんだから)」


 余裕たっぷりの澄ました笑顔で彼女は答える。


「(ほら、もうすぐ美奈ちゃんの挨拶だから)」


「(わかっているよ…… )」


 小さなヒソヒソ話をする二人を気にする様子もなく、司会者と思われる人が進行を進めていく。


「それでは友人代表の伊澤美奈様より、祝辞のお言葉を頂きたいと思います」


 その言葉を合図に、前列の席から立ち上がる人物がいる。

 美奈だ。

 彼女は、もう可愛らしさと言うよりかは美人、いや麗人とか佳人といった言葉の方が似合うほど美しくなっていた。

 彼女は壇上に立つと二人に向かって微笑み、スポットライトの中で礼をする。


 ゆっくりと大きく深呼吸をすると、笑みを浮かべながら口を開いた。


「天野先輩、久美先輩ご結婚おめでとうございます。

 私は新郎である天野先輩とは小学校の頃、近所に住む幼馴染みでした。

 その頃の私はまだ小学校の低学年で先輩には色々お世話になっていましたが、

 ある悲しい出来事から私は先輩と離れることとなりました。

 しかし、学園で偶然にも再び出会うことが出来ました。

 でも、私はその事を偶然とは考えていません。

 なぜなら……


 私はその悲しい出来事から、なかなか立ち直ることが出来ませんでしたが、

 先輩達が創り出したAIとシミュレーションの世界により救われ、

 その悲しみを乗り越えることが出来ました。

 生きている意味を感じ取ることが出来ました。

 私にとって、ここにいる二人は私にとっての救世主でした」


 美奈は一度目を閉じる、彼女の脳裏には姉の…… コトアマテラスの姿が浮かんでいた。

 そして、自分とコトアマテラスとは(えにし)の糸で繋がっており、その糸は枝分かれし、いろいろな人達と結び、繋がっていく、そんな映像を感じ取っていた。

 そして、言葉を(つづ)る。


「私は私に起こった偶然と奇跡を通して感じます。

 人と人との繋がり、出会いは偶然の産物なのでしょうか?

 奇跡と呼びうるものなのでしょうか?

 ある人が言いました。


 運命は偶然と必然の産物であると……


 私が二人を見たとき、正直に言いますと、一緒になる感じではありませんでした。

 仲は悪くない感じでしたが、何かにつけて言い争いをしてたのを覚えています。

 だいたい、いつも天野先輩が謝っていましたけれども」


 会場がどっと沸く。

(もう、尻に敷かれてんのか〜)と言う野次が飛び交う。


「私は二人の出会いを偶然とは考えていません。

 何故なら、運命のもう一つの産物である必然だと思うからです。

 そして、まさに目の前の二人はその必然を持って、今日を迎えていると信じています。

 

 先ほど申しましたように、目に見て一緒になる感じではありませんでしたが、

 おそらく、目に見えない繋がりを紡ぎ合い、結び合ってきたのでしょう。

 その見えない繋がりこそが必然であり、

 私達が『(えにし)』と呼ぶものだと思います。


 前にいる二人は『(えにし)』と言う名の必然を、

 強く紡いできたのではないかと、そう感じます。


 天野刀那先輩、久美先輩ありがとうございました。

 そして、おめでとうございます」


 会場から盛大な拍手が起こる。

 そして、拍手が鳴り止まない中、司会者はマイクを取る。


「それでは、もう一人のご友人からのサプライズです!」


 その言葉と共に会場の照明は一気に消される。

 隣の顔さえ見えないくらいに真っ暗だ。


「え? 何?」


 久美の口から漏れる、もちろん天野も知らない。


 真っ暗になった会場の中央付近の天井に丸い光が灯る。

 その円形の光がゆっくり降り出すと、その円形の上に複数の人影が徐々に映し出されていった。

 会場からはガヤガヤとし出し、驚きの声も上がっている。

 そんな中、軽い口調の懐かしい声が響いた。


「よ〜、わりいなぁ 〜天野。出席できなくて」


「クニヨシ!」


 円の中から現れた人物の一人は、立木國嘉だった。

 彼は、ここにいない。

 いや、日本にすらいない。

 彼が就職した小さなゲーム会社は、彼の就職の後、経営難に落ち込み海外の大手ゲーム会社に吸収合併されてしまったのだ。

 だが彼はその先で開発能力を高く買われ、海外に移住してしまっている。

 そして、彼の横にはタカミ、カムス、アシカビ、コトアマテラスのAI達の姿があった。


「お久しぶりです。マスター」


 タカミからの挨拶。

 そう天野はあの日、エデンシステムが本稼働してからは、()()()()()()()()()のタカミとのコンタクトは取っていなかった。

 ほとんどコトアマテラスとのやり取りで充分だったからだ。


「久美様、お綺麗ですわ」


 カムスもニッコリ微笑みながら挨拶をする。


「な、なんで…… 」


 天野の呟きももっともだった。

 エデンシステムはガイアシステムに並びセキュリティーは厳重なものである。

 従来、シミュレーションは開示出来ても、それを動かすシステム自体を表に現す事は出来ない。

 ましてはクニヨシは海外だ。

 セキュリティーに引っ掛からない訳がない。


「ボクからも向こうにお願いしたのさ」


 アシカビがアホ毛をピョコピョコさせながら言う。


「向こう?」


 天野の質問に答えたのはクニヨシだった。


「いやな、コッチの方でもエデンと似たシステムを開発中でな、国際交流及び協力って形で政府同士で提携を組んだらしい」


「え?」


 天野も初耳の事である。


「とりあえずガイアルートからエデンに繋がるってこった。一応、秘密だけどな」


「秘密って、お前この会場に…… 」


 そこにタカミが口を開く。


「大丈夫です。この事が漏洩しても対策済みです」


 タカミの言葉に同調してクニヨシは「な!」とだけ言う。


「けど、あっちのヤツ、態度でかいんだよねぇ〜」


 アシカビの独り言に(ハテナ) を浮かべる天野。

 そしてその言葉にカムスが同調する。


「はい、ところどころ高慢に振る舞うところがありますね」


 クニヨシの言う、向こうで開発中のエデンに似たAI(システム)の事を言っているのだろう。


「向こうは私たちの作業を一人で行いうようなものですから、緊張しているのでしょう」


 タカミは二体のAIに諭すように言う。


(なんか、見ないうちに井戸端会議始めるようになったな……)


 天野がそんな事を思っている内、もう一つのAIが天野達に向かって頭を下げる。


「本日は、誠におめでとうございます」

 

 コトアマテラスは笑顔で祝辞を送る。

 照美姉さんから言われているみたいだ……


「ああ、ありがとう……」


 ジワリと涙を浮かべそうになるのを堪える天野。

 その様子に気付き、久美も笑顔を浮かべながらコトアマテラスに礼をいった。


「コトアマちゃん、ありがとう。まさか来てくれるとは思わなかったわ」


 コトアマテラスも久美に微笑みを返す。


「はい、私も嬉しいです」


 久美もじんわりと目に涙を浮かべた時に、彼女(コトアマテラス)はとんでもない事を口にした。


「これで、久美様が『()()()私の母』になるのですね」


 その後、会場は騒然になったという……

 

はい、次話で完結となります。

このお話の続編はまったく考えておりません。

次作の構想はあるのですが、投稿は早くて数ヶ月、遅くて数年でしょう。

エタるの嫌だから。

それよりこの物語の文章の悪いところを見直して、編集をかけていこうと思っています。

完結後に誤字・脱字報告や感想などを頂けるとありがたです。

ではでは……

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