第57話 道
勢いで書いたった
卒論発表会の翌日。
研究室のみんなは、発表会で使用した機材の片付けとそれに共なう運搬作業に追われていた。
「ふ〜、クニヨシ。あと幾つだ?」
段ボール箱を研究室の床に置き、天野は一呼吸つくと、残りの機材の数を聞く。
「これで最後だよっと」
会場から研究室までは車で移動する距離でもなのだが、歩きで機材を運搬する事となると、十回いかないぐらいの往復でもかなりの労力を必要とした。
気付けばもう昼前である。
「はぁ〜、やっと終わった〜」
普段、運動もあまりせず、もっぱら室内作業の天野にはこたえたらしい。
そんな天野にクニヨシが声をかける。
「まだ、終わってないぞー」
「うぇ、まだ何かあるのか?」
露骨に嫌そうな顔をする天野に、とぼけた口調でクニヨシは答える。
「何って、打ち上げだよ、打ち上げ」
そう言えば、高木研究室の卒論発表会兼卒業祝いの打ち上げをやると天野も聞いていた。
「あれ? 明日じゃなかったっけ?」
その天野の普通な態度にクニヨシは「おっ?」と心の中で声を出す。
「ああ、明日だけどな」
とぼけた口調のまま天野を見るクニヨシ。
「驚かすなよ」
そう言って笑う友人に、クニヨシは「コイツ、変わったな…… 」と呟いた。
「ん? 何か言ったか?」
「ん、いや何でもねえ。遅刻すんなよ」
誤魔化しを兼ねてか、憎まれ口を叩くクニヨシ。
「お前もな」
それを返す天野。
「ところで、カムスがなんか新しいシステムを作っていると聞いたが?」
クニヨシは机を椅子がわりにし、一息つける話題を取り出した。
「余り詳しく聞いていないんだが、エデン情報を素早く開示出来るようなんだけど…… 」
「ふぅ〜ん、どんなものかね?」
「さあ? セキュリティー含めて今のカムスに問題は無いだろうけど」
少し前に確認の為にタカミとカムスにシンギュラリティ問題について問うた事があった。
タカミの回答では、シミュレーションシステムである自分たちが、対象となる人間に関与するとなると、自身の存在理由が無くなって(シミュレーションでは無くなる)、自己否定により消滅するらしい。
そしてカムスは正月であった学園のカメラ画像取り込みについて説明した。
これは元々学園内の防犯カメラのセキュリティをAIで管理出来ないか? という要望に、加賀見が応えて開発中だったものを流用したらしく、進んでハッキングを行う事は現時点では無いとの事だ。
その時、ニヤリとしたカムスの顔がやけに印象に残るのだが……
「(しかし、 まぁ…… )」
クニヨシは目を細め、呆れるような視線を天野に送る。
「?」
対する天野はキョトンとした顔をする。
「(コイツには、ほとほと驚かされるわ)」
「ところでさ」
天野はそんなクニヨシの心境を知ることもなく、友に呼びかける。
「お前、どんなゲーム作るのさ?」
天野のそのセリフにクニヨシは口元をニヤリとさせる。
「(けど、コイツは俺を誰より知っているし、俺はコイツを誰よりも知っている)」
クニヨシは、就職先を小さなゲームメーカーにした時、散々周りから「勿体ない」だの「この学園に来てゲーム会社? 」と言った言葉を受けていた。
中学、高校の時も「お前の頭はゲームだけか? 」とも言われていた。
だが……
「(コイツぐらいなものだ、自分の道に口出ししない奴は)」
クニヨシは椅子がわりにしていた机から飛び退きながら、友に語りかける。
「おうよ、よく聞いてくれた。以前話したことあったろう?」
クニヨシは自分が将来掴みうる必然…… 道を語り始めるのであった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
翌日……
天野は打ち上げ会場に向かう途中で道に迷っていた。
スマートフォンを忘れた事に気付いたのは、つい先ほどまで乗っていたバスの中での事。
だいたいの場所は分かるのだが、場所に近付く程に道に迷ってしまった。
(遅れんなよ……)
クニヨシの声が響く。
「あいたぁ〜」
手を額に当て、諦めるように項垂れる。
もう陽は落ちており、辺りはかなり暗くなっている、間違いなく遅刻確定である。
その時、視界の隅にキラリと光るモノが目に付いた。
「ん? 何だ…… 」
なんとなく近付いて見てみる。
「カラスの羽? 黒くても光るんだな」
それは大きな一枚のカラスの羽だった。
それを手に取り、古い街灯の光に照らす。
その時、その街灯が取り付けられている電柱にこの地区の標識が目に入る。
[八田]
「はった?はちた?やた…… やた」
自分の言葉に目を見開く。
そして天野の先にはT字路の交差点がある。
交差点の中央に左右に分かれた湾曲カーブミラーが設置されている。
しばらく立ち止まったままでいたが、天野はカラスの羽を握りしめると、身体を交差点の方へ向け……
そして街灯が照らし出す光の輪の中に……
その一歩を踏み出した。




