第28話 中間発表会当日
学園内のある大ホール、収容人数は千二百人を超える。
学生達はスーツに身を包み、大部分が緊張した面立ちで会場の席に座っていた。
学生達がスーツ姿なのは理由がある。
この学園は他とは少し変わっていて、こうした中間発表会に一般の企業や研究機関を招待する。
学生達の就職活動に一役かってもらおうと言う事と、ある研究において発表する内容、つまり技術を買い取ってもらおうとするためだ。
それ故に会場は開催前から賑わっており、混雑を見せていた。
そのホールの一角、スーツ姿の学生達の中に天野の姿も見える。
学生達は緊張しているだろうが、背筋を伸ばしおおむね落ち着いた雰囲気の中だった。
リストバンドの上から着けられた天野の腕時計、その秒針が正しい音を刻む。
チッ チッ チッ
その針がちょうど12の位置を示した時、会場の照明が明るくなりアナウンスが流れる。
「本日はお忙しいところ、当学園の研究発表会にお越しいただき、誠にありがとうございます。二日目となる本日の発表は、コンピュータ自然環境開発研究室、高木慎也教授と同研究室ガイア開発責任者、加賀見玉緒助教授による三次元環境シミュレーター[ガイア]の紹介と、それに連なる技術開発の発表となります」
会場からは少なくない拍手が起こる。
同時にゆっくりと壇上に上がる高木教授の姿があった。
「え〜、本日はお忙しいところ誠に〜ありがとうございます。え〜今回の発表では〜」
教授の言葉を聞きながら天野は(会場のみんな眠くなるんじゃないか? )と思いつつ、会場を見渡す。
システム課の学生達は、発表内容を書き写した用紙を手に取り、ブツブツと呟きながら確認作業を行っている。
そして、チラッと隣を見ると緊張した面立ちの久美がいる。
その奥には眠そうにしたクニヨシだ。
そんな周りの状況の中、天野は姿勢を正し、視線を壇上に移した。
「え〜、それでは改めまして環境シミュレーター[ガイア]の説明をさせていただきます」
そこまで言うと、高木教授は軽く会釈し壇上から下がっていく。
そして、入れ替わりで壇上に上がったのは加賀見助教授だ。
ライトの光を浴びてキラキラと髪がきらめき、颯爽と言うに相応しい出立ちで壇上に立つ。
「ガイア開発責任者、コンピュータ自然環境開発部助教授の加賀見玉緒です」
そこまでの言葉で先程より大きな拍手が起こる。
「今より環境シミュレーター[ガイア]を、その映像と共に学生達によって発表させていただきます」
同時に会場中央部分に設置された巨大なディスプレイに、地球の姿が映し出される。
「私たちは現在、世に知られる中では最高級の量子コンピューター『天』を用いてシミュレーション開発及び研究を行ってまいりました。[ガイア]は天気予報はもちろん、先の桜島噴火による地域の影響など即座に解析し、世の中に大きく貢献している物と自負しております」
加賀見助教授の言葉に合わせて、ディスプレイは色々な映像が映し出される。
火山の噴火による火山灰の分布状況、台風の進路から各地の風速、雨量、土砂災害や水害の発生確率。
「そして現在、町や村といった限られた地域においても、詳細なシミュレーションが行われるよう開発を進めています。また、生物データを取り込み、農産物から畜産まで環境からの影響を測ることや、他にはPM2.5やインフルエンザウイルス、コロナウイルスなど飛来や拡散有害物に関しても、今後[ガイア]に解析させ、速やかな対策が取れるようにと、学生達と共に研究を進めております」
映像と彼女の言葉の内容は、会場の少なからずのざわめきを与えていた。
「それから新しい分野として[人]、人間のシミュレーターの開発を行なっております。今後はこれを組み込むことにより、自然環境と人の関わり・影響がどのように分部するのかを解析・研究したいと考えております」
この時の映像は、人型モジュールのみを表示させていた。
「現状の[ガイア]の研究概要は以上のようになります。これからは学生達の発表と共に[ガイアの世界]をお楽しみ下さい」
そこまでの発表を加賀見助教授は終始笑顔で行い、会釈の後壇上より降りてくる。
入れ替わるようにシステム課の第一発表者が壇上に上がる。
臼井大地と那須比奈子であった。
さすがに二人とも緊張した面立ちだ。
そして二人が会場を正面にしたと同時にアナウンスが流れる。
「それではシステム課の臼井大地君と《ガタッ! 》那須比奈子さんによる発表を行なってもらいます」
アナウンスの途中で大きな音がした。
何事かと音が発生した方向を見ると、加賀見助教授が椅子の横で転んでいる。
横の高木教授と近くの学生達は呆気にとられている。
そして、ヨロヨロと椅子の肩を掴み立ち上がると、何事もなかったように彼女は椅子に座った。
「今日、コンタクトしてないわね…… 」
久美が呟く。
彼女もまた緊張していたのであろう、緊張が切れて椅子に座る瞬間にああなってしまったのだろう。
加賀見助教授は顔を赤くしながら、しばらく憮然とした表情であったが、それは周りの学生達の緊張を少しほぐしてくれていた。
システム課から始まった発表は夏の合宿と同じであったが、それはすべて精錬されたものだった。
ただ、天野は進行していくシステム課の発表をボンヤリと見つめていた。
「もうすぐ私たちの番だよ」
隣に座る久美が囁くように天野に告げる。
「あ、ああ」
不意をつかれたように返す天野。
その態度に久美は不満な表情を浮かべたが、次にそれは不安なものへと変わっていった。
夏の合宿の発表で直前に、天野は彼女に何かを訴えかけるような目をした。
それを思い出したのだ。
だが、久美は何も言わず、膝の上の手をキュッと握りしめただけだった。
「続きまして、AI課の天野刀那さんと豊野久美さん、システム課立木國嘉さんによる。ガイアにおけるAIの運用と開発内容を発表させていただきます」
進行のアナウンスと共に席を立ち壇上へと進む。
そして多勢の観客の中、三人の発表が始まった。
「みなさんはじめまして、私はAI課の天野刀那です」
「同じくAI課の豊野久美です」
「システム課のたつぃ! た、立木國嘉です」
クニヨシが思いっきり噛んだ。
だがそれを笑う余裕を天野も久美も持っていない。
天野はマイクを持ち、緊張した面立ちで発表を始めた。
「私達は人が地球環境に及ぼす影響をシミュレーションするために、新しいシステムを開発しているところです」
思ったより緊張はしていないようだ、言葉が止まる様子もない。
「私達は当学園の優れた量子コンピューター『天』の処理能力で三つのAIでの運用により、このシステムを作成しています」
中央のディスプレイに、簡略化された[エデンシステム]が表示される。
「このシステムは現在二つのAIによって管理されており」
そこまで言うと壇上に二体のAIがホログラムで現れる。
アシカビとカムスだ。
アシカビは現れると会場に向かって手を横にピーンと伸ばした状態で可愛らしくお辞儀をする。
会場からは微笑ましい小さな笑い声が漏れる。
かたやカムスは静止したままであった。
「こちらのAIは現在三体目のAIのシステムの開発途中であり、ここでは行動制限をかけさせて頂きます」
この言葉は加賀見の姿勢を前のめりにさせ、目を光らせた。
ディスプレイ上の画面が切り替わり、アシカビとカムスの二つのシステムが表示される。
そのうちの片方を明るく表示させ説明を続けた。
「アシカビシステムは以前よりありましたが、これは主にガイアの運用情報を円滑に人に伝達する事を目的として組まれたものです」
「加賀見助教授のアルゴリズムを組み込むことで、あらゆる言語での会話を可能とし、相互の意思疎通を図るだけでなく、外部情報を取り入れることで非常に人に近い行動をとる事が出来るものであります」
「そして今回、アシカビシステムを元に新たなAIシステム[カムスシステム]を開発・導入する事によって、ガイア世界に[ヒト]を創り、それが地球環境に及ぼす影響をシミュレートする事を目的としました」
「この新しいシステムの特徴としては、AIの研究機関及び開発機関と提携し、独自にガイアに必要なシステムを随時、更新・開発させると言うものです」
「AIがAIを開発すると言うものは以前にもありましたが、これは量子コンピューター『天』による[ガイア特化型]と受け取って下さい。そしてこのシステムについての詳しい説明は、開発の中心となった立木國嘉君により、後ほど説明させて頂きます」
この時クニヨシは何も喋らず空中のただ一点を見つめていた。
「今現在のガイア世界における[ヒト]は、現実世界の[人]と乖離しており、その問題に奮闘しておりますが、その問題の一つを解決させるべくもう一つのシステムを導入しています」
ここで曖昧システムの全容が表示される。
この時、天野の額からツーッと汗が流れる。
これは加賀見助教授のシステムであって、自分のではない。
はっきり言えばサッパリ解らないのだ。
「それを私達は[曖昧システム]と呼んでいますが。これにより人の持つ感情の曖昧さやヒューマンエラーなどの発生を表現することが出来るものと考えております」
だが、この時の天野は良く言えば堂々と悪く言えばシャアシャアと言葉を放ち。
天野が担当する最後の言葉に繋げた。
「[ガイア]のシステムと並行し、[ヒト]を動かし運用するこのシステムを私達は[エデンシステム]と名付けました。それでは現在のシミュレーション状況を発表したいと思います」
ここまでで天野の発表部分はほぼ終わりだ、少しだけ胸を撫で下ろす。
「それでは[エデンシステム]の[ヒト]を発表させて頂きます。時代設計を古代のものにしております。御了承のほどよろしくお願いします」
久美の言葉でディスプレイ表示が切り替わる。
天野が昨日までに見た黄金の稲穂がなびく光景が広がる。
だが、それはほんの少しの時間でしかなかった。
ドサッ!
集落の一角が映し出されたと思うと、画面いっぱいに何かが覆うように横たわる。
それは集落の住民だった。
集落は……襲撃を受けていた。
槍や棍棒のようなものを振りかざし、住民に襲いかかっている。
あちこちで悲鳴が上がり、逃げまどう住民達。
天野も久美も目を見開き言葉もでない。
そして、幼い少女が並んで逃げようとする中、襲撃者は少女に向かって弓を構える。
「や、やめて! 」
天野の思いが、そのまま久美の口から発せられる。
だが、襲撃者の矢は弓から放たれ……
音もなく……
少女の背中に吸い込まれるように刺さった。
走馬灯のようにゆっくりと倒れる少女が地面に伏し、地面を赤く染めた頃。
天野は、その意識を完全に手放していた。
R15とさせている部分になります。
書かないわけにもいかないかないので、残虐な描写も控えめにしたつもりです。
これは、二つ前の章の最後、Concept of WAR がタイミング悪く発動した事になっています。




