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第26話 中間発表会までの数日

 発表会が開催される日が迫ってきた。

 天野は今、研究の成果をまとめている。

 研究のコンセプトから重要なシステムの概要、発足時からの経過など、(まと)めれるものだけ(まと)めておかねばならない。

 しかし、その作業が思うように進まない。

 と言うのも、夏季合宿後に新しく組み込んだカムスシステムの稼働により、シミュレーション状況が日時変化するのだ。

 もちろん良い方向にだが。

 だが、その結果として発表に使おうとした内容が、順次変わることにより使えなくなるという、ジレンマが発生していた


(それにしても…… )


 天野は並列に置いたディスプレイの方に目をやる。

 そこには音声こそ[OFF]にしているが、ガイアのシミュレーション状況が映し出されていた。

 画像には合宿前に見た光景と同様、黄金に輝く稲穂がなびいており、それを刈り取る男性と刈り取った稲穂を集める子供達。

 奥の方では女性が稲穂を木の棒のようなもので叩き、脱穀を行なっている。

 近くの木陰にある篭の中には赤ん坊が眠っており、その子がグズリ出すと女性は作業の手を止め、赤ん坊に近づき乳を与え出した。

 林の中から弓を背負った男性が現れる。

 腰にぶら下げた三羽の鳥の内の一羽を子供に渡すと、村の方に戻っていく。

 そして、その男性に感謝するように会釈する男女と、鳥を持ち上げ喜ぶ子供達。


 映画やドラマのワンシーンを見ているような、違和感を感じさせない風景がそこに浮かぶ。


(人の世界はどうやって、なぜ創り出されたのだろう…… )


 そんな言葉が頭をよぎる。


カチャッ


「こんにちは、天野君」


 現れた人物に目を見張る。

 そこに現れたのはリクルートスーツに身を包んだ久美だった。

 髪を切り揃え、薄く化粧をしたその姿に、天野は声が出なかった。

 その態度を見て、拗ねたように久美は言う。


「…… 何よ」


「いや、ちょっと…… 」


 ビックリしたという言葉は喉の奥に仕舞い込む。


「ちょっと…… 何よ」


 そこに無粋な言葉が響き渡る。


「チ〜っす! おー 豊野、面白いカッコしてんな? 発表会の試着か?」


 クニヨシ(面倒な奴)の登場である。

 その瞬間に、久美の額に青筋が走ったように感じる。


「二人とも〜」


 そこまで言うと、彼女は脇に抱えていた分厚いファイルをバンッと叩きつける。


「加賀見助教授からのプレゼントを渡しておくわ。研究発表の前日に仕上げろって」


「「えっ! 」」


 机に置かれたファイルはシュウ〜と、煙と音を立てている感覚さえ覚える。

 天野は恐る恐る、表紙をめくる、そこには小さな文字がビッシリと並んでいた。

 目眩がする。


「研究発表じゃ無くてその先を見つめろって」


 久美の眼力に押される。

 彼女はそこまで言うと(きびす)を返して部屋を出ていった。


「何か、あったのか?」


 なんとも不思議な表情で天野に問うクニヨシ。


「知らん」


 そんな彼に天野は半目のあきれた表情で答えた。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 一方、部屋を出た久美は息巻きながら廊下を歩いている。


「ほんっとに、あの二人はデリカシー無いんだから!」


 あの二人に渡したファイルは、本当は研究発表後の指針を示したものだったのだが、思わず言ってしまった。

 まあ、二日〜三日放っておいても良いだろう。

そんな久美は、ふと前方に人影があるのに気付く、先日研究室の前にいた、あの女子学生だ。


(名前は確か伊澤美奈ちゃんだったな)


「こんにちは、今日も見学? 教授なら今日は…… 」


 久美は近づいて話しかける。

 だが美奈はそれを遮るように言葉を返す。


「いえ、今日はいいです」


 それだけ言うと、走ってその場を離れていった。

 ポツンと取り残される久美。


「今日はついてないなー」


 ガックリうなだれ、へこんだ表情で廊下を歩いて行くのであった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 同じ頃、研究室内部では継続して、発表の内容をお互いに確認していた。

 そんな時クニヨシが唐突に天野に言う。


「なあ、天野」


「ん?」


「お前、アシカビとカムスは良いとして、タカミはどうすんだ? 」


 天野にとって、あまり聞きたく無い内容である。


「ん〜」


「その感じじゃあ、あまり考えていないようだな」


 それに対しては天野は困った表情を浮かべて言葉を返した。


「考えてないわけじゃ無いけど、(まと)まらないというか…… 」


 そして今の彼の状況を説明する。


「こんなシステムはどうだろうと考えても、構想途中でアシカビないしカムスのシステムに引っかかって[ドッペルゲンガー]が起こるって、解るんだよ」


「なるほどな…… 」


「もう、アシカビとカムスだけでいいかなって思うくらいだよ。複数のAIでのシミュレーションを考えていたのに、大きく変わったからな」


「まったくだ、おかげでコッチはとんでもない事、手伝わされてる気分だぜ」


 クニヨシの言葉に(自業自得だろ)と突っ込みを入れる代わりに、冷めた目を投げる天野。

 そんな天野に〈ふふん〉とした上から目線のクニヨシ。

 どことなく腹が立つが、クニヨシがいなければカムスのシステムも存在しなかったか、大きく開発が遅れていた事だろう。

 天野は大きくため息を吐く。


「今のガイア環境での彼ら(モジュール)の行動は、生活シミュレーションとしては問題はないと思うんだ。けど、文化的発展とか進展とか、思考の方向性とかは、はっきり言って正しいかどうかも分からない。言い換えれば、人の歴史に沿っているのか全く分からないんだ」


「お前のシステムでもか?」


「うん、今のシステムに進化とか発展につながる要素が薄いんだろうけど、カムスにシステム開発を任せている状態もあり。何が不十分で、何が必要なのかも分からない。…… カムス任せなところが問題なんだがな」


「ポッとカムスが開発するかも知れないじゃん」


「そうあると良いんだけどね。今の状態じゃあなんとも言えないな」


 お互い顔を見合わせて、ため息をつく。

 その時、クニヨシは先ほど久美が持ってきたファイルに手を伸ばし、パラパラとめくり出した。

 そして彼は壁に向かって声を出す。


「アシカビ出てこい」


 同時に目の前でキラキラと光の粒が集まり、人の姿を現す。


「何だよ、クニヨシ」


 クニヨシに呼び出された事に不満げなアシカビが現れる。

 カムスシステムが影響しているのか、以前よりより人間らしく感じる。


「これをカムスに組み込ませてくれ」


 ムッとした顔でアシカビは何も言わず、部屋にあるコピー機に似た機材の方向に指を差した。

 あれでスキャンさせて読み込ませろ、という事なのだろう。

 そんなアシカビはクニヨシに向かってニッコリと作り笑いを浮かべる。


(アシカビがこんな行動を取れるとはな…… )

 二人のやり取りを見ながら天野は思う。

 外部情報より行動を割り出すアシカビだが、基本的に命令から実行の間に、他の行動を行う事は以前では無かった。

 カムスのシステムからか、行動パターンの幅が広がっている。

 嫌いな奴から命令された時の行動パターンと言ったところであろうか。

 それと自分の立場を把握している様にも見える。


 ただ、クニヨシの表情はヒクヒクしているが……


 天野はクニヨシに手を差し出す。

 自分がするよ、という事だ。


「もう、シンギュラリティ来てんじゃねえか?」


 ファイルを手渡しながら、クニヨシはボソリと呟く。

 その言葉には苦笑で答えると、天野はファイルの中身を機械に差し込みボタンを押した。

 ファイルの中身がすべて機械を通ると同時に、アシカビが声を出した。


「これに似たシステムは、三項目後に開発予定です。現在進行中のシステム開発を中断し、今回読み込んだシステムを優先させますか?」


 その言葉に唖然となる二人、お互いに顔を見合わせる。

 そしてその顔のままアシカビの方を向く。


「「いや、いい…… 」」


 そして、二人は同時に力無い声で言ったのだった。



 そんな、やり取りの中。

 研究室の一角に、一台のディスプレイが稼働している。

 中央画像では高速で文字が流れる中、最上部に位置する文字は現在の開発しているシステム名を表していた。


Takami system

Development

Now system


Concept of [ WAR]

検索キーワードに[エッチ無し]を追加しました。

若い世代にも気軽に読んでもらいたいからです。

性教育的な内容を含めて書こうかとも当初思っていましたが、この物語には“そぐわない”と思い書きませんでした。

原文では“まぐわって”いるんですけどね。

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