第1章17 『彗星の如く』
朝の報道番組を見てから学校へと向かうことになった2人、千影は番組の内容で重要な部分だけをメモし、それを見ながら並んで歩いている。零士はそれを覗き見ながら色々質問をぶつけていく、学校では聞いたことの無い内容もあって千影もわからない部分があるらしいが、わかるところだけを噛み砕いて零士に説明していく。
そんなやり取りを続けていると待ち合わせをしていた正輝と合流。2人の話に入らずに欠伸をしながらダラダラと歩いている、霊滅師以外の時は基本的につまらなさそうにしている。
難しい話が苦手とかではなく2人の『関係』を知っているから尚更邪魔をしたくない、友達想いのいい奴ではある。そんな正輝に彼女は居ない、それには理由があるらしいのだが詳しく聞いたことがない。
3人はいつものように並んで歩き学校の門を潜る、学校の玄関口近くは新入生を部活に勧誘する上級生で溢れている。零士達は部活に所属していないのであまり関係はない、しかし千影の場合は違っていて色んな部活のキャプテンから誘いを受けていたりする。
「あ、千花音さん! 剣道部に入ってよー!」
「申し訳ございません、私は放課後用事がありますので」
「千花音さん、茶道部に!」
「すみません、用事がありますので」
「ラクロス部に入ってよ千花音さぁーん」
「あ、あの、ううー、零士さーん助けてください!」
あっという間に千影の周りには人間の壁が出来上がる、その中を割って入ろう者なら一瞬にして吹き飛ばされる。正輝は『助けなくていいのか旦那』と零士の腕を肘でつつく、だがあの意思を持つ台風の中に入る勇気は持ち合わせておらず…………
「悪い千影、俺もっと強くなるからさ……」
「れ、零士さん!? 待ってください!」
「教室で待ってるからなー千影ちゃーん!」
「愛染さん!?」
結局千影を簡単に見捨ててしまう2人、余程酷いことをされてるなら助けるが今回も見た感じ大丈夫だろうと思い、その場からさっさと退散したアホの男2人だった。
と、ここで終わればよかったのだが意外な部活動からの勧誘を受けてしまう零士と正輝、靴箱で上履きに替えている時にある女の子に話しかけられてしまった。
「あの、新聞部でーす!」
「は、はあ。何か?」
髪はショートボブで暗めの茶髪、腰にはカーディガンを巻いて見た目はギャルっぽさがある。片目は髪で隠れていて見えないのがまた新聞部っぽくないところだが、腕には『新聞部』の腕章を装着している。
零士に話し掛けた女の子の後ろにももう一人女の子がいるが、彼女の背に隠れて出てこようとしない。零士と正輝は『知り合いか?』と目配せをする、でもお互い知らない相手のようで謎が深まっていた。
目をキラッキラさせながら話し掛けてきたのだから勧誘なのは間違いないだろう、断るつもりなのでなんてことはないのだが。
「あ、一年生じゃなかった」
「だから私言ったのに…………」
「あれ、そうだっけ?」
「麻衣ちゃんのばかー、ネクタイを見れば直ぐにわかるよ〜」
「うっかりしていたわ、まぁいいや。2人とも名前は?」
友達であろう女の子と会話をしたあとに名前を訪ねてくる謎の新聞部員、零士の前に出た正輝は『人に名を聞く前に自分が名乗れってば』と呆れながら答える。
小さな声で『すみませんすみません、うちの麻衣ちゃんがすみません!』と隠れながら2人に謝っていた。
「それもそうよね、私は『皐月麻衣』2年! ドヤッ!!」
「いや、まぁいいか。俺は九鬼零士でこっちが愛染正輝だ」
「ほー、んで2人は霊滅師なの?」
「俺は…………」
「霊滅師やってんのは俺だけな、こいつは霊力があんまないんだよ」
「私と一緒! こっちに隠れてるユンユンは霊滅師なんだよ〜」
「ちょっと! 何その呼び方!」
つい自分も霊滅師の力を得た事を言いかけるが、正輝が先に声を上げてくれて上手く誤魔化せた、ただ零士も表立って霊滅師だと話せないのがなんとも歯痒い。しかし約束は守らねばならない、声の主の目的がなんなのかわからないから慎重にならないといけない。
両サイドの自己紹介が終えたタイミングでチャイムが鳴り響く、皐月麻衣と名乗った彼女は『ちぇー、時間切れか』と凄く残念そうな声を出しながら、
「私新聞部部長やってんだー、何か面白い話があったら新聞部部室に来てね! ばーい!」
「あ、ちょっと!? し、失礼しました!」
ピューンと音がなりそうな速さで2人の前から消え去った彼女達、自己紹介からグダグダな流れで勧誘する事を忘れてくれたおかげで難を乗り切った。ただわかったことは関わると面倒な事になるという事。
そして零士と正輝は教室に行くと千影が待ち伏せていて、助けなかった事についてみっちりと叱られた。お昼は2人で何かを奢ると提案し、今回は全て不問にしてくれた優しい千影。
お互いに財布の中身を確認しながら、午前授業の準備に取り掛かった。