第1章18 『九鬼』
街が闇へと染まり静けさが訪れた中、光の筋が何度もチラチラと鉄と鉄がぶつかり合う音と共に放たれる。一度距離を開けて様子を伺うお面を付けた一人の男、何度も雄叫びを放ちながら威嚇を繰り返す霊鬼。
お面の二つ穴の空いた場所から見える灰色の眼光、闇に紛れるために身に付けている黒いコート、紫色に光を放つ特長的な左手の甲。学校が終わり街を千影とブラブラしていた零士は、暗くなり始めたくらいから邪魂の気配を感知した。
千影も気がついたのか『邪魂の気配がします、零士さんは先に帰ってください』と慌てながら伝えた後、走ってその場所へ向かっていった。零士も彼女が居なくなったのを確認した後走ってアパートへ戻り、お面と刀を引っ張り出し黒いコートを着て現場へ向かう。
しかし邪魂の反応はいくつもの地点で観測されていて、他の霊滅師達も応戦していた。普通なら加戦して消滅を狙うのだが零士の場合は少し特殊だった、慌ててアパートを飛び出す前にあの『声の主』が話しかけてきた。
霊滅師は基本倒した霊鬼から溢れ出てくる邪魂を吸引し、刀を地面に刺して霊脈に流すのが仕事だが、声の主は『吸引した邪魂は霊脈へ流すな』と言われてしまう。もちろんそれについては質問をしたが答えてはくれず、ひとまず霊鬼を倒して吸引だけをしていく形になった。
「グアアアアアアアアッッッッ!!!!」
「消えろっ!!!」
巨大な身体をした霊鬼は自分の重さなんて関係無いのか、高くジャンプして零士を踏み潰そうと襲いかかってくる、だが今の零士には手に取るように相手の動きが見える。ヌルッと動いて見えるこの眼は声の主の力なのだろうか、それのおかげで瞬時に回避し霊鬼の背後に回って背中をバッサリと一刀両断。
真っ二つに割れた霊鬼は大量の黒い光を吹き出して消滅する、零士はそれに手の甲を向けて全て回収する。ただ、手の甲はまるで熱湯を掛けられているのと同じくらいの熱さと痛みでうずくまる。
「ぐっ!? あぁあ!!」
『5体分が限界か』
「ぐっ、はあはあ…………」
『おい器』
「な、なんだよ…………」
『その邪魂を全てある場所に流しに行く』
「ある場所? どこだよそれ…………」
返答するのもダルいくらいに疲れきった零士、次なる行動を命令されるが頭に入らない。しかしこのままにしていても零士の身体にも危険が生じる事になる、今は辛いが邪魂を身体から放てば楽になるはず。
そう思い刀を杖にして立ち上がり、言われた場所までビルや電柱をジャンプしながら目的地へ向かった。
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声の主に案内された場所は街にあるあの展望台だった、未だに立ち入り禁止になっているエリアが一つあるだけで、他は何の変哲もないないデートスポット。声の主は『そのフェンスの向こうへ行け』と指示が来る、零士は従い禁止エリアへ入っていく。
フェンスの向こう側は舗装もされていない山道、木々も生い茂り転落防止柵も無い危険な道。それを数分間歩き続け少しひらけた場所に出てきた、目の前に洞窟の入口が現れる。恐らく中に入るのだろう、零士は真っ暗な洞窟を明かりもなしに入っていく。
中に入ると入口から月の光が差し込んできて、目が慣れると少しだが中の様子がわかるようになった。
「こんな場所があったのか」
『昔はここも神社だったのだ』
「こんな洞窟にか?」
『洞窟を抜けた先にだ、着くぞ』
暗い洞窟は長く続いているように見えたが実際は短く、出口が見えてきた。蛇のようなクネクネした道のせいなのかもしれないが、体感的に10分以上は歩いていた気がした零士。洞窟を抜けると目の前に広がった景色は、
「な、なんだここ……………」
焼けた上に完全に朽ち果てた木材に瓦が散乱としている脇に小さな池がある、そして神社だった建物は原型をとどめてない。焼けた臭いが鼻につく、むせ返りそうな酷い匂いが周囲を漂っていた。
「こんな所に来てどうすればいい?」
『器が吸引した邪魂を池に流すのだ、刀を池の中心に刺せ』
「その前に聞きたいことがある」
『なんだ?』
「お前の目的はなんだ、俺にただ力を与えたいだけじゃないんだろ?」
刀を鞘から引き抜きながら声の主に質問をする、ただの霊滅師にしてはやり方が全く違う、そして後天的に手に入れた力とは言え何故『そいつの声』が聞こえるのか、どうして零士が選ばれたのか。
気になることはいくつかあった、零士は確かに大切な奴を守りたいと思った、その為には霊滅師としての力が必要だとなんども考えては願った。ずっと守られてばかりでは嫌だと嘆いた、そして今力を手に入れた筈なのに『何か』違う。
零士に目的があるように声の主にも目的があるはずだと思っていた、もし間違った道を歩んでいたら零士は…………
『目的? 器のお前が知る必要は無い、そのうちワカルコトダ。今は邪魂を集めてこの池に流すのだ、そうすればお前の願いも叶う』
「勝手な事を!!」
『お前は九鬼の大切な最後の肉体。彼女を守る力が欲しいのだろ? 今は黙って指示にしたがえ』
「くっ…………」
弱みを握られてる訳では無い、問題なのは身体の中なのか刀の中なのか、それとも手の甲に潜んでいるのかわからない『声の主』の実態にある。何かが這いずり回っているような気持ち悪さが吸引をする度に起きてしまう、既に道を過ったのだろうか。
池の中心まで歩みを進めて刀を刺すと黒い光は池全体に広がり、また刀へと戻るのかと思えば手の甲へ集約されていく。熱さや痛みは無いがやはり何かが蠢くような気持ち悪さがある、刀を引き抜き鞘へ収めながら池を出る。
「これでいいのかよ」
「あぁ、上出来だ」
「え………………」
「そうか、私の姿を見たのは初めてだったか」
「お前、どこにいたんだずっと!?」
「力が無く、姿を表すことはできなかった。だが今回の霊魂は思いのほか強かったようだ」
さっきまで姿なんてなかった場所に声の主本人が出現する、しかし肉体とかじゃなく光に包まれていて、ちゃんとした人形には見えない。
「紹介が遅れたね? 私は―――」
ゆらりと動くその光の姿は今現代の格好では無く、夏に着る浴衣のようなそれ……………
―――――――九鬼信長だ。




