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                           八 朝




 親父がパタパタと棒を振っている。そしてその音は何かの羽虫のように、僕の耳には聞こえる。僕は寝ぼけ眼でそっちを見る。そして、親父に「おはよう」と声をかけてから、キッチンのテーブルに座った。全く、昨日は変な夢を見てさ・・・。それで、あんまり眠れなかったよ。変な、そう、それはとてつもない変な、奇妙な、おかしな夢だった。でも、僕はその夢の内容を思い出す事ができなかった。

 「今日はどうするの?。二枚?」

 と母さんが僕にコーヒーを出しながら聞いてきた。「一枚で」と僕は答えて、そしてコーヒーを口に運ぶ。食パンが、トースターに入る。そして、そこに火が入る。僕はパジャマ姿のまま、そのトースターの様子を見ていた。

 あと、一分半でトーストはできるだろう。そして、僕はそれを丁度六分かけてゆっくりと食べるのだろう。

 僕はそう思った。

 「おい、章一。たまには、新聞でも読めよ」

 と、親父が何故か、僕に朝刊を渡す。僕は無言でそれを受け取り、軽く目を通すと、テーブルの上に置いた。そして再び、コーヒーに口をつける。佐知はもう出ている。今日も早いんだそうだ。

 

 全ては元の通りだった。

 そう、全ては元の通りであり、そのほとんどが昨日の繰り返しだった。

 夜中に見た夢・・・僕が見たあの奇妙な夢は、その内容は覚えていないものの、僕に後味の悪い残響を与えていた。それは不思議な感覚だった。だから、僕はそう思ったのだった。「全ては元通り」と。

 僕は、この今の朝を見た。僕は平凡な高校一年生であり、そこは普通の高校一年生が所属する普通の家庭だった。そして、僕は桐野章一という一人の凡庸な生徒だった。

 僕は奇妙に混乱したような頭で、この「さわやかな朝」を眺めた。

 それは昨日見た夢のせいなのだろうが・・・・僕にはなんだか、全てが悪い夢のように見えたのだった。こんなに平穏なのに。こんなに普通のなのに。こんなに・・・・・・・・・・何だろうか。何だろうか。この感覚は。

 僕は・・・・・・・・・頭が割れるように痛く・・・・・・・・・そして・・・・・・・・・・・・世界が壊れて・・・・・・・コワレテ・・・・・・アア・・・・・・・・・・・・・アア・・・・・・・・・・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








 ・・・嘘です。すいません。

 僕は頭痛なんかしてません。大丈夫です。僕は普通の高校生です。

 だから、僕はその日、いつものように学校に登校しました。でも、その時、少しだけ、変わった事を、僕はしました。出かける時・・・・僕は母さんに言ったんだ。

 僕が靴を履いて、バッグを背負って、ドアを開ける時、母さんは玄関にいた。僕は母さんに向かって、次のように言ったんだ。僕が到底言いそうにない台詞を。

 「母さん」

 と、僕は母さんを呼んだ。母さんは「ん?」って言って振り向いた。そして、僕は言った。

 「母さん、いつも、ありがとうね」

 ・・・・・その時、母さんはキョトンとした顔をしてたよ。その顔、君にも見せたかったな。まるで漫画みたいだった。・・・それで、僕は照れ隠しをするみたいに、すぐにドアを開けて、家から出て行ったんだ。そしていつもの登校路を辿った。

 いつもの。

 そう、いつもの。




                            ※※※※※


 

 「母さん、束の間、サヨウナラ」

 「父さんも佐知も、サヨウナラ」

 「僕は学校へ行くよ。これから。一人で」

 「そう、それはまるで、少年が一人、ボートに乗って大海に乗り出すような、そんな大冒険なんだ」

 「そう。それは学校へ行くという、人類始まって以来の偉業なんだ」








 サヨウナラ。








 サヨナラ。










 僕は学校へ登校した。いつものように。


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