終
「モーリスの名は協会の全ての書類から抹消された。今や彼を名で呼ぶ者はいない。彼の残した研究資料は、事件の記録とともに、『魂喰い関連資料』として第一級禁忌に指定され、厳重に保管されている」
クレメンスが語り終えたあと、誰もすぐには言葉を発せなかった。
「師匠。もしかして、あの時……」
「あの時?」
ロジーナは不思議そうにカルロスの顔を不思議そうに見つめた。
「二日酔いというものになったのは、後にも先にもあの時だけだ」
クレメンスは「フッ」と軽く笑い、姿勢を正した。
「老いは誰にでも訪れる自然現象だ。魔力がすべてではない」
「……私、こわいです」
ロジーナがうつむいたままポツリと言った。膝の上の手がかすかにに震えている。
「おめぇは平気だって。何しろ魔力お化けだからな。今だって一部は封印したままだろ?」
カルロスは励ますように明るく言ったが、ロジーナはうつむいたままだった。
「誰でもモーリスになる可能性はある。もちろん私も例外ではない」
クレメンスは言葉を切り、深く息を吐いた。
「その時は……カルロス、ロジーナ。引導を渡してくれ」
「承知いたしました」
カルロスは真剣なまなざしで答えた。
「師匠、ロジーナ、俺の時もお願いします」
「無論だ」
クレメンスは不敵な笑みを浮かべたが、すぐに真顔になり、ロジーナに視線を向けた。
「ロジーナ」
呼ばれたロジーナは、しばらく身じろぎもしなかった。
長い沈黙の後、ロジーナはゆっくりと顔を上げた。
「……わかりました。その時は、なるべく苦痛を最小限にするように努力します」
その生真面目すぎるがどこかズレた返答に、クレメンスとカルロスは思わず笑い出した。




