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用意周到な令嬢の婚約破棄対策  作者: うみのうみ
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ある初夏の日のお昼時、少し陽射しがきついが二人の令嬢がテラスでランチをしている。一人は憂いを帯びた顔の侯爵令嬢スピカ・ミアプラ、もう一人は怒りを隠しきれない様子のアトリア・アルギエバ伯爵令嬢である。

「殿下は一体何を考えていらっしゃるのでしょう。最近、ディスコルディア男爵令嬢につきっきりではないですかっ。」

「…シリウス様も何か考えがあってのことだと思いますの。きっと説明してくれますわ。」

「だからといってスピカ様をないがしろにするなんて、見損ないましたわ。」

「ないがしろにされているわけではありませんのよ?」

もちろん今も毎日の伝達魔法とハンドサインによる会話は欠かしていない。男爵令嬢はなかなか尻尾を出さないようだ。

「スピカ様は優しすぎますわ。」

アトリアの怒りを宥めながらスピカは思案する。

(困ったことになったわ。私の評価が高いからか生徒からのシリウスへの怒りがすごいのよね。このままいくとお父様に話が行ってしまうわ。)

そうスピカの一番の心配はこの状況を父に知られてしまうことだった。なにせスピカは一人娘。可愛がられている自覚がある。父が知ったら婚約はすぐ破棄されてしまうだろう。

スピカは男爵令嬢の問題が早く片付くことを祈るのだった。


ある秋の日の夜。家族で夕食をとっているのは、父に呼び出され領地に戻っている侯爵令嬢スピカ・ミアプラとその両親である。

しかし会話は弾んでおらず、重い沈黙が広がっている。

その沈黙をやぶって父である侯爵がスピカに話しかける。

「スピカ、殿下との関係はどうなっている。殿下は男爵令嬢にご執心なのだろう。」

「前にも話した通り、シリウス様は不誠実なことをするような方ではないですわ。きっと理由があるはずです。」

「しかし何も説明がないではないか。このような状況が続けば婿になどすることはできない。私だけでなく使用人も領民も殿下を受けつけないだろう。」

侯爵の言葉に執事と侍女が頷く。

「もう少し待ってくださいませ。私はシリウス様を信じているのです。」

スピカの健気な言葉に皆涙ぐむが、その分王子への怒りは大きくなったようだ。


その夜、ベッドに寝ころびながらスピカは考える。

(なんで私がこんなにシリウスのこと庇っているのかしら。というか婚約破棄したら何か問題があるのかしら。)

そう、スピカは疲れていた。学園での好奇や同情の眼差しにも、父への説明にも。

(もともと私たちに信頼関係はあるけれど恋愛感情があるわけじゃない。婚約破棄してもシリウスとの信頼関係は変わらない自信があるわ。王家との関係は悪くなるかもしれないけれど出世欲があるわけじゃないし、今の状況なら非難もされないでしょう。シリウスの評判は一時的に悪化するけれど理由が分かれば回復するし。私に傷はつくかもしれないけれど、侯爵家の婿なんて美味しい物件なら結婚できるでしょう。…婚約破棄しても問題ない?)


婚約破棄について考えているうちに伝達魔法の時間になったようでシリウスから連絡がくる。

『スピカ、調子はどう?』

『お父様の怒りを宥めるのでヘロヘロよ。そっちの調子はどうなの?』

『私が魅了にかかっていると信じ切っている。政策や父や兄について聞かれたよ。どうやら隣国と繋がっているみたいだね。』

『隣国と…。恐ろしいわね。でも早く解決しないとお父様が婚約破棄しそうよ。いつまで宥めていられるか。』

『そこはスピカが頑張ってよ。』

『でも私たちって信頼関係はあるけど恋愛感情はないでしょ?信頼関係は婚約がなくなったとしても変わらないと思うし、婚約を続ける意味があるのかしら?』

『スピカ…僕は、』

ドアがノックされる。どうやらまた父が話しをしたいようだ。

『ごめんなさい。お父様が呼んでいるみたい。切るわね。また明日。』

スピカは重いため息とともに父の部屋へと向かうのであった。


翌日、秋バラが見事な侯爵邸の庭でお茶をしているのは侯爵令嬢スピカ・ミアプラである。

その表情は沈み、疲れがにじみ出ている。

「婚約解消しようかしら…。」

ポツリと出てきた言葉に自分でも驚いているようだ。

「婚約解消してしまうんですか?子供の頃は自分が殿下の家族になる。絶対一緒にいるんだって言ってたじゃないですか。」

スピカの言葉に返すのは昔からの侍女のマリである。

「そうだったかしら。」

「そうですよ。アテナ様がお亡くなりになって殿下が落ち込んでいらっしゃった時にお嬢様が言ったんじゃないですか。いろいろ頑張ってたのも、そのためなんでしょう?」

マリの言葉にスピカは幼いころのことを思い出そうとする。

(シリウスのお母さまのアテナ様は側妃であられた。体も弱く、いつも儚げであったけれど性質の悪い風邪が流行った年に、その風邪から回復することなくお亡くなりになられたのよね。)

「シリウスが本当に落ち込んでいて…。自分にはもう誰もいないのだと。」

(第三王子で国王とも距離があったのよね。国王様はシリウスも愛していたと思うけれど。)

「それで、私が一緒にいるって言ったんだわ…。すれ違わないようにするのも一緒にいるため…。なんで忘れてたのかしら。いつからか婚約破棄防止の為にやっていると思ってた。」

「悩みは解決しましたか?」

「ありがとう、マリ。…私、学園に戻るわ。お父様にも話してくるわ。」

(なんでこんなに疲れてイライラしてたか分かったわ。シリウスが一人で対処していたからだわ。一緒にいるために一緒に頑張ってきたのに…って。私、拗ねてたのね…。私もシリウスと一緒に頑張って、解決するのよ。)

決意が決まって晴れやかな表情のスピカを優しくマリが見つめていた。

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