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アレクサンダー建国記(旧バージョン)  作者: 稲荷竜
五章 種族繁栄のために
55/73

5-11

「お帰りなさいアレクサンダー。森に避難していたドライアドたちは無事に保護してありますよ」



 にこやかに笑うシロに出迎えられ、俺は「おお、そうかー」と言いながら用意されていた飲み水を受け取った。


 まだまだ時間は深夜であった。


 うっそうと生い茂った木々の葉もドライアドの里の上空を隠してはいない。

 見上げればぽっかりと切り取られた丸い場所に、月によく似た天体が浮かんでいるのがわかった。


 かがり火が()かれたあたりにはドライアドたちがたくさんいて、彼女らはダンジョンから出てきた最長老を見るや「さいちょうろう」「さいちょうろう」と安堵(あんど)したように声をあげている。


 ひしめく褐色ロリどもにたかられて、最長老ウー・フーはしばし完全に行動を停止していたが、



「……なっ……なんじゃこりゃあああ!?」



 おどろいたように叫んで、


 俺のむなぐらをつかんで、



「お、おいアレクサンダー! なんじゃこれは!? なぜ、みな、里に戻っておる!?」

「そりゃあシロと姉さんに頼んで森を(さが)させてたから、見つけたんだろうよ」

「ダンジョンでモンスターに消化されとる最中ではなかったのか!?」

「その可能性はもちろんあった。そっちだと、一刻の猶予(ゆうよ)もなかったと思う」



 まあ、モンスターに丸呑みにされてダンジョン内に連れ込まれてたら、体の傷はイーリィがどうにかできても、心には深い傷が残ったことだろう。


 そっちの可能性が現実にならなくて本当によかったと思う限りである。



「え、なんじゃ、なんじゃ、どういうことじゃ? アレクサンダー、貴様はいったい、どういう手品を使った?」

「ばあさん、基本的にな、モンスターってのは『外に出たがる』ものなんだ」

「……」

「少なくとも俺が今まで出会った連中は、基本的に『外』を闊歩(かっぽ)してて、個体数が減っていくと、ダンジョン内にこもって出ないようになっていく」

「……」

「だから、モンスターがダンジョンから出てきたなら、そいつらはきっと、中に戻らない。外をうろつくはずだと考えた」

「…………」

「で、ドライアドたちも、たぶん森の中にちりぢりになって逃げてたんじゃねーかな、っていう可能性を見たんだ。それなら、死体がないのは説明がつくだろ。だって死んでねーんだから。だいたい、見知らぬ脅威(きょうい)に巡り会った人類は『まず、逃げる』だろ」

「……え、なにか? ということは、わしが勇気を出してダンジョンに入ったのは、すべて無駄?」

「無駄じゃねーよ。モンスターは謎だらけだ。『さらう』『丸呑みにしてダンジョンに戻る』っていう可能性はあったし、緊急に対応が必要なのはそっちのケースだ。だから取る物ものとりあえず俺たちはダンジョンに入ったんだろうが。表の探索はシロと姉さんに任せて」

「そ、そういうのは、一言、言え! なんでわしに言わんのかなあ!? そ、そういう可能性を知っておったら、わしとて、ダンジョン内で、あんな醜態(しゅうたい)をさらすことは……!」

「人は楽な方に逃げるもんだ」

「……」

「もし、『外でちりぢりになってるかもしれない』って言ってたら、あんたはダンジョン探索をしなかったし、たとえついて来たとしても、あれほど真剣にはやらなかった」

「……そうじゃろうが……!」

「あの時点では、マジで『ダンジョンに連れ去られた』可能性もあったから、あんたの真剣度を下げるような発言は(ひか)えたんだよ。あんたを連れてった理由はダンジョン内で語った通りだ。奇跡が必要な場合、その奇跡を最も起こせそうなのは、他ならぬ当事者のあんただ」

「……はあああああああああ」



 ばあさんは、深い深い息をつきながら、尻もちをついた。

 そして「うっ」と言い、



「やばい、安心したら漏れそうじゃ」

「服脱いでからしろ。今のあんたは葉っぱとツタだけをまとってたころとは違うんだぞ」

「……不便なもんじゃのう、こういうしっかりした服は……」

「ともかく、点呼(てんこ)ぐらいしろよ。安心するのは全員助かったっていう確認がとれてからだぜ」

「そ、そうじゃな」



 ばあさんは立ち上がり、



「……『てんこ』ってなんじゃ?」



 俺はその後、ばあさんに点呼について教える羽目になった。





 ドライアドたちは全員無事だった。


 まあしかし、里にダンジョンを放置しておくわけにもいかない。


 俺たちはドライアドどもに選択肢をつきつけた。


 ダンジョンマスターを倒すか、それとも、里を捨てるか。


 っていうかあの広大なダンジョンを制覇してダンジョンマスター倒して残党を殲滅(せんめつ)してとか究極に面倒くせーから、みんな一緒に来いと言った。


 ところが。



「あ、アレクサンダー、わし、目覚めたかもしれん……奇跡に……」



 マジで目覚めやがったのである。


 それは『地図を描く』という概念(がいねん)を初めて知ったのが、ついさっきだったせいか。


 あるいは極限まで追い詰められた精神が安堵によりものすごいなんやかんやしたのか。


 もしくは意地悪すぎる『運命』のいたずらか――



 ウー・フーは、『オートマッピング』の異能(チート)に目覚めた!



 えええ……

 今ぁ……?



「タイミングがアレだよ、ウーばあさん。もっと早くしてくれ」

「わしだって『今!?』ってなっとるわ! 仕方なかろう!? たった今、ダンジョンの内部構造が、入口を見ただけでスラスラ浮かぶんじゃ! なんじゃこれ、気持ち悪っ!」



 かくしてウーばあさんがチートスキルにより描いた地図を参考に、俺たちはダンジョンを制覇した。

 最奥にいたのはヤマタノオロチをミミズにした感じの化け物だったが、そいつとの戦闘は一言で言うと『サロモン大活躍』という感じだったので、まあいいか。



 ダンジョンを制覇してからさらに一日、ドライアドの里で過ごした。


 虫臭さがものすごい俺の服をイーリィが洗濯したがったので、乾くまでの時間稼ぎである。

 下着だけは許してもらえたので、乾くまでは下着一本で過ごすことになってしまった。


 里に滞在中、俺たちは『勇士』と称えられ歓待(かんたい)を受けた。


 夜には俺たちへの感謝の気持ちとかで、祭りめいたものが開かれる。


 かがり火を囲み、ドライアドたちが踊っている。


 木の実や獣の肉が豪勢(ごうせい)に振る舞われ、俺たちはその素朴な味に舌鼓(したづつみ)を打った。


 そして――


 かつてドライアドの里では、勇士認定を受けた男は、一族の者から二、三人ほどを任意で選んで、彼女らを自由にする権利をもらえるらしい。


 お断りした。



「なんでじゃ! 好きにしていいぞ! 子を作れ!」

「だから出産リテラシーと子育ての大事さを説いたろうが! 今の状態で子供なんか作ったらお前らますます減るんだってば!」



 ウーばあさんとの言い争いをしてる俺のもとには、誰も来ない。


 人気なのはやはりシロで、ドライアドどもにべったり貼り付かれてる彼は『子だくさんのパパ』って感じで微笑ましい。


 サロモンは逃げたのだが、何人かのドライアドに追われている。


 イーリィもなかなかの人気で、あいつの周囲ではそこそこの数ドライアドが集まり、井戸端(いどばた)会議空間が形成されている。

 その横ではカグヤがドライアドたちと遊んでいて、なんともほほえましい。


 姉さんは寝た。


 そんでもって、俺はウーばあさんに言う。



「わかったわかった。子作りはしねーが、一族から数人選んでいいんだったら、あんたを選ぶ。ちょっと話そうぜ」

「え、わし?」

「そう」

「わしと子作りを?」

「しねーって言ってんだろうが!」



 というわけで、賑やかな歓待の夜――


 俺はウーばあさんと、彼女の家に入った。

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