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アレクサンダー建国記(旧バージョン)  作者: 稲荷竜
五章 種族繁栄のために
47/73

5-3

 褐色ロリの里でエロゲーみたいな展開になってきた。


 ところが俺たちが哀れな犠牲者になるには、もうワンステップ乗り越えなきゃならない問題があるようだった。



「で、どうすれば子供はできるんじゃ」



 知らないのかよ。



「ここ二百年ほど男とのまじわりがないんじゃ。今の若いのはみな、男など見たこともない……見ていたとしても赤子のころじゃ。記憶になかろう……ではなぜ貴様らを男だと判断し連れてくることができたんじゃ」



 それには若いドライアドが「胸が硬そうだったから」と答えた。

 なんでも伝承によれば『男とは女に比べて色々と硬い』とされているようだ。


 どうやら俺たちは上半身裸だから連れ去られたらしい。

 今も裸のままだ。


 俺たちは木製の家の一つに連れこまれた。

 どうやら集会場として使っている建物のようだ。


 そこでテーブル(切り株を運んできただけって感じのやつ。椅子はない)を挟んでウー・フーと向かい合い、子供の作り方をレクチャーする流れとなっている。


 あたりには大量の、たぶん里じゅうのドライアドたちがぎっしりと集まっていた。


 連中は遠巻きに俺らを見たり、隠れながら俺らを見たり、気の強いのが髪の毛を伸ばして俺らの背中とか脇腹とかをつついたりしていた。

 超くすぐったい。



「つーか長命の種族なんだな。二百年間男性と交流がなくて、それでもまだ『若いの』がいるってのは」

「誰が年寄りじゃ!」

「めんどくせーばあさんだな! あんただよ!」

「そうか、わしか。いかにも、わしは年寄りじゃ」



 会話のコツがつかめなさすぎる。


 俺たちの視線は自然とウー・フーではなく、その隣にいる若いドライアドに注がれることとなった。


 若い、というか。

 ……幼い、というか。


 いやまあ、この世界には色んな種族がいるからさ。

 ドワーフなんかはもう、全員が十二歳児相当の俺より背が低いぐらいだし、種族ごとに色んな『大人』がいるのはわかるよ?


 わかるんだけどさ……

 この連中に子供の作り方を教えるのは非常に抵抗がある。


 俺は左隣に座るシロにひそひそと話しかけた。



「どうするシロ? こいつらに正直に話すの?」

「うーん、まあ、種族繁栄というのはわりと火急のようですし、彼女らという種のことを考えるならば、正直に話すべきなのでしょうね」

「俺やだな……まあ、色々な種族がいて、色々な事情があるのはわかるんだけど抵抗がどうしても……あとさ、こいつらに正直に話したら、俺らどうなると思う?」

「そうですねえ、子供体型が好きな人でしたら、楽しい時間を過ごせるのではないでしょうか」

「帰してもらえると思う?」

「難しいかと。ざっと見てこの里には五十人ほどのドライアドがおり、我らは三人です。子孫繁栄が彼女らの目的ということは、つまりできる(・・・)まで解放はされないでしょうねぇ。それもおそらく、人数分、できるまで」



 ひょっとして俺たちは、今までの冒険でもっともヤバイ命の危機に直面してるんじゃないだろうか?


 わりとシャレにならない事態なんじゃないかと俺とシロが気付き始めたところで、右隣のサロモンが、俺の肩をつついた。



「どうしたサロモン、なんだ。今わりと危機的状況にいるんだぜ、俺ら」

「闘争か?」

「うーん、まあ、そのー……お前の求める闘争じゃないとは思う」

「そうか。ところでアレクサンダー」

「なんだ」

「子供ができれば連中は満足するのだろう?」

「そうらしい」

「であればさっさと作ってやれ」

「……いやだからさ、五十人の褐色ロリの群れが相手だからヤベーよな、って話を今、シロとしてた。冒険に戻れねーよ」

栽培(さいばい)の仕方さえ教えてやれば、あとは連中が勝手にやるのではないか?」

「……んんんん? 栽培?」

「畑に『人の種』をまけば子供ぐらいできるであろう」

「…………」

「我らの村ではそう言われていた」



 ……。

 いや、わかんねーな。この世界のエルフがそうなのかもしれない。


 それは子供に聞かせる比喩(ひゆ)表現だとかいう突っこみをするのは軽率(けいそつ)だろう。

 俺はこの世界の人類の生殖(せいしょく)にかんして無知だ。


 ただ、少なくとも種族人間は畑に種まいただけじゃできないことが確定してるんだよな……

 シロの口ぶりからして魔族もそうらしく、魔族がハーフだってことを考えたら、全種族そうな可能性も高いけれども……


 ともかく。


 現実的に、五十人にかわるがわる『人の種』を求められ続けたら生きてこの里を出られる気がしないので、うまく切り抜けよう。


 俺はウー・フー――の、隣に座る話がわかりそうな若いドライアドに視線を戻した。



「あーその、なんだ……子供の作り方はみなさん知らない感じで?」



 若いドライアドはウーばあさんに耳打ちした。

 ウーばあさんが叫ぶ。



「そうじゃな!」

「えーと、そうだな。実は俺も知らないんだ。だからさ、ここはさよならってことで、またの機会に」

「この森に男が来たのは、おおよそ二百年ぶりじゃ」

「そうなのか……」

「んむ。昔はあっちの方――」ウーばあさんが髪で示した方向は、西だ「――から来ておったんじゃが、最近はあまり見なくなってのう」

「へえ、西から人が来てて、でも、今はいなくなった……? つまり過去、西側にはたしかに人の住む土地があったけど、そこにいた連中はなんらかの理由で東に向かってしまって、もう誰もいないか、あるいは東にわざわざ旅する必要がないような街で暮らしてるって感じかな」

「なんじゃ、子作りの話をしたか?」

「してねーよ」

「いいか、わしと話す時は、なるべく短くまとめろ。早口でいっぱい言われると恐い……わしは、年寄りじゃぞ」

「悪かった。でも、苦手なんだよな、ゆっくり、短くしゃべるの。つーか、年寄り扱いでいいのか?」

「年寄り扱いされて得な時は、年寄り扱いでいい。損する時は、イヤじゃ」

「なるほどな!」



 正論だった。


 まあ感想を述べさせていただけるならば『ふざけんな』って感じだが……



「して、あー……えー……アレ……アレ……」

「俺の名前か? アレクサンダーだよ」

「アレクサ」

「ンダー」

「……よいか貴様、貴様らはな、わしらにさらわれてここにおるんじゃ。余計なことは話すな。子作りのことだけ、話せばよい」

「まあしかし知らないからなあ。そういうわけだ、すまないな、ばあさん」

「貴様ら、森の外から来たんじゃろ?」

「まあ」

「森の外には男と女がおるじゃろ?」

「まあ」

「子作りしとるじゃろ?」

「いや、ばあさん、子作りはそう日課みたいにすることじゃねーんだ。それになんだ、相手がいないとな」

「相手ならいるじゃろ! 知っとるぞ! 森の外には男と女がだいたい同数ぐらいおるんじゃ! わしは森の外に出たことがあるから詳しいんじゃ!」

「ばあさん、悲しい話をするぜ。男女が同数でもな、みんなが綺麗に相手を見つけられるわけじゃねーんだ。モテる女のところに男は集まるし、モテる男のところに女は集まる。そしてあぶれるヤツが出てくる」

「あぶれたら、あぶれた同士で子作りせいよ」

「そういう話でもねーんだよ……ともかく、ばあさん、俺たちは役に立たない。すまんな」



 俺が謝ると、ばあさんは「ぐぬぬ」と(うな)った。


 話はここでおしまい――かと思われたが、



「最長老はなんでも知っている」



 俺らを取り囲むドライアドの一人が、ぼそりと言う。


 それに応じるように、他からも声があがる。



「最長老は賢い」

「最長老は物知り」

「最長老は森の外にだって出たことがある」

「最長老の武勇伝はすさまじい」

「日に百人の男を狩ったとか」

「子供だって大勢産んでるとか」

「最長老はすごい」

「最長老はお前たちを試しているだけだ」

「子供の作り方ぐらい知っている」

「最長老」

「最長老」

「最長老!!」

「「「「「「最長老!!」」」」」」


 ドライアドたちの視線がウー・フーに向いている。


 ウーばあさんは「んむ」とうなずき、そして、俺を真っ直ぐに見て、言う。



「そういうわけじゃ。わしはすべて知っておる。実は貴様らに子作りのやり方を聞いたのは、貴様らを試しただけだったんじゃ」



 目を閉じ、うんうんとうなずく。


 ウーばあさんは再び目を開けると、俺をまっすぐに見て――


 口パクでなにかを伝えようとしてくる。


 俺は目をこらして、ウーばあさんの薄い唇の動きを追った。


『た』


『す』


『け』


『て』


 ……うーん。

 なにかこう、面倒そうな事情を抱えてる感じかな。



「よしわかった、ウーばあさん、ちょっと人のいないところ行くか」

「そうじゃな。それが必要じゃ」



 ウーばあさんが、うむうむとうなずく。


 かくして俺は他のドライアドたちに話を聞かれないように、集会場を出て、ウーばあさんの家に向かうことになった。

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