4-3
「牢から出さないことを条件に、君に彼らと話す権利を与えよう」
おっさんは俺に甘かった。
たぶん、感情的なところに理由はない。
たんに『捕まえた罪人との対話』っていう権利が、一等住民にはあるんだろう。
ともあれ真っ白い連中と話す権利を得たので、俺は連中と同じ牢屋に入って、石の床にあぐらをかいていた。
そいつらは見れば見るほど白い。
髪は白。肌も白。
『白っぽい肌色』とかじゃなく、本当に白い絵の具を塗ったくったかのように真っ白いのだ。
目は左右で色が違う。
こいつらの瞳の色は右目が赤、左目が青だが、個人差があるものなのか、種族そのものがこういうふうに統一されているのかは不明だ。
耳はとがっていて、エルフを連想させる。
牢屋の三名全員の顔がやたらといいあたりもエルフを思わせるが、手足の肉付きは人間って感じだし、肩幅の広さや、女の胸の大きさなどはどことなくドワーフも思わせた。
「あんたら、なに?」
虜囚となった三人のうち二人はおっさんに打ちすえられたせいで昏倒しているので、自然、残った一人に話しかけることになる。
その真っ白い女は、不満そうな、あるいは困惑するような顔で俺を見ていた。
が、
「……助けられた礼に答えよう」
そういう方針で心を決めたようだった。
「だが、『あんたらなに?』とはどういう意図の質問だ? どう答えればいい?」
「えーっと……種族っていうのかな。ああ、でもこの世界じゃドワーフは自分らをドワーフって呼んでねーし、エルフも自分達がエルフだっていう意識がないんだったっけ。じゃあ種族名を問うのは間違いか」
「……我らは『魔族』だ」
「魔族!?」
「……我らの呼称について知らないということは、君は旅人だな?」
「そうだな。今日、ここに来て、一等住民とかいうのになって、おっさんに会いに行って、みょうに気に入られて、街にいるあいだはそばで仕えるように言われた」
「……我らの呼称はな、『魔物に孕まされた子供』という意味の蔑称だ」
女は憮然とした顔のまま言った。
ふと疑問。
「人と魔物のあいだに子供ってできるの?」
「蔑称だと言っているだろう!? ……我らは混血なのだ。たとえば『耳長』と『太短』、たとえば『獣人』と人のあいだ、そういった異なる種族が……その、なんだ、そういう異なる種族のあいだに子が生まれると、たまに我らのような者が産まれる」
「へえ。ハーフなのか。ハーフがみんなあんたらみたいになるわけじゃないけど、両親のどっちとも違う種類が産まれると、みんなあんたらみたいになるって理解で大丈夫?」
「う、うむ……賢い子だな君は……」
なぜか、なでられた。
……そうか、俺の見た目から、俺のことを子供だと思ってるのか。
物理的な距離がみょうに近いのもそのせいだろう。
話を聞くのに都合がいいので、実年齢は言わないことにする。
「で、盗賊団って?」
「この街で、我らの立場は低い。というより……人から遠いほど立場が低い。それを覆すために我らは戦っているのだ」
「ふーん」
こいつらが『人』と呼称するのは、俺やイーリィやダリウスのおっさんみたいな『種族人間』のことだろう。
この街にはどうにも意図的な差別制度が布かれている。
街に入るさいに受付でイーリィが二等以上確定みたいな扱いを受けたり。
カグヤがイーリィの所持品扱いされたり。
そういうのは、つまるところ『人間』と『それ以外』に立場の差があるからだ。
思い返せば街の中でも力仕事に従事しているのは人間ではない種族ばかりで、それらをコキ使っているのは種族人間ばっかりだった。
で、見た目から明確にハーフである彼女らの立場は、ただの『人間ではない種族』よりも低い、と。
「食うに困って盗賊団ってわけか。立場が低いとろくな仕事もねーだろうしな。職場の階級が上がるほどいい暮らしができるシステムだろ、この街」
「……そうだが、君は利発だな」
「まあ色々知ってるだけだよ。発想っていうよりも想起って感じだな。人種差別制度には一定の人気があって、採用する権力機構が多かった。特にこの世界じゃあ見た目で人種がわかりやすいからな」
「……?」
「いや、いい。んで、あんたらは差別制度を布くダリウスのおっさんを圧制者と呼んでそれに反抗する勢力だと。単純な盗賊団ってわけじゃねーな。もっとなんかこう、反体制レジスタンスみてーな感じだ」
「そうだ。我らは圧政に抗する者である。……ダリウスを倒し平等な街を作らねばならない」
「『平等』ってのは、あんたらのリーダーが言ってるの?」
「そうだが。リーダーというか、頭だ」
「そいつはまあなんつーか、口のうまい野郎なんだろうな」
「……?」
「コテンコテン首をかしげるのやめろよ」
かわいいんだよ。
顔立ちが美人なので、『きょとんとする』だけでドキッとするのだった。
「まあしかし『平等』って概念を掲げられるあんたらのリーダーには興味があるな。会いたい。会わせて?」
「い、いや、しかし……」
「会わせてくれるなら、あんたらの味方になるから」
「……本気か?」
「本気本気。ダリウスのおっさんも素敵なナイスミドルなんだが、同じぐらいあんたらのリーダーにも興味がある。で、おっさんがどう考えても体制側だ。体制側ってのは正義の味方なんだよな」
「あんな男に正義などあるものか!」
「ああ違う違う。正義は人につかない。強さにつく。権力につくんだ。――話をしよう。『悪党』の話だ。悪ってのはな、もともと『強い』って意味なんだぜ。最強たる為政者に刃向かう少数精鋭を悪って呼ぶんだ。そういう意味であんたらは立派に悪ってわけだ」
「ん? んん?」
「そして俺もどっちかっていうと悪の側だ。ダリウスのおっさんは懐が深いらしく無礼な態度とってもキレたりしねーが、俺はもともと権力と相性が悪い性格しててね。ここに来るまでに三つぐらい権力機構をぶっ壊してる」
「……君は悪い子なのか……?」
「だから悪だって言ってるだろう」
「…………よし」
「姉さん、考えることをやめたな」
「……姉さんは難しいことがわからない」
真顔でアホみたいなこと言うこの人がやたらとかわいい。
「しかしなんだ、君は……そう、君は我らのリーダーに会うべきだと思う。君が会うべきか会わないべきか、正直なところ、私には判断できない。だからリーダーに会わせてみて、君が聞いてくれ」
「……自分で言ってること理解してる?」
「難しいことをいっぺんに言わないでくれ。姉さんはあまり長い話が理解できないんだ。考えるのは頭がやる。我らは手足だ。考えない」
「……まあ会わせてくれるならいいけどさ。じゃあうーん、なにか作戦考えるか。このままあんたらを牢から出して強硬突破も面白そうなんだが、今はそばにイーリィがいねーし、死人が出そうなマネはあんましたくない」
「そうだな」
「……わかって返事してねーだろ。あんた明らかにイーリィのこと知らないよな?」
「君に任せる」
「チョロいぜ姉さん」
「ふ、よく言われるよ」
なんで誇らしげなんだ。
褒めてねーよ。
「まあそういうわけでこっからは仲間だ。よろしく。俺はアレクサンダー。あんたは?」
「姉さんでいい」
「いや、姉さんでいいじゃなくて、名前とか」
「名前はない」
姉さんは左右で色の違う瞳を細め、格好いい表情で言う。
「我らはみな全にして個。我ら総体は『真白なる夜』という個人であり、そこに上下や差異はないのだ」
たぶん誰かの受け売りをそのまま言いながら、ドヤった感じで鼻から息を漏らした。




