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47.下された鉄槌

「お前、チビのくせに以外と重いな」

「うるさーいっ!うわわおちるぅ!」

いつもとは違って無秩序な往来を見せる学園内の廊下を縫うように、セリエを背負った宮武が乱暴に駆け抜けていきます。確かに彼女が走るよりは随分と速いけど、そのぶつかる直前で急角度に進路を変えてゆく宮武のアメフト的な走りにセリエはしがみついているのがやっと、今にも跳ね飛ばされそうなその揺れにもう喉元まで「ゆっくりいって!」の声が出かかってはいるのですが、そんな事言ってる場合じゃないことも充分わかってるので今はただひたすらに宮武の首をしっかりと抱え込んで我慢しています。

「おえ……おいこら、首絞めんな!」

「こわくないこわくないこわくない……」

「このやろ……おい、階段登るぞ!」

手にしたはがきサイズのドレスの写真に声を上げながら上の階より降りてくる少女達の横をぶつからんばかりの勢いで駆け上がる宮武、セリエはちらっと目を開けて見たその光景にマオの無事を感じて、思わず笑みが浮かんで来ました。まおにーちゃん、まだしゃしんとってるんだ!だいじょぶなんだ!嬉しさにホッと胸をなで下ろしましたが、それでも上の階の廊下の角をまがって、その先の未だに行列の絶えない実験室の入り口をを目にしたとたん、セリエは身をよじるようにして宮武の背中から転がり落ちると、その勢いのまま出口のドアからスタジオへと飛び込みました。

「あっ落ち……おい!チビ、大丈夫かよ!」

「まおにーちゃーんっ!」

外の喧噪とは隔絶されたような静かなスタジオ、ホリゾントの前にはブーケを手にしてややはにかみ気味の少女が、マオの指示を受けてポーズをつけています。慌てて口を押さえるセリエ、その無事な姿を目にしたセリエはとてもうれしくて、でも邪魔しちゃ悪いと思ったのか部屋の隅を這うようにゆっくりと移動して、気取られないようにマオのそばへとやってきました。ん?何だ?柄にもなく遠慮しやがって……自分の顔色を伺うようにふるまうそのセリエの行動にマオは少し心が痛みましたが、今はとにかく撮影に集中しなきゃいけない時、セリエには悪いけどもう少し我慢しててもらおうと声をかけました。

「ああセリエ、ごめん、後でちゃんと撮ってやるから大人しくしてて」

「ウン!まってる、へへ……」

自分の言った事をちゃんと覚えてくれているその言葉をどれだけ待っていた事でしょう。嬉しさで木漏れ日にように煌めくセリエの気持ち、でもやがてその心はあの禍々しいサリエルからマオを守りたいという想いでいっぱいになるのでした。この「いま」をだれにもじゃまなんかさせない……うん、ぜったいに!純粋な強い意志が創りだす目には見えない放射……解放されつつあるセリエの光のコトバはさながら聖域のように福音に満ちて、サリエルの姿を遠ざける盾となるのでした。

「まおにーちゃん……だいじょぶ、セリエがここでずぅ〜っとまもってるから……いいこでじゅんばん、まってるから……」


「もしもし?あ、ママ、え、ホント?戻って来たの?」

昼を少し回ったスタジオの控え室、校庭のステージで開催されるビンゴ大会のアナウンスのせいなのかようやく人の波の途切れた受付の席で、携帯を手にしたサツキは母親からの連絡にはしゃいだ声を出してしまいました。

「うんうん、あ、取りにいくからいいよ。今ちょっとヒマだし、じゃ、また後で!」

お目当てのドレスが帰って来たのを聞いたサツキはもう居ても立ってもいられなくて、外出許可をもらおうと西園寺の姿を捜しました。

「ねえ真桜、先生どこ行ったか知らない?」

「さー、こっそりビンゴにでも行ってんじゃない?」

「うーん困ったなぁ」

サツキは校庭のイベントが終わってまた忙しくなる前にドレスを取ってきたくて仕方ないのですが、許可なく校外に出るわけにも行かなくて落ち着かない様子、それを見ていたマオがサツキに言いました。

「なんだ?トイレなら今のうちに行っとけば?」

「ち……違うって!どうしていつもトイ……あ、それより、お腹すかない?」

「んー、腹もだけど、どうもデジカメってのは電池がすぐに無くなっちまうみたいだ。皐月さ、ちょっと買いに行ってくれない?なんかもうヤバい領域なんだ。残量がさ」

「い……行く行く!すぐ行ってくる!」

突然のお使いの依頼にサツキは願ったり叶ったりで大喜び、そうと決まれば荷物持ちを連れて行かなきゃ!サツキはマオのそばでにまにましているセリエの手を取って言いました。

「セリエちゃん退屈でしょ?お外いこうか?」

「え……あ、ううん、セリエ、ここでまってる。まおにーちゃんにしゃしん、とってもらうから」

「写真?……あ……忘れてた!」

セリエの言葉にサツキは大事な事を思い出しました。そうそう、私まだ真桜に言ってなかったんだっけ!写真の事……よく思い出させてくれたね!セリエちゃん!サツキはとっさに周到に考えてたフレーズを伝えようとしましたが、ドレスや電池の事、どうやって荷物を持とうかでいっぱいいっぱいのサツキの頭の中にはその言葉を思い出せる余裕なんか残っていませんでした。

「あ……え……えっと、私もいっしょに撮って!ね?」

「電池少ないから終わってからになるけど……その代わり、気合い入れて撮ってやるよ」

いざ言おうとすると顔がかーっとなってしまって、考えていた言葉の10分の1も言えなかったサツキ、どうも今イチ主旨が伝わっていないみたいだけど、でも結果オーライ!やった!さっさと用事済ませてこよう!サツキは同じようににまにましながらセリエに言いました。

「じゃあ、おねーちゃんちょっと行ってくるから、何かごはん、買って来てあげるね」

「ウン!セリエ、ふわふわがいい!」

「なるべく急いで戻って来て。銘柄はこれと同じ奴、製造日の新しいのを頼む。先生には俺から言っとくよ」

「承知!」

おどけて敬礼をしたサツキはくるっと短いスカートを翻すと、かかとでお尻を蹴りあげるように勢いよく実験室を飛び出て行きました。その恥じらいのない後ろ姿にマオは一瞬目のやり場に困りましたが、微かに残る髪の香に呼び覚まされたようにこみ上げてくる感情がマオの意識を満たしていくのにそう時間はかかりませんでした。

「はあ、相変わらず女か男かわかんねー奴だな、けど……」

「まおにーちゃんっ」

声に振り向けば自分を見上げているセリエの顔、マオはもしかして今自分が如何わしい顔してたんじゃないかと思ってちょっと焦りましたが、まっすぐな、いつもと変わらないキラキラした無垢な瞳は癒しの翠光で包み込むように自らの像を宿して、その絶えない微笑みにマオはつっぱった肩の力がすぅっと抜けてゆくのを心地よく感じました。はは、ほんと、こいつにはかなわんな……大切なものへの想いに満ちたセリエの笑顔、でもその本当の意味は、今のマオには知る由もなかったのでした。


「腹減ったろ、ほれ、みんなで食おうぜ」

「すげ!何個買って来たんだよ先生」

両手に抱えきれない程のたこ焼きの容器を受付の机の上にばらまいた西園寺は、そのうちのひとつを取って早速食べ始めました。ちょうど昼食時でもあって部員は我先にとその包みに手を伸ばしてはそのまま口にほおばります。ホコリを防ぐために閉め切ってある室内の空気はあっという間にソースの香ばしい匂いで満ちて、衝立の向こう側にいるマオ達の鼻をくすぐるのでした。

「くんくん……まおにーちゃん、なんのにおいかな?……すごくおいしそうなの!」

「はは、センセが何か買って来たんだろ、行こう、腹へったろ」 

「おう、なんだ、チビちゃんもいたのか。ささ、残ってもしょうがないからどんどん食ってくれよ」

「ウン!いただきまーす!」

「何個買って来たんだか……って、何これ、たこ焼き引換券?数量無制限当日限り……」

マオは折り重なるように積んであるたこ焼きの包みの下から顔をのぞかせている派手なラメで装飾してある怪しい紙切れを手に取りました。

「あ、はは、それ!まあ気にすんな、食え食え」

「……やっぱビンゴゲーム行ってたって?センセのやることかよ……まあ確かに、こんなに気前がいいなんて変だと思った」

「むぐむぐむぐ」

マオはもう二言三言西園寺に言ってやろうと思いましたが、口いっぱいで話も出来ない彼の差し出すたこ焼きは確かに出来立てで美味しそうで、取りあえずその恩恵に預かる事にしました。

「……はふはふ……なあ、考えても見ろ、顧問よかはるかに凄腕の技術者が常駐してんだぜ。こんな事くらいしか俺のやる事なんかねえんだよ」

「姫野、騙されるな。いつものほめ殺し作戦だからな……でもツイてる、今日はこの手のモン食べるヒマないかと思ってたからさ」

「ああ、セリエのお昼どうしようかと思ってたから、センセ、助かったよ、それで……」

「ちょっと待った、携帯鳴ってる」

西園寺はサツキの外出を報告しようとしたマオの言葉を遮るようにフリップを耳にすると、ぶっきらぼうな応対で電話の主に答えました。

「ん?だれ?あー?姫野ならここにいるけど」

「え?誰から?」

「あーあー、わかったわかった、すぐ行ってもらうから待ってな」

手短に応対を済ませた西園寺は携帯をしまい込むと、マオの手からたこ焼きを奪い取って言いました。

「湖川が衣装を運ぶのに難儀しててまだ電池捜してないそうだ。早く助けに来てってよ」

「はァ?センセ、あいつ「助けて」なんて言うような……」

「ここが男を見せるチャンスだ。必ずモノにしてこい!」

「モノって……俺に何をしろっていうんですか?」

西園寺の顔を見た部員たちはその意図をすぐに察知して、口々にマオに激励の言葉をかけはじめました。

「いいか、下心を見透かされちゃ駄目だぜ」

「はー!りっしんべんりっしんべん……」

「そ……そんなんじゃねぇーっすよ!」

「やること済ましたらさっさと戻ってこいよな」

部員達に冷やかされるのが恥ずかしくて、マオはいち早くその場を離れようと席を立ちました。でもその腕をしっかり掴む小さな指先……振り向くとセリエが心配そうな表情でマオの手を握りしめているのでした。

「まおにーちゃん、どこへもいっちゃイヤ……どうしてもいくならセリエもつれてって!」

「な……何だよ急に……すぐ戻ってくるから大人しく待ってろって!」

「だめだよー!まおにーちゃーん!」

セリエの言葉など耳も貸さずに、マオは実験室を出て階下の玄関へと階段を早足で下っていきました。くそっ、あんな空気の中にいつまでもいられっかよ……すばやく運動靴に履き替えると、校門から町へとマオは駆け出してゆきました。その後ろを必死で追いかけてくるセリエのことなど気にも留めずに……


「はううー、一人で来るんじゃなかった……こんなにドレスのケースがかさばるなんて!」

サツキは自分の身長程もある衣装ケースを抱きかかえて、よたよたと駅前通りを中学校へと歩いていました。重さはそれほどでもないけれど長丈のウエディングドレス、その衣装ケースを両腕で抱えてしまうと全く前が見えなくて、サツキはカニのように横ばいで歩くしかなかったのでした。少し陽がかげって風の出て来た空、北からやって来る冷たい空気が町並みを通り過ぎて、街行く人々にやがて来る季節を思い出させてゆきます。サツキは西の空に流れるいかにも重そうな雲の塊を見てぷるっと震えました。

「寒くなるのかなぁこれから……お腹も空いたし、はやくこれ、運び込まないとね」

雑踏を抜けて来たマオは駅前通りに出て来て、そこで必死におおきな箱を抱えて歩いているサツキを道の向こうに見つけました。でかッ!……あんなの一人で運べる訳ねえじゃん、サツキの奴何考えてんだか……マオは走って横断歩道のところまで行くと、反対側にいるサツキに向かっておおきく手を振りました。

「おーい皐月、大丈夫か?」

「真桜?」

その声に気がついたサツキは必死の表情の中にも笑顔を浮かべてよろよろと交差点までやってくると、横断歩道をはさんでマオと向かい合いました。風が吹くたびゆらゆらといかにも不安定な立ち姿のサツキはどう見ても危なっかしくて、マオは注意深く左右の車の流れを確認すると、その間隙を縫って赤信号の横断歩道を渡りはじめました。

「待ってな、そっち行くから」

「真桜?大丈夫だって!そこで待ってて」

いきなり無茶を始めたマオにびっくりしてサツキがそう叫んだとき、突然の季節風がビルの谷間で笛を鳴らしながら勢いよく通りを駆け抜けました。木枯らし1号なのでしょうか?それは道ばたに散ったイチョウの葉を吹雪のように舞い上がらせて複雑に跳ね返り、サツキの抱えた衣装ケースに吹きつけました。少女の腕力ではどうすることもできない力の奔流、風に抱かれたケースはサツキの意思とはうらはらに、車両の行き交う道路へと流されてゆきました。

「あっ!」

衣装ケースを飛ばすまいと思わず横断歩道へと躍り出るサツキ、でもそこには信号の変わり目になんとか間に合おうと加速する資材運搬のトラックがやってきていました。ようやく追い付いて、マオの姿を人ごみに見つけたセリエは、その光景を見て心臓が凍り付きそうになりました。なぜならそのトラックの背後にはあの黒い影、サリエルの醜悪な姿が付き纏っていたから……セリエはとにかくマオの側に行こうと交差点へと駆け出しました。

「まおにーちゃんっ!」

「皐月!危ないッ!」

手から離れて宙を舞う衣装ケース、間に合え!一歩先に走り込んでいたマオは中央線をすでに越えていて、辛うじてそれを空中で受け止める事が出来ました。そしてそのままの勢いでサツキをかばうように倒れ込みました。

「南無三!」

「ま……真桜ッ?」

交差点に響き渡る急制動の切り裂くような音、やや後輪を降り出したそのトラックはもうもうたる白煙とゴムの溶けた匂いに包まれて軋み、横断歩道を半分跨いだ所で止まりました。

「ま……まおにーちゃーん!」

2車線を塞いだかたちで斜めに止まっているトラック、何かあった事を物語る白煙に向かって走ってゆくセリエはそこに無事な衣装ケースと、重なりあうように倒れているマオとサツキを見つけました。

「あ……あたたた……」

「大丈夫?真桜」

「お前は平気か?ったく、無茶しやがって……?」

気が付けば路上で抱き合うように横たわっている二人、お互いの顔は息が届くほどに近づいていて、しかもマオの手はサツキの胸のあたりを鷲掴みにしているのでした。サツキは恥ずかしくて変な気分で、小声でマオに囁きました。

「ね……ゴメン……手……どけて……」

「手?……って、おぉうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

状況に気が付いて飛び退くように上体を起こしたマオ、あわてて走り込んで来たセリエは目の前の二人の無事な姿にほっと安堵しましたが、以前とは比べ物にならないくらいに親しげなそのやりとりを目の当たりにして、今まで感じた事のない孤独と疎外感に包まれてしまうのでした。

「まおにーちゃん……やっぱり、まおにーちゃんには、サツキねーちゃんがついてるんだよね……おんなじにんげんさまのほうがいいにきまってるよね……」

不器用に気持ちを通わせる二人の姿から逃げるように、セリエはその場からそっと離れました。目を反らして一歩二歩、居並ぶ群衆の中へとまぎれて行くセリエ、でも行き交う人の波に揉まれる中で不意にひとりぼっちの自分の存在に気が付いて、思わず立ち止まって振り向きました。

「どうしてこんなキモチになるんだろう……ふたりとも、ケガしなくてほんとによかったのに……まおにーちゃんをまもってあげられた、それがうれしくないだなんて……うん、おかしーよね!まおにーちゃんがゲンキならセリエ、それだけでポカポカなんだもん……なのにこんなことおもっちゃうなんて、セリエのバカ!バカバカ!」

セリエは自分の頭を両手でぺこぺこ叩きました。エへ、エリシャにもこれしてみせたっけ……そうよね、セリエ、エリシャのぶんまでがんばんないといけないんだもんね!周りに立つ人達の頭の間から覗く空に晴れ晴れと顔を上げて、セリエは大切な人へ向けての想いを翔ばしました。

「まおにーちゃん、あのね、いつか、サツキねーちゃんとけっこんしたらね、セリエの……セリエのパパになってね……サツキねーちゃんはママ……うん、セリエ、いいこになるからね……!」

迷走した想いが再びマオへの思慕へと回帰した時、突然セリエの胸を突き刺すような痛みが襲いました。心臓を貫くようなその硬質な刃は一瞬セリエの呼吸を止めてしまうくらいに深々とその魂を切り裂き、セリエは思わずその場にしゃがみ込んでしまいました。

「ん!……いきが……ああっ……あ……」

まるで自らの半分を切り取られてゆくような不快な感触、時が止まったかのように長く感じられる生死の境目の中で湿ってざらついた冷たさがその傷口をぱっくりと抉りきった時、ようやくセリエの喉は息を吹き返す事が出来ました。

「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……くるしかった……」

何とか息を整えてゆっくりと立ち上がったセリエは、何だか心の中がすいぶん寂しいような気がして漠然とした不安に包まれました。なんだろ?この、こころのなかにぽかっとあながあいちゃったみたいなかんじ……空虚な魂の洞、まるで意識が虚脱したかのように呆然とたたずむ今のセリエの心にはこの下界に漂う悲しさや恐れが次々と飛び込んで来て、いつの間にか冥く閉ざされてゆくのでした。どうして?……どうしてこんなにかなしいのやこわいのがはいってくるの?…… セリエのはんぶん、どこへいっちゃったの?……遠慮無しに魂を満たしてゆく黒い光、セリエはその中にひときわ邪く蠢いている憎悪の影の存在を感じました。これは……セリエは自分が大切な事を忘れていたのに気がついて正気を取り戻しました。そうだ!くろてんしが!セリエはどんどん早まってゆく鼓動に突き動かされるように群集の中へと割って入っていきました。

「いけない!まだいるんだ!くろてんし!」

わずかな時間のうちに大勢の見物人の集まってきた交差点、セリエはぎゅうぎゅう押されながらもその間をかいくぐって一番前に出ようともがきました。空に響き渡るサイレンの音、聞き取れない群集のどよめきが不気味に心を掻き回して、セリエは胸騒ぎが止まりません。セリエ、いま、まおにーちゃんのそばにいなかった……へんなことかんがえてた……みんななにをさわいでるの?なにをみているの?おねがいとおして!セリエが……セリエがいちばんみたいの!そばにいきたいの!ふんだりけったりの群集の足下をなんとか抜けて、やっとの事で最前列に出て来たセリエが見たもの、それは斜めを向いて止まっているトラックの荷台から崩れ落ちた鉄骨と、頭から血を流して倒れているマオ、泣き叫ぶサツキ……そして、長鎌を手に空へと消えてゆくサリエルの姿でした。


「え……そんな……ま……まおにーちゃん!」

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