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カラー×マジッカー〜色彩の魔法使い〜  作者: ライム


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カラー×マジッカー〜色彩の魔法使い〜 後編

「な、な、何よこれ…!」

 ブルームは震える体を押さえながら言った。

「何よ、ビビってんの?」

 エンナはブルームの方を見た。

「はあっ⁉なわけないでしょ‼これはね……武者震いよ‼」

「へぇー、そう」

 エンナは勝ち気に笑った。

「二人とも、ケンカしてないで城に入る準備するぞ!」

 ルーブが二人を注意した。

 

 四人は創造できる食べ物を出し、それを食べた後、治癒の「緑」の光とエネルギーの「オレンジ」の光を順番に全員に当てた。

「よっしゃ‼」

 サンは腕をひねり軽く体操をした。

「準備万端だな」

 ルーブも服を整える。

「いよいよね」

 エンナは腰に手を当てて城を見上げた。

 ブルームはまだ少し不安そうな顔で城を見ていた。

「大丈夫だって」

 ルーブがブルームの肩を叩く。

「俺たちがついてるから、何も心配しなくていい」

 ルーブは自信に満ちた笑みでブルームを見た。ブルームの顔に少しだけ安堵の表情が戻る。

「よし、行くぞ」

 ルーブのかけ声を発端に、四人は城の入り口らしき所に進み出した。扉の上にもつららのような銀色の尖ったものがあった。押して開くタイプの両開きの扉にエンナとルーブは二人で片手を当てる。

 ギィイイイ……

 扉は音を立てて簡単に開いた。まるで自動ドアかのように、二人が少しの力で押しただけで城の奥が見えるまでに扉は内側に折れた。

「……うっ」

 中は暗く、玄関らしき内装が見えたがやはり構造がわかりづらい。エンナは遊園地のお化け屋敷を想像した。

 四人は慎重に中に入った。最後にブルームが扉の境界線を越えると、大きな音を立てて扉が閉まった。

 バタァン‼

「ひっ‼」

 ブルームは肩をびくつかせ後ろを振り返った。取っ手に手を当て、開けようと引っ張るが動かない。

「開かない‼」

「……お約束だな」

 サンは汗を垂らしながら笑った。

「暗っ……」

 エンナは冷静に辺りを見回した。建物内に窓があるため真っ暗ではないが、やはり辺りを把握しづらかった。

「サン、光を出して」

 エンナに言われ、サンは手から黄色い光を出して辺りを照らした。辺りの様子がはっきり分かるぐらいの明るさになった。

 玄関には年季の入った棚があり、その上には花瓶が置かれていた。濃い紫色の花瓶は上の部分が欠け、枯れた花が挿されていた。上には小さなシャンデリアが下がっていたが、古いのか明かりとして機能しておらず所々が割れていた。全体的に、もとは上品だったが何らかのいわくつきで不気味に感じられるようになったと思われる物が置かれていた。玄関から左折した奥には廊下が続き、部屋がいくつもあるようだ。壁には絵が掛けられているが、真っ黒な花、焼けた廃墟、不気味な抽象画などまともな来客が鑑賞するには全く不向きなものばかりだった。

「……趣味悪っ」

 エンナが呟く。

「ゴーストハウスそのものだな……」

 サンが苦々しく笑いながら辺りを見回した。

「ブラックは多分最上階だ。途中で何の罠があるか分からないから固まって進むぞ。物を触ったり動かしたりするなよ」

「ああ……」

 ルーブの注意にサンが答えた。

 

 不気味な廊下を歩き、一階を一応何事も無く進むと階段が見えた。色は灰色に近い水色で、上る途中には踊り場があった。

 四人は階段を上がり、二階に出た。二階は一階とは雰囲気が違い、ちゃんと壊れていない照明があり建物内を照らしていた。だが窓にはカーテンがかけられており太陽の光は差し込んでこない。廊下、床、壁が上品な水色で、飾られている花瓶も割れておらず花も枯れていない。壁に絵は掛けられていなかった。上品だが何となく冷たい感じのする階だ。

 四人は迷いながらも広い城の中を進んだ。部屋は全て鍵がかかっておらず、どこにでも入れるようになっていた。上への階段を探し廊下の突き当たりまで進むと、重そうな紫色の大きな扉が現れた。扉にはアルファベットの文字が書かれたパネルがつけられている。

「……なんだ、これは?」

 ルーブが扉をさすり、押してみるがびくともしない。

「階段が見当たらないってことは、この奥か?」

 サンが言った。

「多分そうね」

 エンナが扉につけられているパネルを見た。

「これを解かなきゃ開かないってことかしら」

 四人はパネルに近づいた。七枚のアルファベットが書かれたパネルが横一列に並んでいた。

B

I

G

P

O

R

Y

 


「……ビッグポリー?」

 サンが言った。

「なによそれ」

 ブルームがツッコむ。

「……大きな警察?」

 エンナが言った。

「警察は英語でポリスだろ」

 サンが言った。

「……」

 ルーブは扉に近づき、パネルを触った。プラスチックでできた手の平サイズの正方形のパネルで、取り外しができるようになっている。

「これを並び替えろってことか?」

 ルーブは顎に手を当てる。

「問題文もなんにもないのね。ただこれだけ?」

 エンナはパネルをじろじろ見た。

「不親切だな……」

 サンが呟いた。

「てきとーにはめていけば開くんじゃない?」

 ブルームがそう言い、パネルに触ろうとした。

「待て、これ自体が罠の可能性だってあるんだ、うかつに動かすのは危険だ」

 ルーブがブルームの手をつかんだ。

「はめるんじゃなくて、一回取り出すだけなら大丈夫じゃね?」

 サンがルーブに言った。ルーブはサンを見た後、軽くうなずいた。

 サンは一つずつパネルをはずしていく。他の三人は黙り込み、静かにサンを見守った。

 全部のパネルを外し終わったが、扉などに特に変化は見られなかった。サンはホッとし、七枚のパネルを床に置こうとした。

「ん?」

 サンはパネルの裏に何か文字が書いてあるのに気付いた。

「何か書いてあるぞ」

 ルーブはサンからパネルを半分ほど受け取った。エンナにも二枚ほど渡し、裏を見る。

「制」

 サンが読む。

「時」

 ルーブが言う。

「1」

 エンナが言う。

「……なにそれ?」

 ブルームが眉をひそめる。

「最初にはまってた順に並べて、そのあとひっくり返してみよう」

 ルーブは「BIGPORY」の順に左から並べ、そのあと一つずつひっくり返した。

1

4

「……制限時間十四時」

 ルーブは読み上げた。

「ルーブ、今何時?」

 エンナが一応訊ねる。

「午後一時半だ」

 ルーブが答える。

「あと三十分……?」

 エンナが言った。

「それまでに解けなかったらなんか起こんのかな」

 サンが不安そうに言った。

「いや……これはそういう意味じゃない」

 ルーブが唇に指を当てながら言った。

「えっ?」

 エンナがルーブの方を見た。つられてあとの二人も顔を動かす。

「これは多分……ヒントだ」

 

 四人は床に並べた七枚のパネルを取り囲み座り込んだ。

「並べ替えたら何かの言葉になるの?」

 ブルームが誰に対してでもなく尋ねた。

「十四時って二時のことよね……」

 エンナは裏返したパネルを見ながら言った。

「……虹?」

 ルーブが呟いた。

「虹は英語でレインボー……つづりは?」

 サンがルーブに聞いた。

「R、A、I、N、B、O、Wだ」

 ルーブが答える。

「……」

 サンが何とか答えを導き出そうと、普段使わない頭をひねる。

 

 四人が考え込みだして十分経過した頃、ブルームが痺れを切らした。

「あーもう‼いくら考えたってわかんないわよ‼はめていくしかないじゃない!」

 ブルームはパネルを全部つかむと、一つずつ扉にはめていった。

「お、おいブルーム⁉」

 ルーブは慌てて止めようとしたが、ブルームはパネルを全てはめ終えてしまっていた。

l

R

P

G

B

O

Y

(「アイ・RPGボーイ」って何だ……)

 サンが心の中でツッコんだ。家でRPGのゲームばかりしている自分の姿が頭をかすめる。

「これで間違いないわよ!」

 ピコーンと音が鳴り、パネル全体が光った。エンナ、ルーブ、サンは固唾を飲み込んだ。

 ガタンという音がし、ブルームの立っていた床が外れた。

「きゃああああ‼」

 ブルームは足元からそのまま下に落ち、床下の暗闇に吸い込まれていった。

『ブルーム‼』

 ルーブは床穴を覗き込んだ。バッシャーンという水音がはるか下の方から聞こえた。

「おいおい……‼」

「言わんこっちゃないんだから……‼」

 サンとエンナは汗を垂らした。

 ブルームのいた床がバタンと音を立てて閉じた。ルーブは床を強く叩いたが、びくともしない。

「くっそ‼」

 ルーブは悪態をつく。

「間違いってことかよ……」

 サンが焦りながら言った。

「これ、間違ったらはめた人だけが落とされるの⁉」

 エンナが言った。

「考え直すぞ」

 ルーブはパネルを全てはずし、再び「BIGPORY」の順に左から置いた。

「次は間違えられないわよ……」

 三人はパネルを取り囲み、座ったまま考えた。

「……ブラックは英語が好きなんだよな」

 サンが言った。

「そうね、一問目の問題も英語だし」

 エンナが言った。

「……これ、全部違うアルファベットだな」

 ルーブが呟く。

「え?」

「同じ文字が一つもない」

 エンナはB、I、G、P、O、R、Yの文字を見た。

「……確かにそうね」

「そして裏に書いてある『制限時間十四時……』」

 

 三人がパネルを取り囲んだまま考え込み、約十分が経過した。

「あーっ、わかんねーよ‼」

 サンが背中側の床に両手をつき体を倒す。

「でも、これを解かないと先に進めないし……」

 エンナが疲れた顔で頭に手を当てた。

「十四時まであと十分だし……!」

 サンはルーブの腕時計を見ながら焦り始めた。

「こういうときは……インスピレーションだ」

 ルーブが言った。

「紫の力を使おう」

『……』

 エンナとサンは固まった。

『あ――っ⁉』

 エンナとサンは二人同時に叫び、同時に立ち上がった。

「その手があったじゃんか‼」

「そうよ、ルーブ、何で早く言わないのよ‼」

「いや、ギリギリまで俺らの力で解きたかったっていうか……俺のプライドがさ……」

「いいからそれ、早くやるわよ‼」

 エンナとルーブは手を重ね合わせ、それぞれ赤い光と青い光を出し、それを合わせた紫の光を体になじませ、サンにも紫色の光を当てた。

 床に置かれた七枚のパネルを見た三人の目つきが変わった。

『あっ⁉』

 何かひらめいたようだ。

「ルーブ、何か書くものないか⁉」

 サンが急いだ口調で言った。

「すまん、持ってきてない……でも」

「みんな考えてることは一緒のようね」

 エンナ、ルーブ、サンは顔を見合わせ、同時に頷いた。

 

「赤は英語でレッド」

 エンナが言った。

「頭文字は?」

 サンがルーブを見る。

「R」

 ルーブがそう言い、「R」のパネルを一番左に置きなおす。

「橙はオレンジ」

「じゃあ次はOだな!」

 五枚目を並べ終えた後、サンは首を捻った。

「六色目ってなんだ?」

「残ってるのは『I』と『P』……紫がパープルだとしたら、Iは……インディゴだ!」

 ルーブは七枚全てを並び替えた。

 P

 I

 B

 G

 Y

 O

 R

「RED、ORANGE、YELLOW、GREEN、BLUE、INDIGO、PURPLE、この頭文字を『虹』の七色に並べた順番、これが正解だ‼」

 ルーブが叫び、サンは順番通りに七枚のパネルを壁に当てはめていった。

 再びピコーンと音がし、ブルームがはめた時と同じようにパネルが光った。

 エンナは祈るように両手を組み、ルーブとサンも顔をこわばらせて扉を見守った。

 

 ガチャッ。

 扉の取っ手の部分から音がし、パネルの光が消えた。

『……』

 三人は固まり、数秒同じ姿勢でその場から動かなかった。

「……え?」

 サンが口を開いた。

「開いた、の……?」

 エンナが言った。

 ルーブはぎこちない動作でおそるおそる扉を押した。

 ゴゴゴゴゴゴ……

 紫色の扉は重そうな音を立てて開いた。

「やった‼」

「正解よ‼」

 エンナとサンはお互いに手を取り合い喜んだ。ルーブは息を吐き、胸を撫で下ろす。

 

 三人は扉を開き、中へ入る。一階から二階へ来た時とは違い、螺旋階段が現れたが、紫色の扉が自動的に閉まり真っ暗になった。

「うわっ‼真っ暗」

 エンナが慌てふためく。

「サン、明かり!」

 ルーブの声で、サンは右手から光を出して辺りを照らした。階段は古びたコンクリートで、辺りに窓は無く全く光が入ってこなかった。

「ほんと不親切な城よね……」

 エンナが愚痴をこぼす。

 三人は空虚な音を鳴らし階段を登っていった。足音が閑散とした階段に響く。

 螺旋階段は続き、登りながら円を三回描いたところで階段は終わった。目の前には先ほどの紫色の扉よりもっと重そうな漆黒の扉が現れた。

「多分、この先が……」

 エンナが汗を垂らしながら言った。

「ブラックの部屋だ」

 サンが答える。

「行くぞ‼」

 ルーブは二人に合図し、扉を押した。

 

 全体の床、壁、天井が黒い大理石のようなものでできた部屋に、エンナたちは現れた。部屋の広さは六十平方メートルほどだ。西向きの部屋の窓は暗い藍色のカーテンで覆われており、北と南、両方の窓側には蝋燭が等間隔で置かれ、部屋全体を照らしていた。奥には人が上がれるステージがあり、その上の大仰な肘掛椅子に男が座っていた。

 男はウェーブがかった黒髪で、髪を無造作に肩までおろしていた。鼻の下と顎に髭を生やしており、顎髭は首の下まで伸びていた。目元、頬、口元にシワがあり、全体的に老け顔だ。見た目は五十代ぐらいだろう。浮浪者を想像させるような雰囲気で、黒いコートを羽織り、濃い灰色のブーツを履いていた。

「……よくここまで来たな」

 ブラックは頬杖をつきながら三人を見下ろした。

「色彩をかえせ‼」

 サンは震えそうになる足を踏ん張り、勇敢にブラックに向かって叫んだ。

「……これのことか?」

 ブラックは水晶玉を取り出し、左手に持ちながらゆっくりと回して見せた。ハンドボール程の大きさの水晶玉の中に、色彩がうごめき漂う。

「返してほしいなら、力で俺に勝るところを証明してみせろ」

 ブラックは肘掛椅子から立ち上がり、水晶玉を椅子の後ろに隠れている台の上に置いた。

「この絶対的な『黒』の力になぁ‼」

 ブラックは両手を広げ、体全身から『黒』の力を放出した。黒いオーラが辺りに広がり、エンナ、ルーブ、サンを包み込む。

「うっ‼」

(な、何⁉この重圧……)

 エンナは胸に手を当て体を屈む。ルーブとサンも同じ様子だ。

 サンは胸を押さえ、汗を流しながら歯を出して笑った。武者震いをしているようだ。

「ああああ‼」

 エンナは掌から赤い光の塊を生み出すと、思い切り体に打ちつけた。エンナの体が芯から赤く輝き始めた。赤い光がエンナを包んでいた黒いオーラを打ち消す。

「なるほど」

 そう呟き、ルーブも青い光を体に打ちつけた。それを見たサンも同じように光を体に当てる。

 三人はそれぞれ赤、青、黄色の光を身にまとった。

「赤、青、黄の能力か……だがそれだけで俺に勝てるかな?」

 ブラックは口元を歪めた。

「あんたに勝たないと……世界はずっと白黒のままなんでしょ⁉あたしは絶対、あんたから色を取り戻す‼」

 エンナは体の中心を赤く光らせながら勇猛に叫んだ。

「そういうことよ‼」

「俺も同意だ!」

 サンとルーブも叫ぶ。

 エンナは炎、ルーブは青い結晶、サンは雷を創造し同時にブラックに向かっていった。

「フン」

 ブラックはどこからか取り出した黒いダガーを三つ、エンナ、ルーブ、サンの後ろに投げた。ダガーは三人の影に刺さり、途端に三人は体の自由がきかなくなった。

「な、何⁉」

「うっ!」

「動けない……!」

 ブラックは追い打ちをかけるかのように墨を三人の目に飛ばした。

「きゃっ!」

「うわっ、なんだ⁉」

「目が見えない……‼」

 三人は目をこするが、墨は目元にべっとりとついたまま落ちない。動きを封じられ、視界を奪われた三人は焦る。

「さあ、どうする?」

 ブラックはステージの上に立ったまま三人を見ていた。

「ルーブ‼上に、お湯を思いっきりぶちまけて‼」

 ルーブは一瞬戸惑ったが、エンナの言った意味が分かったのか、すぐさま両手を上にあげ、あたっても火傷しない程度の熱い湯を放出した。

「上向いて‼」

 エンナの大声で、三人は上を向いた。湯が顔に当たり、墨が流れ落ちた。

「よし……!」

 三人は腕で顔を拭いた。顔から墨が取れ、前が見えるようになった。

「サン‼あたしたちの後ろに、大きな光を放って‼」

 サンは光を三人の後ろに放った。エンナたちの後ろにできていた影が消え、前に移った。途端に自由に動けるようになる。

「なるほど……少しは頭を使ったようだな」

 エンナは炎、ルーブは青い結晶、サンは雷をブラックへと放つ。

 ブラックは右手から黒い渦を出した。炎、結晶、雷がそれに吸い込まれていく。

「⁉」

 エンナは目を開いてそれを見た。

「あれは……‼」

「ブラックホール⁉」

 サンとルーブは立ち止まった。

「黒は全てを吸収する色……全ての攻撃は俺には効かない」

 ブラックは三段になっているステージの階段を一つ降りた。

「おそれろ、絶望しろ……この『力』の前に‼」

 三人はブラックから放たれた黒い塊をまともに受けた。

『うあぁっ‼』

 エンナは体の中に異様な重みと苦しみを感じ、胸を押さえ膝をついた。ルーブ、サンも同じ様子だ。

「う……っ」

(何、これ……心が、急に不安に……)

「黒の象徴するものが何か知ってるか?」

 ブラックは二つ目の階段を下りた。

「不安や恐怖……そして“死”なんだよ」

 エンナはルーブとサンを見た。二人の顔が段々と憂鬱に、暗くなっていく。

「さあ、このまま“黒”に蝕まれて死ぬがいい‼」

(このままじゃ……!)

 エンナは苦しくなる心を押さえ、力を振り絞って炎を出し、それを体の中心に当てる。

「うあああっ‼」

 エンナの炎で黒の力が打ち消され、黒いもやが消えた。

「……ハァッ、ハァ……」

 なんとか立ち上がり、ルーブとサンを振り返る。二人は床にうつぶせに倒れていた。

「ルーブ、サン‼」

 ブラックは三つ目の階段を下りた。

「あとはお前だけだ」

 エンナは胸を押さえ、たじろぎ、ブラックを見据えた。

「……その前に教えて……何で世界の色を奪ったりしたの?」

 ブラックはエンナの顔を見ると、目を伏せ息を吐いたあと、再びエンナを見た。

「……まあいい、教えてやろう」

 ブラックは降りてきた階段を上りながら話し始めた。

「俺はカラフィリアの隣の星、『シュバルツ』という星の王だった。だが十年ほど前から俺の星の色が少しずつ消え始め、やがては白黒の星になっちまった。だが一方でカラフィリアはますます色彩豊かになるばかり――それで俺は思ったのさ、『誰かが俺の星の色彩を吸い取ってる』

 ってな」

 エンナは唾を飲み込み、ブラックの話を聞いていた。

「それがカラフィリアの中心国、パラディナの女王、ミルフィーネだ」

 

 エンナは目を見開き、体を震わせ、ブラックを焦点の定まらない瞳で見ていた。

「だから仕返してやろうと思ったんだよ。ついでに色彩を奪い返そうとな」

「……そんなわけない」

 エンナは震える唇で言い放った。

「あ?」

「女王さまがそんなことするわけない……‼」

 エンナは両拳を握りしめた。中指につけた白い指輪の感覚が妙に意識される。

「ハッ……お前らに色彩魔法を与えたのは女王だもんなぁ……じゃあ聞くが、何でお前らにダークネスに行けと命じたんだ?色彩を取り返すためだろう?」

「……それは……‼」

「お前たちはただ利用されていただけ。黒幕は女王なんだよ」

「違う……‼」

「もういい」

 ブラックは左手をエンナの目の前にかざした。エンナは目をひきつらせる。

「話は終わった。とっととくたばれ」

 ブラックは黒の色彩効果をエンナに向かって放った。それと同時にルーブがエンナの足をつかみ、エンナは床に転んだ。黒い色彩が空中を通過していく。

「……ルーブ‼」

 エンナは起き上がり、足を掴んだルーブの方を振り向く。ブラックは顔をしかめる。

「あきらめんな……女王さまを信じろ‼」

 その直後、閉まっていた漆黒の扉が音を立てて開いた。

『ブルーム‼』

 エンナとルーブは同時に叫んだ。

「こ、怖かったけど、来たわよ……‼あたしがいないと意味ないって言われたもん‼」

 ブルームはエンナたちのそばに行き、倒れているサンに緑の治癒の力を与えた。

「……真実を知りたいのよ」

 エンナはブラックに言う。

「……真実だと?そんなものがどうやってわかる」

 エンナは左手にはめていた白い指輪をはずし、床に捨てた。

「ルーブ!青い光を、ブルーム!緑の光を、出して、あたしの赤い光と合わせて‼」

 二人は言われるがままに光彩を出した。そしてエンナは、赤い光を右手から出し、二人の光と重ねた。

「……‼」

 赤、青、緑の光が重なり、白い光となった。

「私たちの敵は誰⁉」

 エンナは光に訊ねた。白い光は一筋の白い光線になり、ブラックを照らした。

「なんだと……⁉」

 ブラックはたじろいだ。

「サンは⁉」

 エンナが後ろを振り向く。

「……起きたぜ」

 サンが笑いながら立ち上がる。

「みんな、いくわよ‼」

 エンナは炎、ルーブは水、サンは雷、ブルームは植物を手から創造し、四つの属性をそれぞれからませ、ブラックに向けて発射した。

『レインボー・フォルスアタック‼』

 攻撃はもの凄い速さで突き進み、ブラックに直撃した。

「ぐあぁあああ‼」

 ブラックはステージの上に仰向けに寝転がった。

 

 四人は息を切らし、ルーブとサンは膝をついた。まだブラックから受けたダメージが残っていたのだろう。

「うっ……」

「大丈夫⁉」

 ブルームがルーブとサンを支える。

「……でもこれで……」

 ルーブがブラックを見る。ブラックは寝転んだまま動かなかった。

「倒した……⁉」

 エンナがブラックの様子を見ようと近づこうとした。

「……っくくっくっ……」

 ブラックは顔に右手を当て、笑いながら起き上がった。

「ふははははは‼」

 そして一気に立ち上がり、『黒』の色彩効果をエンナたちに撒き散らした。

『うあっ……‼』

 四人は不意打ちを食らい、胸を押さえこみその場に崩れ落ちた。

「な……何で……」

 エンナは体を押さえながらブラックを見る。

「色を受け継いだマジッカーはその色の特性を持つ。俺の司る色は黒……意識すればどんな攻撃も吸収できちまうのさ……知られざる特性だ」

 ルーブとサンは黒いオーラにやられ、完全に倒れていた。エンナとブルームは震えながらなんとか立ち上がる。

「女二人で、俺に立ち向かうか?」

 ブラックは影のある笑みを二人に向ける。

「ブルーム」

 エンナは左隣にいるブルームに右手を差し出す。

「手をつないで。こっちも黒で、対抗するわよ‼」

 ブルームはエンナの言っている意味を察した。赤と緑を足せば、黒に近い灰色になる。

 ブルームはエンナと手を組み、ブラックの方へ向けた。

「はっ……愚かな選択だな」

 ブラックは片手を伸ばし、手の平を二人の方へ向けた。

「うあああああ‼」

 ブラックの黒い光線とエンナとブルームの組んだ手から出た濃い灰色の光線がぶつかる。

 二つの『色』を合わせると威力が倍になるため、若干エンナたちの方がブラックを押していた。

「ちっ……」

「ああああああ‼」

 エンナとブルームの光線がブラックの光線を押し切ろうとした。

「そんなものが効くかぁ‼」

 ブラックの黒い光線が威力を増し、二つの光線が弾け飛んだ。

「……ハァ、ハァ……」

 二人は息を切らした。数秒後、ブルームが膝をつきその場に倒れ込んだ。ブラックのオーラに圧されたのだろう。

「……ブルーム‼」

 エンナはブルームを振り返りながら叫んだ。

「終わりだな……」

 ブラックは虚ろな目で片手を伸ばし、エンナに近づく。

「うあああああああ‼」

 エンナは胸に手を当て、渾身の力を込めて叫んだ。女王から授かった、胸の中心に在る赤い珠が輝きを増す。エンナ、ルーブ、サン、ブルームを取り囲むように炎が出現し、ブラックとエンナを引き離した。

「……なんだと」

 ブラックが一歩下がり、たじろいだ隙にエンナは炎を突き破り、ブラックを突き飛ばしステージに上がろうとする。

「させるか‼」

 ブラックは後ろから黒いダガーを飛ばし、エンナを攻撃する。ダガーが五つエンナの背中に刺さり、エンナはステージを上りきるが倒れてしまう。

「うあっ……‼」

 エンナの目の前には椅子の後ろに隠されていた水晶玉があった。痛みで視界がぼやける。色彩が混ざり、虹色になってうごめいている色が水晶玉の中に見える。

(目の前にあるのに……‼)

 エンナには、もう何かを創造する気力がない。

「……ゲームオーバーだ」

 ブラックが階段を上がる音が聞こえる。

 エンナの背中から流れる血が、右腕のあたりに溜まってきた。

「……よくここまであがいたな」

 ブラックがエンナの後ろに立った。とどめを刺そうと、片手をエンナに向ける。

 エンナは最後の力を振り絞り、床に溜まった血を結晶のように固め、尖らせ、水晶玉に向けて放った。

 ブラックが最後の色彩効果を放つより前に、赤い血の結晶が水晶玉に刺さり、割れた。

 水晶の破片が辺りに飛び、中から解き放たれた大量の色彩が放出された。色彩は部屋中に蔓延し、ヴェガンサ城の屋根を吹き飛ばした。

「な……に⁉」

 ブラックは慌てる。

「エンナ―っ‼」

 ルーブの水、サンの雷、ブルームの植物が合わさったトルネード攻撃がブラックに当たった。ブラックは不意を突かれ、ステージに倒れる。

「大丈夫か⁉」

 三人がステージに駆け上がる。

「みんな……大丈夫だったの……?」

 エンナは弱々しく呟く。

「ブルーム、治癒‼」

 ブルームは急いで緑の光をブルームの背中に当てた。ルーブがエンナの背中に刺さったダガーをゆっくり抜く。

「お前が出してくれた炎のおかげだ」

 サンが黄色い光をエンナに当てながら言った。

「ああ、あれ……」

 回復したエンナはゆっくりと起き上がった。

「命の炎、だろ?」

 ルーブが男前に笑った。エンナは頷く。

「でもこれで……」

 エンナが呟く。

「ああ」

「やっと世界に色彩が戻るな」

 

 

 四人は青い空を見上げた。――しかし、色彩が消えていなかったはずのダークネスの青い空が、徐々に灰色へと変化していくのを四人は見た。まるで、最初に色が消えた日のように――

「えっ……⁉」

 エンナは目を見張った。空だけではなく、下に見える周囲の草や木々、大地までが、白黒へと変わっていった。

「どういうことだ……⁉」

 この状況に一番驚愕したのはブラックだった。

 拍手が三回、屋根がふっとんだブラックの部屋に鳴り響いた。

 扉の前に、シャッフルが立っていた。初めて会った時と同じ格好で、扉にもたれかかりながら足を組んでいた。

「お前……」

 ブラックが厳めしい表情でシャッフルを見た。

「ゲーム終了。あんたの負けだよ、ブラック様」

 エンナたちは察せない表情でブラックとシャッフルの様子を見守っていた。

「お前が黒幕か……‼」

 ブラックは物凄い形相でシャッフルを睨んだ。

「僕は最初から、誰の味方でもないよ」

 シャッフルは両の手の平を上に向けながら言った。

「それに、真実はまだあばかれちゃいないよ?ねぇ、エンナ」

 突然名前を呼ばれ、エンナは体を強張らせる。

「あんたが黒幕なんでしょ……⁉」

 エンナはシャッフルを睨む。

「僕じゃないよ。なんなら真実の白に聞いてみなよ」

 シャッフルは意味深に笑う。

「……ルーブ、ブルーム、お願い」

 エンナは赤、ルーブが青、ブルームが緑の光を出し、交錯させる。三つの光が混じり、白となった。

「本当の黒幕は誰……⁉」

 白い光は一本のラインとなり、あちこちに反射し、やがて――エンナの赤いスカーフを照らした。

「え……⁉」

 エンナは目を見張る。

「まさか、エンナが⁉」

 サンが言った。

「バカ、違う……‼」

 ルーブは強い口調でサンに言った。

「赤……」

 エンナは震える唇で呟いた。

 

(言わなかったけど、僕もマジッカーなんだよ。それもエンナと同じ、赤のね)

 

「アルバートさん……?」

 

 アルバートは医務室にいた。前にはベッドがあり、女王が息を立てて眠っている。アルバートは思いつめたような顔をし、右手を開いたり握り締めたりしていた。

 カラフィリア中の色が消え、三日が経とうとしていた。交通は信号機の色が判別できなくなったため一時混乱に陥ったが、交通課の者による指導で信号機の代わりは成り立っていた。ただ、色彩がないためウィンカーなどが判別しづらく事故は増加した。果樹園などの農業をする者においては果物などの色の変化がわからず収穫に困り、料理においてはそれをする者全てが困難に陥った。

 民衆の不満が高まり、王宮の周りが騒がしくなってきているのは確かであった。表立った波乱はないものの、ストレスは確実に高まっていた。

 

「……舞台は整った」

 アルバートは王宮のバルコニーから庭を見下ろした。手には王宮の奥に厳重に隠されていた水晶玉を持っていた。ダークネスから放出された色彩が全て、アルバートの持つ水晶玉に吸収される。

 

「どういうこと……⁉」

 エンナは驚愕する。

 シャッフルは立ち上がったブラックに向けて、左手から強烈な冷気を放った。ブラックの全身を凍らせ、やがてはステージの階段に磔にするように氷らせた。氷はステージ全体を覆い尽くし、ブラックの部屋に蔓延した。エンナ、ルーブ、サンに被害は無かったものの、有無を言わせない出来事に三人は固まった。

「さよなら」

 シャッフルはそう言った後、漆黒の扉を通り抜けて姿を消した。

 残された三人は我に返り、部屋中の氷とブラックを見た。

「……どうする?」

 サンが問う。

「どうするって……」

 ルーブが言った。

「ブラックは騙されてたのよ。助けてあげないと……それに、このまま放っといたら死んじゃう」

 エンナはブラックに近づき、炎を出してまずは周りの氷を溶かした。

「仕方ないな」

 ルーブも熱湯を浴びせ、ブラックの周囲の氷を溶かす。氷が溶け、体が露わになる。

「……う……」

 ブラックが呻いた。

 エンナは赤い「熱」の色彩効果をブラックに当て、体を温めた。

「……何で俺を助ける?」

 ブラックが呟いた。

「あんたは黒幕じゃないんでしょ。生きて、真相を知る必要があるから」

「……そうか……」

 ブラックはうなだれた。エンナは全身を赤く照らし、体を早く温めるためブラックを抱き締めた。その温もりを受けて、ブラックは何かを悟ったように目を伏せる。

「……お前の赤は、熱さだけじゃない……何か、不思議な力を感じる……」

「え?」

 エンナはブラックを見た。

「……それは、自分で見つけるんだな……」

 ブラックは安らかな表情で目を閉じた。

 

「パラディナに戻らないと」

 眠ったブラックを体から放した後、エンナが言った。

「女王さまが危ない……‼」

 ルーブが焦りながら言う。

「でも、どうやって王宮まで戻るんだ⁉ここまで辿り着くのに三日かかったし、走っていくには無理があるぞ⁉」

 サンがそう言った時、眠っているはずの人物から声が聞こえた。

「俺のドラゴンを貸してやる」

 いつの間にか目覚めていたブラックが座ったままそう言った。

「起きるの早っ‼」

 エンナは驚く。

「……その前に、お前らの力で俺を回復してくれ。さすがに体がやばい」

 エンナとルーブとサンはブラックに緑色の光とオレンジ色の光を順番に当てた。

「ドラゴンって……」

 サンが微かに恐れながら、若干期待の高まった目でブラックを見る。

 体を完全に回復させたブラックは立ち上がり、部屋の壁まで近づき隠されていたスイッチを押した。途端に城の位置が下がり始める。

 ゴゴゴゴゴ……

 エンナたちが一階へ入った時と同じ位置まで三階を下げると、ブラックは部屋の北側のカーテンを引き、開き窓を開け、外に出た。

「来い」

 四人はブラックの後を追って外に出る。夕方のため、昼間よりやや弱くなった光がエンナたちを照らす。

「ニーグル‼」

 ブラックが空に向かって大声を張り上げると、どこからともなく全身黒い鱗で覆われた翼竜が現れた。全長五メートルはある体格に、エンナたちは気圧される。

「ドラゴンなんて……カラフィリアにいたのか⁉」

 サンが驚く。

「俺の星から一匹だけ連れてきたんだよ。シュバルツにはごろごろいるぜ」

 ブラックが両手を前に出し「座れ」と指示するように手を動かすと、ニーグルは頭を下げて大人しくかがんだ。ブラックはニーグルの首のあたりに座った。

「全員乗れ。王宮までの道を案内しろ」

 エンナ、ルーブ、サン、ブルームは順番に、慎重にニーグルの背中に乗った。ブルームは怖いのか、体を震わせている。サンはわくわくしながらニーグルが飛び立つのを待っていた。

「振り落とされんなよ」

 ブラックが合図すると、五人の体が宙に浮き、ニーグルが空に舞い上がった。

「うおおお‼」

 サンは興奮した。

「行け‼」

 ニーグルはもの凄いスピードで空を飛び始めた。行く方角は南西だ。

「きゃああああー‼」

 ブルームは恐怖で叫び声をあげた。必死でニーグルの背中にしがみつく。

 ニーグルはぐんぐんと高度を上げ、ダークネスの街や遠くに見えるパラディナ、二つを隔てる広い海が下に小さく見えた。

「ひゃっほーう‼」

 サンはハイテンションで歓声を上げる。

 五人を乗せたニーグルは、パラディナの王宮へ向かっていった。

 

 日が沈み、辺りが暗くなり夜に入ろうとしている頃。時刻は午後六時を回っていた。

 王宮にいたジーバは廊下で壁にもたれかかり、メイドたちは食堂のテーブルで机に伏せ眠っていた。近くにはアルバートの入れた紅茶が入ったカップが転がっていた。女王の夫でありパラディナの王であるエンジは、病気で床に伏せているため、誰もアルバートが王宮の者たちを眠らせていることを知らなかった。アルバートは水晶玉を抱えると、再び医務室に戻ってきた。眠っている女王の前に水晶玉をかざし、何かをしようとしている。

「そこまでよ‼」

 エンナ、ルーブ、サン、ブルームが医務室にドタドタと入ってきた。アルバートは目を見開き、医務室の窓から外に飛び降りた。

「待ちなさい‼」

 エンナたちは王宮の玄関から外に出る。アルバートが王宮の庭に出ると、ブラックが待ち構えていた。

「……よお」

 続いてエンナたちが王宮の庭に辿り着いた。エンナ、ルーブ、サン、ブルーム、ブラックはアルバートと対峙した。

「アルバートさん、何で……」

 エンナが未だに信じられない、という顔つきで言った。

「……お前らの知らないことがたくさんあるんだよ」

 アルバートは冷徹な顔でそう言った。

「あの時、色彩魔法を教えてくれたのは、何だったんですか‼」

「戦う相手は対等じゃないとつまらないからさ」

「戦う相手、って……」

 エンナは瞳孔を見開き、体を震わせた。

「場所を移動する。来い」

 アルバートは身軽な体で飛び、王宮から離れた草原へ移動した。

「あっ、待って‼」

 エンナたち五人も急いで草原へ移動した。

 

「シャッフル」

 アルバートがそう言うと、王宮の方向からシャッフルが現れた。

「お前、どこからやってきた……‼」

 ブラックが凶悪な表情でシャッフルを睨む。

「さあ?」

 シャッフルは人が通れる透明な鏡さえあればワープトンネルとして使うことができるのだ。それでブラックの城とパラディナの城を行き来したらしい。

「シャッフル、例のやつを」

「はいはい」

 シャッフルはアルバートに虹色に輝く小さな欠片を渡した。それは水晶玉にとてもよく似ていた。アルバートはためらいなくそれを飲み込んだ。

『⁉』

 エンナたちは顔をしかめる。

 アルバートの体の中心が虹色に光り、しばらくするとその輝きは収まった。

「くっくっくっ……」

 アルバートは体を小刻みに震わせ、笑い出した。

「あっはっはっはっは‼」

 五人は二人と対峙し、アルバートの様子を怪訝な表情で見ていた。

「これで僕は最強だ……」

 アルバートは手の平から炎を創造し、エンナたちの方へ放った。巨大な炎が五人を取り囲む。

「ルーブ、水‼」

 エンナがルーブを振り向いた。ルーブは手の平から水を創造し、炎に撒き散らした。炎は音を立てて消えた。

「このやろう‼」

 サンが雷を創造し、アルバートに向かってぶつけようとした。アルバートの体が緑色に光り、

 地中から樹木が現れた。電撃が樹に当たり、はね返る。

「なんだと⁉」

 サンがたじろいだその隙に、アルバートはサンに青い炎を放つ。

「うわっ‼」

 サンは数メートル後ろに下がり、距離を取った。間一髪で炎を避けることができたようだ。

「なんで、植物や青い炎が……⁉」

 ルーブが言った。

「アルバートさんは赤のマジッカー……『赤』の力しか使えないはずじゃ⁉」

 エンナは戸惑う。

「人間が色彩魔法を使うには色の珠を体に取り込めばいい……だったら全ての色を持つ水晶玉の一部を取り込んだらどうなる?」

 ブラックは顔をしかめた。

「全ての色彩魔法が使えるってことか……‼」

 アルバートは醜い顔で笑った。

「ご名答‼俺とこいつが二人で組めば、どんな色も操れるってことなんだよ‼」

 アルバートは正面から見て左側に立っているシャッフルの左肩を右手で掴んだ。

「ああ、あとそこの緑髪の小娘。俺が王宮の秘宝だって言って渡した透明マントは俺の持ち物だ。シャッフルが俺にくれたものだよ」

 ブルームは驚愕した。

「さあ、派手なステージの幕開けだ‼」

 アルバートはシャッフルの肩を叩いた。それを皮切りに、シャッフルは巨大な氷柱を空中に何本も出現させ、五人に向けて放った。

「きゃあっ‼」

 エンナとブルームは自身の身を庇った。辺りに冷気のためか白い煙が充満する。ルーブとサンは、それを突っ切り煙から姿を現し、シャッフルに向かっていった。ルーブは水、サンは雷を創造し、二つを絡み合わせトルネード攻撃をシャッフルに放つ。シャッフルは透明な水晶のバリアを攻撃が斜め上に反射するように出し、当たるのを防いだ。

「フフ」

 シャッフルは笑い、左手から冷気を発した。二人の全身が一気に氷った。

「ルーブ、サン‼」

 ルーブは青い炎、サンは雷を創造し氷を壊した。息をつく間もなくルーブは硫酸銅を飛ばす。シャッフルは再び透明なバリアで身を守る。ルーブは弾き返された硫酸銅を液状に変化させ、再びシャッフルに向けて放った。シャッフルは全身から風を創造し、液状の硫酸銅を吹き飛ばした。液体が辺りに飛び散る。

「くっ」

 ルーブは顔を腕で守り、表情をしかめる。

「いい攻撃だね……でもまだ」

「サン‼」

 ルーブの声で、サンは雷を一直線上にシャッフルへ撃った。シャッフルは素早くガラスの破片のようなものを右手に創造し、それのみで電撃を防いだ。破片を動かし角度を調整し、電撃をサンの方へ跳ね返す。

「うっ‼」

 撥ね返ってきた電撃を避けようとあわててサンは顔を右に動かしたが、左頬にかすってしまう。

「強い……‼」

 サンは頬を左手でこすりながら呟いた。

 エンナは炎、ブラックは黒い色彩効果をアルバートに向けて放った。アルバートは右手で水を、左手で赤い色彩効果を放ち、炎を消し黒い光線を相殺させた。エンナは続けてルビーを飛ばしたが、アルバートが片手で飛ばした赤い石の方が数も多く素早く、ルビーを弾き飛ばしエンナの左肩に命中させた。

「あっ……‼」

 エンナは後ろに下がり、左肩に刺さった赤い石を抜く。少量だが血が流れ出す。

 ブラックは手に力を込め、黒い色彩の光線を撃ち続けた。アルバートは更に力を入れ、ブラックの光線の二倍ほどの力で押し返す。赤と黒の光がぶつかり、黒は赤い光に掻き消されそうだ。

「……ぐっ」

 ブラックは表情を歪める。

「俺が一体何年マジッカーをやってると思ってんだ……三日前に色彩魔法を覚えた奴らとは訳が違うんだよ‼」

 アルバートの光線がブラックを押し切り、ブラックを吹っ飛ばした。

「シャッフル」

 アルバートが視線で合図した。シャッフルは指を鳴らす。エンナたちの周りから、酸素が消える。

「……⁉」

 ブルームの顔色が変わる。

「……‼」

 ブラックも、シャッフルが何をしたか気付いたらしい。

 ルーブは素早く前に飛び出し、熱湯をシャッフルに向けて放った。不意を突かれたシャッフルは湯をかぶる。

「あちっ」

 続けてサンがシャッフルに向けて雷を放った。シャッフルは反応し避けようとするが、熱さで目をつぶったため反応が遅くなり、半分当たった。途端に消えた酸素が元に戻り、呼吸ができるようになる。どうやら、シャッフルにダメージを与えれば効果は解けるらしい。

「……っは‼」

 ブルームが水中から顔を出した時のように呼吸を喘いだ。

「危なかった」

 ルーブはそう言い後ろに下がった。サンもシャッフルから距離を取る。

「……さっさと息絶えればいいものを」

 アルバートは悲愴な顔でエンナたちを見下した。

「アルバートさん‼教えてよ、何でこんなことをするの⁉一体、何があったの‼」

 エンナは悲痛な表情で叫ぶ。

 アルバートは哀愁漂う顔で黙り、しばらくしてから口を開いた。

「まだそんな呼び方をするのか……」

 アルバートはエンナの瞳を真っ直ぐ見た。

 

 

「俺はカラフィリアやシュバルツより遥かに小さな星、『エメシス』の王子だった」

 エンナたちは驚き、ざわめいた。

「エメシスは色彩のない星だ。民衆たちは色彩豊かなカラフィリアに移り住んだ。だが俺にはプライドがあった。まして王子だ。俺はエメシスに残り続けたが、遂には王や女王、恋人までカラフィリアに移ろうと言い出した」


「なんでですか!父上と母上は、星を見捨てるんですか⁉」

 アルバートは王に詰め寄った。白を基調とした、首回りや袖の部分が刺繍が施された服を着ている。資源が豊富なエメシス星の、地中奥深くから採られる石油で作られた高級品だ。

「仕方ないだろう。民がカラフィリアに住むことを望んでいるんだ」

「俺は反対です!」

「……人間とは、より美しい場所に住みたいと思うものですよ」

 女王がなだめるように言った。

「エメシスが美しくないというんですか!」

 

「エメシスは俺の故郷だ。それを捨ててまで他の星に移るなんて俺には考えられなかった。けれど結局は俺以外の奴は全員行っちまった。自分の星を捨てて」

 エンナは真っ直ぐにアルバートの瞳を見つめていた。ルーブやサン、ブラックたちも、攻撃を止めてアルバートの話を聞いていた。

「カラフィリアから半分だけ色を吸い取り、エメシスに与えれば民は戻ってくると考えたが、王宮の書籍を読む限り、もともと色彩のない星に色を与えることは不可能だと知った。過去に何度かエメシスの人間がそれを行ったが無理だったという記述もあった。俺は行き場のない悲しみと怒りをどこにもぶつけることができなかった」

 

 アルバートは誰もいなくなった、寂れた王宮に一人住んでいた。三つ並んでいる椅子の一番右側に、憂鬱そうにうなだれ座っていた。かつてエメシスの王と女王が座っていた、左側と真ん中の空席となった椅子を見つめて。それが、今から五年前のこと。アルバートが二十三歳の時の話だ。

「……初めまして」

 突然の来訪者だった。

 

 背は百五十五センチメートル程で、水色のシャツの上に白いランニングシャツを重ね着し、薄水色のズボンを穿いている。足元の靴は真っ白だ。髪は白っぽく、前髪は前から見て右側だけ微妙に目にかぶさっていた。髪は肩にかかる程度まで伸びており、全体的にボサボサだ。

 

「僕はシャッフル。君に、話があって来たんだ」

「話……?」

 アルバートは訪ねてきた少年を見て驚いた。推定十四歳ぐらいだろう。なぜこんな少年が自分を訪ねてきたのか不思議だった。

「これを見てくれ」

 シャッフルは半透明な水晶玉をアルバートの目の前にかざした。

「これは僕の曽祖父の兄から受け継がれてきたものだ。色彩を吸い取ったり、放出したりできる力がある」

 シャッフルは水晶玉を見た。それは透明度はさほど高くないが、独特な輝きを放ち、見る者を引き付ける力があった。

「……色彩……ね」

 アルバートは呟いた。

「あいにく、人の肌や目の色しか、色というものを見たことがないんでね。そう説明されても、それにどういう使い道があるかわからないが」

 アルバートの言葉に、若いシャッフルはフッ、と笑った。

「カラフィリアには、余分なほどの色彩が溢れてるんですよ」

「……その星から色を吸い取ったところで、エメシス星に色彩を与えることは不可能なんだよ」

「なんの話をしてるんです?」

 アルバートはシャッフルの顔を見た時、得体の知れない恐怖に襲われた。瞳孔は不気味に開き、口は歪めながら上に吊り上げられている。こいつはただの少年なんかじゃない――

 ――こいつは、誰だ?

「僕が話したいのはそんなことじゃないですよ」

 シャッフルの表情が最初に現れた時と同じように戻った。アルバートは右手に手汗を感じながら手の平を握りしめる。

「八百五十二年から八百五十八年の六年にかけて、シュバルツから色彩が完全に消えたのはご存知ですか?」

「……ああ、僕が十八歳ぐらいの時だろう。なんとなくそんな話は聞いたよ。ただ、星は性質によって色彩が徐々に消えていくっていう話もあるから、自然現象だって結論だった。ただその時はカラフィリアに王や民たちが移り住んで、それどころじゃなかったから、特に気に留めなかったが」

「八百五十二年には、カラフィリアの女王がシュバルツに調査に来てるんですよ」

「……」

 アルバートは怪訝な表情をした。

「何かおかしいと思いません?」

「……何がだ」

「カラフィリアの女王がシュバルツに何かをした……とかだったら」

 アルバートは黙ったまま目線を横にずらし、考え込んだ。

「……色彩魔法を、ご存知ですか?」

 アルバートは訝しげな表情のまま顔を上げた。

「色彩豊かなカラフィリアで使える魔法です。もちろん、吸い取った十分な色彩があれば、どの星でも使えないことはないですが」

 シャッフルは水晶玉を掲げた。

「例えば『赤』を受け継げば赤いものを操れます。生み出すことも可能です」

「……それは……すごいな」

「水晶玉を取り込めば、全色を操ることも可能ですよ」

「……」

「そうすれば、誰もあなたに敵いません」

「……どういうつもりなんだ?」

 シャッフルは微笑んだ。

「君から全てを奪った、色彩豊かなカラフィリアが憎くないか?」

 シャッフルは口調を敬語から地に戻し、低い声で囁いた。

「エメシスにだけ色彩が無いなんて不公平だ。カラフィリアから色彩を全て奪い取って消してしまえば、宇宙の星は全て平等だ。それに、吸い取った色彩の力でカラフィリアをめちゃくちゃにしてやったっていいんだ」

 

 うなだれて座ったままのアルバートにシャッフルは最後、振り向きながら言う。

「君にその気があるなら、最初にパラディナの女王、ミルフィーネの所へ行くといい。彼女はカラフィリアで一番優秀な色彩能力者だし、バカがつくほどお人好しだ。行き倒れたふりでもして倒れてれば、きっと君を受け入れてくれるだろう」

 シャッフルはアルバートの目の前に水晶玉を置いた。そして、背を向け静かに王宮から去っていった。

 その三ヶ月後、アルバートはカラフィリアに行き、王宮の前に倒れて女王に拾われた。

 

 アルバートは悲痛な表情で顔を歪ませた。その表情は憎しみがあり、痛々しく、空虚ささえ感じられた。

「でも、これじゃまだ足りないみたいだ」

 アルバートは目をつぶったままシャッフルに右手をスッと差し出した。シャッフルは隠していた水晶玉をどこからか出し、アルバートに渡した。

「この世界を壊すには、もっと強大な力が必要だ」

 アルバートは右手に持った水晶玉を胸の中心に押し付け始めた。水晶玉が少しずつアルバートの体に入り込み始めている。

「何をする気⁉」

 エンナは叫んだ。

「止めるぞ‼」

 ルーブはそう言い、サンと共に走り出した。サファイアと雷をアルバートに向かって飛ばす。

 すかさずシャッフルが分厚い透明な四枚の板を出現させ、アルバートと自身の二人を囲み、攻撃を防いだ。

「それをさせるな‼」

 ブラックも叫び、巨大な黒いダガーを何本もバリアに打つ。だがバリアは強固で、ダガーは撥ね返り下に落ちる。ブラックはめげずに黒い光線をバリアに撃ちつけた。

「お前らも手伝え‼」

 エンナ、ルーブ、サン、ブルームもそれぞれ自身の色の光線をバリアに撃った。透明な板は衝撃に耐えきれず、少しずつひびが入り、最後は割れた。

 煙があたりを舞い、二人の姿が見えなくなった。四人は煙を突っ切り、二人を捜した。

「どこ⁉」

 さっきまでいた場所にアルバートとシャッフルの姿が無い。エンナは勘が働き、上を見た。

「あそこよ‼」

 エンナは空を指差した。アルバートがシャッフルに支えられ、二人揃って空中に浮いていた。どうやら二人の体に風を纏わせているようだ。

「遅かったね」

 シャッフルがせせら笑いをした。

 アルバートの体に水晶玉が完全に取り込まれ、一体化した。アルバートは醜く笑う。

「あはははははは‼」

 アルバートは右手から赤、青、黄、左手から緑、紫、黒の光線を出した。さっきとは威力が桁違いで、かすった王宮の柱を軽く吹っ飛ばした。光線が当たった地面が隕石でも落ちたかのように大きく削れていた。

「なっ……何よこれぇ⁉」

 エンナはとてつもなく慌てた。

「こんなの……ありかよ」

 サンは上を見上げ、一筋の汗を垂らした。

「みんな、協力するぞ‼」

 ルーブは冷静に、手の平を差し出した。五人の力を合わせて対抗するつもりらしい。

「手をつなぐと色彩効果が倍になるんだ。五人で手をつないで対抗するんだ‼」

 ルーブはブルームとブラックに説明する。左からエンナ、ルーブ、サン、ブルーム、ブラックの順に並ぶと、全員が横一列に並び手をつなぎ、エンナとブラックはそれぞれアルバートとシャッフルに向かって手を突き出す。

「っは‼」

 アルバートは両手を突き出した。ブラックの右手、エンナの左手からそれぞれ赤、青、黄、緑、黒を混ぜた黒に近い灰色の光線が発射される。アルバートは両手から虹色のような全色が混じった光線を発射させた。アルバートの右手はエンナの手、左手はブラックの手から出る光線に向けられる。

「ぐ……」

「ああああ‼」

 ブラックは唸り、エンナは叫んだ。五倍の力になった光線はアルバートの両手から出された光線とぶつかり、火花を散らした。押し押されの力勝負が始まった。

「みんな、もっと力を込めて‼」

「集中しろ‼」

 エンナとブラックは皆に指示を仰ぐ。エンナ、ルーブ、サン、ブルーム、ブラックはそれぞれ体を自分の色に光らせ、集中した。

 真ん中のあたりでぶつかっていた光線がややアルバートの方へ押す。

 アルバートは眉間にしわを寄せ、一気に力を放出し光線を二倍の威力にし、あっという間に五人を吹っ飛ばした。

『うあああああ‼』

 五人は地面に転がり倒れる。それぞれが怪我を負った。

「俺の中にはこのカラフィリア中の色彩の力が詰まってんだ……五人程度が力を合わせたところで勝てるわけがないだろう」

 アルバートは冷たく五人を見下ろした。

「……だめ」

 エンナは倒れた体を起こし呟いた。

「勝てっこない」

 エンナは歯を食いしばる。

「あきらめんなよ‼」

 ルーブがエンナを叱咤する。

「そうだぜ……そんなこと言うなんて、エンナらしくない」

 サンも瞳を向け、笑いながら立ち上がり、エンナを励ました。

「まだためしてないこと、いくらでもあるだろ」

 ルーブはエンナを支え立たせたあと、上を仰ぎ、シャッフルとアルバートを見た。

 

「さぁて……こいつらを倒したあと、どの国から潰してやろうか……まずは北の国、スノーストリームからか?」

 アルバートは両手をパンパンとはたき、下を見下ろした。

「この国はどうするんですか?」

 シャッフルは空中で風を操りながらアルバートを見た。

「パラディナはあとだ。メインは最後にやる」

 シャッフルは息を漏らして笑った。その吐息には冷たさがあった。

「最後ね……」

「何だ」

 アルバートはシャッフルを睨んだ。

「本当にやれるんですかね。まだ未練が残ってるんじゃないんですか」

「何の話だ」

 

「…だけど、一体どうやって倒すかだよな……」

 サンが口の端を切ったため出ていた血をこすりながら言った。

「えぇ⁉考えてないの⁉」

 エンナは目を開いたまま眉を吊り上げる。

「またあの攻撃くらったら、ただじゃすまないわよ⁉」

 ブルームが口を挟んだ。

「色彩効果がだめなら属性魔法で行くぞ」

 ルーブは四人に次の作戦を話した。炎、水、雷、植物、墨が交わるトルネード攻撃をアルバートに当てるつもりらしい。

「だが、次がだめだったらどうする?魔法のパワーは無限じゃない。あまり派手に使い続けると底が尽きるぞ」

 ブラックが言った。

「少し落ち着け。もっと有効な戦闘方法があるはずだ」

 ブラックがルーブを諭させようとした。

「……そんなこと言ったって……全員の力を合わせても勝てないんだ、さっきより力を入れて戦うしか無いだろ!」

 

「まだ情けが残ってるって話ですよ。だからパラディナを攻撃できないんじゃありません?」

 シャッフルは冷たさと空虚さの共存する顔でアルバートを見た。

「……」

 アルバートは冷徹な顔で黙る。

「実際、王宮だって柱をちょっとかすって壊しただけ。人がいる場所は避けているように見えますが」

「お前の言いたいことはわかった」

 アルバートは右手を王宮のある方向へ向けた。

「情けを捨てよう。どうせ壊すつもりなら、最初も最後も関係ない……」

 アルバートの右手に、虹色の光の球が見えた。その球はどんどん大きくなる。

「城に撃つつもりだ‼」

 ルーブの顔色が変わる。

「撃たせちゃだめ‼」

 エンナ、ルーブ、サン、ブルームは王宮の前に庇うように立ち、アルバートに向けて炎、水、雷、植物のトルネード攻撃を放った。

 アルバートは光の球を光線に変化させ、四人に向けて放った。先程よりも太い虹色の光線が四人のトルネード攻撃とぶつかる。

『うあああああああ‼』

 四人は必死に体中に気合いを込めたが、力量も質量も違うアルバートの光線にはかなわなかった。四人は向かってくる攻撃に圧され、弾き飛ばされる。幸いだったのは、王宮がそれほど被害を受けなかったことだ。

 しかし、地面に叩きつけられた四人はダメージが大きく、すばやく立ち上がれない。

「俺が甘かった……こいつらも、全員消さないといけないな」

 アルバートは細めた目を鈍く光らせる。再び右手を四人のいる方へ容赦なく向ける。

「うおおおおおお‼」

 遥か遠くから、人を数人乗せた一匹の黒い巨大なドラゴンが翼を広げてアルバートの方へ向かってきた。一番前に乗っている赤髪の男が叫ぶ。シャッフルは慌てて風を操りよけようとしたが、翼の風圧でアルバートと共に吹き飛ばされた。

 ドラゴンは空中を切りUターンし、ブラックの近くへ降り立った。

「ニーグル‼」

 ブラックはそう言い、ドラゴンの背中を見た。そこからラディ、グレイン、キャシー、ダーズ、マトーラが地面に降り立つ。

 どうやら、ニーグルがエンナたちを運んだ後、再びダークネスに戻り、ラディたちを連れてきたらしい。

 ブラックがラディたちを見る。

「ブラック様‼」

 我先にとラディがブラックに声をかけ、近くに走り寄る。

「大丈夫ですか⁉怪我は⁉」

 キャシーが負けじとブラックの近くに走り、甲高い声で尋ねた。

「俺は大丈夫だ。グレイン、キャシー、マトーラ、お前らの力を合わせてあいつらを治癒してやってくれ」

 三人は素直に怪我をしたエンナたちのところへ行った。残った二人も様子を見に歩いてきた。

「あ、あんたら……」

 エンナは怪我をした足を前に出しながら座ったまま、若干戸惑いながらラディたちを見た。

「ブラック様の敵は俺たちの敵。ブラック様の味方は俺たちの味方だ」

 ラディは笑いながらぶっきらぼうにそう言った。

 続いてダーズがどし、どし、と重い足音を立てながらエンナたちの近くへ来た。

「お前らを助けるなんて、本当は気に食わねぇんだがな。だが俺のボスが言うことに従わないのは……ナンだ、その」

「意に反してる」

 言葉がつまったダーズにマトーラは嫌みがかった助け舟を出した。

「さあ、早くやられたとこ出しなさい!」

 キャシーはグレインと手を重ね合わせ、緑色の光を出しサンとルーブの怪我をややSっ気を出しながら治した。マトーラはエンナの怪我を治癒する。

 ラディはずかずかとキャシーの隣まで歩きキャシーの手を引っ掴み、オレンジ色の光を三人に当てた。

「おらよ」

 キャシーは微妙に嫌そうな顔をしたが、大人しくオレンジ色の効果を当て続けた。

「ああ……えっと」

「どうも……」

「ありがとうございます?」

 サン、ルーブ、エンナはやや困惑しながら礼を言った。

「礼なんていいからさっさと立て。俺たちの敵はあいつらだろーが」

 ラディが空中で体勢を立て直しているアルバートとシャッフルを顎で指した。

「攻撃してきていない今がチャンスだ。全員で一気に畳みかけるぞ‼」

 ブラックが全員に指示を出した。左からエンナ、ルーブ、サン、ブルーム、ラディ、グレイン、キャシー、マトーラ、ダーズ、ブラックが並び、全員が手をつないだ。

「いくぞ‼」

 ブラックのかけ声で、エンナとブラックはアルバートの方へ手を伸ばす。二人の手から先程の二倍の威力の、黒い光線が発射される。

「……ちっ」

 アルバートは両手で虹色のバリアを出した。黒い光線がバリアに打ちつけられる。だがバリアは分厚く強固で、一筋縄では割れなさそうだ。

『っあああああああ‼』

 全員が雄叫びをあげた。

「シャッフル」

 アルバートは後ろに浮かんでいるシャッフルに目で「行け」と言った。シャッフルは風をアルバートに纏わせたまま、霧に身を隠した。

「くっううう‼」

 攻撃を当て続けた成果か、バリアにひびが入り、それを発端にひびが広がっていく。全員の体力が付きかけてきた頃、バリアが壊れた。

「よし、割れた‼」

 ルーブが叫んだその直後、全員の後ろを強い冷気が襲い、十人全ての首から下を氷らせた。

「うっ……」

「後ろから‼」

 アルバートは黒の色彩魔法でブラックホールを生み出した。その表情はどこか無慈悲で、感情のこもっていない機械のようだった。

「何をする気⁉」

 今までの様子とは違うと感じたアルバートの表情に反応し、エンナは氷を溶かしながら大声を張り上げる。

「カラフィリアを滅ぼした後、このままこの星の色彩を全て吸い取って、このブラックホールに放ってやる。そうすればすべての星の色が消える」

 シャッフルは歪んだ顔で笑った。

「なんでそんなこと⁉」

「星に色がないむなしさをお前ら全員にも味あわせたいからだよ‼」

 アルバートは憤り、再び虹色の光線を片手から放出させる。やっと氷から抜け出したエンナたちを散り散りに吹っ飛ばす。

「あ……っ」

 エンナたちは地面に叩きつけられる。

「そうだ」

 アルバートは思い出したように呟いた。

「この水晶玉、いや、俺の力を極限にまで発揮させよう……」

 アルバートは水晶玉を取り込んだ胸のあたりをさすり、目をつぶり息を大きく吸い込んだ後、両目をカッと見開いた。

 エンナの瞳から、今まで絶対に消えなかった夕焼けのような橙色が消え出し、金色の髪、肌の色も消え始めた。ルーブやサン、ブラックの手下たちも同様だった。

「な……‼」

 エンナは自分の肌の色が灰色に変化していく様子を見て顔に恐怖を宿した。

 変化はそれだけではなかった。マジッカーたちの体の中心から、それぞれが「受け継いだ色」が漏れ出した。

「全ての色彩を、我が身に‼」

 アルバートは両手を広げ、いかれた瞳で叫ぶ。マジッカーたちから漏れ出した色は全て、アルバートに吸収される。

「だめ……‼」

 エンナは立ち上がろうとしながら、赤い色が漏れる自身の体を押さえる。

「そんな……」

「やめろ……‼」

 ルーブやサンもどうにかして色が体から出ていくのを何とかしようとした。だがどうにもできなかった。

「こいつから力を全て奪われる前に倒すぞ‼」

 光線の直撃を避けた、ある程度まともに動けるブラックとダーズが黒と茶色の光線をアルバートに放つ。ラディ、グレイン、キャシー、マトーラもなんとか立ち上がり、加勢する。

「ふっ」

 アルバートは虫を潰すようにブラックたちを見、虹色の光線で六人を吹っ飛ばした。

「……そんな」

 エンナは空虚な目で飛ばされたブラックたちを見た。

 

 全ての色彩がアルバートに吸収された。マジッカーたちはもう、色彩魔法が使えないただの人間になってしまったのだ。

「これでもうお前らは無力」

 アルバートは右手を非情にエンナたちのいる方向へ向ける。エンナたちの目を絶望がかざす。

「フィナーレだ」

 アルバートは全色の力を右手にこめた。

 ――だが、光線は出ない。

「があああああああああああああああっ‼」

 アルバートの体から四方八方に様々な色が飛び散り、マジッカーたちの体に色彩が戻った。その後、バランスを崩したのかアルバートは地面に落下した。落ちた場所に煙が舞う。

「アルバート‼」

 エンナは立ち上がった。

 煙が晴れ、アルバートの姿が見えるようになった。起き上がり、心臓の部分を押さえている。体中から虹色の光が放出し、辺りに飛び散っていた。色を取り込み過ぎた体が暴走し、拒絶反応を起こしているのだ。

「うがあぁああああ‼」

 アルバートは苦しみ、もがき、胸を引っ掻きながら叫んだ。水晶玉を取り出そうとしていたが、どうすればいいか分からないようだった。

「……あいつはもうダメだ」

 ブラックが近づこうとしているエンナを制しながら言った。

「……もうダメ、って」

 エンナの体が震える。

「じゃあ、このまま死んじゃうの?」

「……そうなるな」

 ブラックは感情の希薄な声で呟いた。

「アルバートさん‼」

 エンナは走り出した。精一杯の赤の色彩効果を体に纏い、一直線にアルバートに向かっていく。

『エンナ‼』

 ルーブとサンが同時に叫んだ。

 アルバートの体から色彩が溢れ続ける。エンナはためらいなく走り、近づく。

「来るなぁああ‼」

 アルバートの左手から、エンナに向かって光線が発射された。目の前に光線が迫り、エンナは瞳孔を開く。

 王宮の方角から、巨大な白い光がアルバートとエンナを包んだ。光のせいで二人の様子が見えず、ルーブたちは何が起こったか分からなかった。

 王宮の方向から、ミルフィーネが姿を現した。最初に会った時と同じ白いロングドレスを纏い、白い手袋をはめ右手を光に向けている。

『女王さま……‼』

 ルーブとサンは叫んだ。

 女王は光を収縮させ、アルバートの体を中心に光を球体にした。しばらくすると光はパッと消え、それと同時に水晶玉がアルバートから分離され、地面に転がった。アルバートは力尽き、倒れる。エンナはすかさず転がってきた水晶玉を確保した。

「浄化の力か」

 ブラックは呟いた。

「女王さま……」

 エンナは歩いてくる女王の方を見た。

「間に合ってよかった……」

 女王は右手を下げ、安堵の表情でアルバートとエンナを見た。

「体の具合は……」

 エンナが尋ねた。

「もう大丈夫よ。ごめんなさい、もっと早く来れなくて」

 ミルフィーネは倒れたアルバートの側に寄り、体を白く輝かせながら抱き締めた。アルバートの顔から醜さが消えていった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 ミルフィーネの頬に涙が流れ、とめどなく溢れる。エンナは事情が分からず、ただアルバートと女王を見守ることしかできなかった。

 

 

 アルバートは夢を見た。まだ自分が幸せだった、十八年ほど前の昔の話。

 

「ねえねえ、アルバート、きれーなお花見つけた」

 軽い金色の、ゆるやかなくせっ毛を肩まで伸ばした桃色の瞳を持つ少女が、向かいでクローバーを探している赤髪の少年に目を輝かせながら微笑んだ。少女は、花弁が何枚にも重なった、直径四センチほどの小さなバラのような白い花をつかんで少年に見せた。

「ほんとだ、きれいだね。シャーロットに似合いそうだ」

 アルバートは笑った。少女の頬が赤く染まる。

「これ、たくさんみつけて編んだら、花かんむりにならないかなぁ」

 少女は花を片手に持ち、何かほかに組み合わせそうな植物がないかともう片方の手で探した。

「じゃあ、三つ葉と、クローバーの花を合わせて編んだら?そしたらその花がひきたつよ」

 アルバートは自分が集めていた三つ葉を少女に見せた。

「うーん、四つ葉もあったらいいんだけどなぁ」

 少女が少しだけ眉を下げながら白い花を見つめた。

「じゃあ、ぼくが探してあげるよ。どうせならたくさんつけよう。見つけてあげる」

「本当⁉うれしい、アルバート‼」

 少女は無邪気に笑った。

 

「君は本当に絵を描くのが好きだね」

 十四歳の夏、二人はとある湖畔に来ていた。シャーロットが風景画を描きたいと、きれいな湖を探していたところをアルバートが見つけたのだ。貴族の娘であるシャーロットの家は、王家と祖父の代から付き合いがあり、シャーロットは普通の学校に通いながらも王子であるアルバートと近しい存在だった。

「うん。ねぇ、カラフィリアっていう星、知ってる?」

「知ってるよ。でもエメシスはロケットの開発が他の星より遅れてるから、行くのはまだ無理だけど」

「その星……わたしたちの目や肌と同じように、自然や果物にも色が付いてるのよ。そんな世界に行けたら、ああ……どんな素晴らしい絵が描けるんだろう。想像するだけで素敵だわ」

「……そうだね」

 

「ねえ、いい加減考えを改めてよ。一緒にカラフィリア星に住めばいいじゃない。どうしてそんなに頑ななの?」

 少しだけウェーブがかった軽い金色の髪を背中まで伸ばし、淡い桃色の瞳をした女性が説得するように両手を広げてアルバートの前に立っていた。

「……色彩に興味はない。生まれ育ったこの白黒のエメシスの方がよっぽど落ち着く」

 シャーロットは眉をしかめ、瞳を潤ませた。王と女王がカラフィリアに移り住んでから一年経ち、すっかり変わってしまったアルバートに怒りとも悲しみとも言えない混沌とした感情が渦を巻く。

「住んでみたら考えが変わるかもしれないじゃない」

「……僕はこの星の王子だ」

 シャーロットは呆けたように目を見開いた。涙が頬を流れ、床に一滴、落ちた。

「……もういい」

 シャーロットはアルバートから背を向けた。淡い桃色のハイヒールを鳴らし、王宮の広間の扉の方へと歩く。

「……さよなら」

 シャーロットは扉を開けた。

 

 閉じていく扉が、彼女の姿を完全に消そうとした。

「……シャーロット……」

 

「シャーロット‼」

 痙攣したように我に返り、目を開けると、そこには女王の姿があった。仰向けに寝ているアルバートの頭は女王の膝の上に置かれていた。女王の顔には涙のあとがあり、少しだけ目を赤く腫らしていた。

「ジーバ、水を」

 女王は執事を呼んだ。ジーバはお盆に半分ほど水の入ったコップをのせていた。ジーバはお盆からコップを掴み女王に渡した。

「これを飲んで」

 女王はコップをアルバートに渡した。アルバートはぐったりした様子でそれを口に当てる。

「……うっ」

 水を全部飲み干したその直後、アルバートは思いっきり咳込んだ。アルバートの口から、水と一緒に虹色の欠片が出てきた。女王はすばやくそれを掴むとアルバートから離れた所に置き、ジーバから渡されたとんかちで虹色の欠片を破壊した。欠片は虹色の光を出して空に溶け込むように消えた。

「……シャーロットって……」

 エンナが思い出したように口を開いた。女王は瞼に影を落とす。

「そう、パラディナの王女と同じ名前だ……」

 アルバートは疲れた声で話し始めた。

「だから俺が王宮で王女に会う度に、恋人やエメシスのことを思い出して、復讐を忘れなかったんだ……」

「そのことに気付いたから、王女を離れた所に住まわせたんです……」

 女王は悲しげな声で言った。

「王宮で王女を見かけなかったのは、そのせいか……」

 ルーブが納得したように呟いた。

 

 夜の闇が辺りを覆い、ルーブの腕時計はもう深夜の十二時に差し掛かろうとしていた。

「捕まえたぞ」

 ブラックがシャッフルを縄で縛り、引きずりながらエンナたちの方へ歩いてきた。ラディ、グレイン、キャシー、ダーズ、マトーラと協力して捕らえたらしい。

「……どういうことか説明してもらおうか」

 ブラックは握った縄を強く引っ張りながらシャッフルを上から睨みつけた。ブラックの彫りが深くしわの多い強面の顔は、暗闇の中アオリで見ることで一層迫力が増していた。

「……えぇ……?」

 ボロボロのまま、シャッフルはブラックを見ながら脱力したように笑った。そのあとブラックから目を反らし、まだ何かできないかと考えているのか視線を揺らした。

「……こうするしかないようだな」

 ブラックはシャッフルの頭を掴み、片手に隠していた白い液体の入ったビンをシャッフルの口に当て、無理やり液体を飲ませた。

「……んっ……んっ‼」

 ビンの中の液体が全部なくなったところで、ブラックはやっとシャッフルの頭を放した。

「エホッ、エホッ……‼」

 シャッフルは飲ませられた液体を吐き出そうとした。だが、両手が塞がれた状態では喉に指を突っ込むことも出来ないため咳をするしかできず、飲んだものを吐き出すことはできなかった。

「その液体は……?」

 ルーブがブラックに問う。

「『真実の白』の力を混ぜた飲み物だ。これを飲むと真実しか言えなくなる。さっきそこの執事に渡された」

 エンナたちはジーバと女王を見た。『白の力を混ぜた』ということは、この飲み物を作ったのは女王ということだろうか。

「……さあ、お前の知ってることを全て話せ」

 シャッフルは恨めしそうにブラックを見ていたが、しばらくすると飲んだものが効いてきたのか口を震わせながら話し出した。

「……僕の曽祖父の兄はティックウィックだ」

 いきなりのシャッフルの告白に、エンナを含め、話を聞いていた者のほぼ全てが驚いた。

 ティックウィックとは百三十年前、カラフィリアの東北にある機械や工場で有名だった国「バケット・ギア」にいた独裁者だ。教科書にも載っており、エンナも名前ぐらいは知っていた。まさか旅に出る前、社会の授業で勉強した人物の名前がここで出てくるなんて思ってもいなかったが。

 

「ティックウィックが独裁政権をしている傍ら、その弟が『色彩の吸収や放出ができる鉱石』を発見し、バケット・ギアの民たちにも採集を命じた。その石を集め、磨き、丸い形にしたものが水晶玉だ」

 エンナたちは強張った顔でシャッフルの話を聞いていた。

「国中を採掘し、水晶玉は二つできた。だが、パラディナやウィンドラー、スノーストリームが結託してバケット・ギアの独裁政権を打ち砕いたため国民は解放され、ティックウィックと弟は捕まり、鉱石は発掘禁止とされ、水晶玉はパラディナとウィンドラ―に保管された」

「……PWS結託か」

 ルーブが呟いた。

「……社会で習ったな」

 サンが頷く。

 シャッフルは話を続ける。

「だが研究所の地下深くに水晶玉がもう一つ隠されていた。それを知っているのも地下室の鍵を持っているのもティックウィックの弟の息子……僕の祖父だけ。祖父は身を潜めながら水晶玉のことは誰にも話さず、一人研究をしていた。そして祖父はある日思い立ち、地下室に鍵を持って入った。するとそこには発掘禁止とされた水晶玉の『極めて透明な部分』が、水晶玉と、置き手紙と一緒に置かれてあった。そしてその手紙にはそれを飲み込めば『透明の力』が使えることが書かれてあった」

 シャッフルは長々と話し疲れたのか、息を吐いた。

「だが、祖父はそれを取り込んだあと何年か経って早死にした。祖父は息子……僕の父、ジャックに鍵と手紙を託した。その後、欲深かった父は透明の力を取り込み、色彩の力をも欲して八百五十二年に水晶玉をシュバルツの地中深くに埋め、そこからじわじわとシュバルツの色彩を吸い取った」

「八百五十二年……」

 アルバートはシャッフルを見た。シャッフルに「パラディナの女王がエメシスに来た年」と言われたことを思い出したからだ。

「その年は、私の一家が揃ってエメシス星に出かけているのは確かです。観光と、エメシス星にしか生らない果実を見てみたくて」

 ミルフィーネが若干戸惑いながら言った。

「そして四年後の八百五十六年、僕が六歳の時、父と共にシュバルツ星にあるブラックの城を訪ねた。その時に僕の父がブラックの心を操った。『カラフィリアの女王がシュバルツ星の色彩を吸い取っている』と嘘の情報を植え付けたんだ。そして六年経って完全に色彩が吸い取られたのを見計らうと、再びエメシス星に行き水晶玉をカラフィリアに持って帰った」

「……なるほどな」

 ブラックは苦々しく呟いた。

「俺は操られたままダークネスを乗っ取り、色彩を奪ったのか……」

 透明の力により心を操られた者の洗脳を解くには、力を使った者に誰かがダメージを与えなければならないのだ。

「僕は六歳の時、『透明な部分』を父から貰い、それを取り込んだ。僕は力を鍛錬させながら、シュバルツやエメシスに父と訪れた。そこでブラックやアルバートの様子を見た。そして僕の十八の誕生日、父に『あとはお前の好きにしろ』と水晶玉を渡された。ただ透明の力を使い、自分の思い通りにするだけじゃ面白くない。どうせなら色彩の力も使い、三つの星を巻き込んでやろうと思った」

 シャッフルは一通り話し終えると、電池が切れたたようにがっくりと顎を落とした。

 

「シュバルツの色彩が消えたのはシャッフルの父親のせいだったのね……」

 エンナは呟いた。

 ミルフィーネはアルバートをジーバに預けると、ブラックの正面に移動し、両膝、両手をついて深々と頭を下げた。

「私の星の者が、あなたの星にひどいことをして本当に申し訳ありませんでした」

 女王の思いもよらない行動にブラックは戸惑い、女王を見下ろしながら慌てた。

「い、いや、別にあんたが頭下げることじゃないだろ」

 女王は顔を上げると、エンナから水晶玉を受け取り、それを両手で持ちブラックの前に立った。

 女王が一度だけ水晶玉を優しく叩くと、玉から色彩が溢れ出し、辺りの景色に色が戻った。しかし、真っ暗な夜の中では色が戻ったことが判別しづらかった。

「夜が明けたら、色彩が元に戻っていることがはっきりと分かると思います」

 女王はエンナたちの方を向いて言った。その後、女王は中に色が半分だけ溜まっている水晶玉をブラックに渡した。

「これをあなたに……色彩が半分だけ水晶玉に封じられています。シュバルツに解き放てば、あなたの星の色は完全に戻ります」

 ブラックは女王の顔を見ると、絶対に誰にも渡すまいと決心したかのように水晶玉をしっかりと掴んだ。

 その後、女王はアルバートのところに再び戻った。憂いを帯びた表情で眼差しを向ける女王に、アルバートは虚ろな表情で見返す。

「……アルバートに何かあったことは、少なからず知っていました」

 エンナたちは少し驚き、顔を見合わせた。

「私の白の力で、アルバートのことを、真実を見たこともありました。だけど私は真実を知っても、色彩を分け与えることができないエメシス星に対してどうすることもできなかった」

「女王様は、アルバートの心が変わるまで、ただ愛し、尽くし続けていたのです……」

 ジーバはもどかしいような顔つきで言った。

 エンナは余韻の残る表情でミルフィーネを見た。

「……アルバートさんは悪くない、と思う……」

 エンナが言った。

「……エメシスに色彩が無かったことが、不幸を呼んだのよ。エメシスにもともと色があれば、こんなことは起こらなかった。アルバートさんだって、色彩のあるエメシスを好きになれたはずだよ」

「……そうだな」

 アルバートは目を閉じて笑い、瞼を開いて暗がりの中色が戻った世界を見た。

「……どうして彼女があそこまで心を焦がしていたのかが……この星に来て分かったよ……」

 アルバートはふらふらと立ち上がった。

「……シャーロットを探すよ。カラフィリアのどこかにいるはずだ……どうしても……顔を、見たい……」

 女王がすかさず横に移動し、アルバートの体を支える。

「まずは、王宮に帰って、体を休めてからにして下さい」

 アルバートは汚れた顔で女王を見つめる。

「……俺を、許してくれるんですか?」

「何を許すことがあるのですか」

 女王は涙した。

 

 シャッフルは手錠をつけられ、警察に連行され車に乗せられた。シャッフルの父・ジャックも早急にカラフィリア中で指名手配するらしい。

 ミルフィーネはアルバートを支えながら、エンナやブラックたちの方を向いて言った。

「みなさん、まずは私の王宮でゆっくり体を休めてください。人数分の部屋とお風呂、食事が用意してあります。ブラックさん一行も、どうか」

「やった‼」

「おおっ」

 エンナやサンは喜びの声を上げた。

「……なんつー利他的な人なんだ、あんたは……」

 ブラックは苦々しい表情で頭を掻いた。

「人の世話になるのは俺の性に合わないんだがな。……飯と風呂はいらない。寝床だけ借りさせてもらう」

 ブラックはラディたちの方に向き直った。

「お前ら、五時間だ。五時間経ったらニーグルに乗って出発するからな」

「ええー⁉」

「短すぎませんか⁉」

 ラディやキャシーたちは不満そうな顔で文句を漏らした。

「……早くしないと睡眠時間が減るぞ?」

 ブラックは威圧的な顔でラディたちを見下ろした。五人は血相を変えて王宮の方へ走っていった。

 エンナ、ルーブ、サン、ブルームも、疲れた笑顔を見合わせた後、王宮へ向かっていった。

 

 もうすぐ夜が明ける、仄かな光が街を照らし出す前。

 冒険に出る前、出発に備えるために寝た三人一緒の部屋で、エンナはテラスにもたれかかって外を眺めていた。

 

「……何してんだ?」

 カラカラとテラスに面した大きな窓を開けたのはルーブだった。朝方のため、五月とはいえ肌寒い風が部屋の中に入る。

「窓、しめてよ。サンが風邪ひいたら困るし」

 ルーブはテラスに上がったあと振り返り、窓を静かに閉めた。透明なガラス窓から見えるサンは寝ぞうが悪く、布団を剥ぎ、手を広げ、足をがに股にして寝ていた。すきま風が入るたび「うぅん……」と言い寝返りを打っていた。

 

「……景色を、見たくて」

 テラスの柵に腕を置いているエンナの左隣にルーブは立った。

「……そっか」

 暗かった空が段々と青ががってきた。雲は静かに、流れることなくとどまっていた。

「……世界に色が戻るのを見れる瞬間だもんな」

 二人はその時まで静かに待った。

 暗い藍色が鮮やかな青、明るい水色へと徐々に変化していき、白とオレンジ色の光が地平線の彼方遠くへ見えた。

「……きれい……」

 エンナは呟いた。

「ああ」

 ルーブは微笑む。

 

 白い光がパラディナを包み込み、太陽が顔を出した。山々には大らかな緑が色付き、庭園のバラや花畑の花は美しく色づいた。赤、ピンク、黄色、白、紫、青と様々な花が鮮やかに輝く。

 

 

「サンも起きて見ればいいのに」

「だな」

 パジャマの上着がずり上がりお腹が出ているサンをガラス越しに見て二人は笑った。体を横向きにしながら横腹をボリボリと掻くサン。

「……お城の料理食べ放題……」

 

 朝の六時。

 ラディとグレイン、ダーズとマトーラ、キャシー、とブラックの部下たちはそれぞれ三部屋に分かれて寝ていた。

「おら、お前ら、起きろ――っ‼」

 ブラックが乱暴にドアを開けてラディとグレインの寝ていた部屋に入ってきた。ブラックは寝ている二人のベッドを蹴り、反動で二人は床に転がり落ちる。

「五時間だっつっただろーが‼」

 ラディは部屋にかかっている時計を見上げる。針は六時を指していた。ベッドに入ったのが夜の十二時半だったので、実質五時間半寝ていたことになる。

「……じゃあ何で五時半に起こしに来なかったんスか?」

「……ブラック様だって寝坊したってことじゃないですか……」

 ラディとグレインがジトッとした目つきでブラックを見る。

 王宮のベッドが想定外に寝心地が良く、熟睡したにもかかわらず二度寝してしまったのはブラックの失態だ。

「……着替えて外に出とけ」

 ブラックはばつが悪そうにダーズとマトーラが寝ている隣の部屋に二人を起こしに行った。

 

 

 エンナ、ルーブ、サンは七時半に王宮の食堂へ行き、朝食を取ったあと、荷物を持って外に出た。既に朝食を食べ終わり、外に出て待っていたブルームが振り向く。一人じゃないと眠れないから、と彼女は三人が泊まったVIPルームの隣の部屋で寝ていた。

「おはよう、ブルーム」

 エンナが言った。

「おはよう」

 ブルームは爽やかに答える。

「朝起きて、外見たか?」

 ルーブが尋ねた。

「うん。感動した……」

「やっぱり色があるって最高だよなー」

 サンは明朗に笑い、改めて色彩の戻った景色を見た。目が覚めて窓の外を見た瞬間、「うおおお――‼」とオーバーリアクション気味に叫んだのは三十分前のことだ。

「おはようございます、みなさん」

 ミルフィーネが姿を現した。昨日とは少し違う、水色を基調とした清潔感のあるドレスを着ていた。

『おはようございます!』

 四人は明るく挨拶をした。

「……皆さんにお伝えしないといけないことがあります」

 女王はやや影のある顔で四人を見た。エンナたちは真顔になる。

「……皆さんが眠っている間、譲渡した色彩魔法の力を再び玉に封じ込めさせてもらいました。何の前置きもなしに行ったこと、申し訳ありません」

 ミルフィーネは全員が眠ったことを確認した後、エンナ、ルーブ、サン、ブルーム、ブラック、ラディ、グレイン、キャシー、ダーズ、マトーラ、アルバートの体から色彩の力を抜いた。そのため睡眠時間は三時間程度しかとっていない。ちなみにブラックたちには六時過ぎ頃、ドラゴンで出発する前にその旨は伝えたそうだ。

「……そうなんだ」

 エンナは自分の胸の中心をさすった。

「……気付かなかった」

 ブルームが言った。

「……あの力が使えないなんて、なんだか名残おしいな」

 ルーブは左手を少し前に出すと、青い物を創造するときのように手を動かした。

「水晶玉は再び王宮の奥深くに保管しました。あれを使う日が二度と来ないことを祈って」

 サンは空を仰いだ。

「……終わったんだな」

 ルーブ、エンナも王宮の庭から遠くの景色を見た。空は突き抜けるように青く、白い雲は微かに流れていた。芝生は青々とした緑で、遠くに見える街はそれぞれの屋根の色を並べ、小さな鳥がチュンチュンと陽気にさえずっていた。

 

 

 エンナは遅れることを連絡してから学校に行った。

 エンナが学校に着いたのはちょうど二時間目が始まる十時前だ。教室の前に着き、同じクラスに友達のいないエンナはいつものように黙ってドアを開けた。

 

 すると、教室でそれぞれ固まっていた女の子数名がエンナの方に押し寄せてきた。

「あっ、シャロラハートさん!」

「おつかれ!」

「冒険に出るなんて、すごい度胸だね」

「色を戻してくれてありがとう!」

 いきなりたくさんの女子に話しかけられて戸惑うエンナだったが、温かいものが胸の内にじわりとこみあげてきて、こんな気持ちは初めてだと思った。

「冒険の話聞かせてよ!」

「王女様はきれいだった?」

 まだ遠巻きに見ている女子は数名いたが、半分以上のクラスメイトたちがエンナに話しかけてきてくれた。

 

 

 休み時間、ひととおり話を終えたエンナは、ある女子グループの机に置いてある編み物を見て言った。

「そのリリアニー、かわいいね。どうやって作ってるの?」

 

 教室の外からエンナの様子をそっと見ていたルーブとサンは、顔を見合わせて笑った。

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