王国の欠陥
彼はこちらに顔を向け、はっきりと言った。
「我々がいれば、姿すら見せないだろう。」
「ちょ、ちょっと待ってな。」
そんなことよりも、一旦タンマ。
......ドワーフ?聞いたことないぞ。
エルフの話は散々聞かされたけど。
なんか...ヴァリエスも当然みたいに喋ってるし。
ついていけてないん私だけか???
「あのさ、ドワーフってまず誰なん?
私、さすがにそれは聞き覚えないんやけど。」
彼は少し呆れたように眉間を抑えた。
「会えばすぐにわかるさ。」
なんっも説明してくれへんのかい...。
「つまり、一人で行け--。ってこと?」
「そうだ。」
迷いはなかった。
「レンドフェル山脈は、異獣の目撃もある。
残念だが、安全は保証できん。」
...そんな無茶な話あるか?
「彼らの居住区がどこにあるかは、我々にはわからん。
少なくともこの広大な峡谷の“どこか”にある。」
彼が地図を指でなぞった。
闇雲に探すには、あまりにも広い......。
「近々、グレイリフトへ隊を出す。
もちろん途中までは同行するが、
峡谷に入ってからは我々とは別行動になる。」
ついさっき、
エイヴァルに伝えてたんはその話か。
山脈に異獣の目撃があって、さらにその奥の峡谷。
馬も使われへんし、異獣もおるかもしれん。
そりゃ動揺もするわな。
って、私もそうか。
魔獣がおる場所に1人で行かなあかんし。
昨日の”あいつ“みたいに、弱かったらええけど...。
「...ヴァリエス、ありがとうな。」
ババアの表情は、期待と不安が満ちていた。
帰るためには行くしかない。
「色々調べてくれてたんやな、忙しいのに。」
「気にするな。峡谷には別の用があるだけだ。」
ババアは地図を見た。
彼らの居住区の城壁には、印が付けられていた。
「たしか、鉄が不足してるんやっけ。ここに門を作ろうとしてんの?」
彼は頷いた。
「その通りだ。この国は周辺国を平定して以来、
魔獣から逃れるために壁を建設した。」
地図には3重の壁が描かれている。
ヴァリエス曰く、
”外壁“、”内壁“、”城壁“。と言うらしい。
--外壁と内壁の門は2つある。
森に面した草原側、
山脈に面した城への一本道だ。
私が最初に通った門は、”草原側の門“だろう。
「我々の拠点は蒼晶の直下。にもかかわらず、
壁を出るには雑区の内門を経由せねばならん。」
雑区--。
森側の内壁内、内門に隣接する居住区。
エリセルの言葉通りだ。
あの時、馬を降りた光景が蘇る。
おそらく馬は、外壁内を回って山脈側の内門から、
彼らの居住区まで運ばれているのだろう。
「有事の際、あれでは遅い。」
彼は真剣な表情で続けた。
「せめて我々の拠点の裏に、外壁へ直通する内門が必要だ。国民を守るためにもな。」
外壁の内側には広大な農地が広がり、
内壁の中には都市が収められている。
「農地はここだけなん?」
思わず口をついて出た。
これでは外壁が破られた時、どう対処するのだろう。
「いや、内壁内にもある。ここだ。」
彼が指差した一角は、外壁内の広大な畑に比べれば、
まるで庭園のように小さかった。
「この農地で、
王都周辺の人々は十分にまかなえる。
だが、その指摘は正しい。
外壁を破られれば、ほとんどの国民は飢えに苦しむだろう。
かと言って、私は意見を言える立場ではないんだ。」
彼は複雑な表情で下を向いた。
「......なんで?」
騎士長であり、公爵でもあるヴァリエスが意見を言えないなんて、私にはとうてい理解ができなかった。
こんなにも豪華な部屋に住んでいるのに。
「一度、王議会に案を提出したことがある。
この国では議会とは名ばかりだがね。」
彼は、一部外壁に国民を移住させ、
内壁内の農地を拡大する案を出した。
そこで彼は議会の連中に、
人間を壁にするのか。国民を危険に晒すのか。
と強く反発されたらしい。
...たしかに、その意見も一理あるかもしれない。
外壁内に住む者たちは、最初に敵と対峙する。
それなら今まで通り、農地にしていたほうが、
国としては都合が良いのかもしれない。
「もう一個、壁作られへんの?
まあ、無理やから悩んでるんやんな...。」
「魔獣だけなら、建設はなんとかなっただろうな。
だが今は異獣が出現している。
それに、資源も足りん、現実的ではない。」
すると突然、扉が強く叩かれた。
ヴァリエスが言葉を発するより前に、
扉が乱雑に開いた。
--「よお、異獣の騎士長殿。」




