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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
ユメツクリ
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転校生

 翌朝、陽射しの照りつけるなか学校へ向かっていた。

 変な噂になると嫌なので、アスハは先に行っている。

 昨日襲われたばかりだし、今日も休もうと決めていたのだが、ユメリに「がっこういけ」とうるさいくらいに言われて出てきたわけだ。

 あいつが言うには、今日は襲われないから大丈夫とのこと。

 なんでそんな事が分かるのかと訊いても「わかるから」としか答えてくれない。

 アスハとも相談して、ユメリには確信めいたものがあるようだし大丈夫だろうと従うことにした。


 通いなれた校門を通り玄関へ。

 どこからか吹奏楽部の練習の音が流れてくる。

 他の生徒に混じって教室に向かう道中、普段は何も感じないのに平和だなぁなんて感じてしまうあたり、疲れてるのかもしれない。


「……あれ?」

 教室に入ると、俺の席の後ろに見慣れない奴が座っている。

 いや、学校で見ないだけで、知っている奴だ。


 茶髪の長髪を後ろに束ね、気の強そうな顔立ち。

 普段はシンプルな服装だが、今は女子の制服を着ている楼園千種。


「ジロジロ見てんじゃないわよ気持ち悪い」

 いきなりな挨拶をしてくれる。


「……なんでここにいるんだよ?」

 今朝は来なかったから気でも変わったのかと思っていたが、まさか教室にいるとは。


「今日から学校に通うことになった」

「なんで!?」

「あんたを監視するために決まってんでしょ」

 冗談のようなことを本気で言ってやがる。

 確かに学校に来るようなことは聞いてたが、こんな急にかよ。

 せめて昨日のうちに教えておいてくれ。


「そもそも同い年なのか?」

「十九だけど、問題ないでしょ」

 留年生扱いでいいならな。

 目的があるとはいえ、よく堂々と来る気になったもんだ。

 それにこいつが座ってる席は佐藤の場所だったはずだが、いつのまにか移動している。

 俺が昨日休んでる間に替わったんだろうか?

 

「マジで俺を監視する為だけにここの生徒になったのわけ?」

「そう。表向きは家の引っ越しで転校してきたことになってるから」

 残り半年で高校生活も終わるって頃にか?


「……あのー、水衛くん」

 横から南雲が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「彼女、水衛くんの知り合い?」

 気がつけばクラス全員の視線が俺たちに集まっていた。

 そりゃそうだろう。

 知らない奴がクラスの席に座ってれば気にもなる。


「まあ……知り合いと言えば知り合いだけど」

 あまり説明したくない関係の知り合いである。


「良かったー、話しかけようにも話しかけづらい雰囲気だったから」

 楼園はクラスの連中に自己紹介もしていないようだ。

 しかし転校生ってのは、朝のホームルームで担任に紹介されてから登場するもんじゃなかったのか?


「ずっと職員室にいるのが嫌だったから、教室に案内してもらったのよ」

 だそうだ。


 南雲たちが話しかけづらいのもよくわかる。

 なにせこいつときたら、あからさまに近寄りがたいオーラを出しているからな。

 楼園的にはあまり話しかけて欲しくないのかもしれないが、そんなことは知ったこっちゃないので、みんなにこいつの名前くらいは教えてやろう。


「こいつの名前は楼園千種。理由は知らないけど転校してきたらしい」

「へー、この時期に転校なんて大変だね」

 敦も隣にやってきた。

 主に大変なのは俺だ。


「別に大変でもないけど」

 さらっと答える楼園。

 こっちの身にもなれ。


「あの、あたし南雲理緒です。よろしくね」

 にっこり笑って南雲は楼園との距離を縮めようとする。


「……よろしく」

 楼園の返事を合図に、他の女子も周りに集まりだした。

 みんな気になっていたんだろう。

 どうやら女子には強気になれないらしく、アスハの時と同様に楼園はある程度素直に受け答えしている。


「で? おまえは彼女とどういうお知り合いなわけ?」

 敦がニヤついてるが、お前が想像してるような関係じゃないからな。


「知り合いって言うより、ただ名前を知ってるだけだ。それ以上は知らん」

 この言い逃れもどうかと思ったが、本当のことを話すわけにもいかない。


 その後、朝礼で簡単に楼園の挨拶があり、今日から卒業までクラスメイトとして過ごすことになった。



 一限目の授業は現国。

 いつもなら眠気と闘っているところなのだが、背中に刺さる視線が気になってそれどころじゃない。


「………」

 振り向くと、相変わらずキッツイ目で俺を見てらっしゃる。

 目の前にいるんだからそんなじっと見てることもないだろうに、と思っても口には出さず、大人しく向き直った。



 二限目、数学。


「それじゃあ楼園さん、前に出てこの式を解いてもらえる?」

「嫌です」

 即答。

 指名した女性教師もそれにはさすがに驚いている。


「い、嫌って、わからないならちゃんとそう言いなさい」

「うるさいな。勉強なんて興味ないんだから、わたしに話しかけるな」

 教室の空気が凍った。


 先生、こいつは爆弾みたいな奴なんですから放っておきましょう。

 職員会議で楼園が問題児扱いされるのは時間の問題だろう。



「ねえ」

「……あ?」

 授業が終わった直後、背中をつつかれた。


「なにか食べ物持ってない? お腹空いたんだけど」

「まだ二限が終わったばっかりだぞ」

「朝ご飯食べてこなかったのよ」

 そりゃ腹も減るわ。


「残念だけど何も持ってない。女子ならお菓子くらい持ってんじゃねーの?」

 女子が休憩時間に何か食べてるのをよく見る。


「わかった」

 納得してどうするのかと思いきや、楼園は南雲のところへ行って話し始めた。


 しばらくして、南雲が机の中からスティック系のお菓子を取り出し、二人で楽しげに食べ始めた。

 どうやら食い物にありつけたらしい。


 しかしあいつの性格から孤立するかもしれないと考えてたけど、教師とのことは置いといて、案外クラスの女子とは上手くやってるようだ。

 一時はどうなることかと思ったが少し安心した。


 そして昼休み。


「楼園さん、お昼一緒に食べようよ」

 さっそく南雲が誘いに来た。手には弁当を持っている。

 南雲と昼飯とか、羨ましい奴め。


「水衛はどこで食べるの?」

 そこでなぜか俺に話を振る。

 なんだか嫌な予感がするんだが。


「……俺は食堂行くけど」

「ならわたしもそうする」

 ほらね。

 楼園は南雲の誘いを断って俺について来るつもりだ。


「飯食うときまでついてくんなよ」

「だめ。学校にいる間は水衛とずっと一緒にいるって決めてるんだから」

 周りがざわつく。

 その言い方はマズい。


「……えっと、二人ってそういう関係だったの?」

 ほらみろ!

 今の発言は勘違いしてくれと言ってるようなもんだ!

 しかも一番誤解されたくない南雲の前で。


「いや違うんだ! あの……なんて説明したらいいか……あっ、そうだ! みんなで行こう、みんなで食堂いこうぜ、な!?」

「え? でもあたしお弁当あるし」

「大丈夫! 食堂で弁当食ってる奴だって結構いるし、そうだな、敦も連れて行こう。おい敦どこ行った!」

 とにかく教室から出たい!

 出るとしても楼園と二人っきりじゃない状態で!


「オレはアスハが弁当作ってきてくれてるから行かねーよ」

 敦は拒んだが、今はこっちを優先してもらう。


「ならアスハも一緒に連れて行けばいいじゃねーか!」

「あ、ちょっと水衛くん!?」

 南雲と敦の手を掴んで強引に廊下まで引っぱっていく。


「あたしたちが一緒に行ってもいいの?」

 当然のようについてきた楼園に、南雲は申し訳無さそうにしている。

 もしやこのままずっと誤解され続けるんじゃなかろうな?


「別にいいよ。わたしは水衛が見えるところにいれば問題ないし」

「わー、ラヴラヴだねー」

 微笑む南雲。


「違う! 違うんだ、これには色々事情があって」

「テレなくてもいいよー」

 テレてねえよおおおおおお!

 楼園は誤解されていることに気づいているのかいないのか、それともそんなことはどうでもいいのか、言いたいことだけ言って口を閉じている。


「お、ちょうどいいところに来たな」

 敦の声に視線を向けると、アスハが三年の廊下に顔を出したところだった。


「あれ? みなさんどうしたんです……え!?」

 アスハの視線が楼園でピタリと止まる。

 なんだかすごく驚いてる。

 アスハも楼園が来ることを知らされてなかったようだ。

 知ってたら事前に教えてくれていただろうし、ヴィオラの奴、せめてアスハには伝えておいてくれよ。


「ああ、こいつは今日転校してきたばかりの楼園。なんか、ハルと良い関係らしいぜ」

「違うわ! 適当なこと言ってんじゃねーよ!」

 敦は俺が南雲を好きだと知っている。

 だからこいつの場合、百パーセントふざけて言ってるわけだ。


「あなた、一昨日水衛のふぐぅ!」

 何を言おうとしてるのか察して楼園の口を慌てて塞いだ。

 楼園とアスハはすでに俺の家で会ってるわけだが、アスハが俺に家に来ていることは敦には内緒にしている。

 本当の事を話すわけにはいかないし、変に勘繰られるよりは黙っていた方が楽なのだ。


「後で説明するから、二人が俺の家で会ってることは黙っといてくれ」

 他に聞かれないように耳元でささやくと、楼園は俺を睨んで口を塞いでる手をはがした。


「別に説明なんていらない。あんたらの関係なんて興味ないし、黙っといてあげる」

 見下すような視線に、何か勘違いしてるなと思いながらも「助かる」と礼を言う。

 こいつに勘違いされても何ともないからな。


 ふと視線を感じて隣を見ると、南雲が「わぁ」と言うようなちょっと照れている表情を浮かべている。

 気づけば俺と楼園はほぼ密着状態でささやき合っている状態だ。


「ちがっ、違うんだこれは――」

「大丈夫、大丈夫」

 南雲はニコニコしながらアスハの隣に移動した。


「みんなで食堂に行くことになったんだけど、アスハちゃんも一緒に行こうよ」

「あ、そうなんですか、わかりました」

 マズい!

 南雲は絶対変な勘違いをしている。

 かといって、いま焦って言い訳を並べてもそれはそれで不自然なので、言いたいことを飲み込んで我慢する。

 

「悪ぃな」

「ううん、いいよ。みんなで食べるのも楽しいし」

 敦の言葉にアスハは首を振った。


 少し出遅れたが、食堂はそれほど混んではいなかった。

 弁当組み三人に席を確保してもらい、俺と楼園は食券を買って列に並ぶ。


「ねえ、前会った時も思ったんだけど、あのアスハって子おかしくない?」

「……なにが?」

「うまく言えないけど、普通の人とは違う気がする。ヴィオラと同じ匂いがするっていうのかな」

 鋭い。

 こういうところは俺と大きく違うんだと改めて思う。


「だからって警戒してるわけじゃないけど」

「……どうして?」

「あの子は悪い人間じゃない」

 キッパリと言い切る。


「そんなの見た目でわかるもんじゃねーだろ」

「見た目でなんて言ってない。直感よ」

 それがどれだけ正確なものか疑わしいね。

 どうしてその直感がユメリにも働かなかったんだよ。


「それじゃ食おうぜ」

 三人は俺たちが戻るまで食べずに待っていてくれた。


 俺たちが食い始める中、楼園はスマホを取り出して電話をしていた。


「どうしたの?」

 電話はすぐに終わり、通話を切ったのを見計らって南雲が尋ねる。


「ちょっとね。ウチの犬にご飯をあげたか訊いてたの」

「え? 楼園さんの家ペットいるんだ」

 それは俺も初耳だな。


「子犬を拾ったのよ。まだ生まれて間もないくらいの子ね」

「え、見たい! 写真撮ってない?」

「ない」

「どんな子なんですか?」

 二人の会話にアスハも加わる。


「見た目は柴犬みたいだけど、雑種かな。ペット飼うのなんて初めてだからどう育てていいかまだ全然わかんないのよ」

「それならハルに教えてもらえばいいじゃん。こいつ実家で犬飼ってたらしいぜ」

 余計なことを言う敦。


「え!」

 ギロッ!

 楼園よ……なぜ睨む。


「水衛、犬飼ってたって本当?」

「……お、おお」

「学校終わったらわたしの家に来て。色々訊きたい」

「ええ!?」

 絶対イヤだ。


「いいなー。あたしも見にいっていい?」

 南雲が自分もと手を上げる。


「いいわよ」

「やった!」

 なにを言い出すかと思ったが、放課後に南雲と過ごすなんてことはまずなかったので、良しとしよう。


「なんか面白そうじゃん。なあ俺たちも行っていいだろ?」

「えっ!?」

 敦の言葉に驚くアスハ。


「いいわよ」

 迷うことなく頷く楼園。


「ええっ!? あのっ、ちぐ……楼園先輩、急にみんなで行ったらお家の人に迷惑なんじゃ?」

 迷惑というより、アスハとヴィオラは直接会ってはいけない。


「気にすることないよ。わたし両親いないし、一緒に暮らしてるのは気楽な奴だから」

 両親がいないという言葉に三人が複雑な表情を見せるが、楼園が気にしている様子はなかった。


 食堂を出るタイミングで、皆に気づかれないようにアスハに聞いたところ、ヴィオラに連絡してみるとのこと。

 正直なところ、犬の飼い方なんてスマホでいくらでも調べられるとは思うが、南雲と一緒に居られる数少ない機会だ、ここは黙っておこう。

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