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悪花狂乱  作者: 謙作
第五章 過去に沈む真実を探して

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淑女の内輪の悪ふざけ


 サージェスと店で別れた後、面倒ではあったが、一度街から出て尾行されていないのを確認してから劇場へと向かった。

 サージェスは害を与える気は無いと言っていたが、危害を加えなくとも監視している可能性もある。警戒するにこしたことは無い。

 誰もつ()けてきてない事を確認しながら、人気の多い正門は避けて関係者のみ使用出来る裏口から入ろうとすると、人影が見えた。


 (……あれは…)


 「カナンか。何か忘れ物でもあったか?」

 俺が声をかけるよりも先に声をかけられた。

 「いや、媛さんに報告する事が出来てな。……あんたはどっか出掛けんのか?リンドウ。」

 先程媛さんのいた貴賓室の前で番をしていたリンドウが、簡易ではあるが最低限の武装をして立っている。

 劇場(ここ)で媛さんの護衛をしている時はやたら見栄えに拘ったような(おそらくは媛さんの指示で)騎士然とした服に長剣をぶら下げているだけの姿なのだが、今は厚手の服の上に軽鎧(けいよろい)、腰に長剣(ロングソード)短剣(ショートソード)を差し、手足も軽い革製の小手やらブーツやらを装備している。

 「どこか遠出でもするのか?」

 視線を入り口より少し離れた場所へ向ける。

 閉館中の今は使われていない厩があるのだが、そこには中々に立派な馬が一頭繋がれている。

 その馬にも色々と荷物がかかっているのだ。


 「…あぁ。」

 フジに劣らぬ無表情で短く返してきた。

 しかし奇妙な違和感を覚えた。


 (……動揺したか?)


 表情はいつも通りに無表情の筈だが、僅かに動じた様子に感じるが。


 (なんかの密命とかか?)


 あまり内容を探られたくないのかと察し、俺はその事には触れずに媛さんの居場所を訊く。

 朝報告しに行った時と変わらず貴賓室にいるらしい。ホールが修繕された後の演目についてデュランタや閣下と話しているとの事だが…、


 (サージェスの言ってた事を確認するにはタイミングが悪いか)


 デュランタのヤツが俺に攻撃を加えようとしていたとサージェスが言っていたが、流石に鵜呑みにしてはいない。

 サージェスが嘘をついている様子は無かったが、見間違いかそういった芝居を打っていた可能性もあるのかもしれない。

 デュランタを仲間として信じているとかではなく、そんな事をするメリットがアイツにはないだろう。媛さんや他の連中がいる中でこの話を出せば要らん混乱が生まれるかもしれない。


 (媛さんにサージェスの件を報告をした後にでも呼び出せばいいか)


 そんな事を考えている内にリンドウは出かける準備を終えたらしい。

 「数日程かかるかもしれん。暫くの間留守を頼む。」

 ひらりと軽い動きで馬にまたがりながらそう言うと、慣れた動きで手綱を捌けば、馬が街道へと身体を向ける。「ハッ!」と短くリンドウが手綱を振ると馬は街の外へと繋がる門の方へと駆け出した。

 北門の方に向かったようだ。


 (北……、あの荒野がある方角か。)

 

 ふと、そんな事を考えながら俺は再び貴賓室へと向かった。




 貴賓室の前にはリンドウの代わりに別の男がドアの脇に立っていた。

 劇団に所属している誰かだろう。見覚えはあるんだが、直接関わりのある奴でもないので名前は覚えてない。

 その男に、媛さんに新たに報告したい事があると告げれば、そいつはドアをノックし中に声をかける。その声に応じて入室の許可が下りたので俺はそのままドアを開いて中へと進む。

 そこにはデュランタ、フジ、分かってはいたがやはり閣下の姿もある。面倒くさいと云う心情が顔に出ていたのか、閣下が鋭い視線を俺に一瞬向けて来たが、幸い説教は始まらなかった。


 (媛さんがいるから………ぁ?)


 朝方媛さんの座っていたお高そうな椅子と高級感を押し出した机の方に視線をやって、思考が止まる。

 「カナンくん、報告したい事って……どうしたの?」

 訝しげな顔を俺に向けてくる、その席にいる人物に俺は思わず眉をひそめ、室内にいる他の連中に視線を巡らす。

 デュランタやフジ、閣下の様子を見るが三者とも訝しげな反応を返してくる。…いや、

 「カナンさん、媛様の御前でその態度はなんですか。改めて下さい。」

 フジが厳しい視線を俺に向けて来た。

 ピリリとした視線と口調に、俺は顔をしかめる。どうやら本気で言ってるようだ。


 「……。」

 チラリとデュランタへとまた視線を向けるが、デュランタの方も本気で俺の反応に戸惑ってるようだ。

 いつもだったらこの辺りでニマニマした顔で声をかけてくる筈だが、デュランタ提案の悪ふざけでもないのか?

 閣下のいる前で少し悪ノリが過ぎるというか、怖いもの知らずにも程があるだろう。

 この場がどうなるか若干不安を感じながらも仕方なく口を開いた。





 「……マドンナ。お前なんの冗談だ?」






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