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悪花狂乱  作者: 謙作
第五章 過去に沈む真実を探して

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華と追求の炎


 目の前に座る男の口から出た名に、暫くの時間俺は無表情のまま凍りついた。


 (何故…この男がその名を……)










 かつて俺のいた孤児院代わりの小さな教会。

 辺鄙な町から少し離れた小高い丘の上にあったそこは夜更け突如男たちに襲われた。

 単なる野盗なんかではないと一目で分かった。

 僅かな灯りに照らされたその男たちは、それぞれが銀色の立派な鎧を身に纏い、薄暗い中でも映える真っ白いマント。

 かつて俺が憧れ、今は忌まわしいとさえ思っている聖騎士の姿があった。


 たまたまその日、寝付けなかった俺は…確か外にあるトイレへと向かおうとしていた。

 教会の扉を叩く音がした後、牧師の爺さんが扉へ向かうのに気づいた俺は祭壇の隣にあるドアの内側からそちらを覗いた。

 聖騎士が数人見え、最初は師匠が仲間と見回りかなんかに来たのだと思った。

 教会の小さいながらも立派な扉を開いて牧師の爺さんが対応していた。最初は穏やかに…しかし、徐々に言い合うように声が大きくなっていった。

 無理矢理爺さんを押しやって中へと足音を立てながら入ってくる異様な雰囲気に、俺以外の子供たちも気づいたのか起きてきた。

 ――その後はハッキリとは覚えていない。

 逃げろと叫ぶ爺さんを聖騎士の一人が斬った。

 皆が怯え逃げ惑う中、中途半端に剣を習っていた俺はいきり立ってその斬った相手に飛びかかり、逆に左肩からざっくりと斬られそのまま倒れた。


 その後、目を覚ました時には既に学舎の真っ白い石壁に囲まれた部屋の中に一人横になっていた。

 斬られたはずの左肩は――元のとおりだった。あの当時は切られたと思ったが峰打ちだったのかとも思ったのだが……



 そして、それから終わりの見えない地獄が始まった――














 創成の学舎と教会は繋がりがある。

 それなりに成長し、そこそこの世間を知った頃にはそう考えていた。

 孤児院の仲間と学舎で接触する事はなかったが、かろうじてハム…アラバハムを見る事はあった。

 あの襲撃の後、仲間たちと共に同じ場所に放り込まれていれば当然理解できる事だ。

 牧師の爺さんが斬られ、無謀にも飛びかかった俺が返り討ちにあったその後に、俺たちは聖騎士たちにあの得体の知れぬ場所へと売り飛ばされたのだと。


 聖騎士は教会の顔とも言える。

 俺達のいた教会とは違い、デカい街の聖堂に主に在駐しており、お偉いさんの護衛か教会の執り行うイベントのお飾りとして参加するいと(たか)き奴らだ。

 もし学舎を知っている存在が教会内にいるとすればそれなりの立場の奴だと思っていたが。


 (……さっき、以前南の方に派遣された時に俺と同じような髪色の奴が多かった、とか言ってたな。まさかあの襲撃の時の男たちの一人だったのか?)

 そう考えついたが、すぐに俺は否定する。

 (あの襲撃は大体10年近くは前の筈だ。……確かサージェス(この男)は俺より2、3才位上だった。流石に当時13か14のガキには無理だろう。)

 資料を見た後に実物を見た時、とてもじゃないが信じられなかった。あまりの衝撃だったので珍しく記憶に残っている。どう見ても俺より10は上だと今見てても思う。


 ……とにかくだ。

 サージェスは創成の学舎について知っている…。

 このまま立ち去ろうという選択肢が無くなり、俺は座り直しサージェスの顔を見て続きを待つ。


 「創成の学舎と呼ばれるその組織は現在は活動していないようだが、そいつらの研究によって多くの悲劇が生まれた。その悲劇の犠牲者の大半が世界混迷事に多く存在した孤児だ。」

 感情もなく淡々と話し続けるサージェスの瞳は仄暗く、流れてくる感覚も同じように重苦しい程に昏い。

 その話の内容は俺が閣下や閣下の主、俺の元飼い主の公王に聞かされた内容と酷似していた。


 ただ違う点が2点。


 学舎の研究とやらの目的が《異能持ち》か《異形》かの違いと…推測の話し方か断言した物言いかの違いだ。


 「……随分と物騒な話だ。それで?」

 この男の目的が何かが全く読めない。

 最初は昨日のアレイシアの発言から俺を漆黒の華と疑っているのかと構えていたが。

 (学舎とこの男に繋がりがあるのか?学舎と俺に繋がりがあると疑っているのか?)

 警戒心を強め、サージェスの次の言葉を待つ。正直無理矢理問い詰めたい気持ちもあるが、下手な行動を起こすわけにもいかない。そう考えられる程度の冷静さは残っていた。



 「……君は創成の学舎の犠牲者ではないのか?」

 「――ッ、……言っている意味が分からねぇな。」

 覚悟は決めていたつもりだったが、あまりにもストレートに問われ思わず息を飲み、それでも何とか言葉を吐いた。が、我ながら白々し過ぎて呆れそうになる。


 (これじゃ、そうだと白状したもんだろうが…ッ)




 懸命に平静を装いながらサージェスの方を見れば……奴は確信を得たと薄い笑みを浮かべていた。



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