第五十話 封印
破壊の竜はオーロラの街の上空を飛びながら、時々光線を吐き出して、辺りを火の海にしていた。
私たちが城の元へ辿り着くと、破壊の竜もそれを迎え撃つかのように城の頂上に器用に停まり、私たちを威嚇した。
「私は封印のタイミングを図ります。回復魔法が使える魔導士は私と一緒に後方で支援を。その他の魔導士たちは遠距離攻撃でも近距離攻撃でもいいので、破壊の竜にダメージを与えてください。それでは最後の戦いです、皆気を抜かぬように!」
「はい!!」
アイリス様の指示で私たちは破壊の竜との戦いを始めた。
私は鎌の柄をくるくると回して武器を鎌に展開すると、破壊の竜に近付くために飛行魔法で飛んだ。それは隣にいたパッシアさんも同じようで一緒に飛び上がって破壊の竜までの距離を詰めた。
「ぐるぅううあああ!!」
破壊の竜が大きく息を吸ったのを見た私は距離を取った。
「(あの光線が来る!)」
一瞬、間を置いて破壊の竜は光線を吐き出した。上空を飛んでいた魔導士も地上で遠距離攻撃をしていた魔導士も皆、避けることができたようだった。
私は飛んだまま、鎌をくるくると回すと、破壊の竜に鎌を振り下ろした。
ガキンッ
「かった…ッ!」
私が何度も鎌を振り下ろしても、固い衝撃音が鳴るだけで破壊の竜にダメージを与えているようには思えなかった。
「イヴ、弓矢で広範囲の魔法を使いなさい!それでもダメなら、弓矢で一点集中で狙うしかないわ!」
「はい!」
いつの間にか攻撃の手を止めて、私の隣にホバリングしていたパッシアさんにそう助言されて私は地上へと戻った。
地上に着地すると、武器を鎌から弓矢へと形状変化させた。そして、矢を装填するとぎゅっと引き絞った。
「行きます!皆さん離れて!」
私の準備が整うと、上空の魔導士たちに聞こえるように大声でそういうと、他の魔導士たちはパッシアさんの指示もあってか、直ぐに避難した。
「食らいなさい!」
私は矢を一気に放った。
ドッパァアアアッン
ヒュイイイインと甲高い音を立てて上空に飛んで行った矢は破壊の竜の頭上で大きく花開き、広範囲攻撃を展開した。
「グアアアアア!!」
「効いてる!」
「その調子よ、イヴ!今度は一点集中でお願い!」
「はい!」
空を飛んでいるパッシアさんから褒められて私は嬉しくなって頬を少しだけ緩めた。が、今は戦いの最中なので直ぐに表情をキリッと引き締めた。
「(次は一点集中…)」
私は再び矢を装填すると、今度は慎重に弓矢を引き絞った。
「イヴ、竜の目を狙いなさい。あそこなら硬い鱗に覆われていません。」
ふと私の後ろからアイリス様が背中に手を添えながら私に話しかけてきた。その手が優しくて私は一気に心が落ち着いた。
「はい!」
私はアイリス様に言われた通りに、矢の焦点を破壊の竜の目に合わせた。
パシュッ!
手を離すと矢は一瞬にして竜の目をめがけて飛んで行った。
「(当たれ…!)」
沢山の魔道士たちに攻撃されて身動きが取れない破壊の竜は恰好の的だ。これで外してしまったら、私は魔力補給のために一旦最前線を退かなければならなかった。
私の願いに応えるかのように矢は破壊の竜の目に当たった。
「ギャァアアアウウウ!!」
硬い鱗では弾かれていたかもしれないが、アイリス様の助言通りに目を狙ったのは正解だったようだ。
呻き苦しむ破壊の竜は城の頂上に止まっていることができなくなり、その身体は重力に従って、城下町へと落ちてきた。
ドスンという音を立てて地上に降りてきた破壊の竜を見逃すはずもなく、私たちは一斉に攻撃をした。
私ももう一度武器を鎌に展開にして、破壊の竜へと近付いた。飛行魔法の応用で地上でもほんの少しだけ地面から浮き、滑るように飛んだ。走るよりもこちらの方が速いので、私は破壊の竜の隙を逃さぬよう、一気に距離を詰めた。先ほどは鱗に弾かれてしまったが、こっちも硬い武器なら弾かれることもないだろうと思い、私は鎌にありったけの魔力を込めて鎌を強化して振り下ろした。
ザクッ!
「よしッ!」
私の鎌の斬撃はこちらの予想通り、鱗に弾かれることなく、破壊の竜にダメージを負わせることができた。
「ぐるるぅうううあああッ!!!」
「あの光線が来ます!皆さん離れて!」
再び息を大きく吸った破壊の竜に私は周りの魔道士にその場から離れることを言った。
「絶好のチャンスを逃す訳ないだろ!今だ攻撃しろ!」
「あっ…!危ない!」
私はまだ宝石将ではないし、パッシアさんみたいに人々からの信頼もない。アイリス様のような絶対的な地位も持っていない。そんな一魔導士の言葉など信じられなかったようで、ある一人の魔道士が息を大きく吸ってがばがばと懐が開いている破壊の竜の元へ行ってしまった。
周りの魔道士は動かなかったが、その一人だけが突っ込んでいってしまったため、私は無意識のうちにその魔導士と破壊の竜の間に入った。
次の瞬間。
ゴアァアアアッ
「く…ッ」
私は魔導士の間に入った瞬間に武器を鎌から盾に転換して、破壊の竜のブレス攻撃を防いだ。
先ほどは全てを受け止めることができずに、後ろにいた宝石将の方々に怪我を負わせてしまったが、今回も同じ過ちをしないために、私は意気込んだ。
「ここで、倒れるわけには…ッ、いかないんですッ!!!」
私は思いっきり盾を押し込んだ。
「悪かった…、俺が突っ込んだせいで…、助けになる!」
「あ…ありがとうございます…!」
私が踏ん張っていると、私が守っていた魔導士の人が盾の内側でぐぐぐ、と力を込めている手に手を添えてきた。
私と彼の後ろにはアイリス様たちがいる。ここで倒れるわけにはいかなかった。
「イヴ、踏ん張りなさい!」
「ぱっ…ガーネットさん!」
私の傍にはいつの間にかガーネットさんを含めた宝石将の皆さんがいた。そして皆が私の背中や私の盾に手を添えて、力を貸してくれた。
「最後よ、踏ん張りなさい!」
「はぁあああ!!!」
私たちは一丸となって破壊の竜のブレスを弾き返す勢いで押しやった。
押し返した光線は破壊の竜に大きなダメージを与えることができた。
なんとか光線を防ぎ切ったことで私はぽかんと唖然としていた。
「さぁ、イヴ、もう少しよ!」
「は、はい!」
自分の光線を受けた竜はその大きな体が地面に倒れ、どしんという振動が伝わってきた。
その隙を逃すはずもなく、私たちは一気に攻撃を畳みかけた。
斬撃、弓矢や銃などの遠距離系魔法、私たちはあらゆる方法で破壊の竜の体力を着実に削って行った。
「イヴ、行くわよ!」
「はい!」
私の攻撃で片目を負傷している破壊の竜の死角から私とパッシアさんは揃って攻撃をした。
が、ここで終わるはずもなく、破壊の竜は最後の足掻きとばかりに、身体を俊敏に起き上がらせると、その足で地面を振動させた。が、私もパッシアさんも飛行魔法の応用で地面から少し浮いた位置で滑るように移動していたため、破壊の竜のそれは徒労に終わった。
「「はぁあああッ!!」」
私は鎌を、パッシアさんは鞭をしならせて、破壊の竜に最後の一撃を食らわせた。
「ぎゃああああッ!!」
断末魔を上げながら、後ろに倒れた破壊の竜に素早く反応したのは、今まで後方で支援をしていたアイリス様だった。そういえば破壊の竜の封印には代々受け継がれる王族の血が必要だとか言っていたような…。
私がそんなことを考えていると、アイリス様は何やら魔法の詠唱のような言葉を紡ぎ始めた。
「この地を作りし七色の大妖精の元、火は赤く燃えたぎり、水は青く滴り波打ち、風はそよそよと緑の葉を揺らし、土は黄土の土を隆起させ、闇はその混沌の中からすべてを飲み込み、光は闇と対を成し、眩く光の中からすべてを生み出す。深き地から目覚めし、破壊の竜よ。。今、王家の血を持ってそなたを封じ込めん。」
高く掲げられたアイリス様のキャンディポッドのようなロッドが辺りを照らすように光ると、アイリス様はそのロッドを地面に突き刺す勢いで振り下ろした。
次の瞬間、破壊の竜が倒れている地面に不思議な紋様が浮かび上がると、その紋様から木の枝のようなツルのようなものが出てきて、破壊の竜に巻き付いていった。必死に抵抗する竜だったが、次第に力が入らなくなってきたのか、力なく倒れた。
その場には破壊の竜の礎となってしまっていたボロボロのアルクス様が横たわっていた。
禍々しい破壊の竜の怨念はアイリス様の魔法によって再びオーロラの街に封印された。




