第十七話 愛の薬
翌日。
私は火の都市特有の太陽のじりじりと焼けるような暑さと闘いながら、昨日と同じように分厚い本を片手に薬の調合をしていた。
「イヴ。そろそろお昼ごはんの時間よ。少しは休憩したら?」
「あ、もうそんな時間ですか。集中していると時間の経過って速いですね…。」
私は一旦分厚い本をパタリと閉じて、パッシアさんと共にお昼を食した。
午後からも、私の薬の調合は続き、陽も完全に落ちた頃、私の感激の声が宿屋に響いた。
「はーッ!できた!!」
「あら、薬、できたの?」
私が持っていた分厚い本が薬の本だと知ったパッシアさんが私に声を掛けてきた。
「はい、やっと完成しました。これでいいはずです。明日ちょっと届けに行ってきます。」
私は作った薬を早くレイナさんに渡したいと思いつつ、パッシアさんに見送られ、温泉に入った。
翌日。
私が身支度を整えていると、パッシアさんも部屋の扉の前までやってきた。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。頑張りなね。」
「はい!」
私はそう元気に返事をすると、意気揚々と宿屋を後にして、例の噴水のある公園を通り過ぎ、徒歩で十分程度のとある一軒家の前で泊まった。
コンコン
「はい、誰でしょう?」
「すみません、先日お邪魔した魔導士のイヴですが…。」
「ああ、イヴさん!どうぞ、中に入ってください!」
訊ねてきたのが私だと分かると、レイナさんの母親のジェンヌさんは嬉しそうな顔で私を出迎えてくれた。
「ちなみに今日はレックスさんは…?」
「多分、いつものように噴水に祈祷してから、ウチにやってくると思うんですが…。」
「では、その時間まで、娘さんとお話ししててもよろしいでしょうか?」
「あの…、それが今日の娘の体調が芳しくなくて…。」
「そうだったんですか…。すみません、そんなときにお邪魔しちゃって。」
「いえ、いいんです。少しでも薬の効き目が分かれば…。」
私はその後、ジェンヌさんと共にレックスさんがやってくるまで、一緒にお茶をした。
レイナさんの小さい頃などの話を聞きながら、談笑していると、家のドアがノックされた。
「私出てきますね。」
そういって椅子から腰を上げて、玄関に向かったジェンヌさんを見送り、私はレックスさんがリビングにやってくるのを待った。
「イヴさん!」
「ああ、レックスさん。こんにちは。今日は出来上がった薬を持ってきました。」
「ジェンヌさんから軽く聞きました。早速、レイナに試してください。」
「私の憶測が正しければ、ですが…。」
「憶測…?」
私の言葉に疑問を抱いたレックスさんだが、そのままレイナさんの部屋へと入って行った。
「レイナ。今日は調子悪いんだって?イヴさんが薬を調合してきてくれたから、もう大丈夫だよ。」
そう、レックスさんが声を掛けると、布団をかぶっていたレイナさんが布団からひょこっと顔を出して、ちらりと私を見てきた。
「レイナ。そろそろ起き上がりなさい。イヴさんに失礼でしょ。」
「…はい。」
レイナさんが布団をめくり、ゆっくりと体を起こすと、それを手伝うようにレックスさんが背中を支えてあげていた。
「レイナさん。薬を渡す前に一つ。お話をしてもいいですか?」
「え…?」
私が薬を渡そうとしないのに首を傾げたレイナさんは訝しげに私の方を見つめてきた。
「レイナさん。直球で聞きますが。あなたジェンヌさんやレックスさんが持ってきた薬を飲んでいませんね?」
「…ッ!」
「え…?」
「ど、どういうことですか?」
「理由は簡単です。レックスさんを独り占めしたかったから、ですよね。レイナさん。」
「う…。」
「本当なのかい、レイナ…。」
レックスさんが確認するようにレイナさんに訊ねるとレイナさんは小さく頷いた。
「どうしてそんな自ら苦しむようなことを…。」
理解できない、といった風に唖然とするジェンヌ婦人に私はこれ以上他人からレイナさんの心情を離すのは下世話だと思い、レイナさんに一つの小瓶を渡した。
「イヴさん、これは…?」
「これは私が調合したレイナさん専用の風邪薬です。これで風邪の症状はよくなるでしょう。あとはレイナさん。あなた次第です。」
「……ありがとうございます。イヴさん。きちんとお話しします。私は…、レックスのことが好きなんです。小さい頃から。いつも私のことを気にかけてくれて、優しくて。私が仮病まがいなことを使って寝込んでいてもいつも血相を変えて私の元に来てくれたりしました…。そんなレックスのことが好きで…、私だけを見ていてほしい…そう思って今回のようなことをしてしまいました。周りに迷惑をかけて本当に申し訳ありません…。」
「レイナ…。」
レイナさんの告白にレックスさんは最初唖然としていたが、レイナさんが自分のことを思ってわざと風邪を引くなんて苦しい道を選んだことに対して、涙ぐんでいた。
「レイナ、そんなことしなくてもう僕の心はレイナのものだよ。」
そういってへにゃっと笑ったレックスさんにレイナさんも一緒になって泣いていた。
「レイナさん。今となってはもういらないかもしれませんが、これも受け取ってください。」
「?なんですか?…薬?」
私は小瓶をレイナさんに差し出すと、レイナさんの手に乗せ、ぎゅっと包み込んだ。
「これは惚れ薬です。レックスさんに使ってみてください。」
私がこそこそと耳にか青を近付けて話をすると、レイナさんはボッと顔を赤くして、”も、もぉ~!イヴさん!”と少々怒った素振りを見せたが、本心は嬉しいんだろう。にやつく顔を見せないために怒っているのかもしれない。
そんな私とレイナさんのやりとりにジェンヌ婦人とレックスさんはきょとんとしていて、状況が飲み込めないようだった。
これは私とレイナさんだけの秘密だ。




