第十二話 火の都市イグニスへ
私たちはオーロラの街を出て検問所を通ると、早速オーロラの北東に位置する火の都市イグニスに向けて歩き出した。
今回は飛行魔法を使わず、徒歩で向かう。それは私の戦闘技術を磨くためであった。
雪で足を取られそうになる雪の大地で毎日氷柱を取っていたからか、私は足腰には自身があったが、雪の大地でもメジャーな雪狼とも戦ったことのない私だ。モンスターと上手く戦えるか不安だった。
「イヴ、そんなに不安な顔しなくてもいいわよ。私も付いてるし、ちゃんと魔法を発動できるようになってるし、この道中で武器の展開が早くなればそれで合格だから。」
「でも、私モンスターと戦ったことないんですよ?怪我とか…。」
「傷薬とか簡単な回復魔法なら私にだって扱えるし、怪我を恐れなくてはいいわよ。モンスターも火の都市までの道中ならそんな強くないから、安心して。」
「そうなんですね…。が、頑張ります!」
私はふんすと意気込むと、早速数十メートル先にモンスターの影を見つけた。
「あ、パッシアさん、モンスターじゃないですか、あれ!」
「え?イヴ、どれだけ先のモンスター見つけてるの!?目がいいわね…。あれは火属性のスライムモンスターね。ぐにゅぐにゅとしたモンスターだけど、しっかり攻撃すればちゃんと倒せる相手だから。」
「はい!」
私は早速ポーチから鎌の柄を取り出すと、一瞬にして氷の刃を”ジャキン!”と展開した。
「だいぶ武器の出し入れ、魔法の展開が早くなってきたわね。飲み込みが早くて私も教えることが少なくて楽だわ~。」
そういって私たちは次第に火属性のスライムへと近付いていった。
向こうのスライムも私たちの存在に気付いたのか、もっちりもっちりと跳ねながらこちらに近寄ってきた。
「スライムの攻撃は遅いから、よく見て躱して。鎌で切り裂けば一撃だと思うわ。さ、やってみましょ。」
「は、はい!」
私は鎌を強く握ってスライムの動きをよく見た。跳ねながら近寄ってくるスライムはなんとも隙だらけで私はとりあえず力任せにぶんっと鎌をスライムに向かって振り下ろした。
すると、スライムにぐにょんと当たり、そのままスライムは四散した。
「や、やった!パッシアさん、見ました!?初めてモンスターを倒しました!」
「うんうん、見てた見てた。スライム相手には問題なさそうね。鎌の扱いにも慣れなきゃいけないからここから火の都市まで鎌を持ったまま移動しましょう。くるくると回しながら歩くといいわね。さっき見てた時に思ったんだけど、まだイヴは鎌の扱いが危なげなのよね。鎌も力任せに振ったでしょう?だから、上手く力を抜きつつ、攻撃に重みを乗せらるようになるのが第一の目標ね。」
「はい!頑張ります!」
私はその後も襲ってくる火属性のスライムと対峙して、その度に鎌を振ってそのスライムを四散させていった。
移動中も言われた通りに、鎌をくるくると回しながら鎌の扱いを体に叩きこんでいった。
「火の都市まで半分まで来たわね。少し休憩しましょうか。」
「はい!」
パッシアさんはそういうと座るのに手頃な岩がある場所を探して、そこで私たちは腰かけて休憩を取った。
「イヴもだいぶ武器の扱いに慣れてきたわね。飲み込みが早くて私も助かっちゃったわ。今まで何か武器を扱ったことがあるの?」
「えっと…、武器と呼べるか分からないんですけど、氷柱を取るのに短剣はいつも持ち歩いていました。」
「その短剣でモンスターを倒したことはないのよね?」
「はい。氷柱を取るだけために持ってきたものですし…。モンスターの出る場所も把握していたので近寄りませんでした…。」
「徹底的にモンスターとの遭遇を避けていたのね…。それでもここまで怖がらずに、倒せてきてるから上出来だわ!流石、私が見込んだだけはあるわね!」
そういうとパッシアさんは腰のポーチから飲み物を取り出して私に差し出してきた。
「はい、イヴ。これ飲んで。」
「えっ、いいんですか?私も飲み物は持ってますよ。」
「いいのいいの。オーロラで泊まった時に一階の食事処で特製のジュースを分けてもらえたから。」
「あ、あそこの特製ジュース…」
私はごくりと唾を飲み込んだ。この間オーロラで泊まった宿屋の一階の食事処で飲んだ特製ジュースはとても美味しくて私は何度かおかわりしたくらいだった。
そんなものが今目の前にあるということに堪らず、私はパッシアさんの手から飲み物が入った入れ物を受け取った。
私は早速蓋を開けると、そこからは芳醇なフルーツの香りがふわりと香り、私は一気にぐいっと飲んだ。
「ぷはぁ~…。美味しい…。」
私のうっとりしたような顔にそんな様子を見ていたパッシアさんは笑った。
「あはは、イヴはここの特製ジュースが好きみたいね。今度またオーロラに戻ることがあれば、またあの宿に泊まって特製ジュースを飲みましょうね。」
「はい!ぜひ!」
私はそういうと再びジュースを乾いた喉に流し込んだ。
火の都市までの道中は次第に暑くなってきて、モンスターの種類も変わってきた。
次の対峙したのは雪狼の炎バージョンのようなモンスターだった。
「あれは炎狼よ。雪狼の火属性バージョンって言った方が伝わりやすいかしらね。攻撃スピードがスライムよりも速くなってるから、気を付けて!」
「はい!」
私は鎌を構えて、炎狼の動きをよく見た。一瞬だけ噛み付く攻撃をする前にぐっと身を低くかがめる動きがあったのを私は見逃さず、その一瞬を狙った。
「はあッ!」
私の狙い通り、炎狼の一瞬の隙を突いて、攻撃を当てることができた。だが、スライムよりも強いとだけあって、一撃では倒せなかった。私は再び鎌を構えて攻撃の隙を伺った。
「炎狼は周りをくるくる回ってかく乱してくることがあるから注意して!」
「はい!」
時々離れたところからアドバイスをしてくれるパッシアさんの言葉を聞きながら、私は周りをくるくると回り出した炎狼の動きをじっと見つめた。目で追いかけると私が目を回してしまうため、私は目を閉じて炎狼の動物の呼吸に耳を澄ませた。
一瞬がるるっと低く唸ったのを聞くと私は後ろから飛びかかってきた炎狼を鎌で真っ二つに切り裂いた。
「はぁ…。た、倒せた…。」
「上出来よ、イヴ!よくあのかく乱にも惑わされずに戦えたわね!それに初めてにしては炎狼を二発で倒すなんてすごいわ!属性の相性が功を奏したのね。」
「あ、はい…。私、耳だけはいいんです。初めてパッシアさんに出会った時も雪狼の呼吸と人の走る息遣いとか聞こえましたし。それに属性の相性?」
「そうなの!?結構な距離じゃなかった?それでも聞こえるなんてすごいわね!魔法の属性相性については歩きながら説明するわね。」
「え、えへへ…、ありがとうございます。…はい!」
私は再びくるくると鎌を回しながらパッシアさんの話を聞いた。
「魔法属性は全部でいくつあると思う?」
「えっと、火・水・風・土の四大元素と闇・光の二種類の元素…。それに二つの魔法属性を掛け合わせると新しい属性の魔法が生まれる、と…。」
「ん、その通り。だけど、一つ属性を忘れてるわね。魔法属性、生命の魔法属性よ。」
「生命の魔法属性…?」
「簡単に言うと体力の回復魔法とかが当てはまるわね。」
「あ、それなら分かりやすいです。それで、私の魔法属性の氷の魔法は水と風の魔法属性の掛け合わせ、でしたっけ?」
「そうそう、その通り。今のところイヴが使っている魔法は氷属性の魔法。あと風属性の飛行魔法。」
「飛行魔法は風属性に含まれるんですね。」
「ええ。それで属性にも相性ってのがあってね。火は水に弱く、水は風に弱く、風は土に弱く、土は火に弱い…。闇と光はお互いが弱点、みたいなものね。それで氷魔法は火属性に強いっていう相性があるのよ。多少の火じゃあ溶けないっていうね。元々水属性は火属性に優勢だからね。」
「へぇ…。そういうのもあるんですね。じゃあ、これから出てくるモンスターは私にとっては練習相手に丁度いいですね!」
「あはは!そうね。イヴがもっと広範囲、高火力の魔法が使えるようになればここら辺のモンスターなんて一撃で大量に倒すことができるはずよ!そのためにも繰り返し鍛錬することが必要だけどね。」
「広範囲、高火力…。頑張ります!」
私は新たな魔法のイメージを考えつつ、炎狼やスライムを相手にしていた。
「イヴ、あそこが火の都市イグニスよ!」
オーロラから出発して数時間…。やっと火の都市イグニスへとたどり着いた。
イグニスに辿り着くころには。私も鎌の扱いにも慣れて、くるくると自由自在に鎌を扱うことができるようになった。
氷の刃の展開も収束も前よりも断然に早くなった。これでも道中のモンスター狩りの練習の賜物だろう。
私たちは火の都市イグニスの検問所を通り、ようやくイグニスの街に入ることができた。
「ようこそ、我が故郷、イグニスへ!」




