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44.静かな場所

マルメロ伯爵に伴われ、セイラとミラはとある場所に辿り着いた。

そこは王宮の裏に存在する庭園の奥にある、とても静かな場所である。迷路のように入り組んだ生垣を抜けると、広い花畑に出た。その中央には、立派な樹木が一本立っている。


どうやらここは、墓地であるらしい。


イクス国では、死者を埋葬した場所に幼木を植える。

人間の体に宿る魔力は若木が成長するごとに吸い上げられ、やがて葉を通して大気に蒸散する、と考えられているからだ。そうして大気に放たれた魔力がこの世の中に循環し、やがてあらゆる生物に還元されるのだと。


一般的に墓地はその領地ごと、又は集落ごとに固まって作られる。

その生前を知っている者が生きている間は、故人を偲びつつ若木の成長を見守るのだ。そうして故人を知る者がいなくなった頃、その墓地は小さな森となる。

森は水を貯え空気を浄化し、動物や植物の居場所を作る。この仕組みは結果的に、イクス国の自然環境の保全に貢献しているのであった。


規模の問題から大都市に近づくほど貴族と庶民の墓地は区分けがはっきりとしており、地方に行くほどその区分けは緩やかだ。そして王族の墓地は、王都の貴族や庶民の墓地とは違う部外者が踏み込むことのできない広大な王宮の敷地内に存在する。

血縁でありはするけれども王族ではないミラは、其処に足を踏み入れた事はない。だが、この国で教育を受けた者であれば誰もがその存在を知っていた。人はそれを、『王族の森』と呼ぶ。


「ウィル、よく来てくれた。セイラとミラも」


厳かに口を開いたのは、現国王であるカルロだった。

国王によりその場に集められたのは、マルメロ伯爵ウィルフレッド、その娘のセイラとミラ。そして皇太子であるアルフォンスと弟王子のエドガーである。


カルロは癖のある黒髪に蒼い瞳を持つ、美丈夫であった。アルフォンスとエドガーどちらにもその面影を認められるが、髪色と精悍な眼差しから、どちらかと言うと弟王子の方がその容姿を受け継いでいるように思われる。

が、エドガーと正反対で、女性関係に関してはいたって清廉潔白である。幸い王子を二人授かっている為、側妃も愛妾も取らず妻一筋を貫いている。


畏れ多くも国王であるカルロは、ミラの叔父にあたる。

が、国王には多くの兄弟姉妹がおり、従兄弟もマルメロ伯爵を始めたくさんいた。だからもちろん、彼には姪も甥も数え切れないほど存在する。ミラなど、イベントごとに挨拶はすれど、それこそ十把一絡げの存在である。


ただ重臣の一人であり、飄々としつつ社交界でも存在感を放つマルメロ伯爵には、カルロ国王も一目置いている。そして姉のセイラに関しては、その数多(あまた)いる国王の姪甥の中で頭一つ飛び抜けた存在であった。


女学院で自治会長を務め、在学中の成績は常に主席。社交界でもその美しさと凛とした佇まいは常に、貴族子息達の注目の的だ。王妃の覚えもめでたく、是非にと婚約者候補の一人に加えられたのだ。勿論、政治的な思惑もある。どの派閥にも属さないマルメロ伯爵の娘と言う存在が、次の治世に一番ふさわしいとの考えもあった。


幾分砕けた様子で声を掛けるカルロに対して、マルメロ伯爵は敬意を表して胸に手を当て頭を下げる。セイラとミラも、彼に倣い両手を胸に当て腰を落とした。

礼節を保ちながらもミラは内心、セイラだけではなく自分の名前を国王が覚えてくれていた事に驚いていた。ただ幼い頃から明晰と称えられるカルロ国王の頭脳は、星の数ほどいる姪甥の名前を全て記憶しているだけかもしれない、とも思う。学院の成績が中の上……から下のミラには当然、無理な芸当である。だから逆に、ただ彼の記憶力に優れているからだとしても感心してしまう。


「はて、イシュタルは何処だ?」


キュイの振りをしているイシュタルは、どんなに言ってもミラの傍を離れない。だから彼女は、せめてずっと身を隠すように言い渡したのだった。

加護を認知出来る者は、少ない。だから世間のほとんどの人間には見えないのだが、王宮には魔力量が多く加護を察知できる者が少なからずいる筈だった。

単純に、キュイの振りをして愛嬌を振りまくイシュタルを目にすると、ミラが不快に感じると言うのもある。

しかし国王は、イシュタルもこの場にいるべきと考えているようだ。

ミラは溜息を押し隠し、イシュタルに声を掛けた。


「イシュタル、姿を見せて」


するとミラの斜め横の空間に、クルンと回転しながらうさぎのぬいぐるみが現れた。初めて目にした国王は、目を見開く。


「これがあの……イシュタルだと言うのか?」

「きゅい」


まじまじとフェリクス王が見守る前で、可愛らしい仕草で頷くキュイにミラは軽い苛立ちを覚える。


「イシュタル!……キュイの真似は止めて。元に戻って」


ミラは怒りを抑えつつ、低い声でその『キュイ』に言った。


「……」


すると小首を傾げて少し考え込み、『キュイ』はその場でクルリと、今度は縦に回転する。うさぎのぬいぐるみはスルリと白髪赤髪の美少年に変身し、スタッと地面に降り立った。


「これが、随分迷惑を掛けたそうだな」


高貴な身分の国王と視線を合わせるのは、恐ろしい。けれどもミラは不敬を覚悟で、顔を上げた。


「陛下、何故イシュタルは私に付き纏っているのでしょう。私のキュイ……私の加護は何処にいるのでしょう? 私に出来る事があれば、なんでもします。だからお願いです……! 私の加護を、私に返していただきたいのです」

「……」


カルロ国王は思案気に、ミラの言葉にじっと耳を傾ける。

滅多に自分から前に出ない筈のミラが息せき切って訴えるのを目にし、傍らのマルメロ伯爵は驚きを覚えた。

彼女は生まれのせいか常に長女であるセイラを尊重し、公式な場では自分が前に出るような真似は決してしない。それが周りへの配慮も忘れ、一気にまくし立てたのだ。

それだけ彼女の加護に対する気持ちが強い、と言うことだろう。マルメロ伯爵はそう想像して、ミラを庇うようにこう捕捉した。


「陛下―――娘についていた加護は特殊で、さきほどの見た目をご覧になった通り、娘にとっては可愛いペットのようなものなのです。ただこのように実体化して目に見える人間はごく僅かですし、身を隠す能力もあります。報告が遅れたことは、誠に申し訳ありません。ただこの子の母は、元々貴族ではございません。加護付きの庶民の行方について妙な話を耳にしたこともあり、この事実は伏せておりました。それにこの通り、いたって健康なのでいずれ加護も消えると考えていたのです。が……」


加護付きの人間は極めて稀である。庶民にいたっては、情報が行き届いていないため、その数を正確に把握できているとは限らないが、王宮で把握している人数は貴族の者よりずっと少ない。そのうち数人の行方が分からなくなっていると言う噂があり、マルメロ伯爵の知る所となるが、それが本人の意思によるものか、それとも別の要因によるものか定かでは無かった。

マルメロ伯爵は万が一を考え、またミラの出自を考慮して目立つ事はデメリット以外の何ものでもないと思い、事が大きくならないように隠していたのだった。


「ふむ……加護付きの庶民の件は、私の耳にも届いている。行方を魔術局に探らせている」


カルロ国王は、形の良い顎を撫でた。


「ただ、加護持ちである事が理由ではないかもしれない。別件に巻き込まれた可能性も否定できないのだ。何故なら―――加護を受ける人間は、すべからく王族の血を継いでいる」

「……それは、どういう意味ですか?」


マルメロ伯爵の後ろで、ミラとセイラも驚きの視線を交わした。

そして、この時ミラは漸く思い出す。そういえば先日、アルフォンス皇太子がそのような事を言っていたのだった、と。意味が分からなかったのと、キュイと再会した驚きでその後はその疑問についてすっかり頭から抜け落ちてしまっていたが―――


「まあ、話せば長くなる。座らないか」


国王カルロが手を振ると樹木の前、木陰になる位置に丸く配置された藤製の椅子が現れた。イシュタルを含め、そこにいる人数分。

ミラは、驚く。おそらく魔法で椅子を出現させたのだろうが、それは一般的な魔法の使い方と随分違うと思ったからだ。


魔法を使う時にはまず、体の中の魔力を集中して纏めなければならない。個人の技量によって、かかる時間はまちまちであるが、少なくとも今カルロがやったように話しながら魔法を発動するのは、ミラには無理だ。特別な訓練を受けた魔術師や騎士なら、可能なのだろうか? とミラは思う。やはり集中を高めるのにも、それなりの経験が必要なのだ。

更に個々人の魔力量も、重要である。そもそも魔力が少なければ、纏まるものも纏まらない。

瓶詰めのジャムがたっぷり入っていればスプーン一杯の量を掬うのは極めて容易なことだ。しかしほぼ空っぽな、僅かな量瓶の内側に残っているだけのジャムをスプーン一杯かき集めるのは、時間もかかるし面倒な作業である。それと同じことだと、魔術の教師が語っていたのをミラは思い起こしていた。


この国の貴族のほとんどが魔力を持ち、平民はそれより少ない三割ほどが魔力保持者である。一概に言えないが、高位貴族ほど魔力量が多いとされている。それは降嫁する王族が多い、と言うことにも起因する。即ち王族の持つ魔力が一般の貴族に比べ膨大である、と言うことだ。


魔法を使う、と言うのはすなわち、魔力を纏めあげそのエネルギーにより現実の事象を変化させる事だ。だから魔法を使いたい場合は、呪文や魔法陣を使う。つまり呪文や魔法はエネルギーをどのように形にするか、と言う設計図と言える。

魔術の授業ではまず、魔力を纏め上げる訓練をする。魔力を纏める事が出来たなら、次に行うのは魔法をどのように形にするか、と言うイメージを正確に体に刻み付ける事が必要だ。

呪文は、そのイメージを固定した設計図である。

しかし呪文で魔力を出力する場合は、単純な作業しかできない。例えば「飛ぶ」「加速する」「発火する」「動かす」「重くする」など。ちなみに先日セイラが唱えた呪文は「飛ぶ」呪文だ。

セイラは魔力量も多く、魔法実技も女学院トップクラスの成績であるため一拍の集中で簡単に三階まで飛ぶこと出来た。が、普通はもっと時間を掛けて魔力を纏めるし、あれほど速く、高く飛び上がることは難しい。騎士団に所属する魔法騎士レベルの魔法をセイラは使う事が出来るのだ。


そしてより入り組んだ魔法を使うためには、事前にいくつもの簡単な呪文を組み上げた魔法陣を使わねばならない。普及している例を上げると、例えばキッチンの竈や風呂、暖房器具や水栓などの設備に組み込まれたものがある。

大半は、魔術局の研究機関で国家魔術師が開発したものが普及している。ただ民間の魔術師が、魔法陣を作って売る例もある。特許を取ってその特許料を生活の糧にしたり、魔法局に魔法陣を売り払い、一時金を手に入れたりする者もいると言う。


だが今、国王は集中する素振りも魔法陣も使うそぶりもなく、一瞬で椅子を出現させた。

どれほどの魔力量と集中力なのだろう、とミラは密かに感嘆する。それに魔術陣を使わないのはどういう仕組みだろうか。まさか呪文を幾つも編み上げた、魔法陣の仕組みの全てを暗記しているのだろうか……?

イベントや公式行事以外で、直接王族が魔法を使うのを見る事はほとんど無いので猶更驚いてしまう。


ちなみに生活魔法を使わない王族が使用するのは、光を放ったり花火を上げたり、花びらや雪を降らせたり―――と言った規模の大きなアトラクションのようなものが多い。王族の魔法は、魔力の誇示や国威掲揚の為に行使するものなのだ。必要に駆られて使うものではない。

普段の生活では、魔法陣と魔石を備えた王宮の設備があるし、それ以外は周囲にいる侍女や侍従が自分たちの魔法を使って王族の生活や仕事を支える。不審者に遭遇した場合も、付き従う護衛や騎士が排除する。

そう、高貴な身分の者は、自分の魔力をいたずらに消費したりしないものだ。


この国の貴族の間でも概ね、能力があっても使わない事がステータスであると考えられている。つまりそれだけの権力と財力を持っている、と誇示するのである。

このため残念な事に、中には特権を鼻にかけ勉強や訓練を疎かにし、ろくに魔法を使えない貴族も存在する―――


墓地となっている花畑をぐるりと囲むように生垣が囲んでいて、そこには防音と視線を阻む魔法が掛けられている。生垣の向こうには、いつでも対応できるよう護衛や侍従、侍女が控えている筈だが、合図があるまで近づかないよう指示されているため、手ずから国王が魔法を使ったのであろう。


国王が自ら魔法を振るい、椅子を勧める―――そんな滅多にない状況に、しばしミラは緊張してしまう。しかし国王と王子達が腰を下ろした後、マルメロ伯爵が躊躇せず腰掛けたので、畏れつつもそれに倣った。彼女の姉のセイラも、綺麗な仕草で席に着く。


だがイシュタルは一人、その指示に従う素振りも見せず突っ立っている。

そして、かつての王妃の墓である木を眩しそうに見上げ、そちらに歩み寄った。更にその木の肌に手を触れ、額を付ける。

ミラはビックリして「イシュタル……!」と、彼を咎めようとした。


「良い、ミラ。イシュタルの好きにさせなさい」


けれども国王が彼女を制した。

ミラが頭を下げると、彼もイシュタルと同じように目を細めてその木を見上げる。なんとなくミラも、その視線を追って同じように上を見上げた。周囲の者も自然とそれに倣う。


梢が光を受けて輝き、円になって座るミラ達の肌にキラキラとした光を振りまいている。

かつての王妃の亡骸は、もう全てこの木の一部になってしまったのだろうか?

それとも既に―――彼女の魔力も魂も、全てあの梢から大気に溶けこの世界の何処かに循環しているのだろうか……?


その教えを信じている人もいるし、迷信だと言う人も言う。

ただ誰もそれを証明したり実験したりすることはない。ミラもその教えに従う信徒ではあるけれども、どちらが真相かは分からない、と思っていた。むしろ、どちらでも良いとさえ考えている。だって死んだ後のことなんて、誰にも分かりやしないのだ。


だけどこの木を見上げていると、何となくその教えが真実のような気がして来る。

だって今、自分達はこの木の梢に優しく見守られているような気がしたのだ。

……全くの、気のせいかもしれないけれど。


暫く無言で梢を眺めていたカルロが、皆に視線を戻す。


「私の祖母ミュリエルが、この国に初めて加護を与えたのだ」

「どういう事ですか? 確かに『加護持ち』が現れるようになって、百年にも満たないと言われていますが」


マルメロ伯爵が、カルロ国王に尋ねる。

その人物の名を耳にした時、ミラは既視感を抱く。

聞き覚えがあるその名―――いや、聞き覚えがあるのは当たり前だ。国母となった妃の名前なのだから、歴史書や家系図を見ればすぐ目にする事だろう。確か彼女は異国から嫁いで来た筈だ。その息子である前国王の名の方が、有名であるため印象が薄いかもしれない。

彼は男性陣には政務やリーダーシップに秀でた賢王と呼ばれ、一方では女性陣にはその女癖の悪さで悪名高い男でもある。そしてエドガー王子はその精悍な容貌と魅力的な人柄―――に加えて女癖の悪さが激似のため、ひそかにその再来と噂されているのだ。


「これは、彼女に連なる者のみにしか伝えられない。だからこの場に王妃は不在なのだ」


確かにこの場にいる人間は全員、ミュリエル元王妃の血に連なる者だった。

でもイシュタルがいるではないか、とミラは内心反駁する。

しかし直ぐに、思い直す。ミラは以前、疑念を抱いていた筈だ。

イシュタルもやはり、ミュリエルの子孫―――つまり、王族の血を引いている人間だと言う事なのだろうか?


ミュリエル元王妃の―――『ミュリエル』?


そこで漸く、ミラは気が付いた。

最初にイシュタルが、ミラのベッドに現れた時。

あの時彼は、ミラを見て微笑んだ。それは、息を飲むほど無防備な笑顔で……


その時イシュタルの口からこぼれ出た言葉を思い出す。


『ミュリ……』


『ミラ』と言おうとして噛んだのかと思った。けれども違う、イシュタルは『ミュリエル』と言ったのではないだろうか?


「ここは、私の祖母ミュリエル元王妃の墓だ。皆も知っている通り、このように王に嫁した妃の墓を『王族の森』と分けて作るのは極めて異例と言えるだろう」


何故彼女は王族の森に埋葬されなかったのだろうか、とミラは考える。政略として他国から嫁いで来た妃は、王族の森に埋葬出来ないのだろうか? そうだとしたら、随分な話だと彼女は思った。

だがこの静かな場所は、明らかに特別に設えた花園のように美しい……子孫となった後の国王が、その処遇を改めるべくこの場所を整備したのだろうか。


「当時の王フェリクスの王妃はイクス国の重鎮の娘であったが子を成す事が出来ず、他国より側妃を迎える事になった。側妃はすぐに懐妊し王子を産んだが、彼が六歳を迎える前に儚くなった。だが当時の王妃側の強硬な反対に合い、彼女は王族の森にではなく一人だけここに埋葬されたのだ。孤独に埋葬される彼女を不憫に思うフェリクス王が直接指示し、この庭園は特別に整備された」


王妃は死んだ後だけでも、側妃を自分の夫であるフェリクス王に寄り添わせまいとしたのだろうか。そんな想像が浮かんでしまいミラの胸に、モヤモヤしたものがこみ上げる。


「フェリクス王と王妃は元々そりが合わなかったそうだが、彼は当時十七で嫁いで来た祖母とはすぐに打ち解けたと聞いている。公的な書類には側妃を別に埋葬する理屈を色々と連ねているようだが―――まぁ、実の所これは単なる王妃の嫌がらせではないかと推測している」


この墓地の経緯を知っていたのか、マルメロ伯爵が同意するように頷いた。

横目でチラリと伺うと、セイラは表情を崩さず姿勢を保ったままだ。側妃への同情やら理不尽への憤りやらで心中穏やかではないが、ミラも彼女にならって動揺を表に出さないように神妙な表情を作る。


「フェリクス王は彼女を悼み、足繫くこの墓地に通ったと言う。側妃を失った後も、王妃との仲も冷え込んだままで、王位継承者である男子は祖母が残した世継ぎの王子以外いない。側妃の死から一年経過した頃、周囲はフェリクス王と王妃の関係修復を諦め、新たな側妃を召し上げるよう王に進言した」

「確かフェリクス王が新しい側妃を迎えた後、王妃は離宮に移ってしまったと聞いております。やはりご自身から身を引かれた、と言う事なのでしょうか?」


マルメロ伯爵の言葉に、カルロ国王は首を振った。


「重臣達の要望を受け入れる形で側妃を迎えた後も、フェリクス王の愛情は私達の祖母に向けられていた。その後も墓地通いを止めない彼に腹を立てたのか、ある時この墓地の木を傷つけ、燃やそうとしたらしい」


あまりの凶行に、セイラとミラは息を飲んだ。いつでも飄々とした姿勢を崩さないマルメロ伯爵も流石にこれには眉を顰める。


「例え王妃でも皇太子の生母の墓を燃やす、などと言う事はあってはならない」

「その通りだ。だから王妃は、その報いを受けた」

「どういう事ですか?」

「側妃の墓は、加護に守られていたのだ。跳ね返されたその悪意により、王妃は消えない傷を負い、このために離宮に籠る事となったのだ」


ミラは悲鳴を上げそうになって思わず口を覆い、セイラも顔色を白くした。


「調べてみると生前より側妃―――私達の祖母は、王妃から不当な扱いを受けていたらしい。つまり、因果応報が現実のものとなったと言う訳だ。その頃この国では『加護』の存在についてはよく知られていなかった為、まさか墓を荒らした事で自分が報いを受けると考えていなかったらしい」

「ではやはり……側妃の死にも、実は王妃が関係していたのでしょうか?」


その伯爵の問い掛けに、国王は同意した。


「で、あろうな。確証は得られなかったが、フェリクス王はそう考えていたらしい。かなり後になるが、王妃の一族はその後不正を暴かれ断罪されるなど、あらゆる手段で力を削がれている。王の寵愛を受け世継ぎを産んだ側妃の死は、王妃と言うよりその一族の意向であったのだろう。フェリクス王は密かに、復讐を遂げたのかもしれない」


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