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10.イシュタルの魔法

タイトルを修正しました。

「仕様その一」


イシュタルは突然真顔になって、人差し指を突き立てた。


「魔法を掛けられた時、半径一メートル以内にいる相手を好きになる」


何となくうっすらと、そんな感じじゃないかな、とは思っていた。しかし現実に聞くとかなりのインパクトだ。この魔術師はなんという無茶な魔法を、しかも主である王子に掛けたのだろう。それをこうも平然と言ってのけるのが、不思議で仕方がない。本当に国家魔術師というものは、変り者なのだと実感した。


「仕様その二、好きになった相手が傍にいないと、居ても立っても居られなくなる。仕様その三。けれども相手の意に染まないような事は出来ない」


二つ目、三つ目の指を立てるイシュタルを、『セイラ』は唖然と見つめる。するとイシュタルは、四つ目の指を立ててニンマリと笑ってこう付け足したのだ。


「仕様その四。その相手に狂おしいほど夢中になるあまり、他の異性と付き合う事には苦痛を感じてしまう―――」

「何故、そんな魔法を……エドガー王子に?」


聞けば聞くほどあんまりな内容に、あえぐように『セイラ』は尋ねた。

イシュタルは薄く笑って、首を振る。


「別にエドガー王子に向けて、魔法陣を投げつけたわけじゃありません。僕は今日、ここに現れる女性―――貴女に(・・・)魔法を掛けるように言われたんですから」


あっ……と声が出そうになった。

今更ながらに思い出す。確かに魔法陣は『セイラ』にまっすぐに向かっていた。そうだ。彼が魔法を掛ける対象は、やはり『セイラ』だったのだ。怒涛の展開に戸惑うあまり、最初のその前提が、ぽっかりとミラの頭から抜け落ちていた。


「どうして、そんな酷い事を……?」


怒りで、語尾が震えてしまう。

もし、ここに来たのが本物のセイラで。彼女が魔術師に、そんな魔法を掛けられたなら―――

考えるのも恐ろしいが、きっと良好だったアルフォンス皇太子とセイラの間柄は破綻してしまうだろう。しかも、セイラ自身の有責による理由で。泥を被るのは王家ではなく、セイラ=マルメロ伯爵令嬢と、マルメロ伯爵家になってしまうのだ。


「さぁ? 僕は、王族の希望を叶えるだけです。理由なぞ、知りやしません」


両手を広げて肩をすくめるイシュタルは、見た目だけなら息をのむほど、キラキラと愛らしい。しかしその言動は―――全く可愛らしくない。

はぐらかすような物言いに、ミラの中にはむくむくと言いようの無い怒りが沸き上がってきた。

怒りに任せて勢い良く腕を上げると、ピッと捨て犬のような目でこちらを見ているエドガー王子を指さして目の前の美少年に詰め寄った。


「国家魔術師さん! なら、あの迷惑極まりない厄介な魔法を今すぐ解いて下さい! 貴方は、掛ける相手を間違えたのでしょう?!」

「おや」


すると、イシュタルは眉を上げて意外そうな顔をした。


「僕が魔法を掛けたのは―――間違いなく貴女です」


あくまで冷静さを失わないイシュタルの言葉に『セイラ』は内心、ギクリとした。


「それは、勘違いじゃなくて? 単純に、貴方のミスだわ。実際魔法陣は私を素通りして、後ろにいた殿下に向かってしまったでしょう?」


しらじらしい言い訳かもしれないが、精霊の加護について触れるわけには行かない。平生を装って、敢えて強い口調で言い返した。


「それは、貴女が跳ね返したから」


しかしイシュタルは、あっさりと笑って『セイラ』の言葉を否定した。


「でも跳ね返したのは―――貴女の魔術によるものではないですね? 一体どうやったのですか? 魔法具が何か身に着けているようには、見受けられないのですが」


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