↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の妹は悪役令嬢  作者: 珠乃 響(ゆら)
第7章 王朝会戦
42/43

第7章1話 盗賊の討伐


 学園祭も盛況のうちに幕を閉じ、秋も深まった暮れなずむ放課後。

 少し前に天空城地下迷宮(ダンジョン)を踏破(クリア)して、一気にAランクに昇格したセラフィーのハンターカード更新のため、王都ハンター協会へとやって来ていたのですが。


「このとおりだ。我が命と引き換えに、無理を承知でお願いしたい」


「……えっとぉ。あなたの――ドミニクさんの故郷であるエルフの里にも、転移門を設置してほしいというのは分かるのですが?」

 

 以前、妹に絡んで来て僕がボコったエルフ女が、どういう訳か目の前で土下座をしてるのでした。

 妹が転移門の技術スタッフだと、どこで聞きつけてきたのか。

 やはり、Aランクハンターの情報網は侮(あなど)れないということなのだろう。


 その名を王都に轟かせるAランクハンターのそんな姿に、ビックリしたハンター協会が急遽空いていた会議室を貸してくれたのだけれど。

 相変わらずソファにも座らずに土下座を続けるエルフ女に、心優しい妹が恐る恐る聞き返すと、それでも床を睨みつけたままで吐き出すように話し始めるのでした。


「ここより南の山脈を超えた先に位置する南部王朝の、そのまた先の世界樹の森にオレの故郷がある。

 だが数年前に南部王朝が周辺の小国を併合してからというものは、森に接する唯一の大国となって。経済封鎖を始めた奴らの傍若無人ぶりといったら。

 さすがに世界樹の森まで燃やそうとは思わんようだが、代わりに人質としてオレの姉上を……エルフは子ができにくいと知っていながら、高い魔力の魔術師を産ませるといってくっうぅ」


「それで転移門で王朝を通らずに王国とつなぐことで、経済的にも独立して姉上を取り戻したい、と」


 エルフならではの綺麗な顔を悔しさで歪ませながら、最強Aランクハンターが嗚咽を漏らすので、深刻な顔をしてアゴに人差し指を当てた妹がその先を受けてつぶやくのでした。

 だから、僕も小さくため息をつきながら。


「まあ、それじゃあ王侯貴族を毛嫌いするのも分からんではないが。経済的に独立したとして、抑止力としての軍事力はどうするんだ?」


「今はエルフが王朝の国土を抜けられないよう通行規制されているが、オレのような腕に自信のある者達が里に帰還することができれば、あのような……オレが不在なのをいいことにいつの間にか占領されて、まるで植民地のように」


 とうとう顔を両掌で覆って肩を震わせてしまう女エルフに、つい視線を同じエルフのハンター協会マスターへと向けて聞いてみます。


「エルフ族の英雄でSランクハンターのラーシュ=エーリクがいるだろうに、何やってんだ?」


「ああ、それなんだが」

「兄は、姉上を人質に取られてっ……今は手足を切られて歩くこともできずうぅうぅぅぅぅ」


 苦しそうに眉間にしわを寄せるマスターを遮(さえぎ)るように、ドミニクが顔を覆った手の指の間からボタボタと涙を零しながら慟哭するのでした。

 しかしあの超人Sランクと兄妹だったとは、どうりで強いはずです。それにしても。


「ん~? 人質がいるとはいえ世界に5人しかいない人外魔境のSランクに何もさせないなんて。いったい相手は何者だったんだ?」


「現在、王朝に仕えている同じくSランクハンターの、アヴドーチヤだ」


 今度こそ苦しそうに、ハンター協会のマスターが吐き捨てるのだが。

 もしかして王朝からの正規の護衛依頼でも受けてしまっているので、ハンター協会としても手出しできないのか。

 それで思い出しましたが。


「ああ、あの超ドSのあの女か。SランクのドSって……ダメじゃん」


「人外とも言われるSランクハンターは、元々が突き抜けた性格が多くて。ハンター協会の言うことなど、素直に聞く者などいないのですが。その中でも、彼女は特に飛び抜けた精神異常者で」


 ガックリと肩を落とした王都ハンター協会のマスターさんは、とうとう天下にその名を轟かせるSランクハンターをサイコパスと断じてしまうのでした。

 ところで同じSランクハンターだけど、僕の天使な妹は素直ないい子だぞ。


 実のところ、これは前世のゲームシナリオ中盤に発生する強制イベントで、どうやらトリガーは違うようですが、最終的には南部王朝が侵略して来る戦争にまで発展することになるはずです。


 前回のようなシナリオには無かった修学旅行先での急襲開戦とは違い、たとえ王朝正規軍が攻め込んで来ても、今回は十分な準備をしてのぞむことができるのですが。

 やはりいわゆるシナリオ強制力とやらで、この戦争は避けることができないのでしょうか。


 今はとりあえず、僕が眉を下げてしまった妹に頷いて見せると。


「事情は概(おおむ)ね理解しました。エルフの里は国境を接してはおりませんが、王国にとっても同盟国であることに違いはありませんので、取り急ぎ国王陛下にご報告してご指示を仰ぐようにいたしますね。

 ドミニクさん、許可が下りればその日のうちに転移門の魔法陣は設置できますので安心してください」


「うぅぅ、ありがとう。よろしくお願いする」


 涙で濡れたその手で妹の手を握り締めると、女エルフは頭をテーブルにつけるほど下げて祈るようにして呻(うめ)くのでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふむ、南部王朝が開戦の準備を進めていることは陛下もご存じの通りだが。今回、エルフの里に恩を売っておけば、最悪は戦線が膠着した場合に王朝の背面から二面作戦を取ることもできるのは大きい」


 軍務派閥代表で筋肉マッチョなマールブランシュ公爵家当主が、ぶっとい腕を組んでウンウンと頷いて見せると。

 今日は三人だけの王城の円卓会議場の上座に座った国王が、既に勝利を確信してかニヤニヤしながら右手を上げる。


「それでは陸軍大将としては、了解ということで良いのだな? 生意気な王朝のクソ餓鬼(ガキ)を包囲しておくことは、戦後処理を見据(みす)えても有効になるはずだからな。

 それではキルヴェスニエミ公爵にはいつも通り、エルフの里に転移門の魔法陣を設置するよう、外交団の派遣を含めて頼む。

 同時にマールブランシュ公爵には王朝との開戦に備(そな)えて、国境で防衛線の構築準備を進めるように」


「はっ、特殊作戦軍が立案した例の防衛戦術の準備も並行して進めさせます」


 それをキルヴェスニエミ公爵は臣下の礼で応えるのだが、マールブランシュ公爵がそう言えば思い出したと太い首を傾(かし)げて見せる。


「あ~、確かエルネスティ少佐から具申のあった、あれかぁ?」


「春を前にして、一般兵の損失を抑えられるのであれば、それに越したことは無いからな。最終的には陣頭指揮は大将である貴殿が取るとしても、前線への配備は進めておけ。よいな?」


 国王がボードゲームでもするような軽い調子で掌をヒラヒラとさせると、二人の四大公爵家当主は深々と頭を下げて見せるのだった。


「「御意」」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 やはり国王の判断も迅速だったようで、数日もしないうちにエルフの里への転移門の設置に向けて、妹を含めた技術スタッフ達が外交団とは別に先行で、南部王朝との国境を接している街へと派遣されることになったのですが。


「お兄様、あれって盗賊でしょうか?」


「あ~、商隊の馬車が襲われているようだなぁ。ユスティーナ、このまま周囲を遠距離爆撃できるかい?

 シュルヴィとミーアは着弾後、速(すみ)やかに制圧。盗賊に魔法使いがいるかもしれないから、セラフィーは念のために聖霊さんを呼んで結界を展開しておいて」


 国境線沿いの街に近い、中堅都市に設置された転移門から飛行魔法で街道の上空を高速移動中、余計なものを見つけてしまったようです。

 当然のように白い翼を広げた天使な妹は助ける気満々で、既に【収納】から神話級・聖弓シェキナーを取り出していて。


「おまかせください、お兄様。【錬成】爆裂(バースト)連撃!」


「わっひゃ~。お嬢様の【錬金術】は下級でも、とんでもなくなってきましたにゃあ~」


「よしっ、姫様っ。行ってきまっス!」


 1kmぐらい先の盗賊達めがけて絨毯爆撃が降りそそぐと、急加速したネコ耳メイドのミーアと見習い騎士のシュルヴィが黒煙の中に突入して行きます。

 するとキラッと光が点滅すると、【ファイアジャベリン】が上空に向かって打ち出されてきました。


「ふむ、やはりひとりだけ魔術師がいるな」


 あんなしょぼい対空砲火では、聖霊ホーリーちゃんの張った結界は貫通できずに霧散していきますが、念のために下位闇魔法【漆黒の弾丸(ブラックバレット)】で面制圧しておくことにします。


「「「ぎゃああああ~」」」


 最近はとみに冷たくなってきた秋風で黒煙が消えるころには、街道の至る所に盗賊達が倒れ伏していて。

 身体じゅうに穴を開けて血だらけになっているのは、さっきひとりだけ魔法を使っていた――どこかで見覚えのある顔だが。


「ひぃいいっ、え、エルネスティ! た、助けてくれっ、私だっ、テランスだ! ロワリエ侯爵家のっ、魔法学園で先輩だった、テランスなんだっ」


「ん~? 誰だ?」


「お兄様、ったらもう。前に春の新入生歓迎舞踏会で、一度だけお会いしたことがありますわよ?」


 思い出せずに首を捻っていると、妹がやってきて少し困ったような声で、一度しか会ったことの無いモブキャラのことを教えてくれます。


「あ~、確か脱税で取り潰しになったんだっけか。今さら何が侯爵家だよ。貴族を詐称すると死罪だぞ?

 今じゃお前の家が搾取していた平民の、しかも盗賊にまで落ちぶれてんじゃないか。まったく何やってんだか」


「そ、それはっ、貴様がっ、貴様のせいで!」


 血まみれで地面をはいずりながらも僕を指差して、逆恨みなのか呪詛を吐く元先輩に、つい大きなため息をついてしまうのです。


「はあ~。アホな父親と違うんだから、しょぼいなりに魔法使ってちゃんと働けばいいのに。貴様、盗賊は問答無用で縛り首だって、知らない訳じゃ無いよな?」

 

「ひっ、い、いやだっ、助けてくれ! 後輩だろっ、先輩を、私を助けろよ!」


 自分の置かれた状況をやっと理解したのか、涙と鼻水に涎まで垂らしながら喚き散らす、残念な元貴族のお坊ちゃま。

 だから、目をそらし続ける現実ってやつを、その目の前に突き付けてやる。


「なに言ってるんだよ。お前、そこの商隊を襲って何するつもりだったんだよ? あ~、馬車には年頃の女性までいるじゃないか。

 お前がこれまで襲ってきた人達が、助けてくれって言って――お前、助けたのか?」


「え? いや、あの、その……そんなの、関係ないだろっ!」


 とうとう逆切れしてしまう、残念ゴミ屑野郎。そこは嘘でもいいから、助けたって言えよな。

 まあ、この40人近い盗賊団をこれまで維持してきているんだから、相当な数の被害者達の屍が闇に消えているのだろうから、自業自得か。


 すると助けた商隊の馬車から、護衛のハンター達と一緒に若い青年がナイフを手にしてやって来て、涙を流しながら叫び始めるのです。


「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます。妻も娘もいたので、本当に感謝してもし切れません。

 そ、そいつらは、『炎の盗賊団』っていう、この界隈(かいわい)では最凶の人殺しだっ! これまでも何隊もの商人達が、こいつらになぶり殺しにされて街道に捨てられたんだっ!

 お、俺の兄貴夫婦だって……手足を焼かれた兄貴の前で、兄貴の奥さんは強姦されて殺されていたんだぞ!」


「そ、それはっ、うるさいっ、うるさい!」


 既に子供の言い訳のように意味も無い台詞(セリフ)を喚(わめ)くだけのゴミ屑に、ガックリして視線を向けることも無く撤収準備を始めます。


「当然、自分が殺される覚悟ぐらいはして殺(や)ったんだろうに。

 じゃあユスティーナ、少し遅くなったから行こうか。セラフィー、シュルヴィ、ミーア、行くぞ~。

 ああ、こいつらはここに捨て置いて行くから、後は放置してモンスターの餌にするなり、ハンター協会へ連れてって縛り首にして賞金をもらうなり、好きにしていいから」


「え! いいんですか?」

「ひぃいいいい! え、エルネスティっ、そんなっ、助けてくれ!」


 光彩を無くした暗い瞳の商隊の青年は切れ味の悪そうなナイフを抜くと、盗賊達に向かって視線をさまよわせ始めるので、元先輩のゴミ屑は小便を漏らしながら騒ぎ立てるのでした。


 そこへ、盗賊達を縛り上げて出発の準備が終わったミーア、シュルヴィにセラフィーがやって来て。

 ケガをしていたハンター達に天使の【回復薬《ポーション》】をかけていた妹が、綺麗なカーテシーを披露します。


「それではテランス様、私達は先を急ぎますのでこれで失礼しますね。それではご機嫌よう」


「お嬢様、運動したらお腹が空いたにゃ~」


「姫様、オレも腹減ったっス」


「まあまあ、国境の街までもう少しですから。エルネスティ様、着いたら食事にしましょうか?」


 フワッとその脚を地面から離すと、そのまま飛行魔法で国境の街に向かって、ペチャクチャとしゃべりながら街道の上空を飛び去って行くのでした。 

 遥か後方からは、助けを求める声に混じって断末魔の悲鳴がわずかに聞こえてきますが、元々が人を殺しに来て自分が殺されないなんて都合のいい話があるわけないのでしかたありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。