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僕の妹は悪役令嬢  作者: 珠乃 響(ゆら)
第6章 学園祭を一緒に
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第6章6話 学園祭を君と(上)


「皆中(かいちゅう)ぅ~」

「「「きゃあ~」」」


 魔法学園の弓道場に、つめかけた女子生徒達の黄色い声が反響(こだま)する。

 そんな中で今日は学園祭での弓道部実演のために、特に長くサラサラのプラチナブロンドを白い鉢巻きでキリッと凛々しくまとめた妹が、紅い袴(はかま)の弓道衣に身を包んで残心(ざんしん)の姿勢で時を止めているのでした。


 そう、今日は妹が待ちに待った学園祭当日だったりします。

 その妹はというと多忙なスケジュールの中、朝一番で所属する弓道部の女部長に頼まれた、実射をしてみせているのですが。

 実はその的は近的競技の28mでも遠的競技60mですらなく、和弓と征矢(そや)でこの世界の実戦を想定した200m先にあったりするのでした。


 既に達人級まで【弓術】スキルを上げ切った妹にかかれば、双眼鏡でないと見えないぐらい小さな的であっても必中だったりします。

 まあ今使っている和弓も弦を含めて、【錬金術】で物性強化されて超長距離狙撃専用にカリカリにチューニングされた特注品ではあるのですが。


 静かに礼をしてお澄まし顔で帰って来た妹の周りには、学園祭の今日だけは特別に立ち入りを許された、学外の少女達までが集まって来ていて。

 そこをかき分けるようにやって来た女部長さんが、妹の手を取るとブンブンと振るのです。


「ユスティーナさん、今日は本当にありがとうね! これで来年の新入部員も、ガッポガッポ間違い無しよっ」


「え? あ、あはは~。それでは私はこれからお兄様と学園祭を回ってきますので、これで失礼いたしますね」


 そう言うと、僕の腕を取ってタタッと走り出してしまうのです。


「お、おい、走ると危ないぞ?」


「お兄様も早くっ。ここで捕まっては、全部回れなくなってしまいますわ!」


 そしてそのまま女子更衣室へと、護衛のミーアとシュルヴィを伴って駆け込んでしまうのでした。

 苦笑しながらその後姿を見送っていると、なぜここにいるのか【勇者】アーサーくんが、目をキラキラさせながらしきりにウンウンと頷いています。


「スッゴイ、かっこいかったですねっ。いいなぁ、俺――私も一緒に学園祭、回りたかったな~。

 なんで俺ってクラスの教室展示の受付係や、生徒会補佐で見回りの手伝いをやらされてるんだろう……?」


「はは~、それはご愁傷さまだな。まあガンバレ、【勇者】殿?」


「うわっ、エルネスティ様。ヒドイよぉ、助けてくださいよ~。う~、しくしくしく」


 最強【勇者】がウソ泣きなんかしても、ちっとも可愛くなんか無いぞ?


「しかたないなぁ。午後の舞台劇では、特別席を用意してあるんだから。それまでは根性でガンバレ、な?」


「う~。絶対、かぶりつきの特等席ですよ? 約束ですからね?」


「ん? アーサーくん。てめえ、舞台下からかぶりつきで見上げて、僕の大切なユスティーナのスカートの中を覗こうもんなら、ぶっ殺すぞ?」


「げっ、そ、そんな命知らずなこと、しませんって。マジで」


 まったく、油断も隙(すき)も無い最強【勇者】くんだったりします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うふふ~、お兄様。3年生のクラスでやっていたお笑い芸、とっても面白かったですわ。

 でも、2年生の手品(マジック)ですか? 魔力反応も無いのに金貨がコップから消えてしまって、ビックリしましたわ。

 それに1年生のお化け屋敷では、幽霊に思わず上位【錬成】死霊浄化(ターンアンデッド)を使ってしまって。えへへ~」


 あれから学園校舎にある学園祭出し物を、片っ端から攻略(クリア)して歩く妹は、両手に戦利品の的屋の的当てで取ったぬいぐるみやら、カラオケ女王と書かれた金メダルやらを、たくさん手やら首にぶらさげてまだ練り歩いているのでした。


「よかったね、ユスティーナ。楽しい学園祭になって」


「はいっ。お兄様と一緒に見て回れて、とっても楽しいですわっ」


 ニコォ~っと向日葵のような笑顔を見せる妹に、後ろから苦笑しながらもクリームヒルト第一王女が辺りを見回すのです。


「うふふ~、私達もいるのですけどねぇ? それでも帝国の学園と違って、ここまで盛り上がるとは思いませんでしたわ」


「あら、エルネスティ様。錬金術学の展示室に着いたようですわ。……でも、なんだかとっても混雑しているようですが?」


 僕の一歩後ろを歩くセラフィーが廊下の先を指差すのだけど、問題の教室からは女性があふれるようにいて。

 あれはまるでバーゲンセールに突貫する女性(せんし)のようにも見えるが、まさか。


「ああーっ! ユスティーナ様っ、やっと来たぁ~。助けてくださいよ~、錬金術学で研究開発した乳液やファンデーションのサンプルを置いたらこんなぎゃああああ~」


「あ~、クローネ……かわいそうに、見えなくなってしまったわ。あの教室の扉の隙間から手だけ見えているのは、もしかしなくてもデボラかしら?」


 教室の人混みに消えてしまったクローネの断末魔の声を聴きながら、天使な妹が困ったわねぇと細い人差し指を頬にあてるのでした。

 すると逆方向の廊下から、近衛兵を引き連れてしずしずとやって来たのは。


「まあまあ、ユスティーナではありませんか。先日の王太子妃教育以来ですね」


「これは王妃陛下、ご機嫌麗しく。本当に学園祭に来られるとは思わず、失礼いたしました」


 扇子で口元を隠して優雅に微笑むその人は、この国のファーストレディーである王妃だったりします。

 まあ春の入学式にも顔を出していたようだから、珍しいことではないのかもしれないが。

 それでもさっきまでの喧騒がまるでウソのように、錬金術学の展示教室周辺にいた女性達が全員綺麗なカーテシーを見せています。

 当然のように王太子の婚約者である妹も、手本のような美しいカーテシーを披露しているのですが、当の王妃はと言えば。


「まあまあ、ユスティーナったら陛下だなんて。いつものように、気軽に呼んでくれていいのよ?

 あら、それよりも。この学園祭の錬金術学の研究展示で、あ(・)の(・)乳液とファンデーションのサンプルが配布されると聞いたのだけど。

 ちょっと陛下のわがままのせいで来るのが遅れて、まだ残っているか心配なのよ? あ、陛下は王城でキッチリお仕事してるから、ここには来れないわ。ほほ~」


 この国の王妃が自(みずか)ら、化粧品の無(・)料(・)サ(・)ン(・)プ(・)ル(・)を貰(もら)いにわざわざこんな所まで来たらしいです。

 それでいいのか、王妃陛下(ユアマジェスティ)?


「こ、コホン。王妃様におかれましては、お言いつけいただければ最高級の正規品をすぐにもお届けさせていただいたのですが。

 と、とりあえず。今、私のアイテムボックスに収納しています、純正プロトタイプ品をお渡しいたしますので。少々お待ちください」


「まあまあ、まだ残っていたのね? よかったわ~。だって名誉会員番号000001でも正規ルートでは、1ヵ月待ちって聞いて。待ち切れなかったのよ~」


 さすがに困った妹が【収納】からプロトタイプの小瓶を取り出し始めると、周囲にいた女性達がギランッと目を輝かせ始めます。

 だから僕が念のために用意しておいたサンプル品を、上位闇魔法【影収納(シャドーボックス)】から1000個単位で取り出して。

 錬金術学の展示教室でボロ雑巾のようになっていた、クローネとデボラに引き渡すのでした。


 するとお目当ての化粧品の、しかも限定プロトタイプを手に入れてホクホク顔の王妃が、チョイチョイっと妹に手招きしています。


「そうそう、王太子殿下が……『メイド執事喫茶』? とか言うのを、学園祭でやっているらしいので、ユスティーナも一緒に行きましょう? ね?」


「……え、ええ。御心のままに」


 ピシッと思わず笑顔が引きつった妹が、僕に助けを求めて視線を投げかけてきますが。

 え~、前に委員会でやめた方がいいよって、諌言(かんげん)申し上げたのだから後は知らないよ?



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いらっしゃいませお嬢様……母上?」

「いらっしゃいませ旦那様ぁ~」


 王太子ご自慢の『メイド執事喫茶』へと、ご機嫌な王妃を先頭にゾロゾロとやって来たのだが。

 教室の入口で笑顔が引きつって真っ青になった王太子が、燕尾服(テールコート)の執事姿で出迎えてくれるのでした。


 どうやら横で媚びを売るように、にこやかな笑いを振りまいているメイド服の【聖女】マリアは、この国の王妃の顔を知らないようで。

 知らないって、ホント幸せなんだなぁ。


 すると一瞬、笑顔が固まった王妃が凍り付くような低い声で、口角を上げたままつぶやくのです。


「…………ふぅ~ん。そう。そういうことね? まあとにかく、席に案内なさい」


「こ、こちらへ……うっ、ユスティーナ譲。それに、エルネスティ!」

「あれあれ~? 王子様の知り合い~? じゃあ、サービスしちゃおうかなぁ~。マリアちゃんの似顔絵付き、特製愛(ラブ)注入オムライスとか~?」


 そうこうしていると席に案内しようとした王太子が、僕達に気がついたようで。

 今度は顔を真っ白にし始めますが、笑顔を張り付けた妹は視線をあわせようとはしません。

 僕? 僕はわざとらしく、ぷーくすくすと笑いをこらえて、デキル側近を体現して見せるのでした。 


 そんな王太子の、どちらかというと執事というよりは、出来損ないのなんちゃってホスト然とした格好に、ガックリと肩を落とした王妃が目線だけで謝罪を始めてしまします。


「はあ~。ユスティーナ、ごめんなさいね? こんなのでも、卒業するまではこらえてちょうだい?」


「え、ええ。王妃様の御心のままに。ほほほ~?」


 今さら王太子の株はストップ安まで大暴落して紙屑同然なんだから、婚約者とはいえ妹としても何おか言わんやといったところか。

 すると、せっかくおすすめしてくれたので、試しにオーダーした特製愛(ラブ)注入オムライスを持って来た【聖女】マリアが、両手の親指と人差し指をあわせてハート型を作ると、わざわざアニメ声で。


「それでは、ドキドキキュンキュン、【聖女】マリアちゃんのラブハァ~トォ」


「わっははははは~っ! はぁ~、笑った笑った。

 っていうか、なんで似顔絵がへのへのもへじなんだよ? ぶん殴るぞ、コラ」 


 なめとんのか。前世のメイド喫茶のスタッフさんに謝れ! 

 という冗談は、まあいいとして。

 おおう、王妃の絶対零度の視線が怖いんですけど。


 僕の怒声にビビったのか、それとも王妃の威圧に耐え切れなくなったのか、【聖女】はオムライスのスプーンを取ると。


「な、なによっ。そ、それじゃあ、特別サービスで食べさせてあげるわよ。あ~ん」


「ぴゃっ、け、結構でしゅ! スプーン貸してくださいっ。はい、お兄様。あ~ん」


 それを見てガバッと立ち上がった妹が、シュタッと目に見えぬ速さで【聖女】からスプーンを取り上げて、オムライスをすくうと僕に差し出してくるのです。

 いや、『メイド執事喫茶』に入店している教室中の生徒達の、突き刺さるような視線が僕に釘付けなのですが。

 これって、なんて罰ゲーム?


 まあ、食べるんですけどね。

 パクッと。

 うん、妹に食べさせてもらって初めて100点満点の味です。


「あらまあ、やっぱり兄妹で仲がいいのねぇ~。はあ~、色んな意味でうらやましいわぁ」


「え? えへへ~。ユスティーナとお兄様は仲良しなんでしゅ」


 なぜか困ったように微笑む王妃に、褒められて喜ぶ小さな子供のようにニコォ~っと笑い返す天使の妹なのでした。


 さすがに王妃とは別テーブルについていた、セラフィーが自分のアイスクリームがトッピングされたパンケーキを一口すくって、迷うようにフォークをさまよわせているので。

 後ろに振り向きざまにそれを、パクッと口に入れてしまうのです。


「うん、味は~。まあ、セラフィーに食べさせてもらってやっと100点ってとこか? ありがとうな」


「え、エルネスティ様っ。またそんなっ……いえ、ありがとうございます。あら、おいしい」


 一瞬だけギョッとしたようだけど、セラフィーはいつかのように可愛い唇をVの字にすると、手にしたフォークをくわえるのです。

 すると僕達と同じテーブルに座っていたクリームヒルト第一王女が、自分のチョコパフェを長いスプーンですくうと、獲物を狙う猛獣の目をして、ジリジリと僕の方へ突き出そうとし始めるのですが。


「エルネスティ様、動いたらダメですよ? 今、お口に入れて差し上げますから」


「いや、……マジで怖いんだけど?」


 僕がその気迫にタジタジしていると、後ろのテーブルからネコ耳メイドのミーアの声が聞こえてきます。


「にゃあ~、スーパーデラックスジャンボパフェですにゃ~。幸せだにゃあ~」


「うん、このケーキセットおいしいっス。おかわりっス」


 テーブルに置かれた自分の目の高さ以上の大きさの巨大パフェにかぶりついているポンコツはともかく、見習い騎士のシュルヴィはもう一皿食べ切って二皿目に突入しているようです。

 なんかこんな光景って、この前も見た気がするのは僕の気のせいだったりするのだろうか。


 まあ平和ってことだから、いいんですけどね。

 あれ? 王太子は泣きそうな顔をして。ああ、王妃が怖くて【聖女】に王妃のことを言えないまま、ビクビクしているようです。

 せいぜいこれ以上、王族の顔に泥を塗らないよう祈っているんだな。


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