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僕の妹は悪役令嬢  作者: 珠乃 響(ゆら)
第1章 僕の妹
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第1章4話 学園のランチタイム


 魔法学園の昼食はどこの高級ホテル? と勘違いする程の広大なラウンジが用意されており、周辺各国からの留学生のために多国籍料理が毎日、日替わりで用意されています。

 基本的にセルフサービスなのだけど、上級貴族は側付きを1名同伴してよいことになっているので、公爵家からも妹の侍女ミーアが既に先に来て待ち構えていました。


「お嬢様、お待ちしておりました。席はご用意しておりますので。本日のメニューのご要望は何になさいますか?」


「まあ、ミーア。待たせてしまったようね。お兄様とちょっと魔法実技の授業の最後に先生方に呼び止められてしまって……。

 それにしても思ったよりも、たくさんメニューがあるのですね。お兄様、何になさいますか?」


 さっきからメイド服に身を包んだミーアには視線がチラチラ向けられていたようだが、公爵家の侍女と分かるとスッとその不躾(ぶしつけ)な者達もどこかへ行ってしまう。

 銀猫族のミーアは獣人ということもあってか、他国では蔑視され時には奴隷として扱われる国もある。

 ただ家族以外では珍しく妹が気を許しているミーアはというと、護衛としてもかなりの腕前なので少々のことでは心配はないと思うのですが、それ以前に時々ポンコツな彼女になにかあったりしたら妹が悲しむので目を光らせておくことにします。

 ちなみに妹は無表情の仮面に隠しているつもりだろうが、三種の正義、『かわいいは正義』、『おいしいは正義』、『モフモフは正義』の信奉者だったりする。


「ああ、さっきは余計なことに巻き込まれてすまなかったね。僕はユスティーナの好きなもので良いんだが……そうだね、今日は朝からちょっと疲れたので何か軽いものとデザートに甘いものでもどうだろうか?」


「先ほどのは仕方ありませんわ。お兄様ったら、新入生トップをしのぐ魔法実技の実力をお見せになったのですから。

 ミーナ、それでは私も何か軽いものと……そうね、焼きプディングが美味しいと聞いていたのでそれで」


「はい、お嬢様。それではお席にご案内します」


 銀色の猫耳としっぽをひるがえして侍女のミーナが、階段を上がった先に張り出した二階のテラス席へと先導します。

 実は魔法実技の授業の最後に優男教諭と担任の女性教諭に呼び止められて、さっきの僕と妹の魔法は何だと問い詰められていたのです。

 まあ入試の時とは格段に違う威力なので、妹の言うように仕方がないと言えばそのとおりなのですが。

 終(しま)いには優男教諭が僕達二人を1-Aに転入させるべきだとか言い出すので、1-B担任の女性教諭が大慌てし始めて最悪でした。


「あ、君はさっきの聖剣使いの。アーサー君って言ったかい?」


「え? え、ええ。貴方は魔法結界を破壊した……えっと」


 下級貴族ばかりの一階フロアの真ん中で、平民の【勇者】アーサーくんがトレイを持ったまま席を探してウロウロしていました。

 大きな魔力を持つ子供はそのほとんどが遺伝的にも選別された貴族階級になるので、結果的に平民がこの魔法学園に入学するのは稀(まれ)です。

 きっと彼のクラスの1-Aには、平民の友達は一人もいないのかもしれません。


「キルヴェスニエミ公爵家の名では妹と区別がつかないから、僕のことはエルネスティでいいよ。こっちは妹のユスティーナだが、特別にキルヴェスニエミ譲と呼ぶことを許そう」


「え?」


「ほら、お兄様。アーサー様が困ってますよ? ふふ、お兄様はこの手の冗談がお好きなのですよ。

 私のことはユスティーナとお呼びくださいね、【勇者】様?」


「うっ! な、何で俺……私が【勇者】だと?」


 久しぶりのスキンシップに慣れて来たのか、僕の二の腕につかまったまま揺らす妹がほのかに微笑んで見せると、顔を真っ赤にした【勇者】くんは急に挙動不審になって今にもトレイをひっくり返しそうです。


「うふふ、さっきもご覧になったようにお兄様はとても優秀な魔法使いですのよ?」


「ははは、僕の妹に惚れたら殺すよ? というのはマジで、上のテラス席で一緒に食事を取ろうか」


「うぇえ? は、はぁ……それではご一緒させていただきますが、本当に良いのですか?」


 このままでは本当に彼は昼食を落としてダメにしてしまいそうだったのと、男性主人公シナリオルートに入るためにも一度話をして情報収集しておきたかったので、公爵家の誘いを断れないことをいいことにそのまま拉致(らち)ることにします。

 というのは建前で、今日だけでここ数年分を取り戻すように天使な妹と話すことができて、実のところ僕は絶好調に有頂天だったりします。


「ふふふ、もうお兄様ったら。その、”マジ”ってどういう意味ですの? それにどこで覚えたのですか?」


「ははっ、ユスティーナ。僕は謎に包まれた漆黒の公爵子息だからね、秘密の呪文(スペル)もたくさん知っているんだよ?

 あぁ、”マジ”って言うのはね本気でっていう意味で」

「おい、エルネスティ! それにユスティーナ譲も、席はこっちだ」


「「え?」」


 侍女のミーナが向かっている二階テラスの奥とは別の手前の窓側の席から、三年生の王太子が僕達を大きな声で呼び止めてしまう。

 王族としてその貴族作法(マナー)はどうなっているんだと思いながらも、公衆の面前でその王族の呼びかけには残念ながら答えるしかありません。

 しかたがないので、足を組んでふんぞり返った王太子が指差す彼の左隣の席を無視して、対面(トイメン)の右隣の椅子を妹に引いて座らせると、わざと僕が彼の対面に座ります。


「エルネスティ、何でユスティーナ譲がそっちに座るん」

「ああ、アーサー君は僕の左に座って。それで王太子殿下、何の御用で?」


「おいっ、今朝から俺の話を何回遮(さえぎ)れば気が」

「あ、ユスティーナ。ミーアが取って来てくれたクラブサンド、サクサクしていてとっても美味しいね?」


「まあ、本当ですね。ミーア、ありがとう。でもでも、お兄様。この噂(うわさ)の焼きプディング、と~っても美味しいですわ」


 妹は一口だけクラブサンドをかじると、もうデザートをスプーンでサクランボのような小さな唇に運んで嬉しそうに蒼い瞳を細くしています。

 ああ、そのまるで天使のような一瞬の笑顔に、危うく自分の焼きプディングを取り落とすところでした。

 

「おいって、エルネスティ。話を聞けって言っ」

「聞いてますよ。あぁ、アーサー君はカツ丼どうだい? 僕も実はそれ大好きなんだよね~」


「い、いや……王太子殿下と同じ席で食事なんて。すみませんが、さっきから味がちっとも分かりません」


 一緒に連れて来た【勇者】くんはというと、対面に座る王太子の護衛でもある騎士団長子息のゲルハルトに睨(にら)まれて小さくなってしまっています。

 このデカいだけの赤髪の脳筋は主要キャラならではの戦闘力を持ったイケメンなんだが残念なことに頭の中が空っぽで、断罪時にはその腕力にものを言わせて悪役令嬢を床に叩きつけ取り押さえるという、つくづく救いようのない本物のバカなのです。

 こんな脳タリンを妹の側に近づけるつもりなど、断罪者である主犯の王太子と同様にあるはずがないのでした。


「ははは、何を言っているんだ。君は【勇者】じゃないか。王太子殿下ぐらいでビビッていてどうするんだい?」


「おいエルネスティ、何気(なにげ)に俺をディスってないか……って、君が今代の【勇者】殿なのか?」


 やっと気が付いたようで、王太子が【勇者】アーサーくんに視線を向ける。

 午前中の聖剣エクスカリバーの威力は三年生の王太子の耳にも届いていたようで、同じ学年で戦闘狂のゲルハルトにいたっては真っ赤な短髪を逆立てて目をギラギラさせています。


「はい。いえ、俺……私なんかよりも、エルネスティ様の闇魔法の一撃の方がずっと凄かっ」

「ははは、何を元気の無いことを言っているんだ。君の【剣製】があればどんな聖剣も思うがままじゃないか」


 王太子と戦闘狂の前で余計なことを言いそうになる【勇者】くんの背中を、めんどくさいのでバシバシと叩いて誤魔化しておきます。


「え? どうしてそれを……?」


「今代【勇者】が現れたという噂(うわさ)は聞いていたが、わぁ!」

「きゃっ、す、すみません。あっ、王子様! あの~、この席私が座ってもよろしいでしょうか? いいですよね? ありがとうございます、それでは」 

 

 突然のように空いていた王太子の左隣の席に、トレイを抱えて倒れこむようにやってきたのは、女性主人公(ヒロイン)【聖女】マリアです。

 そして当然のようにそのまま、なし崩し的に妹の前の席にちゃっかり座っています。

 こいつ……妹の前で婚約者である王太子にしなだれかかって、二の腕に並盛の胸を押し付けながらしがみついています。

 そのキャバクラのねーちゃんみたいな売女(ビッチ)【聖女】の暴挙に、さすがの妹も驚いたのか綺麗な蒼い瞳を丸くしています。


「……あ、あのぉ。それは淑女(レディ)として如何(いかが)なものでしょう?」


「えーっ、何よあんたなんか悪役令……ひっ。お、王子様は構いませんよね~?」


 また凝(こ)りもせずに僕の目の前で妹を悪役令嬢呼ばわりしようとしたので、【威圧】スキルを発動させてやるとすぐにヤバイと判断したのか、王太子の二の腕に隠れるように更にしがみつくとネコなで声をあげる。


「う……いや、普通に迷惑だから。今すぐにこの手を放してもらえるか?」


「え? あれぇ~、まだ効かない? う~ん、あ。何だ【勇者】アーサーには効いてるじゃん、あれ? でも、効きが悪い?」


 まだ魔法具の効果で【聖女】の【魅了】に何とか抵抗(レジスト)している王太子は、あからさまに逃げ腰で護衛のゲルハルトに助けを求めるように視線をやるが、【魅了】されている騎士団長子息は頬を染めて熱っぽい視線を【聖女】に向けるだけで役に立たないようだ。

 それよりも、魔法具も持たない平民でレベルの低い【勇者】アーサーはといえば、あっという間に一瞬で【魅了】されてしまったようだが、次の瞬間には【勇者】の持つ素の耐魔法抵抗でレジストし始めているようです。


「うっ……な、何だこの気持ち悪い感じは?」


「さすがは【勇者】だな。今この瞬間に【状態異常耐性】スキルが生えてるなんて、本物のチートって本当に凄いんだな」


 念のため警戒してアーサーくんのステータスを【鑑定】していた僕は、そのバケモノじみた主人公の性能に思わず感嘆してしまう。

 やはり最強の【勇者】シナリオルートじゃないと、色んな意味でこのアホ【聖女】ではあっという間に詰んでしまいそうです。

 

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