男装の麗人
桜夜が店の奥に引きずり込まれて早1時間が経過しようというところで、ナタリアと共にもう一人が姿を現した。
ナタリアと一緒に出てきたのは正に美少年という言葉がぴったりの人物であった。クリッとした茶色い瞳に長いまつげ、肌は雪のように白く茶色が入った美しい長い髪の毛を人束にしている。日本の着物を彷彿とさせる黒い光沢のある服を着ており、黒い皮のブーツには側面に緑色の透き通った水晶が飾られ、その上から黒い皮のマントを羽織っている。
服の上からでも分かる華奢な身体は今にも折れてしまいそうだ。
マーリンは出てきた少年の姿に思わず見入ってしまったが我に返り声をかける
「サクヤ見違えたよ!とっても似合ってる」
美少年はマーリンに返答する
「酷い目にあった・・・」と
そう美少年だと思っていたのは先ほど拉致された桜夜だったのである。
「素晴らしいわ!さすが私!サクヤのこの姿をみたら男だろうが女だろうがご飯大盛り3杯はいけるわね!」
ナタリアは実に満足そうに自画自賛した後、2人に商品の説明に入った。マントは”死の羊”という希少なモンスターの素材で多少の斬撃や魔法にも耐える。着物は"魔布"を使っており魔力を通すと材質が変化し鎧となる。ブーツも”ミノタウロス”という強い魔物の丈夫な皮で出来ており、側面に付いている水晶は魔石の一種で足の動きを補助する魔法がかけられている。
おそろしく高性能な上に軽くお洒落という素晴らしい一式であったが値段に驚愕した。
なんと15万ウォレ、つまり金貨15枚!日本円で言うと約1500万である!
しかもこれでもマーリンたちのために原価ギリギリでの販売だという・・・。
あまりの値段の大きさに口をパクパクさせていた桜夜を横にマーリンはポンッと金貨を15枚ナタリアに渡し、お礼を言いながら今だ動くことの出来ない桜夜の手を取り店を後にした。
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「こ、こんな高い物貰えないよ!」
桜夜はマーリンは抗議していた。幾らマーリンに甘えていると言えども、さすがにこれはお節介の範疇を超えている。それに対しマーリンは、
「桜夜が怪我したり、命を落としてしまったら元も子も無いだろう?この装備は命を護るために必要な投資だよ。」
と真面目な顔で答える。マーリンが言うにはナタリアの店の商品は実用性・耐久性に大変優れており、何年も使い続けることが出来るらしい。これから防具を何度も買い換える金と手間を考えると、最初から1流の品を買ったほうが得であるという話であった。
しかし、その説明を理解はしたものの納得がいかないとゴネにゴネて結果半分をマーリンが援助し、残りの半分を桜夜が少しずつマーリンに返済していくということで話がついた。
なぜ桜夜が少年のような格好をしているのかというと、昨日マーリンが話したように”女”の異世界人は嫌われているからである。今後はしばらく桜夜が異世界人であることは伏せていくつもりであるが、もし万が一ばれた場合”女”である桜夜はセレスティアの民から酷い仕打ちを受けるであろう。その保険として普段から”男”として振舞うことで、”男”の異世界人として協力を得ることが出来る。”女”であることがばれる場合もあるが誰も男のふりをするような馬鹿な真似をするとは思わないだろう。
という内容を昨日もマーリンと話し合い桜夜も承諾したのであるがナタリアの店のことは何も聞かされていなかったため何の心の準備も無いまま襲われてしまった(?)というわけだ。
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ナタリアの店を後にした桜夜とマーリンは今度こそ本来の目的地へ向かっていた。
「よし教会に着いたぞ!」
目の前にあるのは古い木造の大きな建物、建物の入り口からは中庭に繋がっている。
マーリンは正面から入り、中庭を抜け先にある大きく開け放たれた扉をくぐる。
入るとそこは大きな講堂になっていた。色とりどりのステンドグラスから日差しが差し込み人や動物、植物などのモチーフが美しく輝いている。中央の祭壇に飾られている少女の像はセレスティアの神様であろうか?木で彫られた飾り気の無い像であるが何か神々しさを感じた。辺りには200人は座れそうな椅子が並べられており、何人かが像に向かって祈りを捧げている。
その様子を見ていると、こちらに気がついた一人の神父が声をかけてきた。紺色のローブを着ており、細身で背筋は真っ直ぐである。顔には深い皺があることから、年齢的にはかなり高齢であろうが白髪はバッチリのオールバック、エメラルドの瞳には強い意志と優しさが感じ取られ、実年齢よりは遥かに若く見られるだろう。
「おお!マーリン来たか。待っておったぞ。いつもより来るのが少しばかり遅かったのう。道中何かあったか?」
「いや少しナタリアの店で買い物をね」
「それなら仕方が無いのう。あやつ腕は確かなのじゃが・・・それで今回の被害者はそこの坊主かの?」
神父は桜夜の方を見て同情するような眼を向けた。(やっぱり私以外でも被害を受けている人いるんだ・・・)自分と同じ目に合った人達に共感しつつ、桜夜はチャンスとばかりに神父に挨拶する。
「サクヤ・クドウと申します。現在マーリンさんの家にご厄介になっています。以後お見知りおきを」
(何かいつもより調子が良い。男の服になったからか堂々と振舞えている気がする・・・癖になっちゃうかも)
神父は桜夜の挨拶にを聞き、感心したような顔をしていた。
「これはご丁寧にありがとう。わしはこの”トーチ”の教会で50年ほど神父をしておるモーリスと言う。まだ色々話をしたいところじゃが、まだ今日の仕事が残っていてのう・・・マーリン宿舎の方で休んでもらってて良いか。今日は奴もいるはずじゃから」
と言いながら先程入って来た出口から右のほうを指差す。
「分かった。それじゃまた後で」
「失礼します・・・」
モーリスと分かれた二人は講堂を出るのであった。
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下に男装後の桜夜の挿絵あります。
http://11283.mitemin.net/i107069/




