屋台
大好きだよ、篤志
あいつが良く俺の耳元で囁いてた。
今でも思い出す。
サムイに重ねるなんて事はしちゃいけない。
失礼すぎるだろ。
だから、この想いは封印しないとな。
もう戻れないんだから。
ここで生きていくんだから。
はあ、本当に前世の記憶なんて必要ない。
有ったらあったで、こんなにも想いを引き摺る事になる。
ああ、だから、人は記憶の継承をせずに生まれ変わるのだろうか。
だったらなぜ、俺は記憶がある?
サンガル王も記憶はあった。
サムイは微妙な感じだが。
俺とサンガル王の共通点と言えば・・・悪運か?
ははっ、なに?可哀想だから昔の記憶でも残したれって?
本気でそうなら、クソッタレな神だな。
あんな何も無い所に転生させられて、
記憶残したから頑張れよって言われてもな。
俺は、ヨーク王に、ルーバにグレイに公爵領のみんな。
それにこのマント。最後にサムイ。
これだけ多くの人や物が、俺を正常でいさせてくれた。
サンガル王はもう1人の俺だ。
同じ立場なら、俺はきっと、本当の魔王になってたと思う。
この世がどうなろうと構わない。
どれだけ人が死のうと関係ない。
嫌われているなら、この世の全てを呪ってやろう。
俺にはそれだけの力があるのだから。
ルーバに会うまでの俺は、そんな感じだった。
俺が、今の俺になったのはみんながいたからだ。
大切な者が出来たからだ。
誰でもそうで、誰でも成り得る。
「アツイ様?アツイ?ずっと考え込んでるみたいだけど大丈夫?
歩きながら考え事すると、転んで怪我しちゃうよ?」
「ああ、すまん。ちょっとサンガル王の事を考えてた。」
「サンガル王ってラグルリットさんの事?
今じゃ、あそこは王様いないんだよね。
王様の子供達で話し合って多数決で決定するって言ってた。
貴族共和制って言う国家みたいだけど、上手くいくといいね。」
「そうだな。ところでお前、サンガル王の事、さん付けなのな。
随分、仲良くなれたんだな。」
「うん。仲良しだよ?色々お話して、こっちの世界のお名前で呼んで欲しいって。
それで、王様を辞めるから、さん付けで呼ぶようになったんだ。」
「そうか、あの人は、前世じゃ、俺と同じ一般人みたいだったからな。
王様とか向いてなかったんだろう。
前世覚えて無かったら、もっと王様出来てたかもな。
だいたい、王様だろうが、大統領だろうが1人に全部、権力も責任も持たせすぎなんだよ。
うちみたいな王様じゃないと、平穏な国家運営は出来ないと思わないか?」
「うちの王様ってマイカール王の事だよね。
僕、王様ってもっとふんぞり返ってるもんだと思ってたけど、
会ったら全然違ってたから、びっくりしたよ。
優しい、お茶目なお父さんって感じだった。
だから、サンガルと戦争ってなった時、大丈夫か心配になったよ?
平穏な内はいいけど、悪い奴らが来たら、やられちゃわない?」
「そのために俺らが盾になるべく鍛錬をしてるんだ。
大丈夫。心配すんな。マイカール王の恩義には必ず応える。」
「うん。僕も出来る限りの事はするよ。」
「お前のおかげでサンガルも良くなったんだ。
既に沢山の事をしてくれてるよ。」
「ふふ、それを言うなら、アツイだって。
戦時中なのに、単身サンガル王に会いに行くなんて。
それでラグルリットさんが心を開いてくれたのは
アツイのおかげだよ?
多分、僕じゃ出来なかった。
橋の事も、偵察機?の事も僕じゃ分からなかったよ。」
「はは、そうか、そうだな。
まあ、何とか丸く収まってめでたしめでたしってな。」
「ふふふ、あ、ねえアツイ、ここがアツイの言ってた広場でしょ?
広場の周りに屋台が出てるんだね!人もいっぱいいる!
王都で一緒にお昼を食べた所に似てるね。
広場の真ん中に噴水があるのが違うけど、
ベンチがあるからここでもお昼食べれるんだよね。
あ、あのお店は、お肉を串焼きしてる!いいにおいー。
あそこはなんだろ。え?麺?アツイ!あれ麺だよね!
僕、初めて見た!あれ?初めて見たのに麺って分かるってことは
あれは前世の食べ物って事?」
「ああ、そうだ。俺が食べたかったから、こんな感じでってバルに説明したら
街のみんなを巻き込んで作るの手伝ってくれてな。なんとか形になったんだ。
公爵領で育つ穀物でパンが作れるなら、小麦だよなーって思ってさ、
うどん、パスタ、ラーメンとか麺がいけるんじゃないかってな。
ただ、スープがなあ、醤油がないから和風系は無理だが
トマトっぽいのや香辛料があるから、洋風な感じでまとまったよ。
街のみんなは、ツルツル食べれるから楽しいって好評だぞ?
まあ、他にもあるから、色々買って食おうか。」
「うん!アツイ!早く行こう!早く!」
「ああ、わかった。」
アツイはサムイに手を引っ張られて、店を回る事になった。
一周して、ひととおり見て買い物した後は、
アツイと隠れて護衛に付いて来ていた近衛騎士が
抱えきれないくらいの食べ物を持っていた。
「はあ、サムイ、お前これ食べきれないよな?みんなで食うか?」
「アツイ!ごめんなさい。あれもこれも美味しそうで、つい!
騎士の皆さんも、お昼休みだったんでしょ?持たせてしまってすみません!」
「あーいやこいつらは・・・、まあいっか。
じゃあ、作りたてのうちに食うぞ!
ほら、座れ!お前らも!
サムイ、まず、これ食え!」
アツイがサムイの口に串を押し込んだ。
「んんーー、モグモグ、美味しい!」
「そんで、これ飲め!」
「んー、ゴクゴク。あ!コレ!レモネード?
ん?レモネードって何?あ!そう言う事?
アツイ様、一体どれだけ作らせてるの?」
「ふふん、食べていけば分かる。
折角覚えてるんだ。一度は試したくなるもんさ。
みんなに好評だったものが、残ったんだ。
お前が覚えてる味が、再現出来てれば俺も嬉しいよ。
今日食べきれなかったら、またくればいいさ。」
「うん!みんなごめんね。次からはちゃんと食べれる分だけにするからね?」
「ははは、大丈夫ですよ。
俺らもこんなに沢山の種類、食べた事ない物もあるんで楽しみです。
いつもは城の食堂や兵舎の詰め所で食べてるんです。
だから、ここの屋台では滅多に食べないんですよ。」
「そうなの? ほっ、じゃあ良かった。
みんなで食べると楽しいー。ね!アツイ様!」
「ああ、そうだな。
あ、そうだ!お前ら食堂でもここの食べ物を食べられるように、
サナに言っておいてやるよ。
たまに違う料理が出るのも、いいだろうしな。」
「アツイ様!ありがとうございます!楽しみにしてますね!」
「ああ、さあ沢山あるんだ。食え食え。」
「はい!」
*****
この数日後から、城の食堂のメニューに、
ナポリタンやお好み焼き、焼きそばが出るようになった。
たこ焼きが、いつか食べれますように。




