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3-14 飢え

ミナは違和感に気づいて目を覚ます


なにやら体に触れられている


「ん? なに?」


目を開けると、すぐ目の前にナルの顔があった


「ナル?」


「ミナ、好き」


「へ?」


ナルの顔がゆっくりと近づいてくる


「ちょ、ちょっと待って!」


だが、ナルは止まらない


あと少しで唇が触れそうになり、ミナは慌てて顔を背けてかわす


その横で、リンは涼しい顔で何かを机に運んでいた


リンは二人の様子を見ると、少しだけ手を速めた


「あらあら、悪食の封印が弱まっていますね」

「お腹がすいて、ナルの精神が弱ってしまったようです」

「これは、わたくしの見込み違いでした」


「見てないで助けてよ!」


「分かっていますよ」

「あなたとは約束しましたからね」

「これでも急いでいるのです」


次の瞬間、ナルの体から紫の光があふれ出し、ナルとミナを包み込む


続いて赤い砂がミナの頭と体にまとわりつき、その動きを封じる


ナルはミナの服をはだけさせ、体をまさぐり始めた


ミナはリンに助けを求めて叫んだ


「ちょっと! ちょっとちょっとちょっと!」

「リン! リーーン! はやく!」


ナルは小さく笑い、ミナに顔を近づける


次の瞬間――


ジューーー


リンが昨日と同じように肉を焼き始めると


一気に香ばしい肉の匂いが部屋に広がった


その匂いに、ナルがびくりと反応した


ナルはミナを解放し、ゆっくりとリンのほうへ歩く


紫の光と赤い砂も消えた


ミナは放心状態でぐったりしていた


リンは急いで肉を焼き続けた


次々と焼けた肉をナルの皿に置いていく


ナルは肉が置かれるたび、すぐにそれを口へ放り込む


ナルは叫ぶように言った


「おいしいぃ!」


リンは肉を裏返しながら、ナルの顔を覗き込んだ


「正気に戻りましたか?」

「覚えていますか? 自分が何をしたのか」


ナルは肉から目を離さないまま、気まずそうに言った


「うん、覚えてるよ」

「ごめんね、ミナ」


ミナはがばっと起き上がった


「なんか軽くない!?」

「わたし、いろいろされたんですけど!」

「もうお嫁に行けないんですけど!」


ナルはバクバクと食べながら言った


「ごめん、本当にごめん」

「こんなのノーカンにしようよ」

「あとでちゃんと謝るから、今は食べさせて」


「あんたなんでもカウントしないわね!」

「わたしはカウントされんのよ!」

「ナルみたいにすぐリセットできないの!」


リンは黙々と肉を焼き


ナルはもぐもぐと肉を食べ続ける


ミナは怒って言った


「大事な話してんの! 食べるのやめてよ! ちゃんと聞いてよ! ちゃんと謝ってよ!」


ナルは口いっぱいに肉を頬張ったまま、申し訳なさそうに言った


「ごめんね、食べたら聞くから」


リンはその横で、次の肉を淡々と焼いていた


「食べさせるのをやめたら、また悪食が出てくるかもしれませんが、いいんですか?」


ミナは言い返そうとして、言葉に詰まった


それから、悔しそうに叫ぶ


「いいわけないでしょ!」


ナルは肉を飲み込んでから、ぽつりと言った


「ミナって、実は結構乙女だよね」


ミナの眉がぴくっと動く


リンも肉を皿に移しながら、何食わぬ顔でうなずいた


「たしかにそうですね。わたくしも意外でした」

「お嫁に行きたいなんて願望まであったんですね」

「相手はナルなのですから、姉妹のようなものでしょう」

「気にしない方がいいですよ」

「蚊に刺されたとでも思ってなさい」


ミナがリンを睨みつけて言った


「リン、わざとじゃないでしょうね!?」


「心外ですね」

「わざとなわけないじゃないですか」

「そこに軟膏があります」

「跡も目立たなくなりますよ」


「え? どこに塗るのよ」


リンはミナの首元を指で示した


「首元と胸元にキスマークがありますから」

「塗った方がいいですよ」


「キスマーク?」

「なにそれ?」


ミナは反射的に首元を押さえた


それから急いで鏡の前に立つ


リンの言う通り


赤い跡がいくつも残っていた


「なにこれ!? なんか付いてる」

「なんでこんなことになってるの!」


「あなたが寝ている間に、ナルが付けていましたよ」


「そんな……全然気づかなかった……」


ミナは鏡の中の自分を見たまま固まった


そして、ゆっくりリンの方を見る


「って……なんであんた、そのこと知ってるの?」


リンは悪びれた様子もなく答えた


「最初は悪食だと気づかなかったんですよ」

「そういう関係なのかと思いまして」


リンは涼しい顔のまま、言葉を続けた


「でも、わたくしが見学していて良かったですね」

「立ち去った方がいいのかとも思い、悩んだんですよ」


ミナは低い声で言った


「あんた性格悪すぎるのよ、いつか覚えてなさいよ」


「わたくしを師と認めたじゃないですか」

「あなたに必要なのは、わたくしのこういうところかもしれませんよ」

「ミナって素直で、夢見がちですものね」


「喧嘩売ってるよね?」


リンは少しだけ声を落とした


「ごめんなさい、つい口を出したくなるのです」

「わたくしは、あなた達が可愛いのかもしれません」

「もし自分に子供がいたら……なんて、想像してしまうこともありますよ」


ミナは一瞬だけ言葉を失った


文句を言おうと開きかけた口が止まる


「……リン」


その反応を見て、リンはすぐに意地悪く笑った


「なんてね。信じましたか?」

「可愛いですね、ミナは」


ミナは深く息を吐いた


「ほんとあんたこじらせてるわね」


ナルがもぐもぐ食べながら言った


「嫌なことは早く忘れた方がいいよ」

「わたしはそうしてる」


ミナは即座にナルを指さした


「ナルは少しくらいは覚えてよ!」


リンが横から口を挟んだ


「された方は覚えていても、した方はすぐに忘れるものです」

「ナルは人間らしくていいですね」


ナルは肉を飲み込み、むっとした顔でリンを見る


「なによ、それ。絶対褒めてないでしょ」


リンは気にせず、肉を裏返しながら続けた


「大抵の苦しみは執着心から生まれます」

「ミナもあまり気にせず、忘れた方がいいですよ」


ミナは疲れたように頭を押さえた


「リンって最近、本性を隠すのやめてない?」

「教育にわるいんですけど」


「あなた達を思って言ってるんですよ」

「助けてあげたのに、悲しいですね」


ミナは思い出したようにリンを睨んだ


「さっき見学してたって言ってなかった?」


リンは平然と肉を皿に移した


「悪食だと気づかなかったと言ったでしょう」

「そういう愛の形もあるのかと、好奇心が湧きまして」

「わたくしは、可愛い弟子の幸せを常に願っていますよ」


ミナは首元を押さえながら、大きなため息を吐いた


「わたし、お風呂入るね」

「これ、落としてくる」


そう言って、ミナは脱衣所へ向かった


しばらくすると、浴室から大きな声が聞こえてきた


「全然消えないんだけど!」





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