6ー27 男として
ナルが笑顔になる
「レアル!」
レアルの腕の中で、リンが呟くように言った
「どうして……」
「どうして、放っておいてくれなかったのです」
レアルはリンの肩を優しく支え、ゆっくりと床へ下ろした
リンは力が抜けたように、その場にへたり込んだ
レアルは申し訳なさそうに言った
「すまない……」
「許してほしい……」
即座にナルはアルトを逃がさないように悪食の光を広げた
アルトはチラリと窓の方を見てそちらへ走り出した
だが、すぐにナルの砂が窓を塞いでいく
レアルは厳しい表情で目を細めた
そして言った
「アルト、貴様なにをしている」
「我らは何があろうと、リンを守る」
「若き日に、そう誓ったはずだ」
「リンは貴様が死んでも、全てを捧げてきたというのに」
「なんだ貴様のその様は」
ナルが続いた
「そうよ! あんたなんかにリンはふさわしくないわ!」
「ボコボコにして海に捨ててやるからね!」
するとレアルがナルに言った
「ナル、ここは、私に任せてほしい」
「リンたちを連れて、離れていてくれ」
「男として、あいつに言いたいことがあるのでね」
リンはへたり込んでうつむいたまま動こうともしなかった
するとマリーを抱きしめながらルッツが言った
「レアルでは、勝てない」
「あのアルトは、別物だ」
ナルも続いた
「そうだよ、わたしが戦うよ」
「あいつの魔力、昔のミナくらいには大きいんだよ」
「レアルじゃ勝てないよ」
「ずいぶんとハッキリと言ってくれるね」
「ナルのいう通りなのかもしれん」
「それでも、この戦いだけは譲れないのだよ」
「頼む」
「でも……」
「ナル、私は君の父だろ、信じておくれ」
そう言われて、ナルはレアルの背中を見た
腕を組んでしばらく悩んだあと、意を決した
ナルは右手を大きく振りかぶり、思い切りレアルの背中を平手で叩いた
バン!
大きな音が響いた
ナルがその音に続くように叫ぶ
「わかった! いってこい!」
「負けたらだめだからね!」
「あなたは生きて、わたしに飴を捧げなさい!」
「約束するなら、行ってよし!」
レアルは小さく笑った
「ナルにはかなわんね」
「もちろん、私は負けないよ」
「もう、負けるのはこりごりなのでね」
呆けたままのリンが呟くように言った
「いけません……レアルでは勝てません」
ナルはハッキリと言い返す
「レアルが勝つって言ったのよ」
「だったら成し遂げるわ」
「そうでしょ!?」
レアルはそれに即答した
「もちろんだ」
その返事を聞き届けると、ナルはリンとルッツとマリーを砂で包み、窓から外へ運び出した
そのまま向かい側のテラスへ移り、レアルの戦いを見守る
アルトが勝ち誇ったように笑った
「俺にも運が向いてきたようだ」
「あの化け物がいなければ、逃げる道もある」
「おまえを殺し、逃げさせてもらうよ」
アルトはレアルに光の剣を構えた
レアルはアルトへ厳しい視線を向ける
「アルト、貴様は我が友だ」
「リンが貴様を選んだことも、今では納得している」
「選ぶのは、彼女だからな」
「貴様がサラを選んだことは、昔、殴りはしたが……」
「内心では、リンを取られずにすむと安堵していたのだ……今さら咎める気もない」
「ただ、男として、貴様にはずいぶんと前から言いたいことがあった」
「それを、今こそ言わせてもらうよ」
レアルは静かに大きく息を吸い込む
そして大声で言い放った
「リンは! 俺が幸せにする!」
「オマエは! 墓場で! 指でも! 噛んでろ!」
遠くからナルの声が聞こえてきた
「いいぞ! レアルー!」
「やっちゃえー!」
風が吹き荒れ、レアルの風の魔法が嵐のように広がった
レアルは両腕を鋭く振り抜き、半月状の風の刃を幾重にも放った
それをアルトは光の剣でやすやすと全て両断した
風の刃は周辺の壁や天井に当たり、石造りの建物を破壊していく
やがて天井が崩れ落ち、空があらわになった
レアルはふわりと空中に浮き、高速で飛び回り始めた
あらゆる方向から、絶え間なく風の刃を浴びせる
しかしアルトは、そのことごとくを光の剣で切り伏せた
次の瞬間、アルトがレアルに向けて飛び出した
一瞬で距離を詰め、光の剣をレアルに向けて振り下ろす
レアルはその剣をすんでのところでかわすが、アルトに蹴り飛ばされ、床に衝突した
アルトも床に着地し、レアルに向けて歩いてくる
「レアル、相変わらずお前は弱いな、弱虫のままだ」
「もう少し遊んでやりたいが、あまりいたぶると邪魔が入りそうだからな」
「さっさと死ね」
レアルは痛みに耐えるようにお腹を押さえながら立ち上がる
そして小さく笑った
「やはり……貴様は違うのだな」
「アルトは私のことを一度たりとも弱虫とは言わなかった」
「私とて、遊んできたわけではない、切り札くらいはあるさ」
レアルを中心に緑の風が大きな竜巻のように広がった
その竜巻は圧縮するように縮んでいく
そして、レアルの手には緑の剣が握られていた
アルトは光の剣を振り上げ、レアルへ向けて猛烈な勢いで飛び出す
その突進から繰り出される斬撃が、レアルを襲う
レアルは右手に持った風の剣でそれを迎え撃つ
風の剣は、すべてを切り裂くはずの光の剣と鋭い音を立てて衝突した
二人は剣を重ね合わせて向かい合っていた
レアルは重なった剣を、さらに押し返していく
「どうだ、切れないだろう」
「いつまでも貴様に負け続けたりはせん」
ルッツが目を細めた
「あれでは、駄目だ」
そう言われてナルが聞いた
「え? なんで? 魔法の剣は互角じゃない」
「アルト兄さまの剣はスキルなのだ」
「あの剣の能力は……」
次の瞬間、アルトが剣を押し込むように振り抜いた
レアルは抵抗する間もなく吹き飛ばされる
そのまま壁に激突し、床へ崩れ落ちた
レアルは痛みに耐えるようにうずくまる
ルッツは続きを話した
「術者自身の能力を大きく強化する……」
「おそらくレアルは最大出力の風の魔法を、あの小さな剣に圧縮したのだ」
「そこまでやれば、光の剣でも切れないようだが……」
「剣は互角でも、身体能力では相手にもならない」
「助けに入るべきだ」
ナルがルッツの声にかぶせるように言った
「レアルはムキムキなんだから、なんとかするわよ!」
「勝つって、わたしに言ったんだから、レアルは嘘なんかつかない、わたしは信じるわ」
「それに、わたしが嘘にはさせない」
ナルが目配せする
ルッツはその視線を追った
二人が戦う床は一部が崩れ、その下の階が見えていた
そこには紫の光と、赤と銀色の砂が潜んでいた
「わたし、レアルのことが気に入ってるのよ」
「本当にレアルが一人で無理なら、わたしが勝たせてみせる」
そしてリンに当てつけるように声を張り上げた
「誰かさんに、負け役ばかり押しつけられちゃ、かわいそうだからね」
「わたしは、レアルを勝たせるためならなんでもやるわ」
「あんたと違ってね!」
ナルの言葉を聞き、ずっと無気力に呆然としていたリンが、ぴくりと反応した
ナルははっきりと、リンに向けて言った
「リンもレアルを勝たせたいんでしょ」
「目的のためならなんでもやる、それが魔女じゃないの」
「そうじゃなかったって、弟子に見せつける気なの?」
「どうなのよ、恩師様」
リンの丸まっていた背筋が、真っすぐになっていく
そして、静かに立ち上がった……
聞き慣れた口調でリンが言った
「そうです、それが魔女です」
「正解ですよ、よく勉強しましたね」




