『凍てついた城と迷子の姫』
むかしむかしのお話。
せかいの、とても遠い遠いところに、おそろしい森がありました。
その森の、深い深い、いちばん奥。
そこには、まるで時が止まってしまったかのように、古びたお城が建っていました。
「あの城には、こわい魔法使いがいるらしい……」
「お城に近づくと、生きてるものが、みんな枯れてしまうんだって」
村の人たちはそう噂して、だれひとり、お城に近づこうとしませんでした。
お城の主人の名前は、スカーレットといいました。
お城の主人は「どくろのおうさま」と呼ばれ、いつもひとりぼっちでした。
でも、ずっとずっとむかし、そのお城は、とても美しいお城でした。
まぶしい光をまとう、やさしい王子さまたちがいて、庭にはきれいな花が咲きほこっていました。
スカーレット王子も、燃えるようなまっかな髪と、ルビーのようにかがやく瞳を持った、みんなから愛される優しい王子さまでした。
ところがある日、スカーレット王子は、大好きなお兄さんをなくし、悲しくて悲しくて、こわい魔法に手を出してしまいました。
その日から、お城は、光をなくして、闇につつまれ、王子さまの心も、氷のかたまりのように冷たくなってしまったのです。
庭には、もう花は咲かず、枯れた木だけが、天に向かって、さみしく手をのばしていました。
そんな、すっかり死んでしまったようなお城に、ある日、ひとりのお姫さまが迷いこみます。
お姫さまの名前は、ジェイドといいました。
うつくしい緑色の髪と瞳を持った、やさしい心の持ち主でした。
ジェイドには、ほかの王族のひとたちのように、特別な力はありませんでした。
だから、家族やまわりのみんなから「王族なのに力が使えない」といじめられていたのです。
それでも、ジェイドは、どんな闇のなかでも、ちいさな光を見つけることのできる、つよい心を持っていました。
これは、心を閉ざしてしまった、どくろのおうさまと、どんなことも受け入れて、温かさを届けようとするお姫さまの、出会いのお話です。
氷のように冷たいおうさまの心がふたたび動きだすとき、闇につつまれたお城に、あたたかい光が差しこみます。
ふたつの、ちがうさみしさが、おたがいをあたためあい、
ほんとうの愛と希望を見つける物語の、はじまりはじまり。