表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第一幕 髑髏の庭
2/166

1-1 宵闇の城

挿絵(By みてみん)




第一幕 髑髏の庭

 一章 宵闇の城




 世界は今や、光の祝福と闇の呪いが入り混じる舞台となっていた。

 光を信仰する人々は豊かな王国に暮らし、神に祈りを捧げることで魔法の加護を得ていた。その祝福は大地に実りをもたらし、都市には賑わいと笑顔を満たす。

 だが一方で、世界の至るところに広がる闇は、同じだけの恐怖を人々に刻んだ。森は黒く侵食され、魔物が潜む洞窟は冒険者を飲み込み、災いの影は静かに世界を蝕んでゆく。祝福と呪い――相反する力は拮抗し、この地を終わりなき均衡へと閉じ込めていた。


 その均衡の外れ、王国の地図からも忘れられた辺境の森の奥深くに、一つの城があった。深霧に覆われたその地は、昼であっても陽光が差し込むことなく、常に薄闇に沈んでいる。古びた石造りの城は、宵闇をまとい、その輪郭は遠くから見れば巨大な髑髏の影のように映った。やがて人々は、その不吉な姿を「宵闇の城」と呼び、恐れと忌避を込めて口にするようになった。

 この城に近づける者はいない。周囲に満ちる瘴気は生者を拒み、足を踏み入れた者の気配をいつの間にか霧の中に溶かしてしまう。噂では、城の主こそが呪いそのものだと語られていた。


 私は、その城に暮らしている。

 長き時を越え、不老不死の呪いを負ってから、幾世代もの人間が生まれては滅びるのを眺めてきた。私の名はスカーレット・クロウ。かつて「緋色の王子」と讃えられた頃もあった。だが今や人々は、私を「髑髏王」と呼び、畏れを抱いて近づこうとはしない。


 城の内部は、外観とは対照的に整然としている。磨かれた黒曜石の床は、蝋燭のわずかな炎を映し、天井から垂れるシャンデリアには時間が止まったように埃一つ積もらない。広間の壁には精緻なタペストリーが掛けられ、図書館には失われたはずの古代の書がぎっしりと並ぶ。錬金術の工房には奇怪な薬草や魔

道具が並び、ひとつ触れればどんな力を発揮するのか分からないものばかりだ。

 だが、どれほどの財がここに眠っていようと、それを手にする者は存在しない。ここには私以外に生者の息遣いはなく、響くのは自らの足音と蝋燭の揺れる微かな音だけだった。


 青白い肌、血に濡れたような深い赤の長い髪、そして血の色を宿す瞳。

 かつては燃えるような緋色の髪を持ち、「緋色の王子」と讃えられた私だが、その面影は今や呪いに染められている。鏡に映る自らの姿は美を留めながらも、瞳には虚無しか宿さず、感情は久しく失われていた。


 私の肩に一羽の烏が舞い降りる。名をレイブン。私の守護聖にして、唯一対話を交わす存在だ。黒い羽を広げ、深い闇を映す瞳で私を見つめると、低く声を落とした。


「今日も変わらぬな、スカル」


 宵空を仰ぎながら、私は静かに答える。


「ああ、レイブン。終わりのない一日が、また始まる」

「その無限を、どれほど積み重ねてきたのだろうな。俺には想像もつかん」

「想像する必要はない。この孤独は、私ひとりで十分だ」


 その一言で、再び沈黙が訪れる。

 孤独は私の常であり、対話すら慰めにはならない。心は時間とともに凍りつき、もはや動くことを知らなかった。


 ――だが、その日。


 森の奥から風が吹き抜けてきた。いつもなら淀んでいるはずの空気が、一瞬だけ切り裂かれたように澄んでいく。私はその流れに、かすかな「人の気配」を感じ取った。


「……珍しい。こんな場所に人間が迷い込むとは」


 思わず漏れた私の言葉に、レイブンがくぐもった声で返す。


「どうせ財宝目当ての愚か者だろう。放っておけ。この森に呑まれるのが落ちだ」


 その通りだ、と私は思った。

 かつて幾度となく愚か者がこの城を目指した。勇気を誇示する者もいれば、富を夢見る者もいた。しかし皆、例外なく霧と瘴気に喰われ、姿を消した。救いも奇跡もない。そう、この森は望む者を裏切り、必ず絶望へと導く。

 ゆえに私は、特に反応を見せなかった。ただ宵空を眺めるままに、関心を閉ざす。


「……行こう、レイブン」


 静かに立ち上がり、城の奥へと足を運ぶ。

 人の気配など、私にとっては取るに足らぬものだ。今までもそうであったし、これからも変わらない。

 そう、あの日までは――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ