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第3話

 そして再び野外劇場の賓客席。

 じりじりと、令嬢と令息が観客の誰からも注目を浴びやすい場所で、静かな攻防を繰り広げている。


 その時だった。


 どこからか、パカラッパカラッという馬の軽やかな足音が!

 しかもそれは二頭いる様だ!


「待てーい!」


 よく通る女性の声が、その場に響いた。

 馬からさっと飛び降り、細剣を口にし、木を伝い、ひらりとマントをひらめかせて客席に飛び降りる謎の仮面。


「あ! も、もしや貴女方は!」

「私は庶民の味方! 夜の…… いや、今は夕べの白百合!」

「おなじくすみれの星!」

「この様な場所で舞台前の時間を壊すなど、劇団にも観客にも迷惑でしょう! さっさとお引き取りを!」


 娘と息子は唖然とした。


 ――うわあ、どっかで聞き覚えのある声。

 ちょ、まさかこれって…… 


 その一方で、観客の中でも中年にさしかかる者達は、かつて街を駆け巡った謎の仮面が二人揃っていることに歓声だの口笛だの上げ、中には感涙する者すらいた。

 二人の母達は子供達につ、と鋭い細剣を突きつける。

 無論刃は既に潰してある。

 いやそれでも細いものが迫り来るのはなかなか怖い。


「どちらからも婚約破棄をしたいならすればいいでしょう! ですがその際、両伯爵家の縁が切れてしまうのは覚悟できているのか!」

「戯れならお止しなさい! 我々は常に本気!」

「くっ……」


 二人は目配せをしあう。


「仕方ない! 破棄を破棄しよう! それでいいのだな!」

「いいのだな、なんて! 私の方が先ですわ! 破棄を破棄します!」


 ふん! とそれでも二人して大きく首をぷい、と振り、明後日の方を向き合う。


「宜しい。では良い子の二人とも家まで送ろうではないか!」

「観客の皆様、それでは失礼!」


 そしてそれぞれの母親は、娘と息子の手を引っ張り、そのまままた木を伝い、馬の方へと駆け寄って行く。



 馬はそのまま、昔とった杵柄、伯爵家までは裏道を通って走る。

 「白百合」の後に乗ったコンスタンスはその香りですぐに判った。


「……何やってるんですかお母様……」

「ふん、若いもんの流行があれじゃあ大したことないわね」


 デジレは娘に向かって、張りのある声をかける。


「そうそう、あの程度じゃあ学校時代の友達の劇団に、あと三日、客は呼べないわよ!」

「だからって…… 母上、最近腰が痛いとかおっしゃってませんでしたか?」

「ほーっほほほほほっ」

「笑ってごまかさないでください!」


 ぱからっぱからっぱからっ、と馬はそのままマドレーヌ伯爵邸へと走って行く。

 何せこれから、結婚式の準備があるのだから。

 全く人のことを心配する前に自分達のことを何とかしろ、と母親達は思うのであった。

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