61.どいつがターゲット
「まったく、情けない刺客ですこと」
刺客が出てから五日後、既に恒例になってしまったフランティス殿下主催お茶会にて、コートニア様は大変不満げに声を上げた。
と言っても自分が狙われたことでも私が毒食らったことでもなくて、刺客の人に対して不満らしい。
「毒の調達元をごまかすくらいの芸当はしていただけないと、面白くないですわ」
「普通はあ、現地調達しそうなものなのですけれどねえ」
「さすがに、グランビレ領内の湿地に生える毒草が原料っていうのはなあ……」
「確かに、せめて国のどこででも手に入りそうなものをお使いになればよろしいのに」
コートニア様だけでなくピュティナ様も殿下も、エンジェラ様に至るまで何か文句つけてる。いや、それでいいのかあんたら。
確かに、毒食らった私は無事だけどさ……というか、すぐそばにコートニア様がいたから、さっさと解毒してくれたそうなんだけど。
しかしまあ、言われてみればそうだよね。出どころがきっちり分かってるようなもの使っちゃ、刺客さんの身柄とか後ろ盾とかすぐにバレるじゃないの。
「他の場所では採れないんですか?」
「気候の問題でね、王国内ではグランビレ領だけらしい。帝国でも一部に自生しているくらいだし、あちらでは作成そのものが禁止されている毒だそうだ」
「それは……まるで、わざとバラしてるようにしか思えないです」
「そうなんですのよお」
殿下が教えてくれた話からすると、マジでバラすためにその毒使ったとしか思えないんですが。大丈夫か刺客とその後ろ盾。そりゃ、ピュティナ様があいつらアホですか、なんて顔するわ。
「それで、証言は取れたんですか? コートニア様、ピュティナ様」
「本当にい、グランビレからの派遣らしいんですよう。主家の命令には絶対服従だそうですわあ」
「詳しいことは知らないけれど、主からの命故遂行しようとした、だそうです。グランビレ、とは明言しなかったようですが」
ああ、そこまでは口割ってないんだ。さすが、こういう世界で人に使われている人だけのことはある、というか。自分の意志で絶対服従してそうだし、そういう律儀な人もいるのよね。
「まあ、毒の出どころからグランビレを追求することはできそうだ。コートニア、協力に感謝する」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
フランティス殿下に感謝の言葉をかけられて、珍しくコートニア様が笑った。あらかわいい、ツンデレキャラが笑うのってレアなんだけどコートニア様には割と多めに笑っていただきたい。私の目の保養のために。
……なんてことを考えていたら、殿下に「それにしても」と目線を向けられた。
「キャルンは本当に無茶をするね? 一緒にいたのがコートニアで良かったよ」
「たしかに無茶はしたんですが……あ、そのことについてちょっと」
「わたくしから申し上げますわ、キャルン様」
殿下にそう言われたのはまあ、仕方なくもない。どんな相手かわからないのにコートニア様をかばって、結果として毒を受けたんだものね。
だけど刺客さんの狙いは私じゃなくて、ということを説明しようとしたらコートニア様が進み出た。どうやら、自分で説明したいっぽい。
「キャルン様は、わたくしをかばって毒を受けましたの。つまり、刺客はわたくしを狙って毒を浴びせようとしたのですわ」
「え?」
「それ、私も食らってから気がついたんです。完全に、コートニア様を狙ってたなあって」
なんですよねー。殿下やエンジェラ様、ピュティナ様が目を丸くするのが分かるわ。
結果として毒食らったのは私だけど、そもそも刺客さんはコートニア様狙いだった。うけけざまーみろ、とは回復したから言えることなんだけどね。
「ということは、刺客はコートニア様の解毒の能力を知っていて?」
「狙った可能性がございますわねえ。……グランビレの方であればあ、スクトナ様からお話は伺っているでしょうしい」
エンジェラ様とピュティナ様が、顔を合わせる。ああ、スクトナ様ならコートニア様の能力はご存知だろうしなあ。
「コートニアが毒で倒れたら、城内の医務官を呼ばねばならないよな。キャルン、君は癒せるかい?」
「私は解毒の力は弱いらしくて……時間稼ぎにしかならないと思います」
この数ヶ月、いろいろ勉強したり修行したりしてるうちに自分の能力はだいぶ分かってきた。
私は怪我や病気を治すことにはそこそこ長けているけれど、毒消しとかはできない。毒を食らった人に対しては、その毒で弱った身体を癒すことはできるけれど毒そのものは消せないから、コートニア様や毒を消せる人や薬草を待つしかないのよね。
「つまり、コートニアが死なないまでも城内を混乱させるための襲撃、と思って良さそうだな。他に何か目的があるかもしれない」
殿下が引き出した結論に、私たちはごくりと息を呑むしかなかった。いやだって、他に何やりたいんですかあの連中は。