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59.閑話3:刺客

 毒を使うのは、暗殺者としては常套手段の一つである。食べ物や飲み物に混ぜることも、眠る者の唇に垂らすこともある。

 ただ今回は、主にグランブレスト王城の中を混乱させることが主目的であるため吹き矢という手段をとった。そのために、共に潜んでいた仲間を一人売りもした。


『あいつ、何かおかしなもの持ってないか? ナイフとか』


 使用人の姿をしていた聖騎士の一人にそうささやけば、彼は仲間の元に滑り込む。その後は聖騎士たちが仲間の周囲に群がるのを横目に見つつ、聖女に狙いをつけられる場所へと足音を忍ばせて進んだ。

 狙うは、解毒を得意とする聖女コートニア・サフラン。他の者を傷つけても、彼女が毒を散らすことができる。ならばコートニア自身を毒に塗れさせれば、少なくとも回復は遅らせることができるだろう。


「コートニア様!」


 だが、狙いは側にいた別の聖女によって外された。キャルン・セデッカ、平民の分際で聖女の素質を見いだされた小娘によって。

 つい、ちっと舌を打ったものの焦って逃げることもないだろう、と使用人の中に紛れて移動する。いずれ、隙を見て今一度毒を打つかそれとも城の外に脱出するか。


「あらあらあらあ」


 人がいないはずの使用人廊下まで出たところで、楽しそうな笑い声に足を止めた。振り返った先にいたのは、この場を離れていたはずの聖女の一人。


「よく見つけてくださいましたわねえ、レックス」

「これだけは、ピュティナ様には負けませんから」

「うふふ。あなたをつけていただいてよかったあ、と思うのはこういうときですわあ」


 ピュティナ・セイブレストとその小姓……名前は何だったか、さて。

 それはともかく、気配を消して移動したはずがどうやらあの小姓に気取られていたらしい。幼い姿とは言え、さすがは聖騎士部隊に属する者だ。

 ここで、終わらせるか。自決用の毒薬は、指輪の中に仕込んである。かじって飲めば、数秒で事切れる猛毒が。


「さてえ」


 !?

 いつの間にか、背中を取られていた? 今の今まで、視界の中に居たはずの聖女に。


「あなたはあ、どこから来られたのかしらあ?」


 腕を背中側にひねられて、床に引きずり倒される。指輪の毒を飲むことができないならば、舌を噛んで。


「自決なんてえ、できると思っておりませんわよねえ?」


 聖女ピュティナは、遠慮なく口の中に手を突っ込んできた。強く噛もうとするが、ひどく硬いその手には歯が立たない。

 これが、辺境伯の娘である聖女か。普通に戦に出て戦えば、屍の山をやすやすと築くであろう猛者。のんびりとした口調には似合わぬ鋭い視線が、敵と認めた者を射抜く。


「わたくしのおともだちを殺そうとなさった。その罪、自決なさった程度で消えるとお思いかしらあ?」

「……ピュティナ様。ほどほどになさってくださいね」

「あらあ」


 ため息をつく小姓に、聖女ピュティナはくすりと笑う。背中に載せられた体重がずんと増したのは、暗殺者を逃すまいとして彼女が力を込めたからだろう。


「わたくしはこれでもお、セイブレスト一族の中では一番慈悲深いと評判なのですよお? 父上は大雑把でいらっしゃるしい、母上は敵の血を見たくないとおっしゃって縊る方を選ばれますしい」

「ま、一応きちんと治療なさるだけ慈悲深いですかね……」

「でしょお?」


 父上、母上ということはセイブレストの現当主夫妻のことだろう。辺境伯が大雑把なのはともかくとして、よそから輿入れしたであろう夫人が敵を縊る、とはどういうことか。

 そして、『一応きちんと治療する』らしい聖女ピュティナが慈悲深い、ということは当主夫妻はつまり、だ。


「ですからあ、素直にお吐きになられたほうが御身のためですわよお?」


 あくまでも変わらない口調が、とても恐ろしい。

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