58.姿見えぬスナイパー
ふと思ったことがある。
私は癒やしの能力が高いらしく、コートニア様は解毒が得意らしい……といった感じで、聖女にはそれぞれに得意分野がある。だから、研修や派遣先にはその分野が考慮されるんだよね。
「そういえば、スクトナ様はどういったことがお得意なのですか?」
「さあ?」
つまり、スクトナ様も聖女であるからにはもちろん得意分野があるはず……と思って尋ねたのだけれど、コートニア様はあっさりと首を傾げた。
「わたくしも存じ上げないのですが、おそらくエンジェラ様もご存じないかと」
「え?」
「いえ、癒やしも解毒も解呪も守りも、平均的にはおできになるんですよね」
何だそりゃ。いやまあ、別に口外してないとか、そういうことならいいんだけど……と思ったら、何か違うらしい。
「どれもこれも平均的すぎて、スクトナ様ご自身としてはどこが得意分野なのか、どこを伸ばしていきたいのかが全く分からなかったのですわ」
「スクトナ様自身も、どこを伸ばしたいのかおっしゃってなかったと」
「ええ。『必要な力はみな、普通に使えますもの』とか何とか、お高く止まっていらっしゃいましたわね」
「あー」
呆れ顔のコートニア様はともかく、私としてはそういうこともあるよねー、としか思えなかった。
そうだよね、得意分野・全部なんていう聖女が存在したっておかしくはない。ただ、どうも味方になってくれそうもない人がそれってのが気に食わないけれど。
……とはいえ、聖女の能力ってあんまり敵を攻撃するようなものじゃないし、まあいいのかな……?
がったん、ばたばたばた。
「ほえ?」
「護衛の方が、お仕事なさっておられますわね」
少し離れたところで、テーブルや椅子が倒れる音がしたので、思わず顔を上げた。音のした方にちらりと視線だけ向けたら、お城の使用人さん同士で取っ組み合いをしている。
……いや、違うな。コートニア様のセリフから察するにあれは、どちらかが私たちの護衛でどちらかが刺客の人、なんだろう。つまり刺客の人が使用人に化けてこちらを狙いに来たところを、同じく使用人に化けていた私たちの護衛の人が見つけて以下略、ってこと。
「セイブランか、グランビレか、はたまたこの国の者でないのかは分かりませんけれども」
「どこの方にしろ、こちらにとってはただの迷惑でしかありませんよねえ」
「まったくもって、そのとおりですわ」
ひとまず落ち着いたらしく、片方の使用人さんがぐるぐる巻きに縛り上げられて引っ立てられていく。
一方的に狙われるのは面倒くさいよねえ、という顔を二人してしながら、ジュースを飲み干した。さて、そろそろ移動しないと次の授業が待っている。
……ん、何か飛んできた?
「コートニア様!」
「きゃっ!」
コートニア様を狙っていたように思えたんで、とっさに彼女を突き飛ばす。次の瞬間、コートニア様の座っていた椅子に細いメスのようなものが三本突き刺さった。それと、伸ばした私の腕にちくりと痛み。
「いきなり何を……キャルン様!」
うんごめん、何も考えなかったんでコートニア様は床に尻もち付いてたんだけど。すぐに立ち上がった上で、私の腕に気づいてくれた。
……何か、腕に刺さったメスもどきのところからじんじんと鈍い痛みと、それからひどく冷たくなってくる感覚があるんだけどこれ、なんだろう……あ、身体から力抜けてきた。
「動いてはなりません。すぐ解毒しますわ」
「え、あ、はい……」
うわあ、毒だったみたい。あーもう、頭がぼうっとしてくる。これ、食らったのがコートニア様じゃなくてよかったなあ……。
……ん?
そもそもこのメス、コートニア様、狙ってなかったっけ?




