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34.閑話1:黒騎士

 ラハルト・ジーヴェン。

 グランブレスト王国聖女護衛騎士部隊……通称・聖騎士部隊の第七隊を統べる隊長たる彼は、ワリキューア帝国に連なる黒髪黒目を持つが故に『黒騎士』の異名を持つ美丈夫である。

 ルーツが帝国にあることを自身でも否定していない彼が、実は今なお帝国への忠誠心を失っていないことを知る者は数少ない。そのうちの一人が、彼が通う高級娼館の主であった。


「セイブランのお話、伺いましたよ」

「……勘弁してくれ、まったく」


 白髪交じりの灰色の髪、そして口ひげの紳士が浮かべる笑みに、ラハルトはため息で応える。

 現在ワリキューア帝国の長である魔帝は、無駄な戦を望んではいない。グランブレスト王国とは数代前まで国の領土をめぐり争った間柄ではあるが、それも現在では休戦状態となっていた。

 休戦、であるために正式な国交を結んでいるわけではないが、両国は年に数度使者を交わし様々な話し合いを行っている。実はこの高級娼館は実質的なワリキューア帝国大使館である、とも一部では噂されているらしい。


セイブラン家(やつら)に手を貸したとなりますと、さすがにあの方も放ってはおけませんな」

「かと言って、こちらからは手を出せない。あちらに動いていただくより他にないな」

「そのように、お伝えしておきましょう」


 主とラハルトの会話を聞く者があれば、その噂は本当であったと得心することだろう。セイブレスト辺境伯家の分家たるセイブラン子爵家の暴走と爵位剥奪は、関係者以外には未だほとんど知られぬ事実なのだから。

 そうして恐らく二人は、セイブラン家を焚き付けた存在の正体を知っているらしい。更に、自分たちでは手を出すことができない相手であるということも。


「……しかし。あれらの目的は何でしょうな? 聖女の間に問題を起こして、何が得になるのやら」

「何でも、あれらの一部がエンジェラ嬢の聖女の力に目をつけているらしい」

「エンジェラ・レフリード嬢の……確か解呪ですよね?」


 ラハルトが口にした言葉は、襲撃者の協力者を絞り上げて吐き出させた事実だった。フランティス王太子や聖女たちには伝わっていないそれを、ラハルトは平然と同胞に対して伝える。

 そして、その意味合いも。


「心を闇に閉ざせば、力は反転するらしいぞ」

「……!」


 解呪の力は、反転させれば呪う力となる。

 聖女を狙う者たちの目的がそれである、とはラハルトは断言できないが、それは今後の調査次第であろう。


帝国(向こう)よりも王国(こちら)の方が気候は温暖、大地は豊か。ほとんどの民は今置かれた状況を受け入れているが、中にはそれが不満で仕方がない輩もいる」

「昔はそれで、戦になりましたからねえ」


 はあ、と今度は自分でため息をつきつつ、主は年をとってコケた頬を撫で回す。かつてはグランブレスト王国との戦で剣を振るった自分が、該当国で娼館の主を務めることになろうとは、などと考えているようだ。

 ワリキューア帝国ではよく嗜まれている甘くないホットチョコレートを一口含み、こくりと飲み込んでからラハルトは言葉を返した。


「陛下は、無用な戦は望んでいないだろう。こちらの跡継ぎが愚かな選択をすれば、それに応じることはあっても」

「そうですね……では、すぐにでも向こう様にお知らせ申し上げます」

「頼むぞ」


 現在の魔帝は、ワリキューア帝国の基準で行けばかなり若い存在である。その若造が国の頂点に立ち権力を振るうことを良しとしない勢力がすぐ隣の国で行っていた愚行の顛末を伝えるために、娼館の主はクッションの効いたソファから立ち上がった。

 が、すぐににっこりと微笑んで彼は、言葉を続ける。


「それと、本日はどなたになさいますかな?」

「いつも決めているだろう。ダルシアだ」

「承知しております。しばしお待ちを」


 胸に手を当てて深く頭を下げ、主は部屋を後にする。ラハルトがいつも指名しているダルシアという名の女もまた、魔帝に忠誠を誓う一人である。

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