28.聖女バトルスタイル
フランティス殿下に呼ばれて入ってきたメイドさんが、てきぱきとお茶のおかわりや新しいお茶菓子の準備を進めている。彼女たちが頭を下げて退室した後、殿下は「ともかく」と声を上げた。
セイブラン関係の話の間は部屋に入ってこなかったから、本当になるべく知られたくない話なんだなあ。
「セイブランは取り潰しとなったけれど、それで彼らがおとなしくしているはずはないと思うんだ」
「そうですわねえ……彼らのことですからあ、仕返しをお考えかと思いますわよお」
「ピュティナの言うとおりだと、父上や宰相たちも考えている」
平然とした顔の殿下と、ほんわか笑顔のピュティナ様。ただし会話の内容はなあ、地味に物騒なんだよなあ。
「セイブレストの分家だからね、曲がりなりにも戦の力はあると思う。配下を使えなくても、個人としての戦力はかなり高いんだろう?」
「ええ。父やわたくしよりは、さすがに弱いと思いますけれど」
「ピュティナ様は、基準が高くていらっしゃるから……」
その二人の会話にしれっと割り込めるエンジェラ様も大概なんだけど……あーもう、前世平民現世も平民の私にはとてもたどり着けない境地だよう。
「セイブレスト宗家の力は、一騎打ちでラハルトやガルデスがどうにか太刀打ちできるレベルだからね」
「ピュティナ様、そんなにお強いのですか」
コートニア様が目を見張るのも無理はないなあ。今ここにいるピュティナ様が、あのガルデスさんと同じくらいの強さ……って、聖騎士部隊ってちゃんと強いわけか。ちゃんと戦ったところ、見たことないもの。いや、あんまりガチ戦争は見たくないなあ。
「……それよりは弱い、となると……聖騎士部隊といい勝負、とかですか」
「セイブラン一族は、だけどね。さすがに配下の者たちはそこまで強くない……よね?」
「はぁい」
思わず尋ねてみると、どうやらそういうことらしいという答えが出た。ついでにいうと、ピュティナ様は余裕の表情である。アレ、多分自分だけでも対処できるとかいう感じだろう。
もっとも、フランティス殿下に対する答えはちゃんと用意してあったけれど。
「セイブランはあ、自分たちだけで暴れるのが大好きですからあ」
『あー』
思わず、ピュティナ様を除く全員の口から同じ言葉、というかため息というか、とにかくそういうものが漏れた。
悪く言えば突貫馬鹿、良いように言えば少数精鋭ってやつか。それはそれでめんどくさそうだなあ、うん。
「もちろん、父上が手配して監視をつけているし王城内の点検も色々行っている。聖騎士部隊を通じ、それぞれの護衛たちにもきちんと話はしてあるはずだ。だけど皆、気をつけて欲しい」
「はい、分かりました」
「承知いたしました」
「分かりましたわあ」
「もちろん、気をつけますわ」
殿下が基本的な注意をしてくれたので、私たち聖女一同は何とか普通に返事をした。実際に何かやってきたら、聖騎士部隊かピュティナ様に頼ることになるんだろうなあ。めんどくさいので、来ないでほしいなあ。
「ちなみにですけれど。セイブレストの皆様は、どういった戦い方がお好きですの?」
ふと、エンジェラ様がそんなことをピュティナ様に尋ねてきた。分家のセイブランが俺が俺がタイプでそこと仲が悪いんだから、逆パターンだろうなあとは思うけど。
「数は力、ですわあ。将だけでは、戦を左右することはできませんものお」
「セイブレストの場合はその数の一つ一つが、普通の一つよりも強力なんだってさ。僕が直接見たことはないから、父上やガルデスの受け売りだけどね」
ああ、やっぱり。
こちらはあれだ、俺に続けータイプなんだ。まあ、その続いてくる連中もめっちゃ強いからこそ、辺境伯……国の辺境を別の勢力から守るための要の家となっているんだろうけれど。