29.聖女シューティング
あ、さて。
セイブランとかいうおうちの都合はともかく、私はせっせと修行中の身である。だんだんと、自分の素質について分かってきたところなので、その方向性で頑張っている。
「キャルン様は、癒やし特化型でしたっけ」
「そうみたいです。病気は駄目で、怪我に特化してるって感じですね」
今日はエンジェラ様と一緒に、城内の医務室でインターンみたいなことをやっていた。城内の使用人さんとか騎士や兵士の皆さんを相手に、どういう状態なら治せるかという実験というか……医務室なので、ちゃんと本来のお医者さんやら治癒師の人もいるから大丈夫なんだけど。
初期に推測されていたとおり、私の聖女としての能力は癒やしというか怪我の治療、である。結構重傷でもどうにかなるようで、例えば骨折ならくっつけることができるんだよね。基準がわからん。
「エンジェラ様はかなり範囲が広くて、すごいですね」
「わたくしは逆に、傷は癒せないのです。ですから、キャルン様が一緒にいてくださると心強いですわ」
うん、エンジェラ様は『のはける』のときからそうだった。呪いや魔術、あと病気の治療にはがっつり力を発揮するんだけど、怪我相手だと指先のささくれですら無理というね。
だから、ワリキューア帝国がグランブレスト王国に侵攻したあたりの話ではエンジェラ様は、あまり前線には出なかった。ただ、王国軍が形勢逆転を狙って呪術撒き散らしたときにはそこに魔帝陛下ごとすっ飛んでいって、一気に治療してみせたんだ。
「……というか」
医務室のある建物を出て、中庭を歩く。医務室の外に出た時点で私にはエイクが、エンジェラ様にはゲルダさんが付き添っている。
お城の敷地の中って結構広々としてて、のんびり散歩したりできるんだよねえ。王族の人とかあんまり外にも出られないんだろうし、そういう人たちのためもあるのかな。ゲルダさんやエイクみたいな騎士団の、修業の場でもあったりするのか。
「お医者さんもいるのに聖女も治療ができるのって、何でなんでしょうね」
「さあ? わたくしは、そういうものだと思っておりましたから」
ふと浮かんだ疑問に、エンジェラ様は素直に自分の考え方を述べてくれた。
そうなんだよねー。前世と違ってこの世界、ちゃんとお医者さんもいるし前世よりは技術レベルが低いけど手術とかもできるんだよね。でも、聖女がその力で怪我治したり病気治したり、なんてこともできる。
何で両方ともいるんだろうね、というか聖女がいるならお医者さんとか薬とか発展しなくねーかな、って思ったんだけど。他にも魔術師の中に、治療術使える人いるらしいし。……聖女のほうが強力だ、っていうのは『のはける』知識から。
「ただ、お医者様とわたくしども聖女で、それぞれ別々の場所で癒やしを施すことができますからね。問題ないのでは?」
「まあ、確かに」
エンジェラ様の意見には、納得できる部分がある。交通の便が悪い世界だから、っていうのが一番の理由なんだけど。
「薬も薬草もない場所なら、医者と薬を送り込むより聖女を送り込む方が手っ取り早いですしね」
「逆にそのどちらかがある場所でしたら、お医者様に行っていただくのが確実ですわ」
馬車だったり早馬だったりで移動するのが一番早い世界なので、荷物が多ければその分馬や馬車の数が増えて色々大変なのだ。道が悪ければ馬車は使えないし、どっちにしろ馬は食事もすれば落とし物もするし。
だから、薬や原料となる薬草が目的地にあるかどうか、で医者を連れて行くか聖女や魔術師を連れて行くかが決まるらしい。なお、魔術師は割と汎用性があるので状況が不明の場合は魔術師を派遣するほうが効率が良いとか何とか。
「適材適所ってやつですねえ。聖女と言っても、私は傷を治すだけで毒を消したりはできないみたいですし」
「毒を消し去ることができるのは、コートニア様ですからね」
そうそう。コートニア様の解毒術はすごいらしくて、即死でなければ何とかなるんだそうだ。
さすがに毒殺未遂、なんて状況はなかったみたいだけど、毒蛇に噛まれてやばかった子供なんてものは朝飯前、毒虫の大量発生でえらいことになった集落ひとつまるっと救ったとか何とか。上から目線にもなるな、うん。
ふむ、と息を一つついたところで、視界に赤い髪が入ってきた。私の後ろを歩いていたはずのエイクが、いつの間にかすぐ横に来てる。顔がひどく真剣で、少しだけ不安になった。
「エイク?」
「キャルン様、お気をつけください」
「ゲルダ」
「はっ」
エイクの言動に、即座にエンジェラ様が鋭い声で騎士の名を呼ぶ。ゲルダさんが視線を巡らせて、次の瞬間腰につけていた剣をすらりと抜いた。きん、と鋭い金属音が響く。
「城内で何用だ。物騒な」
きんきんきん、とゲルダさんが剣を振るって何かを落としている間に私とエンジェラ様は、エイクの誘導ですぐそばの建物に逃げ込む。次の瞬間エイクも剣を抜き、肩越しに振るわれた剣を受け止めた。今度はぎぃん、とひときわ大きな音がした。




