18.秘密のミーティング
「ふむ」
国王陛下に面会するのって手続きがあると思うんだけど、どうやらエンジェラ様はフランティス殿下経由でうまくやってくれたらしく、その日の夕方にはお会いすることができた。状況が状況なので謁見の間ではなくて、陛下の執務室……要は社長室みたいなもんか。
「聖女キャルン殿。そのような手紙を送ってくる相手に、心当たりはないのだな?」
「はい、まったく」
本当に社長室のような重厚な机の向こう、クッションの効いた椅子に座っている国王陛下はエンジェラ様の報告と私の返事を聞いて難しい顔になり、顎に手を当てた。
その横で立っておられる王妃殿下が、真剣な眼差しで私に問いかけてきた。なお、私とエンジェラ様とあとちゃっかり同席してるフランティス殿下は、机の手前にある応接セットのソファに腰を下ろさせていただいている。「ちゃんとお話を伺うのですから、座っていただきましょうね?」という王妃殿下のざっくりした一言のおかげだ。ところで王妃様も座ってほしいんですが。
「あなたが聖女の素質を持つ、ということを知っている者はどれだけいますか?」
「出身がコトント村なんですけど、そこの村の人はほとんど知ってます。両親と神官様が言いふらしたので……その関係で、近くの村の人もかなり知ってると思います」
「平民から聖女が誕生すると、出身の町や村は聖女誕生の地として観光名所になる……という話は本当なのですね」
「ちょっとした収入は欲しいですからね。実家に看板掛けるとかいう話、してましたし」
はっはっは、今頃本当にでかでかと看板かかってるんだろうなあ、実家。やだもう里帰りしたくねえ、絶対観光客にもみくちゃにされたり握手してくださいだの安産祈願お願いしますだの言われるんだ、キャルン知ってる。というか経験済みだこんちくしょう。
「観光名所?」
「平民から聖女が現れるのが珍しいことは、あなたもご存知でしょう? その運にあやかりたい人々が、生まれた家を訪れるんですよ。平民だけでなく、良縁に恵まれない王族や貴族がお忍びで参ることもありますわ」
「……縁起物なのだな。確かに、聖女という存在は貴重で重要だが」
首をかしげる国王陛下に、王妃殿下がきっちりご説明くださってありがたや。しかし、本当に縁起物扱いだな私。まだ、貴族出身のエンジェラ様とかならいいんだろうけれど……うーん。
いや、問題はそこじゃないよな、うん。
「念のため、セデッカ伯爵に問い合わせておこう。コトント村にもな」
「よろしくお願いします」
「キャルン様が何かおかしなことを考えている、とは思えません。誰かがキャルン様を利用して、状況を混乱させようとしているのでしょうか」
国王陛下に頭を下げたところで、エンジェラ様が疑問を持ち出してきた。……えらく信頼されてる気がするんだけど、気のせいかな?
「聖女キャルンがなにか妙な考えの上で王都に乗り込んできたとするならば、そこには必ず背後関係があるはずだろう。それに、少なくとも彼女が聖女の素質を持つことは事実だからな」
「キャルンが聖女の素質持ちだと判明してから村を出発するまで、十日くらいだもんね。いくらご両親が宣伝したとしても、それでおかしな連中が乗り込んでくるには早いんじゃないかな」
国王陛下に続いて、フランティス殿下が考えを述べる。……『のはける』キャルンにたぶらかされなければ、結構聡明な王太子なんだなあ。うん、エンジェラ様とうまく行ってくださいお願いします。その方がグランブレスト王国にとっては、絶対にいい未来になるはずだし。
ところでフランティス殿下、謁見の間のときより口調が砕けてるんじゃないかな? ……人の目がないところだと、こんな感じなのかも知れないな。何だかんだ言っても親子だし。
「そうすると……ふむ。狙いは別のところにあるかもしれんな」
「別、と言いますと……」
国王陛下が軽く考える表情になったところで、ふと私は気がついた。
『のはける』ではキャルンとフランティス殿下が仲良くなったことでエンジェラ様が国を追われる羽目になったわけだけど、もし私以外にエンジェラ様と殿下がくっつくことが嫌な人がいるとしたら。
「わたくし、ですか?」
「エンジェラですわね?」
エンジェラ様自身と、そして王妃殿下も同じ結論に達したらしい。ま、そこだよねえ。
「もしくは僕、だね。要はその手紙の主、僕とエンジェラの仲を裂きたいんだろうし」
そうしてもう一つの結論には、フランティス殿下自身が到達していた。
おのれ、私がやらなければ誰かがやるんかい。ふざけんな、普通に生活させろどこかのばかやろー!




