17.あやしいラブレター
「ええまあ、ちらりとはそう言ったお話もありましたけれど」
次の日のお昼、やっと戻ってこられたエンジェラ様からお話を聞くことができた。少なくともワリキューア帝国の使者さんは、魔帝陛下の嫁探しをメインで来たわけではないらしい。ま、そりゃそうだ。
「ですが、基本的には国内でと魔帝陛下もお考えのようですね」
「残念でしたわねえ、コートニア様あ」
「むっ」
私ごときがコートニア様を茶化すことなんてとてもとてもできないので、そこら辺のツッコミはピュティナ様に任せる。さすがに帝国の情報は少しでも得たいのか、一緒にお話に加わってくれてるんだよね。さすが実家が辺境の守りの要。確かそういう設定のはずだ。
平民である私にはきつく言えるコートニア様も、相手がピュティナ様となると尻込みしちゃうらしい……まあ、最悪物理的に解決されそうだからだけど。
「それでえ、本題は何だったんですかあ?」
「基本的には、交易に関するお話だったようですわ。帝国とこの国では、取れる農産物などに違いもありますし」
「あ、ああ、それでですか……なるほど。帝国の獣の革は丈夫で、防具やかばんなどによく使われますから」
おお、そういうことはコートニア様もご存知なんだ。革って水袋とかに使うんだけど、コトント村の近場で捕まるような獣の革ってあんまり長持ちしないんだよねえ。村長さんとかは帝国製のやつ使ってる、って古いやつを自慢してた。古くても水漏れしないからいいんだって言ってたな。
「まあ、この先はわたくしどもの立ち入る話ではありませんわね。わたくしどもはただ聖女としての務めを果たすまで」
穏やかに笑うエンジェラ様に、私たち三人はほぼ同時にはいと頷いた。ああ、何というか変な方向に進まなくてよかったよ、ホント。
いやまあ、私というかキャルンがエンジェラ様を追い出そうとしたりしなければ大丈夫だと思うんだけど。
「キャルン様、お手紙が届いております」
不意にそんなことを言ってきたのは、ラハルトさんだった。おお、お仕事ご苦労さまって言いたいところなんだけど、私は彼が帝国の密偵だって知ってるからなあ。全力で胡散臭いわ。
「私にですか?」
「はい。では、失礼いたします」
何か、封筒一つだけ渡してさっさと帰っていったけど……さて、私に手紙書いて送ってくるような人、いるかねえ。お父さんもお母さんも、文字書くのはうまくないし。
「ラハルト様がお手紙持ってこられるなんてえ、珍しいですわねえ」
「本当ですわね」
ピュティナ様とコートニア様がそんな会話を交わしてるところを見ると、何も知らなくても怪しいのは怪しいんだ。エンジェラ様がこちらを気にしてるのを視界の端で確認しつつ、私は手紙の封を切って中身を取り出した。
「……えー、何ですかこれは気持ち悪い」
「キャルン様?」
開いて読んで、即座にエンジェラ様に「これ見てくださいよ!」とお渡しする。いや、だってさあ。
『キャルンよ、フランティス殿下とは仲良くやっているか?』なんて誰が私宛に書いてくるのよ。両親なわけねえし、名目上の養父であるセデッカ伯爵がんなこと書いてきてもおかしいだろうが。てーか、伯爵ならそれなりの封筒にそれなりの便箋使うわい。
「何ですの、これは」
「……キャルン様、ご両親からですかあ?」
「うちの親、自分の名前くらいしか書けませんって。代筆屋もいますけど、その文字じゃないです」
コートニア様は眉間にしわ寄せまくり、ピュティナ様は……ああ地味に怒っておられる気がする。ちなみに、文字書けない人が手紙とか書類とか書かなくちゃいけないときのために代筆してくれる専門の人がいるにはいるけど、コトント村にいる人の文字ってすっごい癖があるから分かるんだよねえ。
「……すぐに、国王陛下とフランティス殿下に相談してまいりますわ。キャルン様、一緒に来てくださいな」
「え、私もですか? というか、そこまで大げさ?」
「大げさではありませんわ。だって」
さすがにエンジェラ様が、速攻で国王陛下んところに行くなんて言ったもんだからびっくりした。いくらなんでも、そこまでやる必要があるのかな、って思ったんだけど。
「聖女の身内を騙り、王家に混乱をもたらそうとしている可能性があります。コートニア様、ピュティナ様、このことはくれぐれも口外なさいませぬよう」
「もちろんですわあ。ああ、犯人がわかったら教えて下さいましね?」
「そうですわね。わたくしに火の粉が降り掛かって来られても困りますもの」
……地味に大げさな話にしたほうがいいのかもしれん。私自身のために。




