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サフラワー --8--

 「とりあえずみんな集まったか」

 僕がアイスティーを配り終えると月妃さんがふむと腕を組んだ。

 「昨日聞いたと思うけれど、ゆずかが轢かれた。しかしそこまで大きな怪我は無い。安心してくれ」

 「ゆずかちゃんは今は?」

 「今は眠っている。すぐに目覚めるだろうとのことだ」

 僕らは胸を撫で下ろす。最悪の事態は回避出来たということだ。

 「まあ、問題は山積みだが。そちらは私が何とかするから安心してくれ」

 問題というのはゆずかの親の話だろう。母親と二人暮らしだと聞いている。

 「目覚めたら私にも報告が来るようになっている。知り合いに頼んでおいた」

 いったいこの人の人脈はどれほどの規模なのだろうか。ちょっと気になる。

 ストローを加えて上下に動かす月妃さん。なにか考え事だろうか……


 「ミント良かったね、しばらくは柚子ちゃんがお泊りだよー」

 二匹の猫に囲まれてニマニマしている唄瑠は放って僕は月妃さんに呼ばれていた。

 ゆずかちゃんの状況だろうといろいろ考えていたのだけど、全く違った話だった。

 お昼を食べに行こう。

 店番は唄瑠にまかせて近くの定食屋さんに行こうと。珍しい事で僕は若干戸惑っているのだけど……

 「それじゃあうたる、店番任せたぞ」

 「はーい、いってらっしゃい!」

 店の裏口から外へ出ると緑のヴィッツが堂々と横付けされている。月妃さんの車だろうか。

 「さぁどうぞ」

 「あっはい」

 助手席に乗る。内装も至る所に緑の物が置いてあったりと、月妃さんの緑好きをこれでもか!と見せられた。

 「糸井くんさ、血が苦手だろう」

 「えっ?」

 駅前から県道二八号線入る時だった。なんの前触れもなく突然尋ねられた。

 「だから君は血液を見るのが苦手だろうと聞いているのだ」

 ぽかんとしている僕にわかりやすくもう一度。どうしてこんな話を始めたのかよくわからないけどとりあえず返す。

 「苦手……と言うよりは見ると冷静では居られなくなりますね。若干パニックに……」

 「ふむ……」

 槻の木の信号を渋川方面に進む。ちょっと複雑な交差点で少し長めに停車をする。

 月妃さんは腕を組むと何やら考えて居るみたいだったけど、信号が青になるや、ゆっくりと車を進める。

 「ゆずかだが、外傷は殆ど無かった。出血も擦り傷程度で問題なかった。事故だが、あそこは停止線があって、止まる直前にゆずかが飛び出てきたらしい。それでも人間と鉄の塊だ、それなりの衝撃だったと思われる」

 「外傷がないって……あの血は?」

 僕が月妃さんの方を向く。真剣な顔で冗談を言っている風には見えない。

 「あれは血ではない。ただの“野菜ジュース”だ」

 「野菜……」

 「私が糸井くんに血が苦手かと聞いたのはちょっとした確認だ。君が苦手なのも実はわかっていた」

 背高地蔵を通り過ぎ、緩やかなカーブが続く。が、そんなことはどうでも良い。

 「その時の状況によって人間の頭というものはすぐに騙されてしまい、あたかも無いものが合って見えたり聞こえもしない音が聞こえたり、感じもしない匂いを感じてしまう。パニックになっていればなおさらだ。

 人が集まり、少女が倒れて、周りには赤い液体が大量にある。事故という状況と赤い液体だけで君の脳はあれは血液で……大変だ……となったと推測している。

 何度もいうが、“外傷は殆ど”無かった。私もちゃんと確認した」

 「……」

 言葉が出なかった。

 外傷がない……

 ただのジュース……

 僕はどうかしているのだろうか。

 流れる風景は脳の中には入らない。

 だいぶ疲れてしまっているのだろうか……

 砂利道の駐車場に止まる。近くに神社が見えるちょっと古い定食屋さん。

 「とりあえずご飯食べようか、ここの定食は味噌汁の代わりに暖かいうどんが出てくるぞ。そのうどんが地粉でコシが違うんだよなぁ」

 ちょっとウキウキしながら店内に入る月妃さん。仕方なく僕は月妃さんの後を追った。


 「糸井くんさー相方が初めてだったりとかしたら大変だから血はなれるように頑張ろう」

 「ごはん食べてる時にいきなりなんの話ですか……」


 

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