サフラワー --5--
「美味しかったですねー!」
「また行きましょうね、ゆずかちゃん」
満足そうな会話を三歩離れた位置で突然の出費に悲しむ僕。あんな笑顔で満足そうな顔をされたら何も言えないじゃないか。
夏の夜。どうしてか涼しい風がやけにあっさりとしている。
快晴の夜空に小さく光る無数の星々。東京だと星の光ではなく、自分たちが光を放ち見えない星へとその存在を主張していると感じた。
「夏休みはなにか予定があるの?」
「んー特に無いかな。お母さんは家に帰ってこないから……」
家に帰らない。少しだけ悲しそうな声でお母さんと呟いている。高校生とはいえまだ大人になりきれていない部分が見え隠れしている瞬間だろうか。
「それなら私とお出かけとかしよっか。旅行なんてのもいいよ」
「おぉぉ、行きたいですね!」
唄瑠の提案に喜ぶゆずかちゃん。確かに夏休み位僕も出かけたい気分だ。
「移動手段とかお金は心配いらないですしね!」
「全部僕任せなの!?」
真っ暗で澄んだ夜空に僕達三人の笑い声が響く。何にも遮られることのない声が木霊している。
楽しい日々がずっと。
明日も。
明後日も。
来月も。
来年も。
ずっと続くように、広い宇宙と夜空の光に願った。
唄瑠と僕はゆずかちゃんの家まで送り届けた。田舎とはいえ女子高生一人は危ないと僕がいうと唄瑠は男女が二人で歩いているのも危ないと主張し始めたので、二人で送り届けることになった。
でもこれはその“男女が二人で歩いている”に該当するのでは無いかと疑問に思っている。
「本当にいい子だよね、ゆずかちゃん」
「あぁ。唄瑠もあの元気を見習うべきだな」
「私はこれが私なんです!」
手持ちカバンを僕にぶつける。ちょっと照れた顔が可愛かった。
「唄瑠さ……少し散歩しないか?」
「ん?良いけど……」
目の前に見えた喫茶店を通り過ぎ、施工中の橋の近くにある神社へ向かった。月明かりで薄暗く、クルマはほとんど通らない。静かな街。
「ごめんな……あの時……」
「えっ?」
「新前橋駅。うたるが飛び降りようとした時……助けたことだよ」
「あぁ……」
唄瑠と近くのベンチに座る。唄瑠は少し俯いてしまうが続ける。
「なんていうか、僕も同じだったからさ。うたるの気持ちも少しは……少しはわかっていた。言い訳に思えるけど弁解に聞こえるけどでも、気持ちはなんとなく分かってた。
それでも助けた。理由なんて無くてどうして助けたのかって言われた時正直困った。自分でも分からなかったから」
「うん……」
「君を生かしてしまったこと。すごく悪いことをしたって……」
僕のが震えた声で続けようとした。その時冷たい心と手が暖かさで包まれた。
「そんな事……ないよ。あのまま死んでいたら、糸井くんや月妃さん、ゆずかちゃんとも出会えず、楽しい日々を過ごせなかったから。だから悪いことじゃない。今はすごく幸せで楽しいよ」
ぎゅっと握りしめられた左手。
「ありがとう。私に本当の幸せを与えてくれて……これからの楽しい日々を……ありがとう……」
ぐっと涙を噛み締めた。
月の光でちゃんとは見えなかったけど、唄瑠は涙を流していたんだと思う。
ちゃんと、仲直りが出来た気がする。
満月の魔力なのかもしれない。
そんな僕達の進展については無い。
夏休みを控えたあの日、僕らは……




