勘弁してくれよ!
「おらっ!」
シリウスの振り下ろした剣が僕の剣とぶつかり合う。
いつもならここで鍔迫り合いに発展するのだが、今日は違う。
「もういっちょ!!」
二本目の剣が振り下ろされ、僕は弾き飛ばされてしまった。地面を転がり、土の味がした。
「くっ」
「俺様の勝ちだな!」
急いで体勢を立て直さなくてはと思ったが、シリウスに喉元に剣を向けられ、僕は自分の負けを認めた。
今までのような僅差での敗北ではない。完敗といってもいいくらいだった。
「ふっ。いきなり二刀流なんて言い出して驚いたが、付け焼き刃にしては凄まじかったよ」
「だろう? まさか俺様もここまで上手くいくとは思わなかったが、これならこのまま二刀流でもいいかもしれんな」
「よく思いついたじゃないか」
シリウスの優れている点はその勇猛さと筋力だ。二刀流になれば臆することのない一撃必殺の剣技が連続で襲いかかってくる。これほど厄介なことはない。
「考えたのは俺様じゃないがな」
「ふむ。誰かの入れ知恵か?」
「あぁ。あそこの奴にな」
シリウスの視線の先には、伝説の勇者の後継者であるヤマトから逃げ回るアッシュの姿があった。
「くっ! 卑怯だぞ! オレと戦え!」
「時間内に有効打の多い方が勝ちなんだ!先に一本取ったなら後は時間切れまで逃げるが勝ちさ!!」
なんとも彼らしいやり方ではあるが、後から確実に教員から呼び出しを受けるだろう。
「ははははっ! セコいが勝利を手に入れるには合理的な判断だなぁ!」
「シリウス、君もかなりアッシュに染められてきたな」
先日の課外授業以降、シリウスがアッシュを呼んで二人で何かしているのは知っていた。
まぁ、いつもなら僕の訓練に付き合ってもらっているが、アッシュが周囲に与える影響というのは計り知れない。まるで僕らの話したくない事情や悩みを全て理解しているような振る舞いをするからね。
「そうか? まぁ、俺様自身がどこかでお前に勝てないと思っていたからなぁ。アッシュとの関係は俺様に再び熱を灯した。そう!」
着ていたシャツを膨張した筋肉で破り捨てるシリウス。な、なにを⁉︎
「この鋼の肉体で最強の名を勝ち取るという夢をな!!」
「立派な夢だが、ポージングを決めて宣言する意味はあるのかい?」
「ない! しかし、アッシュが言っていた。カッコつける時は恥ずかしがるより思い切ったが勝ちとな!」
なるほど。前よりもシリウスの直すべき点が悪化している。
与える影響が大きいというのも考えものだね、アッシュ。
♦︎
「おほほほほ。どうされたのかしら? サテラさん。前より弱く……違いましたわね。わたくしが強くなっただけでしたわね」
魔法の授業。今日は的当てになっているのだけれど、いつも以上にミランダさんがこちらを見てくる。
学年末の試験以降、彼女にちょっかいを出される回数が増えた。
私はミランダが苦手だ。何かと私を目の敵にしてくる。仲間はずれにしたがる。そのくせに私が一人で授業に集中していると近づいてきて邪魔をしてくる。
いつもユーリくんがどうだとか言ってくるのだけれど、私がユーリくんと仲良くするのとミランダさんがユーリくんと番になりたいのは関係ないことじゃないのかな?
一生が長いエルフの中では夫婦のパートナーが代わるのは珍しくなかった。お婆ちゃんだって二回旦那さんが代わったらしいし。
ただ、それでも私はミランダさんに対して屈したり喧嘩したりすることはなかった。彼女がいくら魔法の才能があっても結局はただの人。混血でエルフの血を引く私には魔力量では敵わない。
血を、種族を疎ましく思ったことはあるけど、この学園にいる間は成績が全て。特進クラスで優遇してもらえたりすることは得だった。
そんな私がミランダさんに負けた。
「どういうこと? とでも言いたげですわね。特別に教えて差し上げますわ。……所詮、人間であるわたくしが魔力量で貴女に劣るのは当然。ですが貴女、自分がハーフエルフであること理由に怠慢じゃありませんの? その結果がこれですわよ」
彼女が扇子を振ると、小さな火の玉が鋭く的の中心を貫く。
一方で私が当てた的は魔法が全て当たっているが、ミランダさんのように丁度真ん中ではない。
「あなたの言う通りだわ。私は使える魔法や規模を大きくしてたけど、制御もスピードは出来てるから大丈夫だと思ってた。だから、悔しい」
負けるはずないと思ってた。
今まで相手にする必要はないと思っていた人に負けた。こんな経験、初めてだ。
「その悔しそうな顔。負け犬の方がお似合いね」
「次は負けない。私が勝つ」
「やってみなさいよ。まぁ、血統も魔術も中途半端な貴女にわたくしが負けるはずありませんけどね」
いつものように扇子で口元を隠しながらミランダさんが笑う。
今まで嫌だなぁと思っていたその仕草にムカムカとした気持ちが湧いてきた。そして疑問も。
「……どうやって私より強くなったの」
最後に直接対決した試験の時から数ヶ月しか経っていない。元から力はあったけど、ここ最近でメキメキと伸びている。
「諦めろと教えられましたの」
ミランダが顎で指したのは私達と同じように的当てに挑戦する二人だった。
「くっ! どうしてオレの魔法は的に当たらないんだ!!」
「阿保か。一キロ先の的に当てるとか変態並だぞ。サテラ達が異常なんだからな!」
アッシュくんと、この間の課外授業で同じチームになった人だ。
「あの腐った目の彼、血統も権力も無ければ武術も魔術も並み以下のくせに賢さだけはありますのね」
「アッシュくんはお馬鹿さんだよ?」
「わたくしが言いたいのは学業の成績ではなく、頭の回転や奇策を考える賢さですの。貴女に敵わないものを無理に追いつこうとするなら別の角度で差をつければいいと言われましたわ。まるで、わたくしに貴女に勝る部分があると確信した様子で」
思い出したのはまだ私がアッシュくんと仲良くなる前。図書館に案内された頃のこと。
苦手な人混みや初めての学園生活に慣れようと四苦八苦していた時、『無理に周りに合わせなくてさ、自分らしく振る舞えばいいと思うよ。サテラさんには周囲の人を惹きつける魅力があるからさ』と言われた。
彼のアドバイスには預言者めいた所がある。けれど、そのアドバイスは不思議と人をその気にさせるような力がある。……そんな感じがする。
私がそうだったように、ミランダさんも彼の言葉で自分自身を見つめ直したのかもしれない。
「フリーにしておくのが少し勿体ないですし、わたくしの派閥にでも入れましょうかね」
「だ、だめ!」
「あら? 何が駄目なのかしら」
「そ、その……アッシュくんは小説を書いたりするので忙しそうだから。時間を取るようなことは嫌だと思うの」
「確かに。まぁ、いずれは……ということにしておきましょうかね。サテラさん、次の授業でまた貴女の吠え面が見れることを楽しみにしていますわ。では、ご機嫌よう」
軽やかな足取りで友達の輪の中に入っていく彼女を見送りながら、私は決心する。
「次は負けないんだから。ミランダ!」
♦︎
最近、ユーリやサテラが冷たい。俺を剣や魔法の特訓に誘ってくれないし、遊びに誘っても忙しいからって断られる。
その代わりにシリウスやミランダに絡まれることが増えてきてユリ×サテどころじゃなくなってるんだけど!
推しキャラCP作る前に嫌われたとかじゃないですよね! 勘弁してくれよ!
感想・誤字脱字があればよろしくお願いします。
よければ下の評価かブクマお願いします。更新スピードもとい、作者のモチベが上がります。




