いざ、異世界の冒険へ
「ん?何だ、結論付けるのが早いな。」
朔也の言葉に、テリオたちが首を傾げる。
連れていけと言われた役場は、まだその姿すら見えていないどころか、その村の入り口に立ったところにも拘わらずの発言だったので、結論を出すには早過ぎると3人とも感じたのだ。
だが朔也の優れない顔色に何かを感じ取った3人は顔を見合わせると、テリオの頷きにシーナとタークも頷きで返した。
「...先ずはその格好からか。行こう。」
「え?それって...。」
顎に手を当てて朔也を見やった後、村の中へと向き直るテリオに、朔也が俯き下げていた顔を上げる。
「連れてってくれもなにも、行くんだろ?俺たちと。」
思わぬ切り返しに、サークヤは面を食らう。
他の二人を見ても、何を当たり前な、という顔をしている。
録に正体も分からない自分を、何の躊躇いもなく連れていってくれると言う事に、なんて安易なと思いつつもとても有り難いと感謝に堪えない。
テリオは先ず、朔也の装備を揃える事にした。
朔也の格好は作業着の上に上着を羽織っただけの、歩き回るには向かない服装だ。
「この町には、場違いな道具屋があるんだ。そこで揃えよう。」
「ああ、あそこね。首都でも通用する腕なのに、どうしてこんなところに店を出しているのかしら...。」
「あそこの亭主は養子やで。嫁さんの親が元々道具屋だがや。それでその道具屋を継いだんだらぁ。」
全く面倒な方言である、作者も面倒くさくなってきた。
その道具屋は、村の大きさに似合わず、賑わっていた。
「な、なんだぁ?いつもより客が多いじゃないか。」
「ホント、いつもの3倍は人がいるんじゃない?」
「えらいごったがえしとるの。」
3人が目を白黒させて驚いているが、朔也にとってはショッピングモールの新春初売りを経験しているので、特には驚いてはいない。
しかし、確かにここに来るまでの道中の人の少なさから考えると、この店の人の多さは驚きに値するだろう。
店の中に入ってサークヤの体格に合いそうな物を見繕う。
服に防具、ブーツ、そして...
「サークヤは武器は剣で良いのか?」
「あ、あの。僕、小銭しかお金を持ってないんですけど...。」
「そんな事は分かっている。で、剣で良いのか?」
暗に心配するなと言うテリオ。
戸惑いながらも、置いてあった剣を一つ一つ握って確かめる。
「それにしても、なんだか品揃えが良すぎない?」
「ああ、昨日まで弟弟子が首都から手伝いに来てたからな。」
奥から店主らしき人が出てきて、シーナの疑問に答える。
「何しろそいつは、弟子入りした道具屋の息子だからな。いい腕をしているから年に1、2度呼んで作り溜めしている。一番品揃えが充実している日だぞ?」
がっはっはっと笑う店主。
成る程、その噂が出回って客が押し寄せているのか、と納得するテリオたち3人。
「どうだ、サークヤ?良いのは見つかったか。」
「いや、真剣は初めてなので、どれが良いのか分からないんです。」
「そうだな、ボウズは細いし筋肉が付いて無さそうだ。軽めの剣はどうだ?」
様子を見ていた店主が薦めてくる。
対してテリオは...
「いや、素振りを見るからに、腕力に頼らず振れると思う。多少重くても自分に合った剣を探すべきだ。」
それを聞いて、3本まで絞る朔也。
並んだ3本の剣を見て、テリオがその中から一本を手に取る。
それは、緩やかに曲がった剣、曲剣だった。
何となく日本刀に似ているなと思う朔也。
そういえば、テリオは日本刀っぽい剣を持っていたっけ、と思う。
「それで良いです。」
それを見た店主はびっくりした顔をする。
「まさか、真っ先にそれを選ぶとは。それは弟弟子と私との合作で、漸く出来た自信作なんだ。」
テリオはそうか、と言って一式の代金を払う。
その様子を見ていた朔也は更に眉間に皺を寄せていた。
それは紙幣ではなく全く見た事のない貨幣だった。
これで確定だ。
ここは日本ではない。
しかし、日本語は通じている。
という事は地球上でもない可能性が高い。
そう、知らない世界に来てしまったようだ。
「ほれ、これはオマケだ。」
そんな事を考えていたら、店主からポイと柔らかな塊を渡された朔也。
受け取ったのは、背負う事の出来るバッグだった。
「ふむ、それなら万一ひとりになっても良い量の荷物が入りそうだな。」
テリオが顎に手を当てて言う。
どうやら値引きの代わりのようだ。
礼を言ってそれを受けとる朔也。
他の必要な物も補充し店を出た四人は、昼食をとりに別の店に入った。
「これからどうするの?」
「そうだな、頼まれた森の主は討伐したからな。また鉱石でも探して回るか。」
「じゃあ・・・南に下りる?それとも西?」
「タークはどうだ?」
「薬草が心許あらせんが。北の方がええの。」
「そうか、じゃあ、北だな。薬草はいつもの村の奥の山か?」
他に食料等、足りない物を町で買い込み、一同は北へと向けて出発するのだった。