第56話 情報を求めて
ある日ギルドの食堂で、すずなと紬は見慣れない冒険者のパーティーと居合わせた。装備の傷み方や日焼けの色が、この街の常連たちとは明らかに違う。
「あの人たち初めて見る顔ですね」
紬が小声でそう囁いた。
「他の街から来た方々かもしれません」
すずながそう答えた矢先、その中の一人がこちらに気づいて声をかけてきた。
「あんたたち、この街の冒険者かい」
「はい、そうです」
「俺たちは隣街から来たんだ。ちょっと聞きたいことがあってな」
その冒険者はそう言いながらこちらのテーブルに近づいてきた。ふとバッジに目をやり、少し驚いた様子を見せる。
「お、若いのに二人ともヘキサゴンランクなんて、とんでもないな」
「ありがとうございます」
「俺たちも同じランクだ。よろしくな」
「俺はガレット。このパーティーのリーダーをやってる」
男はそう名乗った。がっしりとした体格の割に腰には杖を下げている。見た目とのちぐはぐさが、かえって只者ではない印象を与えた。
「俺たちはソレイユっていうパーティーだ」
「よろしくお願いします。私はすずなです」
「紬です」
すずなと紬がそれぞれ名乗ると、ガレットは興味深そうに二人を見た。値踏みするような目つきではなく純粋な好奇心の色が滲んでいる。
「あんたたちのパーティー名は」
「スレッドベルです。最近決めたばかりで」
「良い名前だな」
ガレットはそう言いながら軽く頷いた。それから少し声を落とし、本題を切り出すように身を寄せてきた。
「実は、あんたたちに聞きたいことがあってな」
「私たちにですか」
「ああ。あんたたち異世界の人間だろう」
その一言に、すずなと紬は思わず顔を見合わせた。心臓が小さく跳ねる。
「なんで、それを」
「見ればなんとなく分かるもんだ。それに、この街じゃちょっとした有名人だからな」
ガレットはそう言いながら少し身を乗り出した。その口ぶりに悪意や下心の気配はない。むしろどこか気安い、隣人めいた距離感があった。
「実は俺たち優秀なスカウト職の奴を探しててな。噂で異世界人らしい腕利きの奴がいるって聞いたんだ」
「異世界人のスカウト職……」
すずなと紬は、思わずもう一度顔を見合わせた。今度は先ほどとは違う種類の緊張が二人の間を走る。
「もし知り合いだったら、紹介してもらえないかと思って声をかけたんだ」
「実は私たちも探してる方がいて」
すずなが答えると、ガレットは興味深そうに目を細めた。
「そりゃ都合がいい。お互い知ってること教え合おうじゃないか」
「はい。ぜひ」
すずなと紬は勢い込んで頷いた。心春に繋がるかもしれない手がかりを前に、逸る気持ちを抑えるのは簡単ではなかった。
「うちのパーティーにもその手の話に詳しい奴がいるんだ」
ガレットはそう言いながら隣に座る仲間の一人を指差した。
「実は俺たちの活動範囲の南の方に異世界人らしき冒険者が拠点にしてる街があるって噂を聞いたことがあってな」
「南の方ですか」
紬が身を乗り出した。声にわずかな震えが混じる。
「ああ。詳しい場所までは分からないが。そこそこの腕利きらしい」
すずなと紬は思わず顔を見合わせた。中村さんの話にあった心春という名前と、この情報が少しずつ繋がり始めている気がした。手のひらにじわりと汗が滲む。
「あの、その方のお名前とか分かりますか」
すずなが尋ねると、ガレットは少し首を傾げた。
「いや、そこまでは知らないな。ただ活動してる街の大体の方角なら」
ガレットは地図を取り出し、南方のある地域を指し示した。
「この辺りだと聞いた」
「ありがとうございます、とても参考になります」
すずなが丁寧に頭を下げると、ガレットは少し照れくさそうに頬をかいた。
「嬢ちゃんが、そんな丁寧に礼を言うことじゃない。大したこと教えてないんだから」
その様子を隣で見ていた、パーティーのヒーラーらしき女性がすっと割って入ってきた。
「すずなさんでしたよね。何か他にも知りたいことがあれば遠慮なく聞いてくださいね」
女性はそう言いながら、すずなの両手をそっと包み込んだ。指先の温もりに、すずなは一瞬言葉を失った。
「困ったことがあれば、いつでも頼ってください」
「あ、ありがとうございます……」
すずなはその勢いに少したじろぎながらも丁寧に礼を言った。
紬はその様子をじとりとした目で見つめていた。
「……また、ですか」
「なんですか紬さん」
「いえ、別に」
紬の呟きは誰にも拾われなかった。頬を膨らませかけたその表情には、拗ねる一歩手前の色がありありと浮かんでいた。
「そういえば」
ヒーラーの女性がふと思い出したように続けた。
「その異世界の方だけど。普段は一人で活動してるみたいよ」
「一人ですか」
「ええ。あなたたちが探してる方も、多分、同じ人だと思うわ。罠の解除とか探索が得意なあの噂のスカウトの方でしょう」
「はい、多分そうだと思います」
すずなと紬は改めて確信を深めた。少しずつ心春の輪郭がはっきりとしてくる。心臓の高鳴りが、期待と不安の両方から来ているのが自分でも分かった。
「詳しく教えていただいて、ありがとうございます」
すずなが頭を下げると、女性はにっこりと微笑んだ。
「いいのよ。何かあったら、またいつでも」
それでもこの日得られた情報は、確かに心春への手がかりを一歩近づけるものだった。ガレットたちのテーブルを離れながら、すずなの胸の中では期待と焦りが静かにせめぎ合っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。すずなたちなら、こんな時きっと「支えてくれる人がいるから頑張れる」と言うはず。
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