第54話 お土産とヘキサゴンランク
温泉旅行の帰り道、三人は日本のショッピングモールに立ち寄ることになった。エルフィは次から次へと、お菓子や雑貨を買い物かごに放り込んでいく。
「エルフィさん、それ買いすぎじゃないですか」
紬が山積みになったカゴの中身を見て驚いた様子で言った。
「足りないくらいだ」
「いや、絶対多いです」
すずなもその量に思わず苦笑した。それでもエルフィは気にする様子もなく、更にいくつかの品を追加していった。
「これ、お世話になってる方々へのお土産ですか」
「ああ」
エルフィはそう答えながら、レジへと向かった。すずなと紬もそれにならった。
「私たちも少し選んでいきましょうか」
すずながそう言いながらモール内の洋菓子店に立ち寄った。異世界人だと知っている人々へのお土産を丁寧に選んでいく。
「クラリス様の分、受付嬢さんの分、フラワークラウンの皆さんの分……」
紬が指折り数えながら、そう呟いた。
「結構な人数になりましたね」
「はい。でも、それだけ繋がりが増えたってことですよね」
すずなはその事実を嬉しく感じていた。
買い物を済ませ、三人は紬の家へと戻った。
「じゃあ行きましょうか」
すずながそう言うと、紬の部屋の中央で意識を集中させた。足元に黒い霧が静かに渦を巻き始める。
次の瞬間、三人は異世界のあの小さな家の中に立っていた。
「今日も、ちゃんと来られましたね」
「はい」
その後、エルフィが大量のお土産をそれぞれの届け先へ配るために次から次へとローブの内側に収めていった。
「とんでもない量が入るんですね」
「マスターランクだからな」
「なんか全部その一言で済んじゃうんですね」
紬の呟きが可笑しく、すずなは笑う。
「クラリス様、これ日本のお菓子です」
「まあ、嬉しいですわ。ありがとうございます、お姉様」
クラリスは包みを受け取ると、早速その場で一つ口に運んだ。
「美味しい……幸せですわ」
ギルドの受付嬢にも届ける。
「これ良かったら、お召し上がりください」
「ありがとうございます、すずな様!大切に、いただきますね」
受付嬢は両手で丁寧に、包みを受け取った。
フラワークラウンの三人にも順番に渡していく。
「すずなちゃんありがとう!」
シエルが嬉しそうに包みを開けた。フィオナとミレイも、それぞれ目を輝かせながら、お菓子を受け取っていた。
「日本のお菓子、本当美味しいのよね」
「私も大好きです」
それぞれの反応に、すずなと紬は少しずつ繋がりの広がりを実感していた。
「基本、みんなスイーツ好きですよね」
紬が笑いながら、そう言った。
「はい。喜んでもらえると、こちらも嬉しいです」
それぞれの土産を配り終えると、すずなと紬はギルドの掲示板の前に立った。
「今日は軽めの依頼、受けましょうか」
紬がそう提案した。
「そうですね。近くの魔獣討伐か何か」
その日、二人が受けた依頼は、街道沿いに現れる小型の魔獣の討伐だった。
「今日は私も前に出てみますね」
すずなはそう言いながら剣ではなく、まずSiren's Graceを発動させた。刃が淡い水色の光を帯びる。
「行きます」
迫る魔獣に向け、水属性を纏った一撃を放つ。以前なら何度か斬りつける必要があったはずの相手が、たった一撃であっさりと倒れ伏した。
「先輩、今の……」
紬が驚いた様子で、そう呟いた。
「はい、Siren's Grace、思ったより威力ありますね」
すずなはその手応えに自分でも驚いていた。属性の力を纏わせるだけで、これほどまでに戦いが容易になるとは思っていなかった。
続けざまに現れる魔獣たちも、同じように次々と片付けていく。紬が防御に回る場面すら、ほとんどなかった。
「防御、必要ありませんでしたね」
依頼を終えた後、紬が拍子抜けした様子で、そう言った。
「本当ですね。前はもっと苦戦してた気がするのに」
すずなは改めて自分の成長を実感していた。
依頼を終え、二人はギルドに戻り受付で完了の手続きをした。
「確認しました」
受付嬢は書類に目を通しながら、すずなの両手をしっかりと包み込んだ。
「すずな様、今回の依頼で貢献度が規定に達しました。ヘキサゴンランクへの昇格です」
「ヘキサゴン、ですか」
「はい、おめでとうございます」
受付嬢は、そのまま丁寧に詳しい説明を続けた。
「ヘキサゴンランクになりますと、より高難度の依頼もお受けいただけるようになります。それに上位ランクの方々との合同依頼にも優先的に参加できるようになる他、新人の方への指導も可能になりますわ」
「新人の指導ですか」
「はい。更にもうひとつランクアップして、ヘプタゴンクラスになりますと。下位のランクの方に対してのランクアップ推薦も可能になります」
「なるほど、ありがとうございます」
すずなは丁寧に説明を聞きながら頷いた。
その様子を隣で見ていた紬が複雑な表情を浮かべた。
「私が前回ヘキサゴンに上がった時は、紙を一枚渡されただけだったのに……」
「あら、紬様はもう慣れていらっしゃるかと」
受付嬢はそう言いながら、すずなの両手をしっかりと包み込み、紬の方へちらりと勝ち誇ったような視線を送った。
「だから毎回毎回、近すぎるんですって!」
紬が思わず、受付嬢の手をすずなの手から振りほどいた。すずなはそのあまりにもテンプレ化した流れに、珍しく声を上げて笑った。
依頼を終えた勢いで二人はステータス確認用の水晶の魔道具の前に移動した。
「せっかくなので、レベルも見てみましょうか」
すずなが水晶に手をかざす。
**楠すずな レベル25**
体力:B-
腕力:C+
魔力:B+
俊敏:B
器用:A-
加護
Fable Unbound
Moon Return
Seafoam Fate
*Siren's Grace
*Form Veil
「レベルもステータスも、また上がってますね」
紬も続けて隣の水晶に手をかざし自分のステータスを表示させた。
**雨宮紬 レベル25**
体力:B-
腕力:A
魔力:C
俊敏:A-
器用:B+
加護
Lunar Sight
「私は腕力が、また伸びてます」
「私は魔力と器用さが伸びてますね」
二人は、その数字を見比べながら顔を見合わせて微笑んだ。
「なんだか、ここまでずっと一緒に成長してきたって感じですね」
紬がそう言うと、すずなも静かに頷いた。
「はい。これからもそうやって一緒に成長していきたいです」
その言葉に紬は照れくさそうに笑った。
「先輩、それまた口説いてます?」
「そんなつもりは」
「気のせいです、みたいな返し方ですね」
二人のやり取りに周囲の冒険者たちが微笑ましそうな視線を送っていた。ヘキサゴンという新しいランクと確かな成長の実感を胸に、二人はまた一歩、前へと進んでいた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。すずなたちなら、こんな時きっと「支えてくれる人がいるから頑張れる」と言うはず。
この物語も、読んでくださる皆さんに支えられています。「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価という"応援魔法"を、ぜひ授けてください。
よろしくお願いいたします。




